異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第49話 月影村での再会

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ウィンドの背に乗った悠真とリーフィアは、雲間を縫うように空を進んでいた。山々の連なりを越え、澄んだ空気が肌を撫でる。

「もうすぐですね」

リーフィアが前方を指さした。北東の山脈を越えると、月が美しく映える谷間が見えてきた。そこには小さな村の姿があった。

「あれが月影村か」

悠真は高度を下げるようウィンドに合図した。ウィンドは大きく頷き、ゆっくりと下降し始める。

「少し休憩しましょう。この先の峠を超えると村です」

二人はウィンドから降り、近くの小川で喉を潤した。リーフィアの手が僅かに震えているのを悠真は見逃さなかった。

「緊張してる?」

「はい……どんな状態なのか、誰か生き残っているのか……」

悠真はリーフィアの肩に優しく手を置いた。

「大丈夫だよ。一緒にいるから」

休憩を終え、再びウィンドに乗った二人は最後の山を越えた。夕暮れの柔らかな光が谷間を染め上げる中、月影村の全景が目の前に広がった。

「あっ!」

リーフィアが小さな声を上げた。村には確かに人影があった。数人の村人らしき姿が見え、銀色の髪が風になびいている。家々は一部崩れたままのものもあったが、修復された屋根や新しい柵もあり、生活の息吹が感じられた。

「生きてる……みんな生きてる!」

リーフィアの声は喜びに震えていた。ウィンドは村の中央広場へと緩やかに降下した。地面に着地すると、村人たちは驚いて立ち止まり、警戒の目を向けてきた。

「あれは……空から……?」
「銀髪の人がいる……」

村人たちのざわめきが広がる中、一人の老婆が前に出てきた。その目が見開かれる。

「リーフィア……?リーフィアなの!?」

「ミーナおばあさん!」

リーフィアはウィンドから飛び降り、老婆に駆け寄った。抱きしめ合う二人の周りに、次々と村人たちが集まってきた。

「リーフィアが帰ってきた!」
「無事だったのね!」
「守護者様が戻られた!」

悠真もウィンドから降り、少し離れた場所から温かな眼差しでその光景を見守っていた。ウィンドは嬉しそうに小さく鳴いた。

「失礼ですが、あなたは?」

気づけば、白髪の男性が悠真の前に立っていた。深い皺の刻まれた顔に、知恵の光る目。

「白石悠真です。リーフィアが倒れていたところを偶々見つけて、今は彼女に俺の牧場を手伝って貰っています」

「そうか……あなたがリーフィアを助けてくださったのですね」

男性は深々と頭を下げた。

「村長のルーナと申します。詳しい話は家の中でうかがいたい。どうぞこちらへ」

――――――

村長の家の中は、きらめく鉱物のランプが温かな光を放っていた。テーブルを囲んで村長、リーフィア、悠真、そしてミーナおばあさんが座っていた。

「リーフィア、あの日から何があったのか聞かせてほしい」

村長の問いかけに、リーフィアは静かに頷いた。

「実は……私、記憶をほとんど失っていたんです。気がついた時には、悠真さんの牧場で介抱されていました」

リーフィアは自分の記憶喪失のこと、牧場での日々、そして大岩亀のストーンによって記憶が少しずつ戻ってきたことを話した。

「それで、村の皆さんはあの日以降、どうなったのでしょうか?」

リーフィアの問いに、村長は深いため息をついた。

「お前も見たと思うが、森から現れた魔獣に我らはほとんど抵抗する術も持たず、散り散りになって逃げるしかなかった」

ミーナおばあさんが続けた。

「その時、あなたは月の祠を守ろうとしていたわね。でも、あまりに数が多すぎて……」

「しかし、幸運にも通りがかった勇者の一団が現れて、魔獣たちを退治してくれたのだ。彼らは異世界から召喚された勇者だと名乗っておった。彼らのおかげで、私たちは少しずつ村に戻り、再建を始めることができた」

