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6 本当は、ずっと前から

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 ぷしゅうと発車の音を立てて走り去っていくバスを、並んで見送った。
 ユキが先に歩き出して、私はその後ろをついていく。
 
「……あの、ユキ」
 
 返事のない背中に話しかける。
 あの時も今日もきっかけをくれたのはユキだから、今度は私が。
 
「えーと……ごめん」
 
 意識しちゃってシカトしてたなんて言えるはずもないから、態度だけを謝る。
 すると、ユキが急に止まった。
 あまりにも急だったから止まれなくて、私はユキの肩にぶつかる。鼻を思いっきりぶつけてしまい、恨みがましく言った。
 
「イッタ……いきなり止まんないで」
「ごめんってのは、シカトしたこと?」
「……え」
 
 後ずさろうとしたけど、鞄をユキに掴まれて動けない。
 ユキとは身長があんまり変わらないから、すぐそばにユキの顔がある。私を見ないで少し俯いているけど、こんなに近いから表情がわかる。
 
「シカトしたのはなんでって聞いたら、お前はまたシカトする?」
「そ、れは」
「あのさー悠」
 
 こんなに近いから、ユキがあの目をしていることくらいすぐわかる。
 
「お前がせっちゃん忘れられないのずっと知ってんだよ俺。ガキなりに真剣だったことも、今だって辛い想いしてることも」
「………」
「だからいきなり俺とどうこうなってとか言わねぇし」
「………」
 
 耳を塞ぎたい。
 この場から逃げ出したい。
 でもダメなんだ。
 あの日の償いをするなら、ユキをこれ以上傷つけたくないのなら、逃げちゃいけない。
 ちゃんと最後まで聞かないとダメなんだ。

 もう逃げないとわかったのか、ユキはゆっくりと鞄から手を離す。
 そして私を見た。
 真正面からじゃなくて、隣にいる私に振り向くような感じで。
 
「……どうこうなってとは言わねぇけどさ」
「………」
「俺も男だってのは、わかれ」
「………」
「いつまでも幼なじみのユキちゃんで居るのは……無理だから」
 
 知らない男の子の顔をしたユキはそう言うと、少し寂しそうに笑った。
 

 
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