異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第70話 不思議な種子

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 牧場が拡大して数日が経った朝のこと。白石悠真は納屋から出てきたところで、カアカアと鳴きながら飛んでくるトレジャーを見つけた。いつもなら金貨や銀貨を見つけてくるカラスだが、今日は違うものをくわえていた。

「おはよう、トレジャー。今日は何を見つけてきたんだ?」

 悠真が手を差し出すと、トレジャーはその上に小さな球状のものを落とした。手のひらに乗ったそれは、指先ほどの大きさで、薄く淡い光を放っている。種子のようにも見えるが、見たことのない形状だった。

「何かの種みたいだけど……こんな形のは見たことないな……」

 悠真がつぶやいていると、納屋から出てきたリーフィアが近づいてきた。

「悠真さん、おはようございます。あら、それは何ですか?」

「ああ、おはよう。トレジャーが拾ってきたんだけど、よく分からないんだ。何か種のように見えるけど……」

 リーフィアは銀髪を風になびかせながら、悠真の手のひらを覗き込んだ。彼女の碧い瞳が輝いて見える。

「確かに不思議なものですね。光り方が……何かの生命を感じます」

 二人が首を傾げていると、リオンも合流した。

「おはようございます!あれ、その種みたいなの、何ですか?」

「トレジャーが拾ってきたんだ。何かの種みたいだけど、正体が分からなくて」

 リオンも興味深そうにそれを見つめている。

――――――

 その日の午後、ミリアムが薬草を届けに来たので、彼女にもその種子のようなものを見て貰った。

「へえ、面白いものを見つけましたね!でも……すみません、私も見たことがありません」

 ミリアムはエメラルドグリーンの瞳を輝かせながら、首を傾げた。

「ローザおばあさんの古い薬草図鑑にも載っていなかったと思いますし……不思議です」

「そうか。まぁ、多分何かの種子だろうし、一度植えてみるか」

 悠真はそう言って立ち上がった。拡張された牧場の東側に、ちょうど新しく開墾した畑がある。そこに植えてみることにした。

「私も手伝います!」

 ミリアムが元気よく言うと、一行は畑へと向かった。悠真が種子を土に埋め、ミリアムが水を与えた。

「これで大丈夫でしょうか?」

「ああ、あとは様子を見るだけだな。何が育つか楽しみだ」

 その様子を見ていたアウラが、興味深そうに首を傾げていた。黄緑色の髪をなびかせながら畑に近づいてくる。

「どうしたアウラ、これが気になるのか?」

 悠真が尋ねると、アウラはこくりと頷いた。植物の妖精であるアルラウネの少女が興味を示すということは、何か特別な植物なのかもしれない。

「アウラが気になるなら、きっと面白いものが育つかもしれませんね」

 リーフィアが微笑みながら言った。

――――――

 翌日から悠真はその種子を植えた場所にも水やりを続けていた。アウラも興味深そうにそれの様子を近くで見守っている。

 二日後の朝、いつものように水やりに行くと、種を植えた場所からぴょこんと小さな芽が出ていた。緑色の芽だが、どこか通常の植物とは違う雰囲気がある。淡く微かに光を放っているように見えた。

「おお、もう芽が出たのか。早いな」

 悠真は少し驚いたが、アウラは嬉しそうに芽の周りをくるくると回っている。

「やっぱり何か特別な植物なのかもしれないな」

 その日は特に変わったことはなく、悠真はいつも通りの牧場の作業に戻った。納屋の掃除をしていると、テラが「ミュウ」と鳴きながら手伝ってくれた。エメラルドグリーンの体が忙しなく動き回り、カーバンクルらしい働きぶりだ。

