異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

文字の大きさ
51 / 75

第51話 街の彩りと王女の庭

しおりを挟む
朝露が牧草に輝く早朝、白石牧場の門前には二人の女性の姿があった。リーフィアの銀色の髪が朝日に輝き、ミリアムはバスケットを手に楽しそうに笑っている。

「行ってきますね、悠真さん!」

「気をつけて。買い物リストは見たか?」

悠真は柵に寄りかかりながら、二人を見送る。彼の黒髪が朝の風に揺れていた。

「はい!ばっちりです!」

ミリアムが元気よく手を振る。リーフィアも優しく微笑み、静かに頭を下げた。

「では、行ってまいります。お留守番、よろしくお願いします」

「任せとけ。アースもウィンドも元気にしてるよ」

悠真の言葉に応えるように、新しい仲間のアースが地面から顔を出し、首を振った。

――――――

アスターリーズへの道は、春の息吹で溢れていた。道端には色とりどりの野花が咲き、甘い香りが漂う。ミリアムはリーフィアの腕を取り、はしゃぐように歩く。

「リーフィアさん、アスターリーズは初めてですよね?私がいいところ、全部案内しますね!」

「ありがとうございます、ミリアムさん。楽しみにしています」

リーフィアの碧色の瞳が、期待に輝いていた。月影村の記憶が戻ってからというもの、彼女の表情はより豊かになっていた。

「まずは中央広場に行きましょう。今日は市場の日だから、色んなお店が出ているはずです!」

ミリアムの予想通り、広場は活気に満ちていた。露店が所狭しと並び、行き交う人々の笑い声や商人の呼び込みが響く。

「わぁ……」

リーフィアは思わず足を止めた。故郷の月影村は山奥にあったため、このような街の様子や人の往来の多さはリーフィアには新鮮だった。

「あそこの果物屋さんのフルーツは特に美味しいんですよ!」

ミリアムに導かれるまま、リーフィアは市場の雑踏に身を委ねた。果物屋では甘い香りのリンゴを、織物屋では柔らかな肌触りの布を、そして香辛料の店では心地よい刺激の香りを楽しんだ。

