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第一部『ベッティオル皇国編』
リタは精霊とともに怒りの拳を振り上げる(1)
ボナパルト王国の王太子アレッサンドロとその妃ステファニアの結婚式、披露宴も無事に終わり、その翌日。
各国の王族たちは午前のうちから正餐室に集い、食事を取っていた。
というのも、国内がまだ落ち着いていないベッティオル皇国の皇帝アドルフォが、いちはやく帰国する前に交流をはかるためだ。
もちろん、その中にはリタもいた。
あれだけ昨日は彼らの視線から逃げていたリタだが、さすがに今回ばかりは逃げられないと思っていたが、存外リタへ向けられる視線は少ない。今は皆、他国との交流を優先しているらしい。
会話は、アレッサンドロが回している。全員に話を振りながらも、さりげなくリタにだけは注目されにくい内容を振ってくれている。リタは「そうですね。私もそう思います」と同調すればいいだけ。リタは心の中でアレッサンドロに感謝の言葉を送っていた。
アドルフォの視線がリタに向けられそうになったタイミングで、アレッサンドロはアドルフォに話題を振った。アドルフォが待っていましたというように口を開く。彼の口から出たのは、今後のベッティオル皇国の方針について。
「そうですね。おそらく、今が我が国の転換期なのだと思います。我が国はこれまで精霊の力に頼りすぎていた。これからは自力で国を治めなければならない。正直、荷が重いですが、精霊が私に力を貸さないと決めたということは、私ならできると期待してくれたということ。最善を尽くしたいと思います」
殊勝な言葉を並べるアドルフォに、精霊たちが『なに勝手なこと言ってんのよ! 誰もあんたなんかに期待してないわよ! (※放送禁止用語)!』と騒ぎ立てる。リタは素知らぬ顔をするので必死だった。
ジョヴァンニが「ほう」と感心したように頷く。
「それで、今後は各国との繋がりを深めて、知恵を借りたいと?」
「はい」とアドルフォが好青年面で頷く。
「お恥ずかしながら、私は本来譲位するにはまだ若く、未熟。ですが、だからと言って甘えてはいられない。この肩には多くの命が乗っているのですから。そのためなら、恥を忍んで教えを請います」
「そこまで言われて、教えない、とはいえんな」
「ですね。とはいえ、そもそもアドルフォ皇帝は十分うまくやっていると思いますが」
ジョヴァンニとアレッサンドロが言えば、他国の王族たちも頷く。過去の疫病への速やかな対処等を例に挙げ、褒めたたえる。
アドルフォは照れたように笑っていたが、満更でもなさそうな顔だ。
リタは呆れたような引くつく口角をなんとか、笑顔のまま保ちながら別の話題に移るのを待とうとした。その時、焦ったようなノック音が鳴った。
火急の知らせを持ってきたという文官が、ジョヴァンニの許可を得て、入室する。
「ベッティオル皇国より使者がいらっしゃっております」
「……その様子、ただごとじゃないようだ。その者はどこに?」
「部屋の外に」
ジョヴァンニがアドルフォに視線で問う。別室で話を聞くのか、この場で聞くのか。アドルフォは緊張した面持ちで「入室させても?」と返す。
ジョヴァンニは頷き返した。
ベッティオル皇国からの使者が中へ入ってくる。リタは「あ」と声が漏れそうになるのを手で慌てて押さえた。
狐のような胡散臭さを醸し出している男。アドルフォ直属の若手廷臣カレルだ。
そんな彼が今回は余裕を失っているように見える。いったいなにがあったのかと、皆身構える中カレルはアドルフォの指示に従い、この場で報告をするべく口を開いた。
「報告いたします。上皇ダニエーレ陛下が……ご崩御なされました」
カレルの報告に皆目をむき、息を呑む。カレルは震える声で続けた。
「つきましては、陛下には至急ご帰国を賜りたく、お願い申し上げます」
頭を下げるカレルに、アドルフォは一度ぎゅっと瞼を閉じた後、目を開き静かに立ち上がった。
「もう少し皆さんとの会話を楽しみたかったのですが……今すぐ帰国し、確認しなければならないことができたようです」
「ああ。では、すぐに帰国できるよう手配しよう」
「念のため護衛を増やしては?」とアレッサンドロが提案した。ジョヴァンニも頷き返す。
「そうだな。うちからも数名出そう」
「ありがとうございます。それと、今聞いたことは」
「わかっている。正式な発表があるまでは、ここだけの話にしておこう。皆も」
ジョヴァンニの言葉に皆緊張した面持ちで頷く。
立ち上がったステファニアが、アドルフォに近づいた。
「お、お兄様、私もベッティオル皇国へ」
「いや、おまえはダメだ。ボナパルト王国の王太子妃としてすべきことをしてから、おいで」
「っ、はい」
ステファニアは我慢するように下唇を嚙み、瞼を伏せた。そんなステファニアを慰めるようにリタが寄り添う。
震えるステファニアを見て、リタの胸に込み上げてきたのは、母を亡くした時のあの喪失感だ。とはいえ、別にダニエーレが死んだことへの悲しみではない。ステファニアが傷ついていることを想像しての痛みだ。
リタにとってもダニエーレは実の父親のはずなのだが、そのような気持ちにはいっさいならなかった。ダニエーレが知ったらひどくショックを受けるだろうが、それが事実であり彼の自業自得でもある。
不意にアドルフォがステファニアから視線をリタに移した。
「リタ、君もステファニアと一緒に墓参りにくるといい。父上は君をいたく気に入っていたようだから、喜ぶだろう」
「……は、はい。その時は……お姉様と一緒に行かせていただきます」
ステファニアがはっとしたような顔でリタを見たが、もうリタは発言した後だ。言質を取ったことで満足したのかアドルフォは足取り軽く正餐室を出て行った。その背中をアルフレードは黙ってじっと見送った。