「ありがとう、テラ」

 悠真が頭を撫でると、テラは赤い額の石を光らせた。

――――――

 そうして数日後の朝、いつものように水やりに行こうとすると、リオンが驚いた声を上げた。

「悠真さん、あの芽がなくなってます!」

 確かに、昨日まであった場所に芽の姿はない。土はちゃんと残っているが、植物の形跡がまったく見えなかった。

「どういうことだ……?」

 悠真が首を傾げていると、ズボンの裾を引っ張られる感覚がした。

「ゆ、悠真さん、足元!」

 リオンの声に、悠真は慌てて足元を見下ろした。そこには、見たことのない小さな少女が立っていた。アウラとよく似た印象だが、髪は深い緑色で、体から淡いオーロラのような光を放っている。隣にはいつものアウラもいた。二人とも悠真を見上げている。悠真は二人を見てあることに気づいた。

「もしかして……ここに植えた種子は、君だったのか?」

 悠真が尋ねると、緑色の髪の少女はこくんと頷いた。そしてアウラと共に何かを期待するような目で悠真を見上げてきた。

「……もしかして、水がほしいのか?」

 悠真が水差しを手に取ると、二人の目が輝いた。優しく頭上から水をかけてやると、二人は嬉しそうに手を広げ、気持ちよさそうにその水を全身に浴びた。

「あら、二人とも可愛いですね」

 そう言って、リーフィアも微笑みながら近づいてきた。

「そうだな。でも、これは予想外だった。何か分かるかもしれないし、図鑑で調べてみよう」

――――――

 悠真は家に戻り、世界の希少生物図鑑をめくり始めた。緑色の髪の少女の特徴を探していく。

「あった!ここだ」

 数ページめくったところで、悠真は目当ての記述を見つけた。

「ドライアド……森や木々の精霊で、植物と深い繋がりを持つ種族。何らかの原因で弱った時に、自分の身を種子に変え、足りないものを補いながらゆっくりと回復を待つ特性がある」

 悠真が図鑑の内容を声に出して読み上げると、リーフィアとリオンは感嘆の声を上げた。

「なるほど、だからアウラが気にしていたんですね。同族を感じ取っていたのかもしれません」

「それにしても、回復がとても早かったですね」

「そうだな。図鑑によると通常は回復に時間がかかるらしいけど……傷が浅かったのか、もしくは牧場の土が栄養豊富だったからかもしれないな」

 悠真がそう言うと、窓から外を見た。アウラと新しく仲間になったドライアドが、畑のあたりで楽しそうに遊んでいる姿が見える。

「このまま居つきそうだし、あの子にも名前をつけてあげないとな」

 悠真がそう言うと、リオンが元気よく手を挙げた。

「綺麗な緑色の髪だし、サフィアはどうでしょうか?」

「サフィアか、良いんじゃないか?」

「素敵な名前ね。良いと思うわ」

 そう言ってリーフィアが微笑み、悠真も頷いたため、ドライアドの名前はサフィアで決まることになった。

――――――

 夕方、悠真はサフィアとアウラに水やりをしながら語りかけた。

「これからよろしくな、サフィア」

 少女は嬉しそうに笑顔を見せた。その姿を見ていたアウラも、心なしか誇らしげな表情に見える。同じ植物の仲間ができて嬉しいのだろう。並んでいるとサフィアの方が少し背が高く姉妹のようにも見えた。

 近くに止まっていたトレジャーに、悠真は声をかけた。

「今回は意外な拾い物だったけど、お手柄だったぞ、トレジャー」

 カラスは「カアー」と誇らしげに鳴き、翼を広げた。

 少し離れたところでは、テラとウィンドが新しい仲間を不思議そうに見ている。ラクルは悠真の肩に乗って「クルルー」と鳴いていた。

「今日もまた牧場の仲間がまた一人増えたな……」

 悠真がそう言うと、夕日に照らされた牧場全体が温かな光に包まれた。広がった牧場には、これからもっと多くの不思議な出会いが待っているのかもしれない。そんな期待を胸に、悠真は穏やかな夕暮れを眺めていた。
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