リーフィアは涙ぐみながら言った。

「勇者の皆さんが……、本当にありがとう……」

悠真も同じ異世界から来た勇者たちが村を救ったと知り、静かな誇りを感じていた。

「ともあれリーフィアも無事でよかった。あれから姿が見えず心配していたんだよ」

村長の言葉に、リーフィアの目に光が宿った。
懐かしい記憶が断片的に蘇ってくる。月の光を浴びた祠で祈りを捧げる自分の姿。村人たちと共に月の恵みに感謝する儀式。

「そういえば、祠は今……?」

「無事だよ。少し損傷はあったが、祠そのものは無事だった」

――――――

翌朝、悠真は村を散策していた。銀色の髪の村人たちが笑顔で挨拶してくる。月影村は確かに再生しつつあった。

小高い丘の上で、村を見下ろすリーフィアを見つけた悠真は、そっと隣に立った。

「リーフィア」

「はい、悠真さん」

「せっかく故郷が無事だったんだし、このまま村で暮らしてもいいんじゃないか?」

悠真は複雑な気持ちを感じながらもリーフィアにそう提案した。寂しくはなるが、彼女にとっては故郷に戻る方が幸せではないかと思っていた。
悠真の問いにリーフィアはしばらく黙って村の様子を眺めていたが、やがてそっと首を振って答えた。

「確かに村が無事だったことはとても嬉しいです。でも……今では牧場での生活も私にとっては大切な自分の一部なんです。それに、村には既に新たな祠の守護者もいるようでした。私も知っている信頼できる人です」

悠真は内心でほっとしつつも、表情には出さずに頷いた。

「そうか。リーフィアがそう決めたのなら良いと思う。また会いたくなったら、ウィンドに頼んで村に顔を出せばいいさ」

後ろからウィンドが近づいてきて、「ヒヒーン」と鳴いた。まるで「任せろ」と言っているようだった。

「ウィンドさん、ありがとう」

リーフィアは微笑み、二人に感謝した。

「村の皆さんにお別れを言ってきます」

彼女が村へ向かうのを見送りながら、悠真はふと思った。バストリア王国が自分達を召喚しなければ月影村の人達も、そしてリーフィアも助けられなかったかもしれない。この不思議な縁に、今は感謝したい気分だった。

――――――

「ただいま戻りました!」

白石牧場に降り立った悠真とリーフィアを、ミリアムが元気よく出迎えた。

「お帰りなさい!リーフィアさんの村はどうでしたか?」

「無事でした。被害はありましたけど、村のみんなも元気そうでした」

リーフィアの言葉に、ミリアムは心から安堵した様子だった。

「よかった!本当によかったね!」

振り返ると、牧場の動物たちも集まってきていた。アズールが「キュイ」と鳴き、アクアが尻尾を振り、トレジャーが頭上を旋回している。

「皆さんも、ありがとう。ただいま戻りました」

リーフィアが牧場の仲間たちに挨拶すると、ストーンがゆっくりと近づいてきた。

「ストーンさん、皆に合えたのはあなたのおかげです。本当にありがとう」

ストーンは「クー」と低く鳴き、甲羅が少し輝いた。

「それじゃ、みんなにお土産話をしようか」

悠真がそう言うと、牧場の仲間たちが興味津々で集まってきた。月影村の美しい風景、銀髪の人々、月の祠——リーフィアと悠真の旅の話に、皆が耳を傾けた。

夕暮れ時、泉のほとりでリーフィアは一人、月を見上げていた。

「リーフィアさん……余計なことかもしれないけど、本当に村に戻らなくて良かったの?」

リーフィアが振り向くと、そこにはミリアムが立っていた。

「はい。ここには私の大切な人たちがいます。それに……」

リーフィアは牧場全体に視線を走らせた。

「この牧場には不思議な力があると思うんです。人も動物も、皆を引き寄せる何か……私もその一部になりたいんです」

ミリアムは満面の笑みを浮かべた。

「リーフィアさん、私も同じ気持ちです!これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

二人は並んで夕焼けを見つめた。牧場から望む夕日は、月影村とは違う美しさがあった。けれど、どちらも彼女の心の故郷だった。

「さあ、夕食の支度をしましょう。きっと悠真さんもお腹がすいていますよ」

「はい!」

白石牧場には、また新しい一日が始まろうとしていた。村との絆を取り戻したリーフィアは、これからも牧場での暮らしを大切に続けていく——その決意と共に。
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