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第59話 花の少女
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初夏の陽気に包まれた牧場。リオンはすっかり作業に慣れ、朝からテラと一緒に畑の土を耕していた。小さなカーバンクルが器用に前足で土を掘り起こすのを見て、リオンは微笑む。
「テラは土の扱いが本当に上手だね」
「ミュウ!」
緑色の体をピョンと跳ねさせ、テラは嬉しそうに鳴いた。額の赤い宝石が朝日に照らされて、きらきらと光っている。
リオンは牧場に来てから数週間が経ち、すっかり日課が身についていた。朝は動物たちに餌をやり、水場を清掃し、納屋の掃除をする。午後はリーフィアと一緒に庭の手入れをしたり、悠真と牧場の柵の修理をしたりと、毎日が充実していた。
作業を終えたリオンは、牧場の端にある小さな丘に向かった。ここ数日、気になっていた場所がある。
「あれ?」
リオンは足を止めた。丘の上に、見慣れない植物が生えている。高さは膝くらいで、花のつぼみはまだ開いていないが、茎や葉の形がどこか奇妙だった。
「こんな植物、前は無かったよね……」
リオンは首をかしげ、しゃがみ込んで植物をじっくり観察した。葉は薄い黄緑色で、ペリドットのように輝いている。茎は太く、まるで人の腕のようだ。
「悠真さん、リーフィア姉さん!こっちに変な植物があるんですけど!」
声を掛けると、納屋から悠真が顔を出した。
「どうした?何か見つけたのか?」
「はい、変な植物です。見たことないんですけど……」
悠真はリオンの指す方向に歩み寄り、植物を見つめた。額に手をやり、首をかしげる。
「確かに見たことないな。リーフィアは知ってる?」
リーフィアは静かに植物に近づき、葉に触れてみる。
「いえ、私も見たことがありません。植物には詳しい方なのですが……」
三人は顔を見合わせた。
「一度引き抜いてみるか?」
悠真の言葉に、リオンは少し躊躇したが、頷いた。
「じゃあ、僕がやってみます」
リオンは植物の茎を両手で掴み、ゆっくりと引き抜こうとした。最初は抵抗があったが、力を入れると意外とすんなりと土から抜けた。
「わっ!」
リオンは驚きの声を上げた。引き抜いた先には、まるで少女のような姿をした生き物がついていたのだ。頭には花のつぼみがあり、上半身は草花でできたドレスのようなものを纏っているが、下半身は根っこが絡み合っていた。
生き物も驚いたように目を丸くし、リオンと視線が合った。
「う、うわぁっ!」
思わずリオンは手を離してしまった。生き物は恥ずかしそうな表情を浮かべると、素早く土の中に潜り込んでしまった。地上には先ほどの花だけが残った。
「今のは……」
リオンが呆然と立ち尽くす中、リーフィアは静かに微笑んだ。
「そう……アルラウネだったのね」
「アルラウネ?」
悠真とリオンは同時に声を上げた。
「植物と人間の特徴を併せ持つ花の精霊ですよ。私も見たのは初めてですが」
リーフィアの説明に、リオンは恐る恐る花に近づいた。
「怖がらせちゃったかな……ごめんね」
花はピクリと動いたが、地上には出てこなかった。
「水をあげてみたらどうかしら?アルラウネは乾燥を嫌うから」
リーフィアのアドバイスに従い、リオンは納屋から水の入った桶を持ってきた。そっと花の周りに水を注ぐと、花の部分がプルプルと震え、嬉しそうに揺れた。
「喜んでるみたいだな」
悠真は微笑みながら見守っていた。
「害はなさそうだし、放っておいてやろう。無理に引っこ抜いたりしないほうがいいだろうしな」
リーフィアも悠真の言葉に頷いた。
「そうですね。自然の精霊は大切にしないと」
リオンは少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら、花に向かって頭を下げた。
「また明日水をあげに来るね」
花は再び揺れ、リオンの言葉を理解したかのようだった。
――――――
翌朝、水やりのためにリーフィアが庭に出ると、思いがけない光景に目を丸くした。
「あら……」
昨日まで丘の上にいたアルラウネが、いつの間にか花壇の横に移動していたのだ。花の部分は少し大きくなり、つぼみが少し開きかけていた。
「悠真さん、リオン!ちょっと見てください!」