「次はどこへ行きましょうか?」

リーフィアが尋ねると、ミリアムはキラキラした目で空を指さした。

「あの塔が見えますか?あそこには時計台があって、とても素敵な眺めなんですよ!」

二人は石畳の坂道を上り、時計台へと向かった。階段を登りきると、そこには街全体を見渡せる展望台があった。

「すごい……」

リーフィアの声に感嘆の色が混じる。眼下には赤茶色の屋根が整然と並び、その向こうには緑の丘陵地帯が広がっていた。

「あそこに見えるのが王宮です。きらきらしてて素敵でしょう?」

ミリアムが指さす方向には、白亜の壁と青い屋根を持つ優美な建物があった。

「王宮……あそこが……」

リーフィアは一瞬、物思いにふけるような表情を見せた。

「あ、そうだ!王宮の前にはお花屋さんがあるんですよ。リーフィアさんはお花が好きでしょう?行ってみませんか?」

――――――

王宮前の大通りには、確かに素晴らしい花屋があった。様々な色の花々が並び、その香りに包まれて二人は時間を忘れて見入った。

「この青い花は、月光草に似ていますね」

リーフィアが手に取ったのは、淡い青色の花だった。

「これはスターブルームというんですよ。夜になると星のように光るんです」

花屋の主人が優しく説明してくれる。リーフィアは懐かしそうに微笑んだ。

「私の村にも似たような花がありました」

話に夢中になっていると、突然、近くから優雅な声が聞こえてきた。

「あら、ミリアムさんとリーフィアさん?」

振り向くと、そこには淡い金色の髪を持つ凛とした女性が立っていた。柔らかな青のドレスに身を包み、穏やかな笑みを浮かべている。

「アリシア様!」

ミリアムが驚いて小さく会釈をする。バストリア王国の第一王女、アリシア・バストリアだった。

「偶然ですね。お二人とも元気そうで何よりです」

「はい!今日はリーフィアさんに街を案内しているんです」

アリシアは二人に親しげな視線を向けた。

「そうでしたか。よろしければ、少し王宮の庭でお茶をしていきませんか?ちょうど素敵なハーブティーが届いたところなんです」

「え、いいんですか!?」

ミリアムの驚きの声に、アリシアは優しく微笑んだ。

「ええ、もちろんです。私も少し息抜きがしたかったところでしたから」

――――――

王宮の庭は、まるで絵画のように美しかった。整然と植えられた花々、清らかな水が流れる小川、そして緑の芝生が広がる。

アリシアに案内された場所は、石造りのあずまやだった。そこには既にお茶の用意がされている。

「どうぞ、お掛けください」

三人が席に着くと、侍女たちが紅茶とケーキを運んできた。薫り高い紅茶に、色とりどりのミニケーキ。ミリアムの目が輝いた。

「わぁ、素敵です!本当にいいんですか?」

「どうぞ遠慮なく。このケーキ、実は白石牧場の羊乳を使っているんですよ」

アリシアの言葉に、リーフィアは驚きの表情を見せた。

「サクラの乳を?」

「ええ、治癒の力を持つあの子の乳は、体に優しいと評判なんです。今、宮廷料理人たちの間で密かな流行になっているんですよ」

三人は和やかに会話を弾ませながら、紅茶とケーキを楽しんだ。春の陽射しが彼女たちを優しく包み込む。

「最近の牧場の様子はどうですか?」

アリシアの問いに、ミリアムが嬉しそうに頷いた。

「大きな岩亀と、白蛇の子が増えましたよ。それぞれストーンとアースって名付けたんです。特にアースは地面に潜ることができて、すごく不思議な子なんです」

「まあ、興味深いわ。またいずれ、私もお邪魔しに行きますね。ステラやルミちゃんにも会いたいですし」

会話が弾む中、リーフィアはふと思い出したように、小さな封筒を取り出した。

「あの……アリシア様、お願いがあります」

「なんでしょう、リーフィアさん」

「これを、もしよろしければ……」

リーフィアは丁寧に封筒をアリシアに差し出した。上品な紙に、美しい筆跡で何かが書かれている。

「この手紙は?」

「異世界から召喚された勇者の方々へ、月影村を救ってくださったことへのお礼の手紙です。お届けいただけると幸いです」

アリシアは静かに頷き、封筒を受け取った。

「わかりました。必ずお届けします。彼らのおかげで、多くの村や町が救われているんです。この手紙をみたら、彼らもきっと喜ばれると思います」

「ありがとうございます」

リーフィアの表情に、安堵の色が浮かんだ。胸に秘めていた感謝の気持ちを伝えられる安心感から、彼女の瞳が潤んだ。

「さて、では続きをお聞かせください。白石さんの牧場の様子や、皆さんのことなど」

アリシアの言葉に、ミリアムが元気よく話し始めた。

「そうそう!アースくんが来た日にお花見をしたんですよ。そしたらいつの間にかアースくんが紛れていて……」

「まあ、そんなことが」

「リーフィアさんが作った料理がすごく美味しくて、みんな喜んでました。アズールちゃんとシャドウちゃんもケーキを取り合いしてて、もう大変でした!」

ミリアムの楽しげな話に、アリシアもリーフィアも笑みを浮かべる。春の陽気の中、王宮の庭での女子会は続いた。

「それでは私からも少し。実は先日、エイド研究員から白石牧場の報告書を拝見したんです」

アリシアはティーカップを置き、二人に微笑みかけた。

「皆さんのおかげで、希少生物の保護に関する新たな知見が得られたそうです。王国としても、白石牧場の活動を今後も支援していきたいと考えているんですよ」

「本当ですか?悠真さん、きっと喜びます!」

ミリアムが嬉しそうに声を上げる。リーフィアも穏やかに微笑んだ。

「アリシア様のご厚意に、心より感謝申し上げます」

そうして三人の会話は尽きることなく続き、気がつけば陽はすっかり西に傾いていた。

「あら、もうこんな時間。お二人もそろそろ帰らないと」

「本当だ!買い物もまだ終わってないのに!」

慌てるミリアムに、アリシアが優しく笑った。

「またいつでも来てくださいね。その時はぜひ白石さんもご一緒に」

「はい!今日はありがとうございました!」

「お心遣い、感謝いたします」

ミリアムとリーフィアはアリシアに別れを告げ、急いで残りの買い物を済ませた。帰り道、夕陽に染まる空の下、二人は今日の思い出を語り合った。

「素敵な一日でしたね、ミリアムさん」

「はい!アリシア様とお茶するなんて、夢みたいでした!」

リーフィアは柔らかな微笑みを浮かべ、西の空を見つめた。

「悠真さんに話したら、きっと驚くでしょうね」

「うん!アースくんとストーンくんにも、お土産買ったし!」

二人は笑い合いながら、白石牧場へと帰っていった。春の風が彼女たちの髪を優しく撫で、その日の思い出を心に留めるように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
辺境の町バラムに暮らす青年マルク。 子どもの頃から繰り返し見る夢の影響で、自分が日本(地球)から転生したことを知る。 マルクは日本にいた時、カフェを経営していたが、同業者からの嫌がらせ、客からの理不尽なクレーム、従業員の裏切りで店は閉店に追い込まれた。 その後、悲嘆に暮れた彼は酒浸りになり、階段を踏み外して命を落とした。 当時の記憶が復活した結果、マルクは今度こそ店を経営して成功することを誓う。 そんな彼が思いついたのが焼肉屋だった。 マルクは冒険者をして資金を集めて、念願の店をオープンする。 焼肉をする文化がないため、その斬新さから店は繁盛していった。 やがて、物珍しさに惹かれた美食家エルフや凄腕冒険者が店を訪れる。 HOTランキング1位になることができました! 皆さま、ありがとうございます。 他社の投稿サイトにも掲載しています。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

処理中です...