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4.the last day. -3日目-
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すぐそばに、龍のぬくもりを感じる。
温かさだけじゃない。ベッドの中は、大好きな龍のにおいで満ちている。
においだけじゃない。身体中に龍の気配を感じる。想い出でも想像でもない、本物の龍の感触がする。
「あったかい……幸せ……」
漏れた呟きに、目の前にある胸が息を吸ったのか大きく動き、頭上からため息となって現れた。
「……なんでこうなった」
続いて聞こえてきたのは、龍の声。
「なんでって、龍がいいよって言ってくれたから」
「わかってるわかってる、嫌ってほどわかってる」
「ため息ばっかりついてると幸せが逃げるってお母さんが言ってたよ。最近の龍、ため息すごい多い」
「誰のせいだと思ってんだよ」
「えへへへ、ごめんね。でもありがとう」
「好きにしろ」
どんなに悪態をつかれても莉依子が気にすることはない。だって、龍は願いを叶えてくれたのだから。
昔みたいに龍と一緒に眠ること。それが今、莉依子が心から叶えたい願いだった。そのためにここに来たといっても過言ではない。
「……大きくなったね、龍」
「は?」
「一緒に寝てた頃はもっと小っちゃくて可愛かったのに」
龍の胸元に頬を寄せて莉依子は続ける。
「でもにおいは変わってないね」
同時に軽く頭をはたかれ、そのままわしゃわしゃと大きな手で頭を撫でまわされた。逃げようにも龍が目の前にいて逃げることは出来ない。
こんなに幸せな瞬間が本当にまた訪れるなんて、莉依子は今なら空も飛べるし苦手なお風呂にだって喜んで入ることが出来るだろう。
嬉しさに身を捩らせていると、優しく撫でまわしている龍の手がだんだん粗暴になり髪が大変なことになっている。
「ちょ、ちょっと何」
「あのな。初日から言おうと思ってたけどそういう発言も他ではダメ。においとか何とか……いちいちエロいんだよ」
「エロい?」
「発言がな」
「良いことじゃないの?」
「……時と場合によるけど、お前は無自覚だから良くないこと」
「わかった。でも龍ちゃんにしか言わないから大丈夫」
ぴったりと龍に身を寄せたまま、莉依子は瞼を閉じた。
一瞬だけ龍が身を固くしたのがわかる。不思議に思い目だけでそちらを見ると、あさっての方を向いた龍が拗ねたような困ったような複雑な顔をしていた。
「そんなくっつかれると……こっちも色々事情があんだけど」
「一緒に寝ていいって言ったじゃん」
「でもくっつきすぎ」
「今夜だけだもん、いいでしょー……」
「ていうか変だぞお前。なんかあった?」
頭上から降ってくる龍の声が、だんだん遠くなっていく。
離れて久しかったけれど、何も変わっていないぬくもり。
3日間一緒に過ごした龍は大人になっていた。
友達とお酒も飲むし、何だか難しい勉強もしていた。自分の将来について具体的に考えを重ねるほど、大人になっていた。
それでも変わっていない龍のにおいとぬくもりが、莉依子の眠りを誘う。自然と瞼が落ちていく。
「……りゅう……?」
「ん?」
「ありがとね……お願い聞いてくれて……」
「いやいいけど……何だよ、何かあったのかよ。親と喧嘩でもしたのか?俺に説教かましといて」
「お母さんもお父さんも大好きだよー……りゅーとそっくりで……」
「そりゃ俺の親だ。大丈夫かおい、マジで何かあったとか」
「何もないよー、りゅーに会いたかっただけ……あと……」
「あと?」
上から注ぐ龍の声すら、今の莉依子には眠り薬だ。
意識を完全に手放してしまう前に、龍の背に手を回す。そして、ぎゅ、と出来る限りの力を込めた。
「な」
「もう一度、こうやって一緒に寝たかったんだー……」
龍が何か言っている。けれどもう、莉依子の耳には入ってこない。
「龍ちゃん、大好き……」
その一言を最後に、莉依子の意識は落ちていった。
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