見つけた、いこう

かないみのる

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「可那人君、今日一緒に遊ぼうよ」


「いいよ」



 嫌な記憶がまた甦ってきた。クラスの同級生、ゆいちゃんと公園で遊んだときのことだ。



「可那人君っていつも図書室で本を読んでるよね。大人だね」



 ブランコに座って、ゆいちゃんは俺に興味津々といった様子で質問してきた。

俺は草むらで何か面白いものでもないか探していた。



「外でみんなで遊ぶの苦手だからね」


「そうなんだ」


「あ、カナヘビ!見て見て!」


 俺が草むらにいたカナヘビを捕まえて見せると、ゆいちゃんは汚いものを見るような目でカナヘビと俺を見た。

爬虫類は嫌いなのかと思い、俺はカナヘビを離してゆいちゃんの隣のブランコに腰掛けた。



「じゃあブランコ、どっちが高くまで漕げるか競走しよう!」



 俺は勢いよくブランコを漕ぎ始めた。

しかしゆいちゃんはブランコに座ったまま俺に軽蔑の眼差しを向け、動こうともしなかった。



「のど渇いちゃった」



 ゆいちゃんは水道で、蛇口を上に向けて水を飲んだ。

飲み終わった後、悪戯っぽい笑みを浮かべて、「可那人君もおいでよー」と俺を呼んだ。


 俺はゆいちゃんの方へと駆け寄る。

ゆいちゃんは水道の栓を緩めて水の勢い強くした。

水は弧を描くようにして俺のところまで降り注いだ。

命の危機と同じレベルの危険を感じて俺は慌てて逃げた。



「ちょっ、やめてよ!」



 たかが水飛沫でそこまで逃げるか?と呆れるほどの俺の必死な逃げ方に、ゆいちゃんは心底がっかりしたような顔をした。

俺の情けない姿を見てついにゆいちゃんの堪忍袋の尾が切れたらしい。



「可那人くんって、思ってたより子供っぽいんだね」



ゆいちゃんは怒りを隠さず吐き捨てるように言って帰った。

俺は何か怒らせるような事をしたのかと自分の行動を振り返ったが、何がいけないのか分からず、悶々とした気持ちでゆいちゃんの後ろ姿を見ていた。



 この出来事が、俺の心に深い傷を作っている。

初めて女の子に振られた記憶だ。

別に好きだったわけじゃないけど、自分が拒絶されるのはやはり悲しい。



 身体が透明になる、この体質が学校生活において大層俺を悩ませた。



 俺の体質については、他の生徒はもちろん、先生達にさえ伝えていなかった。

伝えて近所中の噂になったら何が起こるか分からないし、どこかの実験施設にでも連れて行かれたら大変だから、家族内での秘密にしている。


 水泳の授業はもちろん、過度な運動をすると多量の汗をかき身体が透明になってしまうため、俺の両親は「体が弱く過度な運動は控えさせてくれ」と先生にお願いした。


 よって俺は体育の授業は器械体操以外見学だった。

もちろん俺は身体を動かすことが人並みには好きなので、自分一人が常に体育の授業を見学しなければいけないことにストレスを感じていた。


父はそんな俺を見かねて、夜に、好きに動いていいと、人気のない広場にを連れて行ってくれ、一緒にサッカーやキャッチボールをして遊んだ。

だから人並みの体力はある。病弱で線の細い可憐な少年というわけではないのだ。



 友人と遊ぶ時も、汗をかくほどのことはできないため、缶蹴りや鬼ごっこでは適度に手を抜き、「可那人は運動神経が悪い」と馬鹿にされることが多かった。

それが嫌で、教室や図書館で本を読むことにしていた。



 そんな行動を取っていたせいか、一部の女子は俺を知的で大人びた男の子と見ていたようだ。

しかしそれは仕方なくやっていた事で、中身は年相応の子どもだ。

面白い生き物は好きだし遊具でははしゃぐ。

勝手に作り上げた印象と違うからといってがっかりされても困ってしまう。



 しかし女の子は厳しかった。

想像で俺という人間を形作り、その創造品と違うからといって一方的に拒絶する。

なんとシビアなんだ。



 自分の身を守るため、俺は親の言いつけはきちんと守っていたが、どうしても我慢しきれずに禁忌を犯したこともあった。


 近所に住んでいる一つ年上の男の子が、友達と川に遊びに行くので一緒にどうかと誘ってもらった時のことだ。


 親がいない時に水辺に近づくことは禁止されていたが、親に内緒で行くというので、俺も好奇心に勝てず「気をつければ大丈夫」などと軽く考え、喜んでついていった。



 上級生たちは川辺でゲンゴロウや小魚を網ですくって遊んでいた。

俺は初めて間近で見る川に興奮していて、せせらぎの音や川の流れに気を取られ、水草の浮いた水面に踏み込み、川に落ちてしまった。

俺の持ち前の、神のイタズラの餌食になったような不運な一面が炸裂したのである。


 俺は慌てて川べりに上がったが、瞬く間に透明になってしまい、見られたら困ると茂みに隠れて体を乾かした。


上級生たちは「可那人がいない。川でおぼれたんだ!」とパニックに陥り、親と先生に助けを求めた。



 一時間ほど経って、体を十分に乾かした俺は、ようやくみんなの前に現れた、「転んで気を失っていた」と謝ったが、俺はもちろん、一緒にいた上級生も全員、親と先生にこっぴどく叱られた。


 家に帰り、体中にかゆみが走り、服を脱いだら蚊に十数か所刺されていた。

透明になっても蚊にはわかるらしい。



それ以来、俺は水辺には絶対に近づかないと心に決めたのだ。



そもそも透明な状態で外を出歩くのは危険なのだ。


 それを知ったのは中学生の時のある夜だ。



 夜に家を抜け出し、透明な状態で徘徊していた時のことだ。


 一糸纏わぬ姿で外を出歩くのはなんとも言えない開放感があり、興奮状態で道路に飛び出し、危うく車に弾かれそうになった。

運転手は、人がいるなんて思わないからブレーキなど一切踏まずの俺めがけて突き進んできた。

間一髪でのがれたが、その時の恐怖が体にしみこみ、姿が見えないからと言って悪い遊びはしていけないと心に刻んだ。

神様は悪いことをした際にバチを当てることだけはしっかりしているらしい。

俺はそうして、自分の特異な性質に悩まされながら今まで生きてきたのである。
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