異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

文字の大きさ
28 / 75

第28話 魔法の仕組みと進化する牧場

しおりを挟む
朝露に濡れた草の香りが漂う牧場で、白石悠真は動物たちの朝の世話を終えたところだった。ウィンドが優雅に空を舞い、フレアが尻尾を揺らしながら彼の足元をうろついている。そして最近の新入り、シャドウは相変わらず悠真の影から時々顔を覗かせては、すぐに隠れる恥ずかしがり屋な様子を見せていた。

「まだ警戒してるのか?大丈夫だよ」

悠真が優しく声をかけると、シャドウは少しずつ影から出てきて、慎重に周囲を伺った。黄金色の瞳がキラリと光り、漆黒の毛並みが朝日を反射して美しく輝いている。

「そうそう、怖くないだろ?この牧場は平和なんだから」

シャドウは小さく鳴き、悠真の手のひらに頭を擦り寄せてきた。その姿は漆黒の子熊というよりも、大きめの猫のようにも見える。

「悠真さ~ん!おはようございま~す!」

遠くから聞こえてきた元気な声に、シャドウは驚いたように再び悠真の影へと滑り込んでしまった。振り返ると、亜麻色の髪をなびかせたミリアムが手を大きく振りながら近づいてくる。そして彼女の後ろには見覚えのある人物の姿も。

「おや、ミリアムに……エイドさんも一緒か」

研究員のエイド・ローレンスは、首から下げた観測機器を抱えながら、少し息を切らせて歩いていた。彼の背中には大きなリュックサックが揺れている。

「おはようございます、白石さん!本日もよろしくお願いします」

「あぁ、おはよう。あまり動物たちを驚かせないように頼むよ」

エイドは丁寧に頭を下げると、早速周囲を興味深そうに見回し始めた。眼鏡を直しながら、キョロキョロと動物たちを探している様子だ。

「それにしても、前回来た時よりも動物たちが増えているようですね!素晴らしい!」

エイドの目が輝き、早速メモを取り始めた。リュックから分厚いノートを取り出し、ページをめくる。

「ああ、実は新しい仲間が増えたんだ」

悠真がそう言うと、自分の影を指さした。ミリアムは不思議そうな顔で影を覗き込む。

「あれ?……影の中に、何かいます?」

「シャドウっていうんだ。結構恥ずかしがり屋でね」

その言葉に、エイドが驚いたように立ち止まった。

「シャドウ?もしかして、シャドウベアーですか?」

彼は興奮した様子で眼鏡を直すと、影の方へと近づいてきた。その急な動きに驚いたのか、シャドウはさらに深く影に潜り込んでしまう。

「あ、そんなに近づくと驚いてしまうって。恥ずかしがりやなんだ」

悠真の言葉に、エイドは慌てて後ずさりした。

「す、すみません!つい興奮してしまって……シャドウベアーは非常に珍しい生物なんです。影に潜む能力を持つ闇属性の生き物で、人前に姿を現すことはほとんどないと言われているんですよ」

ミリアムも目を輝かせながら言った。

「わあ!そんな珍しい子が悠真さんの牧場に来たんですね!見せてください!」

――――――

悠真はゆっくりと腰をかがめ、優しく声をかけた。

「おいで、シャドウ。この人たちは友達だよ」

しばらくすると、影からそっと黒い頭が覗き、警戒心に満ちた黄金色の瞳が二人を観察し始めた。

「じっとしていてください」

悠真の指示に従い、ミリアムとエイドは動きを止めた。するとシャドウはゆっくりと影から全身を現し、悠真の足元に立った。その姿にミリアムは小さく息を呑んだ。

「まあ、なんて美しい……」

漆黒の毛並みは光を吸い込むかのように深く、足先や尾先にかけてわずかに紫がかった色合いが混じっている。シャドウはミリアムとエイドをじっと見つめ、警戒しながらも少しずつ二人に慣れていくようだった。

「これは貴重な観察機会です!」

エイドはそっとノートを開き、シャドウのスケッチを始めた。その真剣な眼差しに、シャドウも少し興味を持ったのか、少しずつエイドに近づいていく。

「やはり、白石さんの牧場には次々と希少生物が集まってくるんですね。様々な要因が重なった結果だと思われますが、素晴らしい!」

エイドは熱心にメモを取りながら言った。

「キュイ!」

突然、小さな鳴き声が聞こえ、青い影が空から舞い降りてきた。それはアズール、小さなドラゴンだった。彼は優雅に悠真の肩に止まると、好奇心旺盛な目で訪問者たちを見つめた。

「お、アズール。おはよう」

ミリアムの目が輝いた。前回は会えなかったアズールを初めて見て、彼女は大興奮の様子だ。

「この子がアズールなんですね。わたし、ミリアムっていうの。よろしくね」

ミリアムが優しく手を差し出すと、アズールは少し恥ずかしそうに「キュ」と鳴いた。

「小さいのに、すごく賢そうな目をしてるね」

エイドも目を丸くして驚いている。アズールは少し得意げな様子で胸を張り、「キュイキュイ」と鳴いた。

「すごい!通常、ドラゴンはこんなにも人に懐くものではないんですよ」

エイドは驚きの声を上げた。

――――――

悠真は微笑みながら、にぎやかになった牧場を眺めた。リーフィアも家から出てきて、ミリアムとエイドに挨拶をする。動物たちも次々と集まってきて、牧場全体が活気に満ちていく。

