異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

文字の大きさ
16 / 75

第16話 森の実とルナの秘密

しおりを挟む
朝焼けがまだ残る空を見上げながら、悠真は深く息を吸い込んだ。澄んだ空気が肺に満ちる感覚が心地よい。

「今日も良い天気になりそうだな」

悠真は納屋の扉を開け、中の動物たちに挨拶した。ヘラクレスは大きな体を伸ばし、ベルは眠そうに「メェー」と鳴いている。

「おはよう、みんな。今日も元気かい?」

一番奥では、新しく仲間に加わったエルフのリーフィアが、サクラの毛並みを優しく梳かしていた。銀色の長い髪を一つに結び、作業しやすい緑色の服に着替えている。

「あ、悠真さん。おはようございます」

リーフィアの透き通るような声が納屋に響いた。彼女が牧場に来てから一週間が経つ。記憶は戻っていないものの、牧場の仕事にはすっかり慣れたようだ。

「おはよう、リーフィア。今日は何をするつもりだ?」

「森の周辺で薬草を探そうと思っています。ミリアムさんが教えてくれた本に、この辺りにしか生えない珍しい薬草があるとありました」

リーフィアの顔には好奇心が輝いていた。エルフである彼女は、植物に関する知識が豊富だ。

「そうか。気をつけてな。あまり深入りしないように」

「はい、わかっています」

悠真はリーフィアの頭をポンと撫でた。彼女は少し照れた様子で微笑んだ。

「それじゃあ、行ってきますね」

リーフィアが納屋を出て行くと、黒猫のルナが不思議そうに彼女の後を追った。

「おや、ルナも行くのか?」

ルナは振り返って一度鳴き、それから再びリーフィアの方へ走っていった。

「まあ、ルナがいれば大丈夫か」

悠真は微笑みながら、残りの家畜たちの世話を始めた。

――――――

森の中、リーフィアは慎重に足を進めていた。地面に生える草や苔をじっくりと観察している。

「これは……違うわね。もう少し奥に行ってみましょうか」

ルナはリーフィアの足元でクルクルと回り、時々立ち止まっては何かの匂いを嗅いでいる。

「ルナも何か探してるの?」

リーフィアが問いかけると、ルナは「ニャー」と返事をして、少し先の茂みへと走っていった。

「あ、待って!」

リーフィアはルナを追いかけた。茂みの向こうには、小さな空き地があった。そこには、キラキラと光る赤い実をつけた低木が生えている。

「これは……!」

リーフィアは思わず息を呑んだ。その実は、本に載っていた貴重な薬草「ルビーベリー」に間違いなかった。高熱を一晩で下げる効果があるという貴重な実だ。

「ルナ、よく見つけたわね!」

リーフィアが喜ぶと、ルナは誇らしげに尻尾を立てた。リーフィアはそっと手を伸ばし、実を数個摘み取った。

「これで薬が作れるわ。ミリアムさんも喜ぶでしょうね」

彼女が実を小さな袋に入れていると、突然ルナが警戒するように耳を立てた。

「どうしたの?」

リーフィアが周囲を見回すと、森が急に静かになったことに気がついた。鳥の鳴き声も、虫の音も聞こえない。

「何か来るの……?」

その時、茂みが揺れ、一匹の大きな黒い狼が姿を現した。赤い目が鋭く光り、牙をむき出しにしている。

「狼!?」

リーフィアは身体が硬直するのを感じた。狼は低くうなり、ゆっくりと近づいてくる。

「に、逃げないと……」

恐怖で足が動かない。リーフィアは目を閉じた。その時、突然「シャー!」という鋭い声が響いた。

目を開けると、ルナが自分の前に立ち、狼に向かって威嚇していた。小さな黒猫が、何倍もの大きさの狼に立ち向かっている。

「ルナ、危ない!」

リーフィアが叫んだ瞬間、信じられない光景が広がった。ルナの体が青白い光に包まれ、その姿が変わり始めたのだ。小さな猫の体が膨らみ、伸び、そして——

「え……?」

光が消えると、そこには優雅な黒豹が立っていた。漆黒の体に、神秘的な青い紋様が浮かび上がっている。

「ルナ……?」

豹と化したルナは低くうなり、狼に飛びかかった。その動きは水の流れのように滑らかで、狼は反応する間もなく吹き飛ばされた。

立ち上がった狼は、一度だけルナを見て、それから慌てて森の中へと逃げ去った。

ルナはしばらく狼の去った方向を見つめていたが、やがて緊張がほぐれたように体の力を抜いた。そして再び青白い光に包まれ、元の黒猫の姿に戻った。

