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第一話
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自分の異常性に気づいたのはわりと早い頃だったと思う。おかげで、早い段階で『普通』の皮を被れるようになった。ただ、それでも多少『普通』よりはズレているようだが……。
「ダヴィデ団長! 後ろがついてこれていません」
「ん?」
副団長のエミリオから呼ばれ、振り向く。後ろを見れば、確かに他の団員たちとの間に距離ができていた。またやってしまった。だが、このままでは敵に逃げられる。
「私は先に行く。副団長はいつもどおりに」
「承知しました」
エミリオはすぐさま部下たちをサポートするべく、後ろに下がった。私は反対にスピードを上げ、敵を追いかける。前方にいるのは敵のみ。つまり、味方を巻き込む可能性はゼロ。思う存分暴れられる。無意識に口角が上がる。
――さあ、今日の獲物はどんな反応をしてくれるだろうか。
「ぐあっ」
「くっ」
「ば、化け物!」
「ふっ」
『化け物』、人によっては嬉しくないあだ名かもしれないが、私は違う。私自身もそう思うのだから。
「それにしても……君たちは全く可愛くないな」
残念だという気持ちが、声色に乗る。化け物だと言うくらいなら相応の反応を示してほしいのだが……。
不可思議な力を使う彼ら。そのせいか、追い詰められてもまだ己たちが勝てると信じている節がある。そんなもの……使う前に殺してしまえば同じだというのに。
「マモン様、どうか私に力を、目の前の敵を滅する力を私にっ、あ゛あ゛あ゛!」
よくわからない祝詞を唱えている間に、切る。これが一番手っ取り早い。
「な、なんと卑怯な」
「君たちがそれを言うの? 王太子殿下を暗殺しようとしといて?」
「う゛」
呆れたように呟けば、まだ生きている敵がビクリと体を強張らせた。じっと見つめれば震え始める。
――そう。そういう可愛らしさを見せてほしかったんだ。
「わ、私たちは彼の方のために」
「うんうん」
にこにこ、ほほ笑みながら近づけば、敵は後退していく。
――せっかくだから、この子は生け捕りにしようかな。
「だ、だから、私は……」
「私はなに? 聞いてあげるから最後まで話してごらん?」
小首をかしげながら尋ねれば、敵の目にさらなる恐怖が宿った。
「ひ、ひっ」
「あれ、過呼吸を起こしちゃったの? 可哀相に……大丈夫だよ。大人しくしていれば、優しくしてあげるから」
「あ、あ、く、くるな」
敵はパニック状態に陥ったせいで、お得意の力を使えないでいるようだ。これは好機、と敵を捕まえようと手を伸ばした瞬間……彼は死んでしまった。
「あーあ……。死んじゃった。可愛くない」
あんなに震えていたのに、自害する勇気はあったらしい。思わず舌打ちする。聞きなれた足音が、後ろから聞こえてきた。どうやら、部下たちが追いついたらしい。後の処理は彼らに任せようと、私は踵を返した。
「ダヴィデ団長! 後ろがついてこれていません」
「ん?」
副団長のエミリオから呼ばれ、振り向く。後ろを見れば、確かに他の団員たちとの間に距離ができていた。またやってしまった。だが、このままでは敵に逃げられる。
「私は先に行く。副団長はいつもどおりに」
「承知しました」
エミリオはすぐさま部下たちをサポートするべく、後ろに下がった。私は反対にスピードを上げ、敵を追いかける。前方にいるのは敵のみ。つまり、味方を巻き込む可能性はゼロ。思う存分暴れられる。無意識に口角が上がる。
――さあ、今日の獲物はどんな反応をしてくれるだろうか。
「ぐあっ」
「くっ」
「ば、化け物!」
「ふっ」
『化け物』、人によっては嬉しくないあだ名かもしれないが、私は違う。私自身もそう思うのだから。
「それにしても……君たちは全く可愛くないな」
残念だという気持ちが、声色に乗る。化け物だと言うくらいなら相応の反応を示してほしいのだが……。
不可思議な力を使う彼ら。そのせいか、追い詰められてもまだ己たちが勝てると信じている節がある。そんなもの……使う前に殺してしまえば同じだというのに。
「マモン様、どうか私に力を、目の前の敵を滅する力を私にっ、あ゛あ゛あ゛!」
よくわからない祝詞を唱えている間に、切る。これが一番手っ取り早い。
「な、なんと卑怯な」
「君たちがそれを言うの? 王太子殿下を暗殺しようとしといて?」
「う゛」
呆れたように呟けば、まだ生きている敵がビクリと体を強張らせた。じっと見つめれば震え始める。
――そう。そういう可愛らしさを見せてほしかったんだ。
「わ、私たちは彼の方のために」
「うんうん」
にこにこ、ほほ笑みながら近づけば、敵は後退していく。
――せっかくだから、この子は生け捕りにしようかな。
「だ、だから、私は……」
「私はなに? 聞いてあげるから最後まで話してごらん?」
小首をかしげながら尋ねれば、敵の目にさらなる恐怖が宿った。
「ひ、ひっ」
「あれ、過呼吸を起こしちゃったの? 可哀相に……大丈夫だよ。大人しくしていれば、優しくしてあげるから」
「あ、あ、く、くるな」
敵はパニック状態に陥ったせいで、お得意の力を使えないでいるようだ。これは好機、と敵を捕まえようと手を伸ばした瞬間……彼は死んでしまった。
「あーあ……。死んじゃった。可愛くない」
あんなに震えていたのに、自害する勇気はあったらしい。思わず舌打ちする。聞きなれた足音が、後ろから聞こえてきた。どうやら、部下たちが追いついたらしい。後の処理は彼らに任せようと、私は踵を返した。
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