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1.はじまりの戸惑い
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神々が集う神殿は、どこか人間離れした静けさをたたえていた。白い大理石の床が果てしなく広がり、その上に浮かぶ無数の輝く星屑のような光。それらが天井の巨大な時計と呼応するように緩やかに移動している。これが神の住む世界、いわゆる「高次元領域」だ。だが、その荘厳さを台無しにするように、ひとりの若い男が神殿の片隅で頭を抱えていた。
「なんで俺が神なんだよ……」
そう呟いたのは、新米神様、名をセイルという。彼はつい昨日まで、どこにでもいる普通の人間だった。とある事故に巻き込まれて死んだ……はずが、目が覚めたらこの神殿にいた。そして気が付けば、彼に与えられた役割は「新しい世界を作ること」だった。
「セイル、新神研修はもう終わったわよ。いつまでも頭を抱えてないで、さっさと取り掛かりなさい」
隣で冷ややかに声をかけたのは、セイルの教育係である中堅神リーネ。黒髪を後ろでまとめた凛とした女性で、年齢不詳の美貌を持つ。だが、その美しい顔立ちに浮かぶのは、呆れと苛立ちだ。
「取り掛かるって言われても、どうやってやるんだよ? 世界を作るなんて、俺の人生の経験値じゃムリに決まってるだろ!」
「あなたは、神になったのよ。人間の経験値なんてもう関係ないわ」
リーネは腕を組み、セイルを睨む。その眼差しには「神様としての自覚を持ちなさい」という厳しい意志が宿っている。しかし、セイルにとってそれはどこか他人事のようにしか思えない。
「そもそも、世界って何から作ればいいんだ? 地面? 空? それとも……生き物?」
「それはあなたが決めるのよ。神の役割は創造であり、管理でもあるわ。新米とはいえ、あなたには無限の力が与えられている。想像したものを形にできるのだから、恐れることはないわ」
「言うのは簡単だけどな……」
セイルは立ち上がり、神殿の中心に浮かぶ小さな水晶球を見つめた。これが彼の「創造のキャンバス」だという。触れるだけで新しい世界が広がり、あらゆるものを生み出せるらしい。
「まずは地面でも作ってみなさい。その水晶球に触れて、イメージするだけでいいわ」
リーネが促す。セイルは半信半疑のまま球に手を伸ばした。
「イメージって言われても……ええい、もう、適当に!」
彼が強く念じると、球の中に小さな光が生まれた。それは次第に広がり、まるで一枚のキャンバスの上に絵の具が落ちていくように、新しい風景を描き出していく。青空、緑の大地、どこまでも続く川。まさに「初めての世界」がそこに広がった。
「おお……これが俺の作った世界?」
セイルは感動しながら球を覗き込んだ。だが、その表情はすぐに曇る。
「なんか、どこかで見たような風景だな……」
「当然よ。あなたが参考にしているのは、今までの記憶でしかないもの。独自性を加えるのはこれからよ」
「独自性って……例えば?」
「例えば、この大地をどんな生き物が住む場にするのか。それを決めるのも神の役目よ」
セイルは腕を組んで考え込んだ。
「生き物か……。うーん、じゃあ、空を飛ぶ魚とかどうだ?」
セイルが再び球に手をかざすと、青空を悠然と泳ぐ巨大な魚たちが現れた。そのうろこは太陽の光を反射し、虹色に輝いている。
「お、意外と良くないか?」
「ええ、悪くないわ。でも、生態系や食物連鎖も考えなさい。神の世界は継続的に運営されるものよ。思いつきだけで創造すると、いずれ崩壊するわ」
リーネの指摘に、セイルの顔が一気に暗くなる。
「それ、つまり俺がこの世界をちゃんと管理しないといけないってことか?」
「当然よ。神の役割は創造だけじゃないわ。創ったものに責任を持つのが神の義務よ」
セイルは改めて頭を抱えた。この仕事は思った以上に重い。無限の力を持つと言われても、それが使いこなせなければただの宝の持ち腐れだ。
「なぁ、リーネ。なんで俺なんかが神に選ばれたんだ?」
「それは私にも分からないわ。でも、選ばれたのには必ず理由はある。貴方にはそれだけの能力があると認められたのよ」
リーネの言葉に、セイルは少しだけ気を取り直す。
「分かったよ。とりあえず、空飛ぶ魚を餌にする鳥でも作ってみるか」
再び球に手を触れ、セイルは鳥のイメージを膨らませた。空を舞う魚を狙う鋭いくちばしと、翼には青空に溶け込むような模様を持つ鳥が出現する。
「うん、これなら空飛ぶ魚とバランスが取れる……かな?」
「良いわね。その調子で他の生き物や環境も少しずつ作りなさい。最初は誰もが初心者よ」
