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1.少年時代
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冬になると、村を戦士団の十人隊が訪れる。近隣の村の青年たちを鍛え、武器の稽古をするためだった。村はずれの砦に集まって丸二日籠もり、訓練を繰り返すのだ。
少年時代のタカネは、村を訪れる戦士たちに憧れていた。背が高く、逞しく、日差しを受けて輝く鎧は、見るからに美しかった。そして戦士たちの指導を受けられる若者を、心底羨んだ。
タカネはちゃんばらをして遊んだり、少年たちと一緒に古老から武芸の基本を教わるくらいのもので、戦士の指導は受けられなかった。
砦へと向かう若者たちを見送った後、集まっていた少年らは、砦のはずれにある林に向かった。枝を拾って、剣闘の真似事をするのだ。みな鎧を着た戦士たちを見て、興奮しきっていた。
ただタカネは、砦の堀のそばで突っ立ったまま、夢見るような心地で砦の主塔を見上げていた。
そんなタカネを、一緒に残っていた同村のイワオはからかった。
「なんだって、砦をずっと見上げてるのさ。タァ、戦士になりたいのかよ。無理だよ、タァには。ちっさいんだから、剣だって持てないぜ。」
二人とも、十の少年だった。だが歳は同じでも、体の大きさには隔たりがあった。タカネは小さく、痩せっぽちな少年だった。それに対して、イワオは、どう見ても十の少年には見えず、三つか四つは上に見えた。背は高く、筋肉がついて、体には厚みもあった。
小さなタカネはイワオを先輩のように慕っていて、イワオはタカネをからかったり、可愛がったりした。二人はよく遊び半分に喧嘩をし、掴み合い、転げ回ったりもした。
ふざけすぎてタカネが泣くこともあったが、日の終わりには、二人はいつも一緒に毛布に包まって眠った。それまでのところ、二人は本当に喧嘩をすることはなかった。
だがその日、タカネは初めて真剣におこった。
最初は、言葉で応じた。一体どうやって反論したかは、タカネは覚えていない。だがイワオはそれを真剣には取り合わず、タカネをからかい続けた。
そして気づいた時には、いかりが弾けていた。
タカネは思い切りイワオの顔を殴りつけた。イワオは呻き、よろめいた。鼻を押さえた手には、血がついていた。だが血を見ても、タカネのいかりは治まらなかった。いかりのままに両腕を振るい、イワオを何度も殴った。
しかし最初の驚きが去ってしまうと、大柄なイワオに、タカネは敵わなかった。頭を殴りつけられると、タカネは地面に倒れた。そして起き上がる前に、イワオにのしかかられた。
タカネは必死に抗った。拳を振るい、爪を立て、引っ掻いた。相手の腕や顔からは血が出ていた。だがイワオは唸りながらタカネの手を捕まえると、頭上で押さえつけた。イワオの指が手首に食い込み、締め上げられて、ひどく痛かった。
イワオは鼻から血を流し、息を荒げながら、タカネに勝ち誇ったように言った。
「タァ、お前には戦士にはなれないぜ。おれも倒せないんなら、なれるわけがない。」
しかしタカネは、猛々しいいかりに突き動かされていた。激しい感情が、四肢に力を吹き込んでいた。タカネはイワオの手から腕を引き剥がすと、顔を殴った。狙ったわけではなかったが、拳は目の上を打った。
イワオは呻いて、目を押さえ、タカネの上から転がり落ちた。タカネはイワオの上に乗って、さらに殴りかかった。
だが、それからが大変だった。イワオも本気でおこったのだった。
それからのことを、タカネはあまり覚えていない。イワオがタカネを跳ね飛ばし、押さえつけると、顔や腹を殴った。タカネはなお暴れたが、イワオがいかりに任せて殴ったので、すぐに気力を失った。
やがて、イワオは殴るのを止めた。イワオは鼻血を出し、ひっかき傷がいくつもあった。だがタカネはもっとひどい有様で、顔も体も痛み、頭がくらくらしていた。
「お前は戦士になれないからな。なれないんだ。分かったな。」
涙を含んだ声で、イワオは言った。タカネも、歯を食いしばり、声を上げずに泣き出していた。
