【第一部完】皇帝の隠し子は精霊の愛し子~発覚した時にはすでに隣国で第二王子の妻となっていました~

黒木メイ

文字の大きさ
93 / 106
第一部『ベッティオル皇国編』

リタは精霊とともに怒りの拳を振り上げる(1)

 ボナパルト王国の王太子アレッサンドロとその妃ステファニアの結婚式、披露宴も無事に終わり、その翌日。
 各国の王族たちは午前のうちから正餐室に集い、食事を取っていた。
 というのも、国内がまだ落ち着いていないベッティオル皇国の皇帝アドルフォが、いちはやく帰国する前に交流をはかるためだ。
 もちろん、その中にはリタもいた。
 あれだけ昨日は彼らの視線から逃げていたリタだが、さすがに今回ばかりは逃げられないと思っていたが、存外リタへ向けられる視線は少ない。今は皆、他国との交流を優先しているらしい。

 会話は、アレッサンドロが回している。全員に話を振りながらも、さりげなくリタにだけは注目されにくい内容を振ってくれている。リタは「そうですね。私もそう思います」と同調すればいいだけ。リタは心の中でアレッサンドロに感謝の言葉を送っていた。

 アドルフォの視線がリタに向けられそうになったタイミングで、アレッサンドロはアドルフォに話題を振った。アドルフォが待っていましたというように口を開く。彼の口から出たのは、今後のベッティオル皇国の方針について。

「そうですね。おそらく、今が我が国の転換期なのだと思います。我が国はこれまで精霊の力に頼りすぎていた。これからは自力で国を治めなければならない。正直、荷が重いですが、精霊が私に力を貸さないと決めたということは、私ならできると期待してくれたということ。最善を尽くしたいと思います」
 殊勝な言葉を並べるアドルフォに、精霊たちが『なに勝手なこと言ってんのよ! 誰もあんたなんかに期待してないわよ! (※放送禁止用語)!』と騒ぎ立てる。リタは素知らぬ顔をするので必死だった。
 ジョヴァンニが「ほう」と感心したように頷く。
「それで、今後は各国との繋がりを深めて、知恵を借りたいと?」
「はい」とアドルフォが好青年面で頷く。
「お恥ずかしながら、私は本来譲位するにはまだ若く、未熟。ですが、だからと言って甘えてはいられない。この肩には多くの命が乗っているのですから。そのためなら、恥を忍んで教えを請います」
「そこまで言われて、教えない、とはいえんな」
「ですね。とはいえ、そもそもアドルフォ皇帝は十分うまくやっていると思いますが」
 ジョヴァンニとアレッサンドロが言えば、他国の王族たちも頷く。過去の疫病への速やかな対処等を例に挙げ、褒めたたえる。
 アドルフォは照れたように笑っていたが、満更でもなさそうな顔だ。

 リタは呆れたような引くつく口角をなんとか、笑顔のまま保ちながら別の話題に移るのを待とうとした。その時、焦ったようなノック音が鳴った。
 火急の知らせを持ってきたという文官が、ジョヴァンニの許可を得て、入室する。

「ベッティオル皇国より使者がいらっしゃっております」
「……その様子、ただごとじゃないようだ。その者はどこに?」
「部屋の外に」

 ジョヴァンニがアドルフォに視線で問う。別室で話を聞くのか、この場で聞くのか。アドルフォは緊張した面持ちで「入室させても?」と返す。
 ジョヴァンニは頷き返した。

 ベッティオル皇国からの使者が中へ入ってくる。リタは「あ」と声が漏れそうになるのを手で慌てて押さえた。
 狐のような胡散臭さを醸し出している男。アドルフォ直属の若手廷臣カレルだ。
 そんな彼が今回は余裕を失っているように見える。いったいなにがあったのかと、皆身構える中カレルはアドルフォの指示に従い、この場で報告をするべく口を開いた。

「報告いたします。上皇ダニエーレ陛下が……ご崩御なされました」

 カレルの報告に皆目をむき、息を呑む。カレルは震える声で続けた。

「つきましては、陛下には至急ご帰国を賜りたく、お願い申し上げます」

 頭を下げるカレルに、アドルフォは一度ぎゅっと瞼を閉じた後、目を開き静かに立ち上がった。

「もう少し皆さんとの会話を楽しみたかったのですが……今すぐ帰国し、確認しなければならないことができたようです」
「ああ。では、すぐに帰国できるよう手配しよう」
「念のため護衛を増やしては?」とアレッサンドロが提案した。ジョヴァンニも頷き返す。
「そうだな。うちからも数名出そう」
「ありがとうございます。それと、今聞いたことは」
「わかっている。正式な発表があるまでは、ここだけの話にしておこう。皆も」
 ジョヴァンニの言葉に皆緊張した面持ちで頷く。

 立ち上がったステファニアが、アドルフォに近づいた。

「お、お兄様、私もベッティオル皇国へ」
「いや、おまえはダメだ。ボナパルト王国の王太子妃としてすべきことをしてから、おいで」
「っ、はい」

 ステファニアは我慢するように下唇を嚙み、瞼を伏せた。そんなステファニアを慰めるようにリタが寄り添う。
 震えるステファニアを見て、リタの胸に込み上げてきたのは、母を亡くした時のあの喪失感だ。とはいえ、別にダニエーレが死んだことへの悲しみではない。ステファニアが傷ついていることを想像しての痛みだ。
 リタにとってもダニエーレは実の父親のはずなのだが、そのような気持ちにはいっさいならなかった。ダニエーレが知ったらひどくショックを受けるだろうが、それが事実であり彼の自業自得でもある。

 不意にアドルフォがステファニアから視線をリタに移した。
「リタ、君もステファニアと一緒に墓参りにくるといい。父上は君をいたく気に入っていたようだから、喜ぶだろう」
「……は、はい。その時は……お姉様と一緒に行かせていただきます」

 ステファニアがはっとしたような顔でリタを見たが、もうリタは発言した後だ。言質を取ったことで満足したのかアドルフォは足取り軽く正餐室を出て行った。その背中をアルフレードは黙ってじっと見送った。

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました

あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。 断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。 平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。 ――だが。 私にはもう一つの試験がある。 それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。 そして数日後。 その結果は――首席合格だった。 冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。