異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第46話 冬の病と友情の薬

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朝日が雪景色を照らす白石牧場。例年より早く訪れた寒波に、悠真は牧場内の見回りを丁寧に行っていた。

「おはようございます、悠真さん」

リーフィアが温かい飲み物を入れた木製のマグカップを持って近づいてきた。銀色の髪が朝日に輝き、彼女の周りには不思議と温かな空気が漂っている。

「ありがとう。体が温まるよ」

悠真はマグカップを受け取り、一口飲んだ。甘くスパイシーな味が喉を通り、体の芯から温かくなる。

「外の様子はどうですか?昨日届いたものは確認しておきました」

リーフィアの質問に、悠真は少し考え込んだ。

「うん、大丈夫……だと思うけど、やっぱり雪は降り始めていたな」

二人が餌置き場に向かうと、テラが不安げな表情で駆け寄ってきた。

「ミュウ!ミュウ!」

テラの様子に、悠真は眉をひそめる。

「どうしたんだ?」

テラは首を振り、納屋の奥へと導くように先導した。悠真とリーフィアが付いていくと、そこにはサクラとベルが横たわっていた。二匹とも普段の元気さがなく、呼吸が荒い。

「これは……」

悠真が駆け寄ると、サクラが弱々しく「メェ…」と鳴いた。その角からはいつもの優しい光が消え、目も潤いを失っている。

「熱があります。ベルも同じです」

リーフィアが手を当てて確認すると、両方の羊の体温は明らかに高かった。

「他の子たちは?」

悠真の問いに、急いで牧場中を確認することにした。ルミもまた、耳を垂れて元気がない。フレアも苦しそうに横たわって「キュゥ…」と弱々しく鳴いている。

「これはまずいな。いったい何が原因だ?」

悠真が考え込んでいると、リーフィアが餌置き場から戻ってきた。彼女の表情は暗く、何かを握りしめていた。

「悠真さん、これを見てください」

開いた手の上には、少し変色した餌粒があった。

「これは昨日届いた特製フードの一部です。湿気を含んで、少し腐敗が始まっているようです」

悠真は顔をしかめた。

「これが原因か。急いで処理しないと……」

――――――

午後になり、病気の家畜たちは納屋の奥に隔離された。悠真とリーフィアは交代で看病を続けていた。

「サクラ、大丈夫だよ。すぐに良くなるからね」

悠真がサクラの頭を優しく撫でていると、納屋の入り口から声が聞こえた。

「悠真さーん!リーフィアさーん!」

振り返ると、そこにはミリアムが立っていた。亜麻色の髪に雪の結晶が輝き、頬を赤く染めている。

「ミリアム?こんな雪の中、どうしたんだ?」

ミリアムは息を切らして駆け寄ってきた。

「村での用事が終わって戻る途中、テラが走ってきてなんだか牧場の方に来てほしそうだったから」

テラは「ミュウ」と鳴き、ミリアムの足元でぴょんと跳ねた。

「それで急いで来たんだけど……あ、大変!サクラたちが倒れているの?」

ミリアムは驚いた表情で病気の家畜たちを見つめた。リーフィアが状況を説明すると、彼女は真剣な顔になった。

「それなら、村にある薬草が効くかもしれません!ローザおばあさんが作っている『フィーバーダウン』と『シャイニングリーフ』を混ぜたお薬……急性の食中毒や冬の病にとても効くんです!」