リーネが微笑む。その笑顔に少しだけ勇気をもらったセイルは、少しずつ創造の楽しさを感じ始めていた。
「よし、次は……海を作ろう! 大きな海に奇妙な生物を住まわせてみたい!」
こうして、新米神様セイルの初仕事が始まった。
「なんで俺が神なんだよ……」
そう呟いたのは、新米神様、名をセイルという。彼はつい昨日まで、どこにでもいる普通の人間だった。とある事故に巻き込まれて死んだ……はずが、目が覚めたらこの神殿にいた。そして気が付けば、彼に与えられた役割は「新しい世界を作ること」だった。
「セイル、新神研修はもう終わったわよ。いつまでも頭を抱えてないで、さっさと取り掛かりなさい」
隣で冷ややかに声をかけたのは、セイルの教育係である中堅神リーネ。黒髪を後ろでまとめた凛とした女性で、年齢不詳の美貌を持つ。だが、その美しい顔立ちに浮かぶのは、呆れと苛立ちだ。
「取り掛かるって言われても、どうやってやるんだよ? 世界を作るなんて、俺の人生の経験値じゃムリに決まってるだろ!」
「あなたは、神になったのよ。人間の経験値なんてもう関係ないわ」
リーネは腕を組み、セイルを睨む。その眼差しには「神様としての自覚を持ちなさい」という厳しい意志が宿っている。しかし、セイルにとってそれはどこか他人事のようにしか思えない。
「そもそも、世界って何から作ればいいんだ? 地面? 空? それとも……生き物?」
「それはあなたが決めるのよ。神の役割は創造であり、管理でもあるわ。新米とはいえ、あなたには無限の力が与えられている。想像したものを形にできるのだから、恐れることはないわ」
「言うのは簡単だけどな……」
セイルは立ち上がり、神殿の中心に浮かぶ小さな水晶球を見つめた。これが彼の「創造のキャンバス」だという。触れるだけで新しい世界が広がり、あらゆるものを生み出せるらしい。
「まずは地面でも作ってみなさい。その水晶球に触れて、イメージするだけでいいわ」
リーネが促す。セイルは半信半疑のまま球に手を伸ばした。
「イメージって言われても……ええい、もう、適当に!」
彼が強く念じると、球の中に小さな光が生まれた。それは次第に広がり、まるで一枚のキャンバスの上に絵の具が落ちていくように、新しい風景を描き出していく。青空、緑の大地、どこまでも続く川。まさに「初めての世界」がそこに広がった。
「おお……これが俺の作った世界?」
セイルは感動しながら球を覗き込んだ。だが、その表情はすぐに曇る。
「なんか、どこかで見たような風景だな……」
「当然よ。あなたが参考にしているのは、今までの記憶でしかないもの。独自性を加えるのはこれからよ」
「独自性って……例えば?」
「例えば、この大地をどんな生き物が住む場にするのか。それを決めるのも神の役目よ」
セイルは腕を組んで考え込んだ。
「生き物か……。うーん、じゃあ、空を飛ぶ魚とかどうだ?」
セイルが再び球に手をかざすと、青空を悠然と泳ぐ巨大な魚たちが現れた。そのうろこは太陽の光を反射し、虹色に輝いている。
「お、意外と良くないか?」
「ええ、悪くないわ。でも、生態系や食物連鎖も考えなさい。神の世界は継続的に運営されるものよ。思いつきだけで創造すると、いずれ崩壊するわ」
リーネの指摘に、セイルの顔が一気に暗くなる。
「それ、つまり俺がこの世界をちゃんと管理しないといけないってことか?」
「当然よ。神の役割は創造だけじゃないわ。創ったものに責任を持つのが神の義務よ」
セイルは改めて頭を抱えた。この仕事は思った以上に重い。無限の力を持つと言われても、それが使いこなせなければただの宝の持ち腐れだ。
「なぁ、リーネ。なんで俺なんかが神に選ばれたんだ?」
「それは私にも分からないわ。でも、選ばれたのには必ず理由はある。貴方にはそれだけの能力があると認められたのよ」
リーネの言葉に、セイルは少しだけ気を取り直す。
「分かったよ。とりあえず、空飛ぶ魚を餌にする鳥でも作ってみるか」
再び球に手を触れ、セイルは鳥のイメージを膨らませた。空を舞う魚を狙う鋭いくちばしと、翼には青空に溶け込むような模様を持つ鳥が出現する。
「うん、これなら空飛ぶ魚とバランスが取れる……かな?」
「良いわね。その調子で他の生き物や環境も少しずつ作りなさい。最初は誰もが初心者よ」
リーネが微笑む。その笑顔に少しだけ勇気をもらったセイルは、少しずつ創造の楽しさを感じ始めていた。
「よし、次は……海を作ろう! 大きな海に奇妙な生物を住まわせてみたい!」
こうして、新米神様セイルの初仕事が始まった。
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