リーフィアの呼びかけに、二人が駆けつけてきた。
「え?移動してる……」
リオンは驚きの声を上げた。
「自分で移動できるのか」
悠真は感心したように腕を組んだ。
「どうしましょう?このまま花壇にいてもらっても大丈夫でしょうか?」
リーフィアが悠真に相談すると、悠真は少し考え込んだ。
「う~ん……そうだな、試しに聞いてみるか」
悠真はアルラウネに近づき、優しく語りかけた。
「聞こえてるかな?人に迷惑をかけなければ、ここで世話をしてやるけど、どうする?」
しばらく静寂が流れた後、突然アルラウネの花がパッと開き、土から上半身が出てきた。小さな少女のような姿で、花の部分は頭飾りのように見える。彼女は頷くように花を揺らした後、また素早く土に潜った。
「言葉、通じてるみたいだな……」
悠真は少々不安そうな表情で苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、新しい住人として受け入れてやるか」
リオンは嬉しそうに手を叩いた。
「牧場に友達が増えましたね!」
「そうね。毎日水やりを忘れないようにしましょう」
リーフィアの言葉に、花壇の中のアルラウネが再び嬉しそうに揺れた。
その日から、牧場に新たな住人が加わった。言葉こそ話さないものの、花の揺れ方で気持ちを表現するアルラウネは、すぐに牧場の仲間たちに受け入れられた。特にテラは好奇心旺盛に花の周りをうろうろし、アルラウネも恥ずかしそうに時々顔を出しては、カーバンクルと交流を楽しんでいるようだった。
――――――
数日後の朝、リオンは花壇に水やりをしていた。アルラウネは彼が近づくと、つぼみをほんの少し開き、挨拶するように揺れる。
「おはよう!今日もいい天気だね」
リオンが笑顔で話しかけると、アルラウネの花が嬉しそうにプルプルと震えた。近くでは、テラがミュウミュウと鳴きながら、花壇の周りを跳ね回っている。
「リオンくん、朝から元気ね」
振り返ると、リーフィアが朝露に濡れた野草を抱えて歩いてきた。銀髪が朝日に照らされて、きらきらと輝いている。
「あ、姉さん!おはようございます。ハーブの採集ですか?」
「ええ、朝採りのハーブで特別なお茶を入れようと思って」
リーフィアは花壇に目をやり、アルラウネに微笑みかけた。植物の精霊は、恥ずかしそうに少しだけ顔を出し、すぐにまた土に潜った。
リオンはふと思いついたように言った。
「そういえば、この子にも名前を付けてあげた方がいいんじゃないでしょうか?」
リオンの問いに、リーフィアは少し考えるような仕草をして頷いた。
「そうね。名前があれば、呼びかけやすいわ」
二人が話しているところに、悠真が納屋から歩いてきた。手には道具箱を持っている。
「おはよう。何の相談だ?」
「悠真さん、おはようございます!アルラウネさんにも名前を付けようと思って」
リオンが嬉しそうに説明すると、悠真は「へぇ」と頷いた。
「確かに、このまま『アルラウネ』じゃ少し味気ないな」
三人は花壇の前に集まり、名前を考え始めた。アルラウネは興味深そうに、少しだけ土から顔を出している。
「花の名前がいいかしら?フローラとかローズとか?」
「うーん、でもなんだか普通すぎる気がします。もっと特別な名前がいいな」
悠真は腕を組んで考え込む。
「でも、あんまり凝った名前にしてもな……アウラとかどうだ?」
アウラは嬉しそうに花を大きく揺らし、満面の笑みを浮かべた。開いた花からは淡い香りが漂い、辺りに広がっていく。
「気に入ったみたいですね!」
リオンがそう言うと、アウラは照れくさそうに、でも嬉しそうに笑顔を見せ、時折花から小さな光の粒を放っていた。それは星の輝きのようで、朝の牧場に不思議な美しさを添えていた。
――――――
「この牧場って本当に不思議だなぁ」
夕暮れ時、リオンは納屋の前に腰掛け、花壇を眺めながら呟いた。
「普通じゃない動物に、植物の精霊まで集まってくるなんて」
ルナが「ニャァ」と鳴きながら、リオンの膝に飛び乗った。少年はそっと黒猫の頭を撫でる。
「でも、それが楽しいのかもしれないね」
悠真が納屋から出てきて、リオンの隣に座った。
「色々驚かされることも多いけど、退屈はしないだろ?」
リオンは笑顔で頷いた。初夏の夕日が牧場全体を優しく照らし、花壇の中では新しい仲間が心地よさそうに揺れていた。牧場には、また新たな日常が始まろうとしていた。
