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第四話
何度か目のデートの時、イラリア嬢から声をかけられた。毎回ミルカと私がどんなに仲良くしていても特に気にした様子はなかったため、これには驚いた。しかし、その内容はさらに驚かざるを得ないものだった。
「あなたの本性をミルカに黙っていてほしいなら、私に協力してくださる?」
「私の本性? なんのことかな?」
「説明が必要なの? 時間の無駄だと思うけど……」
イラリア嬢は溜息を一度吐き出すと、私の本性について語り出した。『普通』の顔の下にある異常性について。その証拠となる言動についても。以前の狩りの際、ミルカの前で血がついた上着を着ていたのはわざとだろう。とそんなことまで。驚くほど、細かく、的確に。素直に驚いた。こんなに驚いたのは、エミリオの時以来だ。
――これは、思った以上にいい見合いになるのでは? イラリア嬢は優秀な女性……未婚にしておくには惜しい女性だということは知っていたが、想像以上だ。陛下にも一言お伝えしておくか。
「もう結構。ばらされたところで……ではあるけど、できればミルカには嫌われたくはないからね。利害の一致ということで協力関係を結ぼうじゃないか」
満面の笑みで手を差し出せば、イラリア嬢は胡散臭いとでもいうように眉間に皺を寄せつつも、手を握り返してきた。こうして、私たちは己の目標のため、互いを利用することにしたのだ。
父上の説得は、容易だった。私が、ミルカ嬢に惚れたこと。彼女を支えるためにカルーゾ伯爵家に婿入りしたいこと。彼女以外とは結婚するつもりはないこと。そして、イラリア嬢もこのことは承知で、それなら彼女とエミリオの縁談がまとまるように手伝ってほしいと言っていた、と伝えればすぐに動いてくれた。
幼いころから私の異常性に気づいていたからこそ、この展開にはホッとしたことだろう。父上が動いてからは、話はとんとん拍子に進んで行った。
◇
カルーゾ伯爵家に三家が集まった。主に今後についての話し合いのため。この場にいるほとんどの者たちはその内容を知っている。ただエミリオを除いて。
「お姉様。こんな結果になってしまって……本当にごめんなさい」
私の腕の中で、ミルカがイラリア嬢に謝罪する。抱えている私にはミルカの表情は見えないが、きっと楽しそうな顔をしているに違いない。それに対して、イラリア嬢は予測していたかのような反応を見せた。
「ダヴィデ様、ミルカをどうぞよろしくお願いいたします」
ミルカを無視して私に頭を下げる。ミルカが体に力を入れたのがわかった。すぐさま「もちろん」と返す。そうすれば、ミルカの体から力が抜けたのがわかった。しかし、イラリア嬢が追撃してくる。ちっ、余計なことを。
「まあ、心強い。これからはミルカの側にはダヴィデ様がいてくださるのだから、私がいなくても大丈夫ですわね」
「ああ。ミルカのことは私に任せてほしい。私の生涯をかけてミルカを大切にすると誓うよ」
にこやかに、はっきりと告げる。イラリア嬢がなにを考えてその発言をしたのか、深く考えもせずに。後々になって理解したが、きっとこの時わかっていたとしても同じ答えを返したと思う。だって、ミルカが喜んでくれたからね。
「あ、あの質問をいいですか?」
皆が祝福ムードの中、手を挙げたのはエミリオ。
「なにかね?」
父上が応える。エミリオは恐る恐る質問を口にした。
「婚約相手が当初と替わるとなると、困ることがあるのでは? その、たとえば私の婿入りの話だとか」
「エミリオ!」
エミリオの父親が声を張り上げる。が、エミリオは質問を取り消さない。二人の間に険悪な空気が流れ始める。が、それを父上が遮った。
「エミリオ君が不安になるのも当然のことだろう。謝罪の意味をこめて、君には公爵家が抱えている領地と爵位の一つを譲ることとした。爵位は男爵とはなってしまうが……すまないね」
「いや、それについてはかまいませんが……」
どうやら、エミリオが気にしていたのは自分のことではなく、イラリア嬢のことらしい。ちらちら気遣うような視線を向けている。以前の私だったらそんな視線にも気づくことはなかっただろうが、ミルカという特別な存在ができてからは多少はわかるようになった。それにしても、エミリオはわかりやすい。
「あの、お話の途中で、申し訳ないのですが」
声を上げたのはミルカ。――しまった。エミリオたちに気を取られていた。
父上に視線を向けると、父上は心得たように頷いた。
「ああ。そろそろ限界だろうね。後は私たちだけで話をまとめるから、君たちはもう行っていいよ」
その言葉を聞いて、すぐに部屋を出る。エミリオたちへのあいさつもそこそこに疲れた様子のミルカを休ませるために部屋へと向かう。……ミルカの誘惑に負けて、唇を重ねてしまったが、今度からはもっと自制心を身につけようと心に誓った。
