異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第26話 勇者と牧場主

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朝焼けがまだ残る空の下、白石悠真は納屋で道具を整理していた。昨日のアズールとの楽しい一日が終わり、いつもの日常が戻ってきている。

「おはようございます」

背後から聞こえた優しい声に振り返ると、リーフィアが朝露で濡れた草花を抱えていた。銀色の髪が朝日に輝き、清らかな美しさを放っている。

「おはよう、リーフィア。もう薬草集めに行ってたのか」

「はい。朝露の付いた薬草は効能が高いと言われていますから」

リーフィアは微笑み、抱えた草花の中から紫色の小さな花を一輪取り出した。

「これはヒーリングバイオレット。傷の治りを早める効果があります。今日はミリアムさんが来られると言っていましたので、彼女にもお分けしようと思って」

「そうだな。きっと喜ぶだろう」

悠真は微笑みながら納屋から出て、牧場の様子を見渡した。ヘラクレスは既に放牧地で草を食み、フレアは木陰でまどろんでいる。トレジャーは高い木の上から辺りを見回し、何か光るものを探しているようだ。いつもの平和な光景に、悠真は心が温かくなるのを感じた。

――――――

「悠真さーん!おはようございまーす!」

昼前、元気な声が牧場に響き渡った。振り返ると、亜麻色の髪をなびかせたミリアムが、かごを抱えて駆け寄ってくる。小さな体を精一杯使って手を振る姿に、悠真は思わず笑みをこぼした。

「おはよう、ミリアム。今日も元気だな」

「もちろんです!あ、リーフィアさんもおはようございます!」

薬草を整理していたリーフィアも笑顔で応えた。

「おはようございます、ミリアムさん。今日はどんな薬草を持ってきてくださいましたか?」

「今日はフィーバーダウンと呼ばれる熱冷まし、それからシャイニングリーフという目の疲れに効く葉っぱですよ!村の東の森で見つけたんです!」

ミリアムは誇らしげに籠の中身を見せる。そこには丁寧に分けられた様々な薬草が入っていた。

「それにしても、昨日はすごいことがあったんですって?リーフィアさんから手紙で聞きました!ドラゴンが来たって本当ですか?」

悠真は少し驚いた表情で、リーフィアを見た。

「手紙?」

「ええ、昨夜、トレジャーにお願いして届けてもらいました。ミリアムさんも興味があるだろうと思いまして」

リーフィアは少し恥ずかしそうに答えた。彼女の配慮に、悠真は感謝の笑みを返す。

「あぁ、本当だよ。青い鱗を持った子ドラゴンが遊びに来てくれてな」

「わぁ!私も見たかったです!アズールっていう名前なんですよね?どんな子なんですか?」

ミリアムの目はキラキラと輝いていた。悠真は昨日の出来事を詳しく説明した。アズールの姿、氷の魔法、そして楽しい時間を過ごしたことを。

「すごーい!いつまた来るんですか?私も会ってみたいです!」

「それはわからないな。でも、きっとまたすぐ来るよ。彼もここが気に入ったみたいだから」

ミリアムは少し考え込むような表情をした。

「う~ん、でも気になります。山まで見に行けないかな~。ドラゴンの巣って、どんな感じなんでしょう?」

「ダメだぞ。山は危険だし、ドラゴンだって警戒するかもしれない」

悠真が諭すように言うと、ミリアムは残念そうに頬を膨らませた。

「わかってますよぉ。でも……あ!」

ミリアムは突然思い出したように、籠の奥から封筒を取り出した。

「そうそう、これを届けに来たんでした!村から届いた郵便です。王都からの公文書みたいです」

悠真は少し驚いて封筒を受け取った。王都からの手紙なんて、一体何だろう。

――――――

三人は家の中で手紙を開封した。重厚な紋章が押された封筒からは、高級な羊皮紙が出てきた。

「バストリア王国、農業振興局より……」

悠真が声に出して読み始める。それは白石牧場の畜産物が街でも高い評価を受け、地域経済の活性化に一役買っていることへの感謝状だった。

「まさか、こんな感謝状をもらえるなんて」

悠真が驚いていると、封筒の中からもう一枚、手紙が出てきた。それはもっと私的な文面で書かれていた。

「これは……他の勇者たちからの手紙?」

悠真が目を通すと、そこには彼と一緒に召喚された仲間たちの近況が記されていた。彼らは最前線で魔物と戦い、苦戦しながらもレベルを上げ、少しずつ前線を押し上げているらしかった。そして、白石牧場からの食材は栄養価も高く、力が湧いてくると部隊の間でも評判になっていると感謝の言葉がつづられていた。

「彼らも、頑張ってるんだな……」

手紙を読み終えた悠真の表情が複雑に曇った。自分は召喚されながらも戦わず、のんびりと牧場生活を送っている。その一方で、仲間たちは命を懸けて戦っている。その対比に、悠真は少し胸が締め付けられる思いがした。

「悠真さん?」

ミリアムが心配そうに覗き込む。悠真は強引に笑顔を作った。

「いや、なんでもないよ。みんな元気そうで何よりだ」

リーフィアは悠真の表情の変化を見逃さなかった。彼女は静かに悠真の隣に座り、言った。

「悠真さんは悠真さんのやり方で、この世界に貢献しています。あなたの育てる動物たちは特別な力を持ち、その恵みは多くの人々の力になっているのです」

「そうですよ!悠真さんの作る卵や牛乳は、村の人たちにとっても宝物です。病気の子どもたちが元気になるのを何度も見ました!」

ミリアムも力強く頷く。二人の言葉に、悠真は少し気持ちが軽くなった。

「ありがとう。二人とも」

――――――

夕方、ミリアムが帰った後、悠真は一人で放牧地の柵に寄りかかり、沈む夕日を見ていた。手紙の内容が頭から離れない。

「やっぱり、このままでいいのかな……」

「何がですか?」

背後から聞こえたリーフィアの声に、悠真は少し驚いた。

「あ、いや……勇者たちが戦っているのに、俺はこうして牧場でのんびりしていていいのかって」

リーフィアは悠真の隣に立ち、同じように夕日を見つめた。銀色の髪が夕焼けに照らされ、オレンジ色に染まっている。

「悠真さん、戦いの形は一つではありません。あなたにはあなたの役割があるのです」

「役割か……」

「はい。あなたの育てる動物たちは特別な力を持っています。その力が多くの人々を助けているのです。勇者たちも、あなたの牧場があるからこそ、より強く戦えているのではないですか?」

悠真は考え込んだ。確かにそうかもしれない。自分には戦うための技能はないが、この牧場を通じて間接的に戦いを支えることはできる。

「そうだな……みんな、それぞれの場所で頑張っているんだ。俺は俺にできることをしよう」

悠真の顔から複雑な表情が消え、代わりに決意の表情が浮かんだ。

「明日からは、もっと良い牧場にするぞ。みんなを支えられるように」

悠真は心の中で思った。自分は戦う勇者ではないけれど、この牧場から送る食べ物で彼らを支えることができる。それが自分の戦い方だ。

「私もお手伝いします。きっとミリアムさんも喜んで力を貸してくれるでしょう」

「ありがとう」

牧場に平和な夜が訪れる中、悠真の心には新しい希望が芽生えていた。この世界に召喚され、思いがけない形で生活を始めた。しかし、彼の牧場が勇者たちの力となり、そして彼自身の新たな目標となるのだと。
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