「テラは土の扱いが本当に上手だね」
「ミュウ!」
緑色の体をピョンと跳ねさせ、テラは嬉しそうに鳴いた。額の赤い宝石が朝日に照らされて、きらきらと光っている。
リオンは牧場に来てから数週間が経ち、すっかり日課が身についていた。朝は動物たちに餌をやり、水場を清掃し、納屋の掃除をする。午後はリーフィアと一緒に庭の手入れをしたり、悠真と牧場の柵の修理をしたりと、毎日が充実していた。
作業を終えたリオンは、牧場の端にある小さな丘に向かった。ここ数日、気になっていた場所がある。
「あれ?」
リオンは足を止めた。丘の上に、見慣れない植物が生えている。高さは膝くらいで、花のつぼみはまだ開いていないが、茎や葉の形がどこか奇妙だった。
「こんな植物、前は無かったよね……」
リオンは首をかしげ、しゃがみ込んで植物をじっくり観察した。葉は薄い黄緑色で、ペリドットのように輝いている。茎は太く、まるで人の腕のようだ。
「悠真さん、リーフィア姉さん!こっちに変な植物があるんですけど!」
声を掛けると、納屋から悠真が顔を出した。
「どうした?何か見つけたのか?」
「はい、変な植物です。見たことないんですけど……」
悠真はリオンの指す方向に歩み寄り、植物を見つめた。額に手をやり、首をかしげる。
「確かに見たことないな。リーフィアは知ってる?」
リーフィアは静かに植物に近づき、葉に触れてみる。
「いえ、私も見たことがありません。植物には詳しい方なのですが……」
三人は顔を見合わせた。
「一度引き抜いてみるか?」
悠真の言葉に、リオンは少し躊躇したが、頷いた。
「じゃあ、僕がやってみます」
リオンは植物の茎を両手で掴み、ゆっくりと引き抜こうとした。最初は抵抗があったが、力を入れると意外とすんなりと土から抜けた。
「わっ!」
リオンは驚きの声を上げた。引き抜いた先には、まるで少女のような姿をした生き物がついていたのだ。頭には花のつぼみがあり、上半身は草花でできたドレスのようなものを纏っているが、下半身は根っこが絡み合っていた。
生き物も驚いたように目を丸くし、リオンと視線が合った。
「う、うわぁっ!」
思わずリオンは手を離してしまった。生き物は恥ずかしそうな表情を浮かべると、素早く土の中に潜り込んでしまった。地上には先ほどの花だけが残った。
「今のは……」
リオンが呆然と立ち尽くす中、リーフィアは静かに微笑んだ。
「そう……アルラウネだったのね」
「アルラウネ?」
悠真とリオンは同時に声を上げた。
「植物と人間の特徴を併せ持つ花の精霊ですよ。私も見たのは初めてですが」
リーフィアの説明に、リオンは恐る恐る花に近づいた。
「怖がらせちゃったかな……ごめんね」
花はピクリと動いたが、地上には出てこなかった。
「水をあげてみたらどうかしら?アルラウネは乾燥を嫌うから」
リーフィアのアドバイスに従い、リオンは納屋から水の入った桶を持ってきた。そっと花の周りに水を注ぐと、花の部分がプルプルと震え、嬉しそうに揺れた。
「喜んでるみたいだな」
悠真は微笑みながら見守っていた。
「害はなさそうだし、放っておいてやろう。無理に引っこ抜いたりしないほうがいいだろうしな」
リーフィアも悠真の言葉に頷いた。
「そうですね。自然の精霊は大切にしないと」
リオンは少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら、花に向かって頭を下げた。
「また明日水をあげに来るね」
花は再び揺れ、リオンの言葉を理解したかのようだった。
――――――
翌朝、水やりのためにリーフィアが庭に出ると、思いがけない光景に目を丸くした。
「あら……」
昨日まで丘の上にいたアルラウネが、いつの間にか花壇の横に移動していたのだ。花の部分は少し大きくなり、つぼみが少し開きかけていた。
「悠真さん、リオン!ちょっと見てください!」
リーフィアの呼びかけに、二人が駆けつけてきた。
「え?移動してる……」
リオンは驚きの声を上げた。
「自分で移動できるのか」
悠真は感心したように腕を組んだ。
「どうしましょう?このまま花壇にいてもらっても大丈夫でしょうか?」
リーフィアが悠真に相談すると、悠真は少し考え込んだ。
「う~ん……そうだな、試しに聞いてみるか」
悠真はアルラウネに近づき、優しく語りかけた。
