記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆『手違いの妻』4月15日発売!
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第3章 わたしを捨てたのはあなた⁉
あなたは……わたしを捨てた人②
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「来た来た、来たわよ。次から次へと『スープを作ったのは誰だ』って、真っ赤な顔でカウンターの所で大声を出していたけど、わたしが作ったと言ったら、『凄くおいしい』って、全員おかわりをしていたわよ」
「ふ~ん。それならいいや」
え? なんだろう。意味深な質問をしてきてと思い、じっと見つめる。
――その後も、わたしが作ったスープをアンドレが神妙な顔で食べるため、不安になって訊ねてみた。
「ねえ。上手にできたと思うんだけど、おいしい?」
「まあ、食べられなくはないですよ」
彼はわたしを見つめると、満足気に笑った。
そして、カチャンとスプーンを器に置くと、アンドレのスープはきれいに空になっている。一気に完食する程スプーンが進んだみたいだ。
普段から遠回しな言い方をするアンドレだし、意味深な感想は「おいしい」ということだろう。
そう思って、ちょっと大袈裟に言葉を返す。
「正直に、おいしいって言えばいいのに。本当、素直じゃないんだから」
まあ彼から嫌みがないだけましかと、スプーンでひとすくいして口へ運ぶ。
――その瞬間。
自分が想像していた味と全く異なる味が、口いっぱいに広がる。そのせいで、頭の中が大混乱を起こした。
「あっま~い。な何これッ! 激マズじゃない。どうしてこれを完食してるのよ!」
「ふふっ。ジュディの好みの味なのかと思ったからね。記憶を思い出すヒントになるかもしれないのに、否定するのは悪いから」
「信じられない。兵士のみんなは、おかわりまでしていったわよ。……甘ったるくて、おいしくないのに」
「ジュディが作ったと知れば、文句は言えないだろうね」
「どうしてよ。わたしの方が、みんなから親切にしてもらって、お世話になりっぱなしなのよ。そんなわけないでしょう」
「その能天気な解釈は昔からなのかな? どう考えても連中は、ジュディの……いや、この話はまあいいや。今日は隊長から、どこに誘われたんですか?」
「ふふっ、聞いてくれる?」
「言いたくてしょうがないって顔をしていますよ」
「まあね! ナグワ隊長が靴を買ってくれるって言うから、このボロボロの靴から卒業するのよ」
満面の笑みで答えた。
「そうですか。――そういえば、僕もちょうど靴が欲しかったんだ。一緒に行こうかな」
「あれ? そうなの? いつも綺麗な靴を履いている気がするけど」
「違う色の靴が必要なんですよ」
「昨日は冬用の寝衣が欲しいって見に行ったのに、結局、何も買わなかったじゃない」
「それは――。昨日は、気に入ったのがなかったからね」
「あぁ! 分かったわ。アンドレもナグワ隊長から、ちゃっかり靴を買ってもらおうとしているんでしょう」
「は⁉ どうしてそうなるんですか……。全然違いますよ」
呆れた口調で返された。そうでなければ、どういう理由だ。おかしいなと思うわたしは、疑問をぶつける。
「安月給だって、ぼやいていたでしょう。それなのに寝衣は結局アンドレに買ってもらったし」
「軍の予算から給金をもらわなくても、お金を得る方法はいくらでもあるからね。まあ、イヴァン卿の元を離れたら、同じ方法って訳にもいかないし、どうしようかなとは考えていますが……。それでも貯えは十分にあるので、生活に困ることはないでしょう」
「それって何をしてお金を稼いでいたのよ」
「ふふっ、それは内緒です」
「はいはい、そうですかぁ~」
もう、アンドレが打ち明けてくれないから、分からないことばかりだ。
こんなお荷物にしかならないわたしを抱えても、アンドレならどこでも暮らしていける自信があるのか……。
魔力量の多い彼は、魔力至上社会で不安なんてないのねと羨ましくなる。
だけどなぁ――。
「一つ聞いてもいいかしら」
「ええ、どうぞ」
「アンドレは、わたしのことが好きなの? だから一緒に暮らそうと言ってくれているの?」
正直なところ。昨晩のアンドレからは、わたしを好きだという感情は伝わらなかった。
特段、子どもを望んでいないというアンドレにとって、わたしという存在が、都合がいいくらいの感覚にしか思えなかった。
そのせいかもしれないけど、彼の申し出が、どこか心に響かなかったんだと思う。
「笑わないですか?」
「もちろんよ」
「それなら――」
躊躇いながら、彼が口を開く。
「……実は僕にも分からないんですけど……。なぜかジュディと一緒にいたいと感じてしまって。もしかして、好きなのかもしれないし、どうだろうか……」
「もしかしてって……。あのね。そんなはっきりしないなら、カステン軍に二人で残ればいいじゃない」
わたしだって、アンドレに恋愛感情はない。
だけどわたしもアンドレと一緒にいたいと思う気持ちはある。でもそれは、この場所で暮らしていくだけで十分だ。何もわざわざ違う場所へ行く必要はない。
「まあ、僕にも事情があって、それが許されないんです」
「その事情は教えてくれないのかしら?」
「申し訳ありませんが、それはジュディでも教えられません」
苦笑する彼は、この期に及んでまだ何も言えないと。
