呪われた聖女の生存戦略

okayumama

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第1章

第4話

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ジェロから教えてもらった通りに、クリミネにいるという魔女を倒すと決めたものの、大きな問題がある。

それは私の聖力はまだ黒魔術に対抗出来る強さではないということ……。

聖力は日頃の信仰や善き行いで増していくものである。産まれた時から聖女候補として、カリタ教の信仰や公務を続けてきたが、今の聖力はせいぜい教会の「司祭」レベル。簡単な呪詛は解ける。人体治癒で言うと、捻挫や肩こりなどを治せる程度のものだ。
「大司教」クラスの聖職者になると、悪魔と対抗出来る強さになる。魔女は本来悪魔と契約して魔力を手に入れるから、悪魔を祓えることは魔女を殺せることと同義だ。
ただ、フォリアとの戦いの時は違った。彼の黒魔術の強さは並大抵のものではない。きっと悪魔の中でも上級悪魔と契約したのだと思う。

今回の魔女はどれくらいの強さの魔女なのだろうか……。ジェロに簡単に教えてもらっただけで、その彼女の情報は何も分からない。まずは敵を知ることが必要だ。

「お嬢様、今日は聖女様との面会のご予定があります」

アンセラが朝の支度をしながら話しかけた。

お祖母様は公務に熱心な人物で、常に世界各地を訪ね回っている。今日のように宮殿にいることはとても珍しいことだった。

たしか「前回」のリリーの人生の時も、13歳の誕生日後にお祖母様とふたりっきりでお話したっけ……。その時は久しぶりの人との接触とお祖母様の迫力で緊張してしまい、頭が真っ白になった記憶がある。当時の会話も思い出せない。

今度こそはまともにやらないと。
私は気を引き締めて祭服に腕を通した。





「ご機嫌よう、お祖母様」
「リリー。お久しぶり」

聖女の宮の庭園で、お祖母様は紅茶を煎れながら待っていた。久しぶりに見たお祖母様は、忙しいにも関わらず疲れた表情も見せず、にこやかな笑顔を見せていた。

「13歳になったそうね。少し見ないうちにこんなに大きくなって。最近の調子はどう?」
「はい、お祖母様。最近は宮殿の外に出たりして過ごしています。昨日はクリミネの孤児院を訪問していました」
「まあ、クリミネへ?」

お祖母様は少し驚いた顔をした。

「あそこはとても治安が悪いと聞いていたけれど、大丈夫だったかしら?私は中々行く機会がなくて、一度も訪ねたことがないのよ」
「そうだったのですね。護衛もいるので私は大丈夫ですよ。オルファーノ院長ともご挨拶しました」
「そういえば、あそこはオルファーノの担当地区だったわね。モーリも生前はよくあそこに行っていたわ」
「お母様が?」
「ええ、そうよ。その孤児院だってモーリとオルファーノが設立したのだから」

初耳だ。お母様があの孤児院の設立に携わっていたなんて。

「モーリはあの町を変えようとしていたみたい。孤児院を建てて、子どもたちを保護しながらカリタ教の教えを説いていたわ。町の治安改善のために自警団を組ませたり、領主に直談判したりして少しは良くなったと聞いたけど……まだ危険な町であることは変わらないわ」
「お母様が……」

お母様が生前そんなことをしていたのに驚いた。今の私と同じく、クリミネの町を救おうとしていたのだ。
お母様の力でも解決できなかったのは、ジェロの言う魔女のせいだろう。やっぱり、根本的な原因を潰さなきゃ町は救われない……。

「私もモーリの遺志を継いで、クリミネ地域には多めに財団の資金を渡しているけれど…何の役にもたってないわね」
「そんなことはないです、お祖母様。財団のお陰で、孤児院の子たちはとても元気に暮らしていました。教会が救いの手であることは間違いありません」
「リリー……」

お祖母様はハッとした顔で私を見つめた。

「凄く成長したのね。前は人に意見を言うのも躊躇う子だったのに」

優しい声でそう呟くと、お祖母様は穏やかに笑っていた。

「この先で何か困ったことがあったら、神を讃える声を探しなさい」
「神を讃える声……?」
「きっと貴女の役に立つでしょう」

お祖母様はそう言うと、静かにその場を立ち去った。お祖母様のいなくなったテーブルで、私はお祖母様の言葉を噛み砕く。





お祖母様の言葉が気になった私は、その足で宮殿の図書館を訪れた。
カリタ教の神話や歴史書が置かれている棚に向かい、片っ端から本を捲っていく。

お祖母様の言った「神を讃える声」が何なのか……。この先、クリミネの魔女やフォリアと戦う時に力となるもののような気がする。
きっと、今の私に必要なものをお祖母様が教えてくれたんだ。

「…………どこにあるのよ!」

分厚い本の中から、目を皿のようにして「神を讃える声」のキーワードを探すが、早々簡単に見つかるものではなかった。取り掛かってから約2時間、何のとっかかりもない。

いっその事、ジェロに聞いてみる手もあるが……昨日ヒントを貰ったばっかりだ。何でもかんでも天使の力を宛にできない。

読んでいた本を、バタン!と勢いよく閉じると、後ろから人が近づく気配がした。

「リジェンテ!」
「リリー、何してるの?」

振り返ると従兄弟のリジェンテが立っていた。

「ええと、調べ物をしていて…リジェンテは?」
「俺はよくここに来るから」
「そうなの?図書館に?」

リジェンテはコクンと頷いた。
あの高飛車なロジーアの兄であるにも関わらず、リジェンテは自己主張をしない思慮深い人間だ。ロジーアが敵対視している私にも関係なく接してくれる。

