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第2章 あなたは暗殺者⁉

嫉妬(SIDEアンドレ)

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◇◇◇

 ジュディを見送ったあと、残る栞の枚数を数える。
 よかった。あれ以上、減ってはいないと安堵したものの、すぐに動く気にはなれず、しばし呆然と椅子に座り込んだ。

 だが、ある人物の存在を思い出す。そろそろ宿舎にいるだろうと、厄介な男の様子を見るため寄宿舎へと向かう。

 食堂に着けば、厨房に近いテーブルに目を向ける。
 すると、ぼんやりと遠くを眺め、気の抜けたナグワ隊長を視界にとらえた。
 そんな彼の周囲は、不自然なほど誰もいない。

 他の兵士たちは、ナグワ隊長を避けるように昼食を摂っている。

 いつもは、周囲に部下を侍らせているくせに。
 ——その様子を見れば一目瞭然に何かあると、苦々しく感じた。

 だが顔を作り平静を装うと、ナグワ隊長の向かいの席へ自分の昼食を置いた。

「隊長、この席は空いていますか?」
「ああ、アンドレ殿か……さっきまで、そこにジュディちゃんがいたんだ……」

 呆けている彼が断らなかったため、さらりと腰掛ける。

 彼の中で、ジュディの呼び方が変わっている。
「急にその呼び方……ジュディちゃんって……」

「俺もエレーナのように、『ジュディちゃん』って、ちゃん付けでもいいかって頼んだら、許可してくれたからな」
 にへらっと嬉しそうに笑う。

「ジュディと何を話していたんですか?」
「おッ。聞いてくれるか!」

 待っていましたと言わんばかりに、笑顔で食いついた。

 別に聞きたくはないが、「ええ、どうぞ」と話を促す。

 周囲から安堵の声がぽつりと聞こえたため、視線を右、左とゆっくり動かす。
 すると、第一部隊の連中は僕からすっと視線を逸らした。 
 
 その姿から彼らの意図を察した。揃いも揃ってナグワ隊長の相手をするのが面倒になり、逃げているのだろう。

「彼女、俺に脈ありだと思うんだが、アンドレ殿はどう思う?」

「え? それは、ジュディの話をしているんですよね?」

「そうだよ、それ以外いないだろう!」
「はあ……」と、気の入らない相槌を打ち、肉を頬張る。

「あんな綺麗な子だぞ。何が欲しいのかなって、正直俺は不安になってたわけよ。もしも高いものを強請られたらどうしようかなぁと思ったら、まさかのパジャマだってよ」

「そうですか」
 本人から聞いていたから、特段驚きもしないが。
 興味なさげな僕の返答を、全く気に留める様子もなく、彼は興奮気味に話を続ける。

「魔猪をあんな見事に仕留めてくれた報酬に、寝間着しか求めてこないんだぜ。可愛いよなぁ。俺、あの子のためなら何でもできる気がする」
「はあ……」
 大の男が、にやけて何を言っているんだと、呆れた返答をし、二口目を口に運ぶ。


「パジャマを強請るってことは、それを脱がせてくれって意味だよな。いや、終わった後に着せてくれかもしれないな!」
 嬉しそうに話すナグワ隊長に、やれやれとため息を返し、彼の意見を真っ向から否定する。

「ジュディは荷物を持たずに家を飛び出したから、本当に寝衣が欲しいだけです。彼女の意図に深い意味はありませんから、期待するだけ無駄ですよ」

「それがよ~。俺だけ、ジュディちゃんからデザートをもらったんだ。初めて作ったんだってよ。めちゃくちゃ美味くて。——絶対、俺を意識しているよな」

「ないと思いますけど」
 既に昼食を終えた彼のトレーを見ると、朝食時に見覚えのあるマグカップが乗っている。

 あれは……。
 僕が断ったものだろうが、ジュディは彼に渡したのか——……と、顔が歪む。
 だが、次の瞬間。僕の話を少しも間に受けない彼から飛び出した言葉のせいで、カトラリーを動かす手が止まった。

「いや、間違いないと思うんだ。近々アパートを借りて、ジュディちゃんと一緒に暮らそうと思っているんだけど、その手の手続きはさっぱり分からんから。そんときは、アンドレ殿に相談に行くから頼むな」

「それは本気で言っていますか?」

「当然だろう」
「それでジュディは何て言っているんですか?」

 ジュディが、ナグワ隊長の所へ転がりこむことになれば、この領地にいつまでも居座る口実になるだろう。それは避けたい。

「まだ誘っていないけど、まあ大丈夫だろう」
「どうでしょうか――」

「じゃあ俺の飯は済んだから」

 ひとしきり喋って満足したのだろう。人の話を最後まで聞かず、満面の笑みで立ち上がった。
 思わず首の後ろをカリカリと掻く。イライラする。ジュディが隊長と一緒に暮らす……。それを考えただけで、胸に何かがつかえた。

 癇に障る気持ちを抱えたまま、洗濯場にいるはずのジュディの元へ向かう。

 どうせ僕に会えば、楽し気ににこにこ笑って近づいてくるはずだが……。

 彼女に甘い顔をする気になれない。
 僕から服を買ってもらった礼だと言ったコーヒーゼリーを、ナグワ隊長へ平然と渡しているのは、正直なところ納得がいかない。

 よりによって隊長が、美味しかったと喜んでいるし。 

 得も言われぬ鬱憤をはらすため、「ジュディは欲しいものを買ってもらえれば、本当に誰でもいいんですね」と、もう一度嫌味を言ってやる。

 そう思いながら向かった屋上。外へ通じる金属の重い扉を開けた瞬間、全速力で彼女に駆け寄った。

「ジュディ! どうしたんですか? しっかりしてください」

 いつから――。
 彼女はいつからこうなっていたんだ。
 倒れる彼女に声をかけるが、意識はない。
 今は苦しんでいないようだが、何があった……。

 どこでも寝る彼女だが、うつぶせでぐったりと倒れている姿は、彼女の身に不測の事態が起きたものだと、連想させる。

 ……頭が痛いって言っていたが、今の状況と何か関係があるのか?

「――っ! 何かを強く握っているのか?」
 そう思って彼女の手を開くと大司教のガラス玉である。
 直前まで何か魔法を使っていたのかもしれないが、ジュディはこの場所で、一体何をしていたというのだ⁉

「ジュディ! ジュディ! 目を開けてください」
 何度も声をかけてみたものの、力の抜けた彼女は、ぴくりともしない。

「あなたが苦しんでいる時に、僕は何も知らず……申し訳ない」
 悲傷に打ち沈む僕は、彼女を抱きかかえ部屋へと運んだ。
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