悠真とリーフィアは顔を見合わせた。

「それはありがたい。でも、今からあの雪の中を村までは……」

悠真の言葉に、ミリアムは力強く頷いた。

「大丈夫です!私、行ってきます!」

しかし、悠真は首を振った。

「いや、一人で行かせるわけにはいかない。それにこの雪じゃ時間がかかりすぎる……」

彼は納屋の外を見つめ、決断した。

「ウィンドに協力してもらおう。俺とミリアムで村まで行ってくる。リーフィア、ここを頼めるか?」

リーフィアは「はい」と頷き、病気の家畜たちの看病を続けることになった。

――――――

雪が舞う空を、銀色の翼を広げたウィンドが飛んでいた。背中には悠真とミリアムが乗り、村へと急いでいる。

「雪が強くなってきたな……」

悠真が空を見上げると、灰色の雲が低く垂れこめ、視界が悪くなってきていた。

「ウィンド、無理はしないでくれ」

ペガサスは「ヒヒーン」と答え、慎重に高度を下げながら進んだ。

「あ、見えてきました!グリーンヘイブンです!」

ミリアムが前方を指さすと、雪に覆われた小さな村が見えてきた。ウィンドはゆっくりと村の広場に着陸した。

「ありがとう、ウィンド。少し休んでいてくれ」

悠真がペガサスの首筋を撫でると、ウィンドは疲れた様子で頷いた。

「急いでローザおばあさんの所へ行きましょう!」

ミリアムに導かれ、二人は雪の積もった小道を駆け抜けた。村の端にある小さな薬草師の家に着くと、ミリアムはノックをした。

「ローザおばあさん!緊急事態です!」

扉が開き、白髪の老婦人が現れた。

「まあ、ミリアム。こんな雪の日に……どうしたの?」

状況を説明すると、ローザは素早く薬棚に向かった。

「そうか、それは大変ね。フィーバーダウンとシャイニングリーフの調合薬……それに強壮剤も持っていきなさい」

老婦人は手際よく薬草を袋に詰め、使い方を説明した。

「ありがとうございます、おばあさん!」

ミリアムが礼を言い、悠真も深く頭を下げた。

「お代はいくら……」

彼が言いかけると、ローザは手を振った。

「いいのよ。ミリアムがいつも薬草を届けてくれるお礼よ。それに、あなたの牧場の特別な動物たちの話はよく聞いてるわ。大切にしてあげてね」

感謝の言葉を述べ、二人は急いで広場に戻った。しかし、外の雪はさらに強くなっていた。

「これは……酷くなったな」

悠真が空を見上げると、吹雪に近い状態になっていた。ウィンドも不安そうに尻尾を揺らしている。

「でも、戻らなきゃ……皆が待ってます!」

ミリアムの決意に、悠真も頷いた。

「ウィンド、無理だったら言ってくれ。最悪、村で一晩待機することもできる」

ペガサスは「ヒヒーン」と強く鳴き、決意を示した。二人が背中に乗ると、ウィンドは力強く羽ばたき、雪の空へと飛び立った。

――――――

吹雪の中、ウィンドは懸命に飛び続けた。視界は悪く、冷たい風が三人を容赦なく打ちつける。

「もう少しだ!あそこに牧場の灯りが見える!」

悠真が前方を指さすと、かすかに見える黄色い光が希望となって三人を導いた。ウィンドは最後の力を振り絞り、牧場の中庭に着陸した。

「ウィンド、ありがとう。本当に助かった」

悠真はペガサスの首に腕を回し、感謝を伝えた。ウィンドは疲れた様子だったが、誇らしげに頭を高く上げた。

「ゆっくり休んでくれ。暖かい飼葉を用意しておくから」

リーフィアが納屋から駆け寄ってきた。

「無事に戻られて良かったです!皆の具合は……」

「少し悪化しています。特にサクラが心配です」

三人は急いで薬を携え、納屋へと向かった。

――――――

納屋の奥、病気の家畜たちは弱々しく横たわっていた。特にサクラは呼吸が荒く、羊毛も光沢を失っている。

「急いで薬を調合しましょう」

ミリアムはローザから教わった通りに薬草を混ぜ始めた。リーフィアも手伝い、二人は協力して薬草茶を作った。

「まずはサクラから……」

悠真がサクラの頭を優しく持ち上げ、ミリアムが注意深く薬を飲ませた。次にベル、ルミ、アズールと順番に薬を与えていく。

「これで少しは楽になるはずだ」

悠真が言うと、リーフィアが温かい毛布を取り出した。

「これで包んで、温かく保ちましょう」

三人は協力して病気の家畜たちの世話をし、夜が更けていった。

――――――

深夜、悠真は納屋で寝ずの番をしていた。リーフィアとミリアムも交代で休みながら、家畜たちを見守っている。

「サクラ、頑張れよ……」

悠真が囁くと、サクラが弱々しく目を開けた。その角から、わずかに光が漏れ始めている。

「メェ……」

彼はほっと胸をなでおろした。

「薬が効いてきたみたいだな」

朝になると、病気の家畜たちの容体は少しずつ良くなっていた。サクラの角からは淡い光が戻り、ベルの毛並みにも艶が出始めていた。

「良かった……本当に良かった」

ミリアムは安堵の表情で、家畜たちを見つめた。リーフィアも微笑み、悠真の肩に手を置いた。

「皆の強さと、そしてウィンドの頑張りが実を結びましたね」

悠真は頷き、納屋の窓から差し込む朝日を見つめた。雪は止み、新しい一日が始まろうとしていた。

「これからは餌の管理をもっと厳しくしないとな」

ミリアムが少し申し訳なさそうに言った。

「私ももっと薬草の知識を活かして、定期的に予防薬を作りに来ますね」

リーフィアも頷いた。

「設備の消毒や、飼育環境についても改めてチェックしておきましょう」

三人は疲れていたが、充実感に満ちた表情で互いを見つめた。

「こういう時に、本当の友情や絆が試されるんだろうな」

悠真の言葉に、二人は微笑んだ。納屋の中には温かな空気が流れ、サクラが元気に「メェ」と鳴いた。その角から放たれた光は、まるで三人への感謝の印のように、柔らかく輝いていた。

雪が融け始めた白石牧場。これからも季節は巡り、様々な出来事が訪れるだろう。しかし、どんな困難も皆で力を合わせれば乗り越えられる。それを証明した冬の一日だった。
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