「ルナ……あなた……」

リーフィアは言葉を失った。ルナはゆっくりと彼女に近づき、いつものように足にすり寄った。

「こんな力を持っていたなんて……」

リーフィアはルナを抱き上げ、その目をじっと見つめた。ルナの瞳には、普通の猫にはない知性の光が宿っていた。

「これは悠真さんに伝えないと」

リーフィアは急いでルビーベリーを袋に入れ、牧場への帰路についた。

――――――

「変身した!?」

夕暮れ時、小屋の中で悠真はリーフィアの話を聞いて驚いた表情を浮かべていた。テーブルには採れたてのルビーベリーが並び、その隣でルナが丸くなって眠っている。

「はい。大きな黒豹に。しかも体に青い模様があって……」

「そうなのか。何か普通じゃないと思ってたけど変身できるなんてな」

悠真はルナの頭を優しく撫でた。黒猫は気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

「普通じゃない、ですか?」

「ああいや、偶に不思議な行動をとるからさ、明らかに俺達の言葉を理解していたり、他の動物たちと意思疎通しているような…」

リーフィアは驚いた目でルナを見つめた。

「もしかして精霊だったりするのでしょうか?」

「精霊?」

「精霊は時に動物の姿を借りて現世に現れると言われているんです」

悠真は考え込んだ。

「へぇ、そんなことがあるのか。……まぁ、もしそうだったとしてもルナはルナだ」

二人がそんな会話をしていると、突然ドアがノックされた。

「はい?」

ドアが開き、緑のドレスを着た少女が入ってきた。亜麻色の髪と澄んだエメラルドグリーンの瞳が印象的だ。

「こんばんは、悠真さん!薬草を届けに来たの…あら、リーフィアさんもいた」

「ミリアム、いらっしゃい」

ミリアムは笑顔で入ってきたが、テーブルの上のルビーベリーを見るとハッとした表情になった。

「それって…まさかルビーベリー!?どこで見つけたの?」

「森の奥よ。ルナが教えてくれたの」

「すごい!これって本当に珍しいのよ。高熱の特効薬になるし、市場でもほとんど出回らないの」

ミリアムはルビーベリーを手に取り、熱心に観察している。

「そうなのか。じゃあ、半分くらいミリアムにもあげるよ」

「ほんと?ありがとう!これで素晴らしい薬が作れるわ」

ミリアムが喜んでいる間に、悠真はリーフィアに小声で尋ねた。

「ルナのことは…」

リーフィアはわずかに首を振った。

「秘密にしておきましょう。ルナ自身が明かしたい時まで」

悠真はうなずいた。

「そうだな」

その時、テーブルの上で眠っていたルナが、ふと目を開けた。その瞳は一瞬だけ青く光り、それからまた眠りについた。

「不思議な仲間が増えたもんだ」

悠真は微笑みながら呟いた。外では夕日が沈み、満月が昇り始めていた。静かな牧場に、新たな秘密が宿った夜だった。

「ねえ、悠真さん!このルビーベリーで何か作らない?ジャムとか、お菓子とか」

ミリアムの明るい声が部屋に響く。

「いいね。リーフィア、一緒に作ってみるか?」

「はい、喜んで」

三人は台所へと移動し、夜の料理会が始まった。テーブルの上では、ルナが満足そうに丸くなったまま、月の光を浴びていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
辺境の町バラムに暮らす青年マルク。 子どもの頃から繰り返し見る夢の影響で、自分が日本(地球)から転生したことを知る。 マルクは日本にいた時、カフェを経営していたが、同業者からの嫌がらせ、客からの理不尽なクレーム、従業員の裏切りで店は閉店に追い込まれた。 その後、悲嘆に暮れた彼は酒浸りになり、階段を踏み外して命を落とした。 当時の記憶が復活した結果、マルクは今度こそ店を経営して成功することを誓う。 そんな彼が思いついたのが焼肉屋だった。 マルクは冒険者をして資金を集めて、念願の店をオープンする。 焼肉をする文化がないため、その斬新さから店は繁盛していった。 やがて、物珍しさに惹かれた美食家エルフや凄腕冒険者が店を訪れる。 HOTランキング1位になることができました! 皆さま、ありがとうございます。 他社の投稿サイトにも掲載しています。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

処理中です...