「聞こえてるかな?人に迷惑をかけなければ、ここで世話をしてやるけど、どうする?」
しばらく静寂が流れた後、突然アルラウネの花がパッと開き、土から上半身が出てきた。小さな少女のような姿で、花の部分は頭飾りのように見える。彼女は頷くように花を揺らした後、また素早く土に潜った。
「言葉、通じてるみたいだな……」
悠真は少々不安そうな表情で苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、新しい住人として受け入れてやるか」
リオンは嬉しそうに手を叩いた。
「牧場に友達が増えましたね!」
「そうね。毎日水やりを忘れないようにしましょう」
リーフィアの言葉に、花壇の中のアルラウネが再び嬉しそうに揺れた。
その日から、牧場に新たな住人が加わった。言葉こそ話さないものの、花の揺れ方で気持ちを表現するアルラウネは、すぐに牧場の仲間たちに受け入れられた。特にテラは好奇心旺盛に花の周りをうろうろし、アルラウネも恥ずかしそうに時々顔を出しては、カーバンクルと交流を楽しんでいるようだった。
――――――
数日後の朝、リオンは花壇に水やりをしていた。アルラウネは彼が近づくと、つぼみをほんの少し開き、挨拶するように揺れる。
「おはよう!今日もいい天気だね」
リオンが笑顔で話しかけると、アルラウネの花が嬉しそうにプルプルと震えた。近くでは、テラがミュウミュウと鳴きながら、花壇の周りを跳ね回っている。
「リオンくん、朝から元気ね」
振り返ると、リーフィアが朝露に濡れた野草を抱えて歩いてきた。銀髪が朝日に照らされて、きらきらと輝いている。
「あ、姉さん!おはようございます。ハーブの採集ですか?」
「ええ、朝採りのハーブで特別なお茶を入れようと思って」
リーフィアは花壇に目をやり、アルラウネに微笑みかけた。植物の精霊は、恥ずかしそうに少しだけ顔を出し、すぐにまた土に潜った。
リオンはふと思いついたように言った。
「そういえば、この子にも名前を付けてあげた方がいいんじゃないでしょうか?」
リオンの問いに、リーフィアは少し考えるような仕草をして頷いた。
「そうね。名前があれば、呼びかけやすいわ」
二人が話しているところに、悠真が納屋から歩いてきた。手には道具箱を持っている。
「おはよう。何の相談だ?」
「悠真さん、おはようございます!アルラウネさんにも名前を付けようと思って」
リオンが嬉しそうに説明すると、悠真は「へぇ」と頷いた。
「確かに、このまま『アルラウネ』じゃ少し味気ないな」
三人は花壇の前に集まり、名前を考え始めた。アルラウネは興味深そうに、少しだけ土から顔を出している。
「花の名前がいいかしら?フローラとかローズとか?」
「うーん、でもなんだか普通すぎる気がします。もっと特別な名前がいいな」
悠真は腕を組んで考え込む。
「でも、あんまり凝った名前にしてもな……アウラとかどうだ?」
アウラは嬉しそうに花を大きく揺らし、満面の笑みを浮かべた。開いた花からは淡い香りが漂い、辺りに広がっていく。
「気に入ったみたいですね!」
リオンがそう言うと、アウラは照れくさそうに、でも嬉しそうに笑顔を見せ、時折花から小さな光の粒を放っていた。それは星の輝きのようで、朝の牧場に不思議な美しさを添えていた。
――――――
「この牧場って本当に不思議だなぁ」
夕暮れ時、リオンは納屋の前に腰掛け、花壇を眺めながら呟いた。
「普通じゃない動物に、植物の精霊まで集まってくるなんて」
ルナが「ニャァ」と鳴きながら、リオンの膝に飛び乗った。少年はそっと黒猫の頭を撫でる。
「でも、それが楽しいのかもしれないね」
悠真が納屋から出てきて、リオンの隣に座った。
「色々驚かされることも多いけど、退屈はしないだろ?」
リオンは笑顔で頷いた。初夏の夕日が牧場全体を優しく照らし、花壇の中では新しい仲間が心地よさそうに揺れていた。牧場には、また新たな日常が始まろうとしていた。
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◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
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