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モデルになってほしい…親の借金を抱える私に初老の伯爵がモデルになってほしいと誘う…でも、その正体は…

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私はとにかくお金が必要だった。
親が事業に失敗し、行方をくらましたため、残された借金が全て娘である私の元へときてしまった。
そんな多額の借金を背負う私とは結婚させられないと、婚約者の親が「この婚約は破談にします」と伝えてきた。
家来たちも「お金のない伯爵の娘に使われるなんてもっぱらご免だ」と、私の元を去ってしまった。
1人屋敷に残された私は、これからどう借金を返していこうか悩んだ。

そんなとき、伯爵が現れた。
見た目は60歳前後だろうか。
白髪と白髭が印象的な初老の男性だった。
「私があなたの借金を立て替えてあげよう。ただ、条件がある」
「どのような条件でしょうか?」
「私の人形になってほしい」
「人形に?」
「人形といっても、ただ立っているだけでいい」
「立っているだけ?それだけで何千万もの借金を立て替えてくれるのですか?」
「そうだ」
私はなんていい条件なんだろうと驚いた。
そんな簡単なことで、多額の借金がなくなるのならいい。
「わかりました。人形になります」
そう応えると、初老の男性は近寄ってきて「では、さっそく屋敷に来なさい」と私を屋敷まで連れて行く。

屋敷に到着すると、与えられたドレスを着させられる。
「そこに立ちなさい」と言われたので、一段高くなった台の上に乗った。
「私が指示をするから、そのようにポーズをしてほしい」と言われたので「はい」と返事をする。
パラソルを広げて持ち、窓の外を見て、ずっと立つように指示をされた。

次の日も、次の日も。

1ヶ月、2ヶ月と時は過ぎた。
伯爵のモデルとして雇われてからずいぶんと時は経ったが、指示をされるポーズは変わらない。
私はしびれを切らして伯爵様に聞いた。
「伯爵様、どうしてずっとこのようなポーズばかりをさせるのですか?」
「…それはね、娘がよくしていた姿なのだ。婚約し、結婚するばかりだったイオリーナが。そうやっていつでも婚約者が迎えに来たときに出かけられるようそのドレスを着てパラソルを持ち、出かけて行った…しかし」
「お嬢様はどうなさったのですか?」そう聞くと伯爵様は涙を流した。
「そのイオリーナは…私になった」
「!」
伯爵様はそう言うと、服のボタンをゆっくりと外していく。
そして、シャツをパッと脱ぐと、ふくよかな胸をさらけ出す。
「あなたは女性だったのですか?!」
「そうだ。私の40年前は女性であった。だが、婚約者に振られてから、私は男として生きることを決意したのだ」
ゆっくりと私に近づきながら「お前は私の40年前の時に似ている。私は自分の面影を見ているようで、この3ヶ月はとても幸せだった。ありがとう」
「…はい」
「では、契約は終わりにしよう」
「…はい」

屋敷を後にした私は「お金は貰えなかった」とひどく落ち込んだ。
自分の屋敷に戻った私に、残っていた家来が歩み寄り「お嬢様、借金は全て返済されております。もう自由になれたのですよ」と伝えてきた。

目の前がパッと明るくなった私は「ああ、伯爵様!ありがとう」と天を仰いだ。
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