それは随分と滅茶苦茶な話に思える。わたしだってアンドレと一緒にいたいのは変わらない。
けれど、自分を信用してもらえないのなら、二人で新しい生活を送るなんて及び難い。
「二人で暮らすことが、アンドレにとって本当にいいことなのか分からなくて……」
「僕は真剣だけど」
よどみなく言い切った。
「ふ~ん。それならいいや」
え? なんだろう。意味深な質問をしてきてと思い、じっと見つめる。
――その後も、わたしが作ったスープをアンドレが神妙な顔で食べるため、不安になって訊ねてみた。
「ねえ。上手にできたと思うんだけど、おいしい?」
「まあ、食べられなくはないですよ」
彼はわたしを見つめると、満足気に笑った。
そして、カチャンとスプーンを器に置くと、アンドレのスープはきれいに空になっている。一気に完食する程スプーンが進んだみたいだ。
普段から遠回しな言い方をするアンドレだし、意味深な感想は「おいしい」ということだろう。
そう思って、ちょっと大袈裟に言葉を返す。
「正直に、おいしいって言えばいいのに。本当、素直じゃないんだから」
まあ彼から嫌みがないだけましかと、スプーンでひとすくいして口へ運ぶ。
――その瞬間。
自分が想像していた味と全く異なる味が、口いっぱいに広がる。そのせいで、頭の中が大混乱を起こした。
「あっま~い。な何これッ! 激マズじゃない。どうしてこれを完食してるのよ!」
「ふふっ。ジュディの好みの味なのかと思ったからね。記憶を思い出すヒントになるかもしれないのに、否定するのは悪いから」
「信じられない。兵士のみんなは、おかわりまでしていったわよ。……甘ったるくて、おいしくないのに」
「ジュディが作ったと知れば、文句は言えないだろうね」
「どうしてよ。わたしの方が、みんなから親切にしてもらって、お世話になりっぱなしなのよ。そんなわけないでしょう」
「その能天気な解釈は昔からなのかな? どう考えても連中は、ジュディの……いや、この話はまあいいや。今日は隊長から、どこに誘われたんですか?」
「ふふっ、聞いてくれる?」
「言いたくてしょうがないって顔をしていますよ」
「まあね! ナグワ隊長が靴を買ってくれるって言うから、このボロボロの靴から卒業するのよ」
満面の笑みで答えた。
「そうですか。――そういえば、僕もちょうど靴が欲しかったんだ。一緒に行こうかな」
「あれ? そうなの? いつも綺麗な靴を履いている気がするけど」
「違う色の靴が必要なんですよ」
「昨日は冬用の寝衣が欲しいって見に行ったのに、結局、何も買わなかったじゃない」
「それは――。昨日は、気に入ったのがなかったからね」
「あぁ! 分かったわ。アンドレもナグワ隊長から、ちゃっかり靴を買ってもらおうとしているんでしょう」
「は⁉ どうしてそうなるんですか……。全然違いますよ」
呆れた口調で返された。そうでなければ、どういう理由だ。おかしいなと思うわたしは、疑問をぶつける。
「安月給だって、ぼやいていたでしょう。それなのに寝衣は結局アンドレに買ってもらったし」
「軍の予算から給金をもらわなくても、お金を得る方法はいくらでもあるからね。まあ、イヴァン卿の元を離れたら、同じ方法って訳にもいかないし、どうしようかなとは考えていますが……。それでも貯えは十分にあるので、生活に困ることはないでしょう」
「それって何をしてお金を稼いでいたのよ」
「ふふっ、それは内緒です」
「はいはい、そうですかぁ~」
もう、アンドレが打ち明けてくれないから、分からないことばかりだ。
こんなお荷物にしかならないわたしを抱えても、アンドレならどこでも暮らしていける自信があるのか……。
魔力量の多い彼は、魔力至上社会で不安なんてないのねと羨ましくなる。
だけどなぁ――。
「一つ聞いてもいいかしら」
「ええ、どうぞ」
「アンドレは、わたしのことが好きなの? だから一緒に暮らそうと言ってくれているの?」
正直なところ。昨晩のアンドレからは、わたしを好きだという感情は伝わらなかった。
特段、子どもを望んでいないというアンドレにとって、わたしという存在が、都合がいいくらいの感覚にしか思えなかった。
そのせいかもしれないけど、彼の申し出が、どこか心に響かなかったんだと思う。
「笑わないですか?」
「もちろんよ」
「それなら――」
躊躇いながら、彼が口を開く。
「……実は僕にも分からないんですけど……。なぜかジュディと一緒にいたいと感じてしまって。もしかして、好きなのかもしれないし、どうだろうか……」
「もしかしてって……。あのね。そんなはっきりしないなら、カステン軍に二人で残ればいいじゃない」
わたしだって、アンドレに恋愛感情はない。
だけどわたしもアンドレと一緒にいたいと思う気持ちはある。でもそれは、この場所で暮らしていくだけで十分だ。何もわざわざ違う場所へ行く必要はない。
「まあ、僕にも事情があって、それが許されないんです」
「その事情は教えてくれないのかしら?」
「申し訳ありませんが、それはジュディでも教えられません」
苦笑する彼は、この期に及んでまだ何も言えないと。
それは随分と滅茶苦茶な話に思える。わたしだってアンドレと一緒にいたいのは変わらない。
けれど、自分を信用してもらえないのなら、二人で新しい生活を送るなんて及び難い。
「二人で暮らすことが、アンドレにとって本当にいいことなのか分からなくて……」
「僕は真剣だけど」
よどみなく言い切った。
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