異常者だと自覚のある私のお見合い顛末

黒木メイ

文字の大きさ
1 / 5

第一話

しおりを挟む
 自分の異常性に気づいたのはわりと早い頃だったと思う。おかげで、早い段階で『普通』の皮を被れるようになった。ただ、それでも多少『普通』よりはズレているようだが……。

「ダヴィデ団長! 後ろがついてこれていません」
「ん?」

 副団長のエミリオから呼ばれ、振り向く。後ろを見れば、確かに他の団員たちとの間に距離ができていた。またやってしまった。だが、このままでは敵に逃げられる。

「私は先に行く。副団長はいつもどおりに」
「承知しました」

 エミリオはすぐさま部下たちをサポートするべく、後ろに下がった。私は反対にスピードを上げ、敵を追いかける。前方にいるのは敵のみ。つまり、味方を巻き込む可能性はゼロ。思う存分暴れられる。無意識に口角が上がる。

 ――さあ、今日の獲物はどんな反応をしてくれるだろうか。

「ぐあっ」
「くっ」
「ば、化け物!」
「ふっ」

『化け物』、人によっては嬉しくないあだ名かもしれないが、私は違う。私自身もそう思うのだから。

「それにしても……君たちは全く可愛くないな」

 残念だという気持ちが、声色に乗る。化け物だと言うくらいなら相応の反応を示してほしいのだが……。
 不可思議な力を使う彼ら。そのせいか、追い詰められてもまだ己たちが勝てると信じている節がある。そんなもの……使う前に殺してしまえば同じだというのに。

「マモン様、どうか私に力を、目の前の敵を滅する力を私にっ、あ゛あ゛あ゛!」
 よくわからない祝詞を唱えている間に、切る。これが一番手っ取り早い。
「な、なんと卑怯な」
「君たちがそれを言うの? 王太子殿下を暗殺しようとしといて?」
「う゛」

 呆れたように呟けば、まだ生きている敵がビクリと体を強張らせた。じっと見つめれば震え始める。
 ――そう。そういう可愛らしさを見せてほしかったんだ。

「わ、私たちは彼の方のために」
「うんうん」

 にこにこ、ほほ笑みながら近づけば、敵は後退していく。
 ――せっかくだから、この子は生け捕りにしようかな。

「だ、だから、私は……」
「私はなに? 聞いてあげるから最後まで話してごらん?」

 小首をかしげながら尋ねれば、敵の目にさらなる恐怖が宿った。

「ひ、ひっ」
「あれ、過呼吸を起こしちゃったの? 可哀相かわいそうに……大丈夫だよ。大人しくしていれば、優しくしてあげるから」
「あ、あ、く、くるな」

 敵はパニック状態に陥ったせいで、お得意の力を使えないでいるようだ。これは好機、と敵を捕まえようと手を伸ばした瞬間……彼は死んでしまった。

「あーあ……。死んじゃった。可愛くない」

 あんなに震えていたのに、自害する勇気はあったらしい。思わず舌打ちする。聞きなれた足音が、後ろから聞こえてきた。どうやら、部下たちが追いついたらしい。後の処理は彼らに任せようと、私は踵を返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由

翠月るるな
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」  婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。  セシリアは唖然としてしまう。  トドメのように彼は続けた。 「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」  この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。  そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。  しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。  顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。

駄犬の話

毒島醜女
恋愛
駄犬がいた。 不幸な場所から拾って愛情を与えたのに裏切った畜生が。 もう思い出すことはない二匹の事を、令嬢は語る。 ※かわいそうな過去を持った不幸な人間がみんな善人というわけじゃないし、何でも許されるわけじゃねえぞという話。

欲しいものが手に入らないお話

奏穏朔良
恋愛
いつだって私が欲しいと望むものは手に入らなかった。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

殿下と男爵令嬢は只ならぬ仲⁉

アシコシツヨシ
恋愛
公爵令嬢セリーナの婚約者、王太子のブライアンが男爵令嬢クインシアと常に行動を共にするようになった。 その理由とは……

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

処理中です...