それからタカネが泣き止むと、イワオは友人を起こし、抱き上げて村に向かった。二人を見ると、村の大人はすぐに駆けつけ、傷の手当をしてくれた。
水を含めた布で顔を拭ってもらいながら、タカネは心に強く誓った。いずれ必ず戦士になる、と。そうして、イワオを見返してやるのだ。
少年時代のタカネは、村を訪れる戦士たちに憧れていた。背が高く、逞しく、日差しを受けて輝く鎧は、見るからに美しかった。そして戦士たちの指導を受けられる若者を、心底羨んだ。
タカネはちゃんばらをして遊んだり、少年たちと一緒に古老から武芸の基本を教わるくらいのもので、戦士の指導は受けられなかった。
砦へと向かう若者たちを見送った後、集まっていた少年らは、砦のはずれにある林に向かった。枝を拾って、剣闘の真似事をするのだ。みな鎧を着た戦士たちを見て、興奮しきっていた。
ただタカネは、砦の堀のそばで突っ立ったまま、夢見るような心地で砦の主塔を見上げていた。
そんなタカネを、一緒に残っていた同村のイワオはからかった。
「なんだって、砦をずっと見上げてるのさ。タァ、戦士になりたいのかよ。無理だよ、タァには。ちっさいんだから、剣だって持てないぜ。」
二人とも、十の少年だった。だが歳は同じでも、体の大きさには隔たりがあった。タカネは小さく、痩せっぽちな少年だった。それに対して、イワオは、どう見ても十の少年には見えず、三つか四つは上に見えた。背は高く、筋肉がついて、体には厚みもあった。
小さなタカネはイワオを先輩のように慕っていて、イワオはタカネをからかったり、可愛がったりした。二人はよく遊び半分に喧嘩をし、掴み合い、転げ回ったりもした。
ふざけすぎてタカネが泣くこともあったが、日の終わりには、二人はいつも一緒に毛布に包まって眠った。それまでのところ、二人は本当に喧嘩をすることはなかった。
だがその日、タカネは初めて真剣におこった。
最初は、言葉で応じた。一体どうやって反論したかは、タカネは覚えていない。だがイワオはそれを真剣には取り合わず、タカネをからかい続けた。
そして気づいた時には、いかりが弾けていた。
タカネは思い切りイワオの顔を殴りつけた。イワオは呻き、よろめいた。鼻を押さえた手には、血がついていた。だが血を見ても、タカネのいかりは治まらなかった。いかりのままに両腕を振るい、イワオを何度も殴った。
しかし最初の驚きが去ってしまうと、大柄なイワオに、タカネは敵わなかった。頭を殴りつけられると、タカネは地面に倒れた。そして起き上がる前に、イワオにのしかかられた。
タカネは必死に抗った。拳を振るい、爪を立て、引っ掻いた。相手の腕や顔からは血が出ていた。だがイワオは唸りながらタカネの手を捕まえると、頭上で押さえつけた。イワオの指が手首に食い込み、締め上げられて、ひどく痛かった。
イワオは鼻から血を流し、息を荒げながら、タカネに勝ち誇ったように言った。
「タァ、お前には戦士にはなれないぜ。おれも倒せないんなら、なれるわけがない。」
しかしタカネは、猛々しいいかりに突き動かされていた。激しい感情が、四肢に力を吹き込んでいた。タカネはイワオの手から腕を引き剥がすと、顔を殴った。狙ったわけではなかったが、拳は目の上を打った。
イワオは呻いて、目を押さえ、タカネの上から転がり落ちた。タカネはイワオの上に乗って、さらに殴りかかった。
だが、それからが大変だった。イワオも本気でおこったのだった。
それからのことを、タカネはあまり覚えていない。イワオがタカネを跳ね飛ばし、押さえつけると、顔や腹を殴った。タカネはなお暴れたが、イワオがいかりに任せて殴ったので、すぐに気力を失った。
やがて、イワオは殴るのを止めた。イワオは鼻血を出し、ひっかき傷がいくつもあった。だがタカネはもっとひどい有様で、顔も体も痛み、頭がくらくらしていた。
「お前は戦士になれないからな。なれないんだ。分かったな。」
涙を含んだ声で、イワオは言った。タカネも、歯を食いしばり、声を上げずに泣き出していた。
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