「今日は一段と賑やかだな」

悠真がつぶやいた瞬間、以前と同じように頭の中に青い文字が浮かび上がった。

【牧場経営スキルがLv3に上昇しました】
【新機能「気温調整機能」が解放されました】
【新機能「地形カスタマイズ」が解放されました】

「え?」

思わず悠真は声を上げた。周囲にいた全員が彼の方を振り向く。

「どうしたんですか、悠真さん?」

リーフィアが心配そうに尋ねた。

「またスキルが上がったみたいだ…気温調整機能と地形カスタマイズか」

悠真は少し考え込むように腕を組んだ。

「それって、牧場内の環境を変えられるってことですか?」

ミリアムが興味深そうに尋ねる。

「そうみたいだ。気温調整機能は…牧場内のエリアごとに温度を変えられるらしい。冬でも暖かいエリアを作れば、季節外れの作物や希少生物が育つ環境を整えられるってことか」

「まあ、それはすごいです!気候に左右されずに植物を育てられるなんて!」

リーフィアも驚いた様子で言った。

「あぁ、それに動物たちにとって快適な温度のエリアも作れそうだ。地形カスタマイズは…牧場の地形を変えて、動物たちにとって住みやすい環境を作れるみたいだ。これも便利そうだな。ちょっと試してみようか」

悠真は目を閉じ、気温調整機能に意識を向けた。すると、不思議なことに頭の中に牧場全体の地図が浮かび、各エリアの気温設定ができるようになった。

「納屋の裏手を少し暖かくしてみよう…」

悠真が意識を集中すると、納屋の裏手のエリアが徐々に温かくなっていくのを感じた。

「わあ!本当に温かくなってる!」

ミリアムが納屋の裏側に走り、驚いた声を上げた。

「これは…魔法の仕組みを理解すれば説明できるかもしれません」

エイドが興味深そうに言った。

「魔法の仕組み?」

悠真が尋ねると、エイドは少し講義調になった。

「この世界の魔法は、実は周囲のマナを操作して現象を引き起こすものなのです。白石さんの場合、牧場経営というスキルを通じて、この土地のマナと深く結びついたのでしょう。だからこそ、こうした環境操作が可能になったと…」

「なるほど、俺の意志が牧場全体に伝わるような感じなのか」

悠真は納得したように頷いた。

「地形カスタマイズも試してみましょうよ!」

ミリアムが目をキラキラさせながら提案する。

「そうだな…じゃあ、アズールのために小さな池でも作ってみようか」

悠真は再び目を閉じ、今度は地形カスタマイズに意識を向けた。牧場の一角に、小さな池を思い描く。すると地面が僅かに震え、土が盛り上がり形を変えていく。地面が少しずつ窪み、地下水が湧き出してきた。数分後には、きらきらと水面が光る小さな池が出現した。

「すごい…」

リーフィアが息を呑む。

「キュイ!」

アズールは大喜びで池に飛び込み、水しぶきを上げながら泳ぎ始めた。

「これで暑い日も快適に過ごせるね!」

ミリアムは笑顔でアズールの泳ぐ姿を見つめた。

「白石さん、これは本当に貴重な研究対象です。もし許していただけるなら、この環境変化と生物たちの反応を継続して観察させていただきたいのですが…」

エイドは熱心な眼差しで悠真を見つめた。

「ああ、もちろん構わないよ。あ、でもあまり街に広めるのは控えて欲しい。また前みたいに野盗とかに来られても困るからな」

「分かりました!約束は守ります」

悠真が許可すると、エイドは喜んで何度も頭を下げた。

「わあ、それなら私も手伝います!薬草の育成にも最適な環境が作れるかもしれませんね!」

ミリアムも嬉しそうに手を叩いた。

――――――

夕暮れが近づき、牧場にオレンジ色の光が差し込み始めると、エイドとミリアムは帰る支度を始めた。

「今日はありがとうございました。次回はもっと詳しい観測機器を持ってきます」

エイドは丁寧に頭を下げた。

「私も次はお薬の材料を持ってくるね!温かいエリアで育つ珍しい薬草も試してみたいな」

ミリアムは満面の笑みを浮かべる。

「ああ、いつでも来てくれ。ここはみんなの居場所だからな」

悠真はそう言って二人を見送った。シャドウもアズールも、二人が去っていくのを見つめていた。

「今日はにぎやかでしたね」

リーフィアがそっと言った。

「ああ、でも悪くない。みんな仲良くしてくれて良かったよ」

悠真は微笑みながら答えた。シャドウは二人の足元で丸くなり、アズールは悠真の膝の上で気持ちよさそうに眠っている。フレアも近くで尻尾を丸めて寝息を立てていた。

彼らの頭上では、星々が一つ一つ輝きを増していく。この平和な時間が、悠真にとっては何よりも大切だった。こうして動物たちと過ごす静かな日々に、彼は幸せを感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
辺境の町バラムに暮らす青年マルク。 子どもの頃から繰り返し見る夢の影響で、自分が日本(地球)から転生したことを知る。 マルクは日本にいた時、カフェを経営していたが、同業者からの嫌がらせ、客からの理不尽なクレーム、従業員の裏切りで店は閉店に追い込まれた。 その後、悲嘆に暮れた彼は酒浸りになり、階段を踏み外して命を落とした。 当時の記憶が復活した結果、マルクは今度こそ店を経営して成功することを誓う。 そんな彼が思いついたのが焼肉屋だった。 マルクは冒険者をして資金を集めて、念願の店をオープンする。 焼肉をする文化がないため、その斬新さから店は繁盛していった。 やがて、物珍しさに惹かれた美食家エルフや凄腕冒険者が店を訪れる。 HOTランキング1位になることができました! 皆さま、ありがとうございます。 他社の投稿サイトにも掲載しています。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

処理中です...