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4 知ってたよ

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「ありがとうございましたぁー、またお越しくださいませぇ」
 
 土曜朝8時。
 ひと通りラッシュを終えて最後のお客を見送った私は、ひと息ついた。
 レジが混んできた時、裏にジュース補充に行かせた奴が戻ってこない事にイライラしながら、それでも笑顔でさばき切った自分がすばらしく偉いと思う。
 
「あれーえ、もうレジ大丈夫ッスか」
 
 万札をまとめるためにレジ休止の札を立てて数えていると、ぬけぬけとそんなこと言いながら、今まさにムカついていた相手が現れた。
 金に近い茶色の髪は抜いているらしく毛先が痛んでいて、さらにパーマをかけている。左耳にみっつ、唇の右下にはひとつピアスを開けている見るからに田舎のヤンキー。地元の工業高校1年。先月バイトに入ったばっかりの新人、佐々木。
 機械いじりが趣味だとかで面接には制服じゃなくて授業で使うらしいツナギで来たっていう、やる気があるんだかないんだかサッパリだ。
 でも朝のシフトがかぶる時、ラッシュでこいつがレジにいたことがないから多分やる気はない。
 
「見ればわかるでしょ。つか呼んだら早く来てよ今日1人いないんだから」
「だーってコーヒーの消費パねぇっすもん。補充も大変?みたいな」
「早く来ないかな山崎さん」
 
 むくれたように言う佐々木を無視して、心の叫びが声になる。
 本来この時間にはもうひとりシフトに入っていた。朝は忙しいからだ。
 でもその人が突然熱出したとかっていう電話が朝に来た。代わりを見つけてないって言うから急いで色んな人に電話をして、ようやくつかまったのが大学生の山崎さんだ。

「次オレ何したらいっすか?」
「品出し途中だったからやって。あとフェイスアップ」
「ふぇいす? なんすかそれ」
「……散々教えたでしょ。商品整理!」
「あーあれね。やってきまーす」
 
 またため息が出た。
 私は忙しい部活に入ったことがないから、先輩後輩関係に苦労したことがない。でもバイトではかなりある。しかもだいたい長く続かない。
 まだ高2なのに、1年のこういう奴を相手にするとうんざりして「最近の若いモンは」みたいないこと言いたくなる。
 
「先輩って大変なんだな……」
 
 紗柚がちょっと愚痴ってたことを思い出して、胸が痛くなった。
 結局まだ紗柚と仲直りをしていない。
 昨日は緊張しておなかが痛くなったレベルだったけど、紗柚はまわりにわかるような避け方はしてこなかった。
 でもわかる人にはわかったみたいだ。授業中に紗柚から話しかけてくることがなかったし、お昼も若菜たちと一緒したし。お昼はまぁ、若菜たちと食べる日だったんだけど。
 若菜が特に怪しんでた感じがした。
 緊張した金曜が終われば、土日になる。
 早いうちに話さないと、どんどん気まずくなるよって、若菜に遠回しに言われた。
 
「わかってるけど」
 
 言いながらパシンと万札を指先を弾いて、事務所に持っていく分を専用の袋に入れて裏へと向かう。
 途中佐々木に裏へ行くことを言って任せて、ドアをあけた。
 ……わかってるけど、どうしたらいいかわかんない。
 私が悪かったのはわかるけど、誰かとケンカなんてもうずっとしたことなかったから、どうしたらいいかわからない。
 謝るどころか、話しかけるのも怖いのに。
 ハッキリ「嫌い」って言われた子に話しかけるとか、それ何の罰ゲームなの。
 それに、ユキが言ってたけど、本当の意味で紗柚が怒ってたことについてわかってないと、ますます怒らせるだけになっちゃう気がする。

 なんだろうな。
 友達と揉めるのなんて、めんどくさいだろうから適当にやってきたのに、面と向かって言われたところでショックなだけでめんどくさいとは思わない。
 こんなこと言ったら紗柚はもっと怒るかもしれないけど、自分が思ってたよりマトモなのかもって思えたっていうか。
 
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