各国の王族たちは午前のうちから正餐室に集い、食事を取っていた。
というのも、国内がまだ落ち着いていないベッティオル皇国の皇帝アドルフォが、いちはやく帰国する前に交流をはかるためだ。
もちろん、その中にはリタもいた。
あれだけ昨日は彼らの視線から逃げていたリタだが、さすがに今回ばかりは逃げられないと思っていたが、存外リタへ向けられる視線は少ない。今は皆、他国との交流を優先しているらしい。
会話は、アレッサンドロが回している。全員に話を振りながらも、さりげなくリタにだけは注目されにくい内容を振ってくれている。リタは「そうですね。私もそう思います」と同調すればいいだけ。リタは心の中でアレッサンドロに感謝の言葉を送っていた。
アドルフォの視線がリタに向けられそうになったタイミングで、アレッサンドロはアドルフォに話題を振った。アドルフォが待っていましたというように口を開く。彼の口から出たのは、今後のベッティオル皇国の方針について。
「そうですね。おそらく、今が我が国の転換期なのだと思います。我が国はこれまで精霊の力に頼りすぎていた。これからは自力で国を治めなければならない。正直、荷が重いですが、精霊が私に力を貸さないと決めたということは、私ならできると期待してくれたということ。最善を尽くしたいと思います」
殊勝な言葉を並べるアドルフォに、精霊たちが『なに勝手なこと言ってんのよ! 誰もあんたなんかに期待してないわよ! (※放送禁止用語)!』と騒ぎ立てる。リタは素知らぬ顔をするので必死だった。
ジョヴァンニが「ほう」と感心したように頷く。
「それで、今後は各国との繋がりを深めて、知恵を借りたいと?」
「はい」とアドルフォが好青年面で頷く。
「お恥ずかしながら、私は本来譲位するにはまだ若く、未熟。ですが、だからと言って甘えてはいられない。この肩には多くの命が乗っているのですから。そのためなら、恥を忍んで教えを請います」
「そこまで言われて、教えない、とはいえんな」
「ですね。とはいえ、そもそもアドルフォ皇帝は十分うまくやっていると思いますが」
ジョヴァンニとアレッサンドロが言えば、他国の王族たちも頷く。過去の疫病への速やかな対処等を例に挙げ、褒めたたえる。
アドルフォは照れたように笑っていたが、満更でもなさそうな顔だ。
リタは呆れたような引くつく口角をなんとか、笑顔のまま保ちながら別の話題に移るのを待とうとした。その時、焦ったようなノック音が鳴った。
火急の知らせを持ってきたという文官が、ジョヴァンニの許可を得て、入室する。
「ベッティオル皇国より使者がいらっしゃっております」
「……その様子、ただごとじゃないようだ。その者はどこに?」
「部屋の外に」
ジョヴァンニがアドルフォに視線で問う。別室で話を聞くのか、この場で聞くのか。アドルフォは緊張した面持ちで「入室させても?」と返す。
ジョヴァンニは頷き返した。
ベッティオル皇国からの使者が中へ入ってくる。リタは「あ」と声が漏れそうになるのを手で慌てて押さえた。
狐のような胡散臭さを醸し出している男。アドルフォ直属の若手廷臣カレルだ。
そんな彼が今回は余裕を失っているように見える。いったいなにがあったのかと、皆身構える中カレルはアドルフォの指示に従い、この場で報告をするべく口を開いた。
「報告いたします。上皇ダニエーレ陛下が……ご崩御なされました」
カレルの報告に皆目をむき、息を呑む。カレルは震える声で続けた。
「つきましては、陛下には至急ご帰国を賜りたく、お願い申し上げます」
頭を下げるカレルに、アドルフォは一度ぎゅっと瞼を閉じた後、目を開き静かに立ち上がった。
「もう少し皆さんとの会話を楽しみたかったのですが……今すぐ帰国し、確認しなければならないことができたようです」
「ああ。では、すぐに帰国できるよう手配しよう」
「念のため護衛を増やしては?」とアレッサンドロが提案した。ジョヴァンニも頷き返す。
「そうだな。うちからも数名出そう」
「ありがとうございます。それと、今聞いたことは」
「わかっている。正式な発表があるまでは、ここだけの話にしておこう。皆も」
ジョヴァンニの言葉に皆緊張した面持ちで頷く。
立ち上がったステファニアが、アドルフォに近づいた。
「お、お兄様、私もベッティオル皇国へ」
「いや、おまえはダメだ。ボナパルト王国の王太子妃としてすべきことをしてから、おいで」
「っ、はい」
ステファニアは我慢するように下唇を嚙み、瞼を伏せた。そんなステファニアを慰めるようにリタが寄り添う。
震えるステファニアを見て、リタの胸に込み上げてきたのは、母を亡くした時のあの喪失感だ。とはいえ、別にダニエーレが死んだことへの悲しみではない。ステファニアが傷ついていることを想像しての痛みだ。
リタにとってもダニエーレは実の父親のはずなのだが、そのような気持ちにはいっさいならなかった。ダニエーレが知ったらひどくショックを受けるだろうが、それが事実であり彼の自業自得でもある。
不意にアドルフォがステファニアから視線をリタに移した。
「リタ、君もステファニアと一緒に墓参りにくるといい。父上は君をいたく気に入っていたようだから、喜ぶだろう」
「……は、はい。その時は……お姉様と一緒に行かせていただきます」
ステファニアがはっとしたような顔でリタを見たが、もうリタは発言した後だ。言質を取ったことで満足したのかアドルフォは足取り軽く正餐室を出て行った。その背中をアルフレードは黙ってじっと見送った。
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