この感情を何て呼ぼうか

逢坂美穂

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1.The day before -前日-

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 ツルは突然伏せっていた体勢をやめると鞄を横へ避け、頬杖をついて改めて俺を見る。
 窓際に座っているからか風に吹かれたツルの前髪が微かに揺れた。どれだけきっちりセットしてんだよと突っ込みたい程度だったけど、サマになるから困る。
 なんだよ。
 黙ってればイケメンとか言われる奴にこんな風に見られるのは居心地が悪い。
 何より気持ち悪い。
 俺は思ったままを伝えた。

「なんだよ?キモいんだけど」
「久住さー」
「だから何」
「なんか今日、髪フッワフワじゃね?ココ」
「ゲッ」

 自分の耳の上あたりをトントンと差したツルを見て俺は咄嗟にそこを隠した。
 寝坊したせいか。ちゃんとしてきたつもりなのに頭と目がちゃんと起きてなかったってことなのか。

「慌てまくってんだけど何?なんかやべぇの?」
「寝癖」
「ただの寝癖なら隠さんでも」
「ションベン行ってくる」
「もう始まんぜ?」
「すぐ戻る」

 髪を抑えたまま立ち上がり、俺は教室を飛び出した。



「うっわマジだーやべぇ」

 男子トイレの鏡の前。
 抑えた手をどかすと忌々しく跳ね上がる髪があった。
 俺の髪にはもともと癖があって、記憶にないくらい子供の頃から天パだと思われていたらしい。幼稚園の頃『ふわふわできれいなかみのけ』と初恋の女の子に言われたのは何気にショックがでかかった。
 年々落ち着いて来たものの、未だに……特に耳の上はムカつくくらい言う事をきいてくれない。
 女々しいと言われようが何だろうが、俺はこの存在を認める気はなかった。
 だからここだけは毎朝念入りに大人しくさせていたはずなのに、今日に限って―――

「あ……。安達も気付いたかな」

 よりによって安達に会う日にこんなことに。
 いや、でもまず安達は俺の髪なんかいちいち気にしない。気付いたとしても特になんとも思わないだろう。わかっていてもグサッとくるものがある。
 しかも今日は何か怒らせたっぽい。

「……厄日かよ」

 水で濡らした指先で髪を整えながら、俺はため息を吐いた。

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