「さっきお祖母様に会ってきたの」
「そうなんだ。聖女様は元気?」
「うん、いつも通り明るかった」

相槌を打ちながらリジェンテは私の向かい側に座った。私が運んできた本の背表紙を一瞥する。

「歴史のことならこの本じゃなくてもっと分かりやすいのがあるよ」
「そうなの?うーん、でも歴史系の本なのかは分からないんだよね……」
「何を調べたいの?」
「お祖母様に言われたことなんだけど​───」

私はリジェンテにさっきのお祖母様との会話を説明した。一通り私が話終わると、黙って聞いていたリジェンテは口を開いた。

「それって聖歌のことじゃない?」
「聖歌?」

即答するリジェンテに私は思わず聞き返した。確かに、聖歌は神を讃える内容が含まれている。しかもそれを口にするわけだから、「声」となる。

「……確かに。リジェンテの言う通りだわ!きっと聖歌のことね。
リジェンテ、聖歌の本ってある?」

私が尋ねるとリジェンテは黙って立ち上がり、そのままスタスタとどこかへ去った。数十秒後、1冊の本を持って戻ってきた。

「この本だと、全ての聖歌が記載されている」
「ありがとう、リジェンテ」

私はリジェンテから聖歌についての本を受け取った。一先ずはこの本を調べなきゃいけないけど、長居もしてしまったので自室で読むことにする。私はそのまま机の上を片付けた。

「リリー、帰るの?」
「うん、本は後で読む。夕食の前に、本殿で祈祷をしていくわ」
「……俺も一緒にいい?」
「リジェンテも?」

リジェンテは私を見つめながら黙って頷いた。いつもひとりで行動しているリジェンテが、私と一緒にいたがるのは珍しいことだったので少しびっくりした。

「いいよ、一緒に行こう」

私はリジェンテと一緒に図書館を出た。

「リリー、変わったね」
「そ、そう?」
「うん、前より付き合いよくなった」

リジェンテの率直な指摘がグサリと体に突き刺す。確かに前世も含めて、今までの人生は身内ですら人付き合いが全く出来ていなかったのでぐうの音も出ない。

「うーん、なんと言うか自分が変わらなきゃって危機感が出てきて……このままだとダメだと思ったんだよね」
「突然?」
「まあ、そうだね。ロジーアも公務頑張ってるのに、私ひとりだけ何もやらずに過ごすのは嫌だから」
「リリーも聖女になりたくなったの?」

リジェンテは無表情のまま、私の顔を覗き込んだ。

聖女になりたいかと言われれば、なりたくないのは変わっていない。権力者になる度量は持ち合わせていないし、人から注目されずにのどかなスローライフを過ごしたい。

ただ、私があと4年後に聖女になる未来は確定されている。未来が変わらない以上、逃げても隠れても意味が無い。
聖女として生き延びなければ、私はまた18歳で終わる人生を繰り返す。もう何かから逃げて現実から目を背けるのは嫌だ。

「……私の意思は関係ないよ、聖女を選ぶのは神だから。でも、もし実際に聖女に選ばれたら後悔しないようにしたい」

リジェンテは黙って私の言葉を聞いた後、いきなり立ち止まって私の頭をわしゃわしゃと撫でた。突然の行動に私の口から間抜けな声が出る。

「リリーはいい子だね」

リジェンテは小さく微笑んだ後、何事も無かったように先に進んだ。
私は一連の行動に呆気に取られながらも、彼の後を追いかけた。





夕食を取り終わった後、私はベットでリジェンテが選んでくれた本を開いた。
そこにはカリタ教の聖歌の概要が全曲載っている。

『神を讃える声を探しなさい』……お祖母様は何を伝えたかったんだろう。本を捲りながら、深くため息をついた。

聖歌と言ってもたくさん種類がある。曲自体は300種類以上あるが、それぞれ式典用や劇場歌など、歌われる目的によって曲が作られているものもある。

その中でも、カリタ神を深く敬い感謝を忘れるなと歌っているのが、128番「われらのみこと」という歌だ。一般知名度は低いものの、私を含め聖職者の関係者は必ずこの歌を歌ったことがある。教会の合唱団でもよく歌われているのを耳にしたことがある。

私は小さな声で歌を口ずさんだ。リジェンテに言われた時はこれが答えだと思ったけれど、本当に聖歌が鍵になっているのだろうか。
前回のリリーの人生では、お祖母様からこんな助言を貰ったことはなかった。私が一方的に人を避けて偉大なお祖母様の前ではナーバスになってしまっていたから、まともな会話をした記憶もほとんどない。私の態度が変わったからお祖母様が教えてくれたかと思う。

グルグルと頭を動かしていると、頭がパンクしてきた。今日悩んでも答えは出てこない気がする。

私は手元のロウソクの光を落として、目を閉じた。
その日はジェロが夢に出てこなかったため、ぐっすりと眠ることができた。

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