上 下
8 / 47
1 秘密と嘘の違い

・・

しおりを挟む
「許可証もらえば『バイトだから』っつって断れんだぞ?めんどくせー言い訳考えずに済むじゃん」
 
 隣からは今のユキがこそこそと耳打ちをしてくる。
 
「そんなことわかってるよ」
 
 わかってるけど、そしたら次は「なんでバイト禁止のウチの高校で許可がおりたの」って話になるかもしれない。
 そしたら―――
 
「別に珍しくもねぇだろ、親が」
「ユキ」
「………悪い」
 
 ユキの言葉を強めに遮ると言い過ぎたと思ったのか素直に謝った。
 別に隠したいわけじゃない。
 うちのお母さんは身体が弱い。詳しいことは知らない。でもちっちゃい頃から家で一緒にいるよりも、お姉ちゃんと一緒に病院にお見舞いに行って会う方が多かった。
 そんなこと、別に隠したいわけじゃない。
 大変だねとか言われるのが嫌なだけで。

「……おばさん、今は?」
「先週ウチに返ってきたけど、今週末には戻るって」
「そっか。またメシ持ってくからよ」
「いいよ別に」
「悠のためだけじゃねーよ。汐里姉だって仕事に家事に大変だろ」
「……それは、うん」
「素直に貰っとけ。ウチの母さんもおまえんちの世話してぇだけだから気にすんな」
 
 汐里しおりお姉ちゃん。
 9歳年上の、私のお姉ちゃん。
 仕事で忙しいお父さんと入退院を繰り返すお母さんの代わりにずっとずっと私の面倒を見てくれた、お姉ちゃんだけどお母さんみたいな人だ。
 
「ねえユキちゃん」
「ユキちゃんってのやめたら話聞くわ」
「まだ秘密にしといて」
「何をだよ」
「バイトのこととか、……いろいろ」
 
 ユキに酷いこと言ってるのもわかってる。
 でもユキにしか言えない。
 しばらく黙っていたユキは、バス停を2つ過ぎた時に小さく「仕方ねぇな」と呟いた。
 

しおりを挟む

処理中です...