異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

文字の大きさ
65 / 75

第65話 魔族対策の魔道具を求めて

しおりを挟む
 朝日が昇り始める頃、悠真は早くも荷物の準備を始めていた。木箱に必要な物を詰め、アスターリーズへの出発の支度をする。昨日の魔王軍の襲撃は、彼の心に小さな不安を残していた。

「もし、またあんな奴らが来たら……」

 悠真は言葉を途切れさせ、窓の外を見つめた。牧場では普段通り、動物たちが朝の活動を始めている。アクアが水晶のような尻尾を揺らしながら泉の周りを歩き、ベルが小さな鈴を鳴らして草を食んでいる。一見すれば平和な光景だが、昨日の出来事が脳裏によみがえる。

 階段を降りると、リーフィアとリオンがキッチンで朝食の準備をしていた。

「おはようございます、悠真さん」

 リーフィアが温かく微笑みかける。銀色の髪が朝日に輝いて、より一層美しく見える。

「悠真さん、もう準備ができていたんですね」

 リオンも明るい声で声をかけてきた。彼らはすでに昨日の一件について話し合っていたようだ。

「ああ、アスターリーズに行って色々と魔道具を探してこようと思ってね。二人も来るかい?」

「はい、もちろんです!」

 リオンは即座に答え、リーフィアも静かに頷いた。彼女の碧色の瞳には、昨日の恐怖の名残と、それを乗り越えようとする強い意志が見えた。

 朝食を終え、三人がウィンドの準備をしていると、ミリアムがやってきた。彼女は普段よりも少し息を切らせていた。

「おはようございます!今日はアスターリーズに行くんですよね?私も一緒に行っていいですか?」

 悠真は少し驚いたが、すぐに納得した。魔王軍の襲撃は彼女にとっても脅威だったのだろう。

「もちろんいいよ。ちょうど出発しようとしていたところだ」

「ありがとうございます!」

 ミリアムの笑顔に、朝の陽射しがより一層明るく感じられた。俺達はシギュラさんに牧場の守りをお願いしてアスターリーズに向かった。

――――――

 アスターリーズの街は、いつもながら活気に満ちていた。市場の喧騒、行き交う人々、様々な店からもれる香り。しかし今日の悠真たちの目的は一つ——魔道具屋を探すことだった。

「ここですよ、『マジック・ポーション』。エイドさんが一度話していた場所です」

 ミリアムが指差す先には、古めかしい外観の店があった。ドアの上には、光る液体の入った瓶の看板が掛けられている。

 店内に足を踏み入れると、様々な魔道具や薬草、結晶が棚に所狭しと並んでいた。年配の男性店主が、メガネ越しに彼らを見つめる。

「いらっしゃい。何かお探しのものがあるかな?」

 悠真は少し言葉を選びながら答えた。

「魔族の襲撃から身を守る道具を探しています。何かいいものはありませんか?」

 店主は眉を上げると、ゆっくりと棚の奥へと歩いていった。

「最近は魔王軍の活動が活発になってきたからね。こういった商品の需要が増えているんだ」

 店主が持ってきたのは、小さな水晶球と、不思議な模様が刻まれた金属の円盤だった。

「これは『警戒の眼』と呼ばれる魔道具だ。周囲に悪意のある魔力が近づくと、赤く光って警告してくれる。この円盤は『守りの印』。地面に設置すると、小規模な結界を張ることができる。どちらも値は張るが、命に代えられるものじゃないだろう?」