「あなたの本性をミルカに黙っていてほしいなら、私に協力してくださる?」
「私の本性? なんのことかな?」
「説明が必要なの? 時間の無駄だと思うけど……」
イラリア嬢は溜息を一度吐き出すと、私の本性について語り出した。『普通』の顔の下にある異常性について。その証拠となる言動についても。以前の狩りの際、ミルカの前で血がついた上着を着ていたのはわざとだろう。とそんなことまで。驚くほど、細かく、的確に。素直に驚いた。こんなに驚いたのは、エミリオの時以来だ。
――これは、思った以上にいい見合いになるのでは? イラリア嬢は優秀な女性……未婚にしておくには惜しい女性だということは知っていたが、想像以上だ。陛下にも一言お伝えしておくか。
「もう結構。ばらされたところで……ではあるけど、できればミルカには嫌われたくはないからね。利害の一致ということで協力関係を結ぼうじゃないか」
満面の笑みで手を差し出せば、イラリア嬢は胡散臭いとでもいうように眉間に皺を寄せつつも、手を握り返してきた。こうして、私たちは己の目標のため、互いを利用することにしたのだ。
父上の説得は、容易だった。私が、ミルカ嬢に惚れたこと。彼女を支えるためにカルーゾ伯爵家に婿入りしたいこと。彼女以外とは結婚するつもりはないこと。そして、イラリア嬢もこのことは承知で、それなら彼女とエミリオの縁談がまとまるように手伝ってほしいと言っていた、と伝えればすぐに動いてくれた。
幼いころから私の異常性に気づいていたからこそ、この展開にはホッとしたことだろう。父上が動いてからは、話はとんとん拍子に進んで行った。
◇
カルーゾ伯爵家に三家が集まった。主に今後についての話し合いのため。この場にいるほとんどの者たちはその内容を知っている。ただエミリオを除いて。
「お姉様。こんな結果になってしまって……本当にごめんなさい」
私の腕の中で、ミルカがイラリア嬢に謝罪する。抱えている私にはミルカの表情は見えないが、きっと楽しそうな顔をしているに違いない。それに対して、イラリア嬢は予測していたかのような反応を見せた。
「ダヴィデ様、ミルカをどうぞよろしくお願いいたします」
ミルカを無視して私に頭を下げる。ミルカが体に力を入れたのがわかった。すぐさま「もちろん」と返す。そうすれば、ミルカの体から力が抜けたのがわかった。しかし、イラリア嬢が追撃してくる。ちっ、余計なことを。
「まあ、心強い。これからはミルカの側にはダヴィデ様がいてくださるのだから、私がいなくても大丈夫ですわね」
「ああ。ミルカのことは私に任せてほしい。私の生涯をかけてミルカを大切にすると誓うよ」
にこやかに、はっきりと告げる。イラリア嬢がなにを考えてその発言をしたのか、深く考えもせずに。後々になって理解したが、きっとこの時わかっていたとしても同じ答えを返したと思う。だって、ミルカが喜んでくれたからね。
「あ、あの質問をいいですか?」
皆が祝福ムードの中、手を挙げたのはエミリオ。
「なにかね?」
父上が応える。エミリオは恐る恐る質問を口にした。
「婚約相手が当初と替わるとなると、困ることがあるのでは? その、たとえば私の婿入りの話だとか」
「エミリオ!」
エミリオの父親が声を張り上げる。が、エミリオは質問を取り消さない。二人の間に険悪な空気が流れ始める。が、それを父上が遮った。
「エミリオ君が不安になるのも当然のことだろう。謝罪の意味をこめて、君には公爵家が抱えている領地と爵位の一つを譲ることとした。爵位は男爵とはなってしまうが……すまないね」
「いや、それについてはかまいませんが……」
どうやら、エミリオが気にしていたのは自分のことではなく、イラリア嬢のことらしい。ちらちら気遣うような視線を向けている。以前の私だったらそんな視線にも気づくことはなかっただろうが、ミルカという特別な存在ができてからは多少はわかるようになった。それにしても、エミリオはわかりやすい。
「あの、お話の途中で、申し訳ないのですが」
声を上げたのはミルカ。――しまった。エミリオたちに気を取られていた。
父上に視線を向けると、父上は心得たように頷いた。
「ああ。そろそろ限界だろうね。後は私たちだけで話をまとめるから、君たちはもう行っていいよ」
その言葉を聞いて、すぐに部屋を出る。エミリオたちへのあいさつもそこそこに疲れた様子のミルカを休ませるために部屋へと向かう。……ミルカの誘惑に負けて、唇を重ねてしまったが、今度からはもっと自制心を身につけようと心に誓った。
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