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2.the first day. -1日目-
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「お邪魔しまーす」
借り手はほとんどひとり暮らしの学生だろうと思われる、コンクリートで出来た今時のアパート。
屋上があるようで、日中に向かえば昼寝が楽しめそうだ。
そう言ったら「焦げ死ぬぞ」としかめっ面で返された。
角部屋――306号室の扉を開けた部屋の主の背を押しのけるように、莉依子は玄関へと滑り込んだ。
申し訳程度の廊下を通り過ぎ、更に扉を開けると、リビングダイニングが一緒になったワンルームがそこにある。
「わあ綺麗!え、意外!」
「おいコラ靴!脱げよ」
「あっごめん、おじゃまします!」
「……靴くらい揃えろよお前……」
背後で小言が聞こえるけど、気にしてはいられない。
龍の部屋に入るのは、家を出て以来なんだから。
莉依子は抑えきれない興奮で突っ走っていた。
「うん、これだよこれ!」
はしゃぎながら部屋の中をぐるぐる回る。
もうため息以上のものは出ないかのようにぐったりと後ろから着いてきた龍は、ここまで来る途中で持ってくれていた莉依子の荷物を部屋の隅に下ろした。
「ん?なーにこれ」
部屋に入ってまず最初に飛び込んできた南側の窓にはりついていた莉依子は、龍へと向き直った時にあるものを見つけた。
キッチンとリビングダイニングの間に、真っ白な梯子。
「何これ何これ」
言いながら梯子へと手をかけ、「ちょっ、そこは待て」と何やら焦って止めようとする龍を尻目に一気に駆け上がる。
「……おふとん?」
そこにあったのは、シングルサイズのベッドスペース。
程よく狭くて寝心地の良さそうな、何よりも龍の寝ているベッド。
「わー!おふとんだー!」
そのままぼすんと思いきり飛び込んだ。
「待て待て待て待てお前!」
慌てて後に続いてきた龍は、すっかりベッドに寝転んでしまった莉依子を見て頭を抱える。
「何してんだバカ」
「えへへへー寝てるー」
「見りゃわかる」
梯子に掴まったままベッドの莉依子を見つめて困ったような怒ったような複雑な表情を浮かべ、はあ、と一際大きなため息をついた。
対する莉依子は、この上ない至福の時を感じている。
「ねえ龍ちゃーん」
「何だよ、つーかだからいい加減龍ちゃんはやめ」
「ここ、懐かしくて落ち着くねー。龍のにおいがいっぱいする」
「ばっ……」
一気に首まで赤く染めあがった龍は、口を右手で抑え莉依子から視線を逸らした。
ほう、これも新鮮な反応だ。
莉依子に小さな悪戯心がまた芽生えにやりとしてしまう。
龍は赤くなりながらも怒ることを止めない。
「いいから早く降りろ!てか外から入った服で寝転ぶな」
「あ、そういうもんか。ごめんね汚かったね」
理由がわかれば素直に従う。むくりと起き上がった莉依子は先に降りていく龍を上から見つめ、微笑んだ。
本当、変わってないな。
ちょっと口は悪いけど、女の子にはあまり強く出られないんだ。
「龍ちゃん、何してるの?」
飛び降りたい衝動を抑えて梯子を1段1段降りた莉依子は、リビングダイニングに置いてある机に何やら色々と取り出し始めた龍に話しかける。
何やら文句を――おそらく「ちゃん」付けについてやめろと言いかけたのか一瞬眉と唇の端を歪めたものの、諦めたようにため息をついてから答えた。
「お邪魔しまーす」
借り手はほとんどひとり暮らしの学生だろうと思われる、コンクリートで出来た今時のアパート。
屋上があるようで、日中に向かえば昼寝が楽しめそうだ。
そう言ったら「焦げ死ぬぞ」としかめっ面で返された。
角部屋――306号室の扉を開けた部屋の主の背を押しのけるように、莉依子は玄関へと滑り込んだ。
申し訳程度の廊下を通り過ぎ、更に扉を開けると、リビングダイニングが一緒になったワンルームがそこにある。
「わあ綺麗!え、意外!」
「おいコラ靴!脱げよ」
「あっごめん、おじゃまします!」
「……靴くらい揃えろよお前……」
背後で小言が聞こえるけど、気にしてはいられない。
龍の部屋に入るのは、家を出て以来なんだから。
莉依子は抑えきれない興奮で突っ走っていた。
「うん、これだよこれ!」
はしゃぎながら部屋の中をぐるぐる回る。
もうため息以上のものは出ないかのようにぐったりと後ろから着いてきた龍は、ここまで来る途中で持ってくれていた莉依子の荷物を部屋の隅に下ろした。
「ん?なーにこれ」
部屋に入ってまず最初に飛び込んできた南側の窓にはりついていた莉依子は、龍へと向き直った時にあるものを見つけた。
キッチンとリビングダイニングの間に、真っ白な梯子。
「何これ何これ」
言いながら梯子へと手をかけ、「ちょっ、そこは待て」と何やら焦って止めようとする龍を尻目に一気に駆け上がる。
「……おふとん?」
そこにあったのは、シングルサイズのベッドスペース。
程よく狭くて寝心地の良さそうな、何よりも龍の寝ているベッド。
「わー!おふとんだー!」
そのままぼすんと思いきり飛び込んだ。
「待て待て待て待てお前!」
慌てて後に続いてきた龍は、すっかりベッドに寝転んでしまった莉依子を見て頭を抱える。
「何してんだバカ」
「えへへへー寝てるー」
「見りゃわかる」
梯子に掴まったままベッドの莉依子を見つめて困ったような怒ったような複雑な表情を浮かべ、はあ、と一際大きなため息をついた。
対する莉依子は、この上ない至福の時を感じている。
「ねえ龍ちゃーん」
「何だよ、つーかだからいい加減龍ちゃんはやめ」
「ここ、懐かしくて落ち着くねー。龍のにおいがいっぱいする」
「ばっ……」
一気に首まで赤く染めあがった龍は、口を右手で抑え莉依子から視線を逸らした。
ほう、これも新鮮な反応だ。
莉依子に小さな悪戯心がまた芽生えにやりとしてしまう。
龍は赤くなりながらも怒ることを止めない。
「いいから早く降りろ!てか外から入った服で寝転ぶな」
「あ、そういうもんか。ごめんね汚かったね」
理由がわかれば素直に従う。むくりと起き上がった莉依子は先に降りていく龍を上から見つめ、微笑んだ。
本当、変わってないな。
ちょっと口は悪いけど、女の子にはあまり強く出られないんだ。
「龍ちゃん、何してるの?」
飛び降りたい衝動を抑えて梯子を1段1段降りた莉依子は、リビングダイニングに置いてある机に何やら色々と取り出し始めた龍に話しかける。
何やら文句を――おそらく「ちゃん」付けについてやめろと言いかけたのか一瞬眉と唇の端を歪めたものの、諦めたようにため息をついてから答えた。
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