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第2章 あなたは暗殺者⁉

わたしは誰⑧

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「そうなんですか⁉ それならすぐに、ゲートへ戻らなくては」
 領内に魔猪が侵入していると案じたナグワ隊長が、振り返ろうとするため、その動きを急いで制する。

「それはお勧めしませんわ。そもそも、魔猪は夜に動きませんから。今晩退治しても、明日の朝に退治しても被害はそれほど変わりません。それに……。結界が不安定なら、他にも魔物がいるはずです。普段大して害のない魔虫だって、夜になれば活動性が増して、指くらい平気で食いちぎりますからね。闇の中で動くのは、襲ってくれと言っているのも同じです」

 目視頼りの彼らには、闇の中で魔物を退治できるわけがない。
 彼らが再び結界付近に戻るのを引き止めるため、自分の頭にある知識をひけらかすように語る。

 すると、ナグワ隊長が初耳だと言いたげに固まり、呆然としている。

「ジュディさん。あなたは一体何者ですか?」
「ただの田舎娘ですよ。ちょっと事情があって家を飛び出したので、お金も、行く当てもないのをアンドレに拾ってもらったんです」

「田舎娘って……。ここも田舎だが、そんな知識を持った娘を見たことがない」

「わたしの周りはこれ位、知っていて当然だったわよ。ここが遅れているんじゃない?」

 首をこてんとかしげて、何を言っているんだかと不思議な顔を向けた。

 だって、わたしの中では常識だもの。

 誰が教えてくれたのか分からないけれど、魔物の話は子どもの頃から知っている気がする。

 まるで、寝る前に本を読んで聞かせてもらうような感覚で、自然と覚えたような記憶になっている。

 それは、カステン軍の彼らが疎いのか、わたしが変なのか、判断はできないが。
 なんせ、記憶が曖昧だから、わたしに知識を植え付けた人物が分からない。

「明日は暇ですか⁉」
「あ~ら、隊長さん。うちのジュディちゃんを誘惑しないでくれますか!」

 エレーナがわたしの前に立ちふさがると、隊長から守るように視線を遮ってくれた。

 わたしを連れ出そうと試みるナグワ隊長は、途中、交渉相手をわたしからエレーナに変えた。

「俺が誘っているのは、やましいことではない。明日、第一部隊と同行してくれませんか? ――エレーナ頼む。ジュディさんを貸してくれ」

「ただじゃ貸せないわよ。ジュディちゃんはお金がなくて困っているんだから。ねッ」
 エレーナが振り向いて、わたしを見たため、うんと頷く。
 身一つで森にいたわたしだ。
 欲しいものを挙げたらきりがない。
 そのうえアンドレは、ひと月しか部屋を貸してくれないって言うんだもの。
 部屋探しのためにも、お給金は使わず貯めておきたいし、正直なところ色々と困っている。

「礼はちゃんとするから、頼む!」
 その言葉に誘惑され、エレーナの背中から、ひょこっと顔を出す。
 そうすれば、ナグワ隊長が両手を合わせて拝んでいるではないか。

 隊長がそこまでして、小娘に魔猪を探して欲しいのか、情けない。

「じゃあ、朝食が終わってからね」と、エレーナが勝手に話をまとめて、わたしへ笑顔を向ける。

「良かったねジュディちゃん。何でも買ってくれるらしいから、しっかり欲しいものを強請るんだよ」
「そんな、悪いですよ」
「隊長が一番お金を持っているんだから遠慮するんじゃないよ」

「別にわざわざ何かを買ってもらうのは、気が引けます」
「駄目よ。知識は十分に価値があるんだから、安売りするんじゃないの。何かを教えてあげるだけでも報酬は受け取らなきゃね」

 母のような教えをエレーナから頂戴し、「はい」と従った。

 さあ、雑談はこれまでにして仕事、仕事と気を取り直す。
 すると、カウンターに身を乗り出してきたナグワ隊長が、真顔で不思議な質問をする。

「ところで、今日の夕食はジュディさんが作ってくれたんですか?」
 だからどうした? と思ったものの、多少の見栄も必要だろう。
 気取って答えた。

「大半の作業はエレーナさんがしているけど、もちろんわたしも手伝ったわよ」

 赤裸々に申告するなら、包丁を取り上げられ、玉ねぎの皮を剥いただけである。
 だけど、恥ずかしくて言えないし。

 それを聞いたナグワ隊長が、ぐるんと振り向き食堂を見渡すと、大声を張り上げた。

「おい、お前ら! ジュディさんの作った食事を残したら、第一部隊降格だからな」
 その途端。食堂中に「はい」と、どすの効いた返答が響く。

「ジュディさん! もし残したやつがいれば、俺に報告ください」

「はははっ。もしも……ですね」

 いや。これは密告しちゃまずいやつでしょう。食事を残したくらいで降格させられたら、うらまれるわよ……わたしがッ!

 ただでさえ、でかい声なのに脅すのはやめてよね。
 なんなら、妙な緊張感を兵士たちに与えないでよ。
 そのせいで喉が通らなくなっても、わたしのせいじゃないいわよ。たぶん。

 その後。食堂に居座るナグワ隊長によって、当然ながら、夕食を残す隊員は一人としていなかった。

 彼らが落ち着いて夕食を摂れたかは別問題だけど。

 それにしても、魔猪の攻撃法を伝えただけで、これ程までに驚かれる理由が分からないんだけど。
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