 悠真は迷わず両方を購入した。金貨十枚は高かったが、牧場の安全を考えれば安いものだ。

 店を出て、さらに二軒ほど魔道具屋を巡った後、悠真たちは休憩のため、市場近くの広場に腰を下ろした。

「これだけあれば、少しは安心できそうですね」

 リーフィアが、購入した魔道具の入った袋を見ながら言った。悠真も同意するように頷く。

「でも……シギュラさんはあっさり倒していましたけど、あの魔族もきっと強かったんですよね?これだけで本当に大丈夫でしょうか」

 確かにその通りだった。もしシギュラがいなければ、彼らは重大な危機に陥っていたかもしれない。

 そんな不安が頭をよぎった時、見慣れた声が聞こえてきた。

「おや、白石さん!こんなところでお会いするとは!」

 振り向くと、エイド・ローレンスが立っていた。彼の隣には、アスターリーズ商会のドミニク・バレルの姿も見える。

「エイドさん、ドミニクさん!」

 ミリアムが嬉しそうに声をあげた。

「お久しぶりです。今日は買い物ですか?」

 悠真は少し躊躇ったが、昨日の出来事を二人に説明することにした。魔王軍の襲撃、シギュラの救援、そして今日の魔道具探しについて。

 エイドの表情が徐々に真剣になっていく。

「魔王軍が……そちらにも現れたのですか。これは研究所にも報告しなければ」

 ドミニクも口髭を撫でながら、深刻な表情を浮かべていた。

「魔王軍の侵攻は我々商人にとっても大問題だ。交易路が絶たれれば、商売にも影響が出る」

 エイドはしばらく考え込んだ後、決意を固めたように言った。

「白石さん、研究所で開発中の新しい魔道具ですが、宜しければこちらを……」

 彼はカバンから、青い光を放つ小さな球体を取り出した。

「これは『魔族探知器』。かなり広範囲の魔族の気配を感知することができます。まだ試作段階ですけど、役に立つと思います」

 悠真は感謝しながらもそれを受け取った。頼もしい味方ができたことに安堵感を覚える。

 すると今度はドミニクが前に出てきた。

「では、私からも一つ。アスターリーズ商会の特別品ですよ」

 彼が取り出したのは、金色の輝きを放つ杭のようなものだった。

「これは『結界の柱』というものです。四本を牧場の四隅に埋めれば、かなり強力な結界が張れます。高級品なのですが、白石牧場には大変お世話になっていますからな。特別価格でお譲りしますよ?」

 交渉の末、悠真は金貨二十枚という破格の値段で結界の柱を手に入れることができた。

「本当にありがとうございます」

 悠真の言葉に、ドミニクは笑顔で口髭を撫でた。

「いえいえ、白石牧場は大切な取引相手ですからな。それに……」

彼は声を落として続けた。

「最近は各地から魔王軍の活動報告が増えているようです。自衛策を講じるのは賢明な判断ですよ」

 エイドも頷きながら言った。

「白石さんの牧場には貴重な生物がたくさんいますから。ぜひ注意してください」

 日が傾き始めた頃、悠真たちはアスターリーズを後にした。ウィンドに乗り、夕焼けに染まる道を帰っていく。

「思った以上に収穫がありましたね!」

 ミリアムが風に吹かれながら言った。確かに彼女の言う通りだった。警戒の眼、守りの印、魔族探知器、そして結界の柱。これだけあれば、次に魔王軍が来ても、少なくとも時間を稼ぐことはできるだろう。

「でも一番の収穫は、こういうときに協力してくれる人がいることですね」

 リオンの言葉に、悠真も静かに頷いた。

――――――

 牧場に戻った彼らを出迎えたのは、アズールとウィンドだった。二人が無事に帰ってきたことに安心したのか、小さなドラゴンは嬉しそうに飛び跳ねている。

「よし、さっそく結界の柱を設置しよう」

 悠真は牧場の四隅に、ドミニクから買った結界の柱を埋め込んでいった。最後の一本を地面に差し込むと、四本の柱が一斉に金色に輝き、かすかに光る膜が牧場全体を覆うように広がった。

「これで一先ず安心ですね」

 リーフィアの声には安堵感が漂っていた。

 警戒の眼は家の玄関に、魔族探知器は二階の窓辺に設置した。これで万全とは言えないまでも、魔王軍の接近は事前に知ることができるはずだ。

 夕食の準備をしながら、悠真は牧場の動物たちを見渡した。ベルが小さな鈴を鳴らしながら草を食み、アースは柔らかな土の上で気持ちよさそうに横たわっている。彼らもいくらか安心しているように見えた。

「動物達も結界のことが分かるみたいですね。落ち着いたようで良かったです」

 リーフィアが夕食のスープを皿に注ぎながら言った。テーブルには焼きたてのパンとハーブの香りがする料理が並んでいる。

「明日からは、また普段通りの牧場ライフですね!」

 ミリアムの明るい声に、部屋の空気が和んだ。窓の外では、結界の淡い光が牧場を柔らかく包み込んでいる。

「ああ、そうだな」

 悠真は静かに微笑んだ。彼の心には、牧場と、そこに集まる不思議な家畜たちを守りたいという思いが強くあった。

 魔王軍の脅威はまだ去っていないかもしれない。しかし今は、この穏やかな日常を大切にしていきたい。悠真はそう思いながら、テーブルを囲む仲間たちの笑顔を見つめた。

 夜空には無数の星が瞬き、牧場を優しく見守っているようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
辺境の町バラムに暮らす青年マルク。 子どもの頃から繰り返し見る夢の影響で、自分が日本(地球)から転生したことを知る。 マルクは日本にいた時、カフェを経営していたが、同業者からの嫌がらせ、客からの理不尽なクレーム、従業員の裏切りで店は閉店に追い込まれた。 その後、悲嘆に暮れた彼は酒浸りになり、階段を踏み外して命を落とした。 当時の記憶が復活した結果、マルクは今度こそ店を経営して成功することを誓う。 そんな彼が思いついたのが焼肉屋だった。 マルクは冒険者をして資金を集めて、念願の店をオープンする。 焼肉をする文化がないため、その斬新さから店は繁盛していった。 やがて、物珍しさに惹かれた美食家エルフや凄腕冒険者が店を訪れる。 HOTランキング1位になることができました! 皆さま、ありがとうございます。 他社の投稿サイトにも掲載しています。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

処理中です...