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第2章
第12話
しおりを挟むお祖母様と共に、西の公国オベストを訪れた私は、領主である公爵の計らいでお祖母様たちとの
会談に同席することを許された。
カリタ教を国教とするオベストはここ10数年で文明や技術が発展し、人口も増え続けている。国土面積に対しての人口密度は、この世界の中でも高い方だ。
カリタ教の教会は各都市ごとに存在しているが、人口比に合わないため、礼拝などで訪れる人達がこの教会に入り切らないという事態が発生していた。公爵はこの問題に対して、お祖母様の意見を伺おうと招いたのだった。
「教会を増設するとなると各都市に人口に見合う分だけ必要ですが、我が国の人口はどんどん増加しています。増設分の建築費や土地が足りなくなってしまいます」
「ふむ……中々困りものですね」
お祖母様と公爵は長テーブルを挟んで談話していた。話は平行線で、中々終着に行き着かなかった。
「リリー、貴女は何かアイデアはありますか?」
お祖母様が突然、隣にいる私に話を振ってきた。
私は「そうですね」と、言葉を続ける。
「広場にシンボルとなる大きな神像を建てるのはいかがですか?」
「神像を?」
「礼拝は必ずしも教会でやらなければいけないことはないと思うのです。神像が見えれば、自分の家からでもカリタ神に礼拝を行うことが出来ます」
「なるほど…教会を増やすのではなく、大きな神像を1つ建てればいいということですね」
「はい。広場に設置すれば神官や信者達の集会場としても機能します。それに、神像がこの国のシンボルとなれば、観光資源としても役立つでしょう」
公爵とお祖母様は関心したように頷いていた。私のアイデアを気に入ってくれた様だった。公爵はすぐに側近へ神像のデザイナーと建築家を探すように手配していた。
「リリー嬢の素晴らしいご意見を取り入れさせてもらいます。まだお若いのにとても聡明な方だ」
「いえ、とんでもない…恐縮です」
「謙遜なさらずに。神像が無事建てられた際には、ぜひ発起人としてお越しいただきたいものです」
公爵の褒め言葉に戸惑いつつも、自分が役に立てられたことにほっとする。
前世分の知識や記憶もあるので、今の私はただの13歳の少女ではないが。
オベストでの公務は終了し、帰国の日まで首都を観光したりして暫しの間、羽を伸ばしていた。
そういえば、フォリアにお土産を渡す話をしていたんだった。買う時間は充分あるし、何か見ていこうかな。
私は部屋にいたメイドに尋ねた。
「あの、オベストの特産品って何があるの?」
「そうですね…食べ物ですとハーブやスパイスが有名です。後は、砂漠で取れる『星の砂』でしょうか」
「星の砂?」
「ええ。星のように不思議な光を放つ砂利が、オベストの最南にある砂漠帯で稀に発見されるんです。言い伝えでは、砂漠に住む神獣が通った形跡とも言われています」
「…その星の砂を買うためにはどうしたらいいの?」
「商人に連絡し、直ちに城に用意させるようにお伝えいたします」
「ありがとう」
メイドは一礼をすると、そのまま部屋を後にした。
午後になると、早速その商人が私に会いに来て、私はその場で星の砂を購入した。高さ10センチほどの小瓶に入れられたそれは、中から不思議な色を発光した砂が詰められていた。
キレイ……。まるで全部の絵の具をぶちまけたみたいに、それぞれ違った色が犇めきあっている。
…フォリアは喜んでくれるかな。遠い地にいる彼の顔を思い浮かべながら、砂の小瓶を眺めていた。
▽
エノルメに帰国した私は、留守中に着ていた手紙をアンセラから受け取って確認していた。
社交シーズンが始まってから、帝国の大貴族からは変わらず、胡散臭い投資の誘いや、領地のカリタ教信者を支配するために力を貸してほしいといった内容の手紙が何通も来ていた。一度会ってしまうと面倒な事になるので、ここはきっぱりとスルーする。
「これは、ソシア皇子殿下…」
皇族独自の封蝋がされた手紙の封を切ると、ソシア皇子殿下の妹である双子の皇女殿下の5歳の誕生日パーティへの招待状が入っていた。
そういえば、前回のフォリアとのお茶会の時に私と親睦を深めたいみたいなことを言ってたな…。皇女の誕生日パーティなら、厄介な政治や投資の話に巻き込まれなさそうだし、フォリアやソシアとの親睦も深めることが出来そう。親フォリア派のソシアと仲良く出来れば、私にとっても有利になる。
私は参加する旨の返信を書いて、アンセラに渡した。
「これを皇宮に届けてくれる?それから、パーティ用のドレスを用意したいの」
「かしこまりました。…本日は収穫祭の日なので街が混雑しているかと思います。ドレスを買いに行かれるのは別の日にいたしますか?」
「あ、そういえば収穫祭か…」
帝都では半年に1度、日頃取れる特産物の豊作を願って街中をあげて盛大に祝うお祭りが開かれる。祭日中は街中にオーナメントが飾られ、出店の屋台も出される。多くの住民たちがこの祭りを楽しんでいた。
収穫祭かあ…。去年のも参加していないし、久しぶりに街の様子も見てみたいかも。
そうだ!フェデーレを誘って宮殿の外に出てみようかな。
「そうね、買い物はまた別の日に行く」
「かしこまりました。それと、先程クストーデ卿からご伝言がありました」
「クストーデ卿から?」
「はい。…お嬢様の聖女教育の担当をクストーデ卿が勤められるそうです」
「!」
私の聖女教育の担当がクストーデ卿に……。遂に、お祖母様の容態も芳しくなくなってるんだろう。正式に次期聖女を準備する必要が出てきたということだ。
だけど、前回のリリーの人生では私の教育担当は帝国の司教で、クストーデ卿はロジーアの担当だった。……運命が変わった?
