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1 秘密と嘘の違い

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「何?」
「こちらへ来なさい。で、ここに座る」
 
 ポスポスと自分の向かい側に置かれた小さな椅子を叩いて、せっちゃんはまた手招く。
 渋々従ってそこに座ると、目の高さが合った。
 
「ウチの高校は基本アルバイトを禁止されています」
「知ってる」
 
 だから黙って続けてたわけだし。
 
「でもきちんとした理由があれば許可が下りる場合もあります」
「え」
「……宥下なら下りるでしょう。許可証があれば堂々とアルバイトもできますから」
 
 迷っているような少しの間があったけど、せっちゃんは眼鏡越しにまっすぐ私の目を見て言った。
 せっちゃんの言いたいことは分かる。
 担当教科は現国と古典だけど私の担任だし、それだけじゃなくたってウチのこと全部知ってる。
 だから私の事を思って言ってくれている。
 全部全部わかってる。
 今回のことだって、絶対他の先生には言ってなくて、呼び出しを国語準備室にしたのだって絶対バレないようにするためだ。
 せっちゃんはいつだってそうだ。ムカつくくらい甘くて優しくて。
 
「やだ。めんどい」
 
 だから尚更、素直になれない。
 
「すぐに面倒とか言わない。ほら、ここに理由を書くだけでいいんです」
「そのキモいレベルに丁寧な言葉使いをやめてくれたら考える」
 
 だからたくさん困らせてしまう。
 せっちゃんは眉間にぎゅっと力を入れて、目を閉じた。
 困ってる。私の扱いに。
 困ればいい。困って困って、私の事をいっぱい考えればいい。

「キモいはやめた方がいい。美しい日本語じゃありません」
「気持ち悪いって言われた方が傷つかない?」
「……宥下」
 
 声がちょっと低くなった。
 これ以上困らせたら本当に怒るよってことだ。
 昔の癖。変わらない。
 この声を聞くと私はビクッとなって「ごめんね」と謝っていたような気がする。
 だけど今の私はもう、そんなことしない。
 
「だってホントに気持ち悪いんだもん、せっちゃんにそんな丁寧に話しかけられるの。や、もともとわりと優しげではあったけどさ」
「慣れなさい。ここは学校です」
「東京で楽しくセンセーやってると思ったらいきなり帰ってきてさ、理由にも驚いたのに、もっと驚くことがあるなんて思わなかった。ユキも言ってた」
「……理由をきちんと書いて僕に提出しなさい。いいね」
 
 静かにため息を吐きながら、せっちゃんは私の手に用紙と封筒を持たせる。
 嫌がって突っ返したってよかった。
 めんどくさいって言ってるじゃん、今までだって誰にもバレてないから問題ない。
 そう言って全部置いて出てきたかった。
 
「……はーい」
 
 でも、私はせっちゃんを困らせたいだけであって、嫌われたいわけじゃない。
 
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