評議会にも属して聖女の側近として代々使えているクストーデ卿が担当として着くということは、有力視されているということになる。…つまり、クストーデ卿はロジーアより私が聖女に相応しいと考えているのだ。
「…クストーデ卿かあ。頑張らなくちゃ」
「ふふ、いつものお嬢様でしたら平気ですよ」
アンセラはにこやかな笑顔で励ましてくれた。
私は私でやるべきことをやらなくちゃ。
▽
日が沈みかけた頃、聖騎士団の訓練場へ足を運ぶと、ひとり剣の素振りをしているフェデーレを見つけた。
「フェデーレ!」
「…何だ、お前か」
「今、稽古中?」
「そ、自主練」
フェデーレの元に駆け寄ると、彼は剣を下ろし私の方に向き合った。
「今日、収穫祭の日なんだ。一緒に見に行かない?」
「収穫祭?」
「うん、街の方でお祭りがあるの。行かない?」
「………片付けるから、待ってろ」
私がにこりと笑いかけると、フェデーレは訓練道具を片付け始めた。やった、一緒に行ってくれるみたい。
私とフェデーレは訓練場を出て、宮殿の門を通り過ぎた。公道を通り抜け、街の広場へと下る。
路上演奏の音に乗せて、人々の話し声が聞こえてきた。夕刻すぎだというのに、街はとても賑やかで活気に溢れていた。
「わあ!人がいっぱいだよ。ねえ、フェデーレ、何か食べ物買おうよ」
「おい、あまりウロチョロするなよ!ハグれるぞ」
キョロキョロと辺りを見渡す私をフェデーレが咄嗟に引き止めた。ガシリと力強く手を握られる。
「……お前、迷子になりそうだから、手繋いどく」
フェデーレは顔を赤くしてそのまま私の手を握り直した。フェデーレの暖かい体温と、剣の稽古で出来ただろう掌の血豆や硬い皮膚の感触が、はっきりと伝わる。
「…ありがとう」
スタスタと歩き始めるフェデーレの背中に、私はポツリと言葉を漏らした。体は小さくても、フェデーレは私を守ってくれる騎士だ。
ふたりで出店で串焼きや揚げ物を買いながら、広場を回った。街に点る街灯の光と、香ばしい屋台の食べ物の匂い。街中の人の笑い声や話し声…すべてが一体となっていた。まるで、絵の中に自分が入り込んだような感覚を覚える。
「あれ…」
フェデーレがふと視線を止めた先には、エノルメの民謡に合わせて踊り合う住人たちの姿があった。老若男女関係なく集まり、流れる音楽に合わせて楽しそうに踊っていた。
「ねえねえ、フェデーレも踊れる?」
「はあ…踊りなんてやったことねーよ」
「じゃあ、教えてあげる。行こ!」
「お、おい!」
私はフェデーレの手を引っ張り、グイグイと先に進んだ。
「ほら、踊ろう?」
「……ったく」
強引に輪の中に連れ込んだ私に、フェデーレは呆れたようにため息をついた。
陽気な民謡の曲に合わせて、ステップを踏み、隣の人と向き合ってクルクルと回る。フェデーレは私に促されるまま渋々輪に加わっていたが、どこか満更でもなさそうな顔をしていた。
フェデーレが楽しそうにしてくれて嬉しい。私からフェデーレに与えられる物は限られているけど、大切でかけがえの無い思い出を一緒に作ってあげたい。
▽
日が完全に沈み、夜の帳が下りた頃、リリーは「そろそろ帰ろうか」と俺の手を引いた。
「一緒にお祭りに来てくれてありがとう。フェデーレがいてくれて良かった」
とても幸せそうに笑うリリーの顔を見て、何故か泣きたくなった。そのセリフは、俺のものだ。救われたのは、一緒にいれて良かったと思うのは、俺の方だ。
中心街から離れ、静かな宮殿の道を歩く。リリーの小さくて柔らかい手を絶対に離さないように、強く握りしめた。
「……俺も楽しかった。ありがとう」
ボソリと小さな声で吐き捨てると、リリーはふふふと笑った。
リリーからたまに年上のような雰囲気を感じることがある。まるで、小さな子どもの世話を見るように俺に接しているような。
かと思えば、年相応の少女のように無邪気に笑ったり、怒ったり、俺の周りを騒がしくする。
掴みどころのないリリーの幻影に惑わされているようだ。クリミネの魔女から俺を救ってくれたあの日から、俺の胸の中にはいつもリリーがいた。今まで感じたことの無い感情が、俺を支配していた。
「まるで魔女みたいだな…」
「え?何?」
「何でもない」
思わず自分から吐き出された言葉に自嘲気味な笑みが零れた。
例え、彼女が魔女だとしても、悪に染まっていても、自分は彼女の元を離れないだろう。彼女が自分を救ってくれたように、自分も彼女を救いたい。──早く、早く強くなって、彼女を守る力を得たい。
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