記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆『手違いの妻』4月15日発売!
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第5章 離さない
あなたが好きです。……は?②
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「揶揄ってはいませんよ」
「そういう冗談を上手く返すのは苦手なんです。……え~っと、もう帰りますね」
「どこに?」
「あ……。アパートを借りるわ」
「あなたはご自分で、僕の傍にいたいと言い続けていたはずですが? ですから、こうして一緒に暮らしているんですけど」
「そのときと事情が違うわ。ルームシェアの件は忘れてください。あとは自分でなんとかしますから」
「ずっとあなたを愛していたんです。この気持ちを伝えても許される日が来るとは思っていなかったのに、王太子殿下との婚約が白紙になって、目の前に現れたんですから。縛り付けてでも僕のものにして逃がしませんよ」
真剣な眼差しで告げられた言葉に、何て返していいのか分からず黙りこくってしまった。
フィリベールに続き、またしても、聖女だと分かった途端、ありもしない恋心を持ち出し利用する気か……。
まあ、アンドレの場合は確かにわたしが我が儘を押し付けようとした。
そう……、アンドレとの最後の約束は、カステン軍を出て一緒に暮らそうという話だった。
父が迎えに来た時。アンドレとずっと一緒にいようと、最後までごねたのは自分だ。
まさかそれが王宮での生活になるとは、思ってもいなかったが。
わたしたちの関係。それをこれまでと変わらない、ジュディのままでいようとアンドレは言うが、そうもいかない。
偽装を解いたアンドレは、れっきとした王族だ。一方のわたしはというと……何者だろう。
父がカステン辺境伯領へわたしを迎えに来たところをみると、フィリベールと結託してわたしを森へ捨てたのは父だと思う。
実の父親に捨てられたとなれば……もう、公爵令嬢ですらない。
リナが結界を張っている今。王妃様からクラウンを引き継ぎ筆頭聖女になるのはリナだし……。
なんて名乗ればいいかも分からないし、自分の立ち位置は、どうなっているのだろうか――……。
自分の正体が分かったところで、帰る家はなかったのか……。
寂しい気持ちを誤魔化そうと、笑い飛ばそうとしたが、うまくできず、じんわりと涙が浮かぶ。
「申し訳ありません。怖がらせる気はなかったのについ――」
「そうじゃないの、ごめんなさい」
「気にしないでください。ジュディの気持ちは分かっていますので。僕と一緒にいたかったのは、記憶を取り戻せる気がしたからですよね」
「あ……気づいていたの」
「無意識に、僕の魔力に何かを感じていたんでしょう。今なら分かりますから」
「きっとそうね。だからわたし、アンドレのことは別に……」
「いいんですよ。ジュディのことになると独占欲にかられていましたが、いくら僕でも都合の良い勘違いはしませんので安心してください」
「色々とごめんなさい」
「まあ、これからどんなに時間をかけても、僕のことを好きになってもらいますよ。どうせ一緒に暮らすなら、好感を抱く相手の方がいいでしょう」
そう言った彼は嬉しそうに、にこっと笑う。
そんな彼を見て、何を言っているんだろうかと、ため息をこぼす。
「アンドレの立場もあるのよ。無理に決まってるでしょう。王城でルームシェアなんて馬鹿げた話を、陛下に説明できないわよ。あの話は白紙に戻したでしょう」
王位継承権がないとはいえ、彼は王族に違いない。
分かってしまった以上、簡単に「ルームシェアをします」と、言える相手ではないのだから。
「陛下は……」
アンドレが言いにくそうに口を噤む。
「ちょっと陛下がどうかしたの?」
「すでに勘違いをしているパスカル殿下から報告を受けていたので、僕とジュディが恋人同士だと思っています。なので、勝手に僕とジュディの結婚の話を進めていますよ」
「ま、待ってよ結婚って。それは王命って事なのかしら⁉」
「まあ、僕も陛下へ、ジュディから一緒に暮らしたいと頼まれていたことは、伝えていますし」
「そんな……。それは王宮だと思ってもいなかったからよ。すぐに決められないから、一度家に帰るわ」
「ですから、僕から逃げて、どちらに帰るつもりですか?」
「あ、え、うーん」
目を泳がせ考えていると、真剣な口調が返ってくる。
「夫になる僕のことを好きになれば、問題はありませんよね。そもそも一緒に暮らすつもりだったし、カステン辺境伯領では一つ屋根の下で過ごしていたのですから、何か困ることでもありますか?」
「ちょっと困るでしょう! アンドレは一体どうしちゃったのよ? そんな期待をされても、好きになれるか分からないわ。形だけの結婚と言っても、今は考えられないから」
アンドレと同じ顔の人物に、一度こっぴどく騙されたのだ。もう懲り懲りしているし、簡単に好きになるとか、あり得ない。
「焦ることはありません。これまで長い間待っていたので好きになってもらうのは、何年でも待てます。ですがこれまでと違って、指を咥えて待っているとは限りませんので」
「な、何をする気よ!」
「ふふっ、今はまだ何もしません。ジュディは三日間眠り続けていたんですから、無理をさせる気はありませんので」
「三日もッ! そんなに眠っていたの……。っていうか、まだって何が、まだなのよ?」
「周囲の勘違いを事実に変えないと、パスカル殿下が虚偽の報告をしたことになりますから。それは申し訳ないので、なるべく早くそうしないとね」
「だから何を!」
「追い出そうとしても、ジュディが僕に甘えてくるって話ですよ。妄想の激しいナグワ隊長が言いふらしているので、もっと酷い話で伝わっていますが……。否定もできないので、苦笑いをしておきました」
「それは……、お金もなくて、行く当てがなかったから、強引に転がり込むしかなかったのよ。ん? それが何と関係あるのかしら」
「ふふっ、それよりお腹は空いていませんか?」
「寝起きだし、まだ何も食べたくないわ」
「それでも喉は乾いているでしょう。これまでの話を、お茶を飲みながら大まかにお伝えしますね」
◇◇◇
「そういう冗談を上手く返すのは苦手なんです。……え~っと、もう帰りますね」
「どこに?」
「あ……。アパートを借りるわ」
「あなたはご自分で、僕の傍にいたいと言い続けていたはずですが? ですから、こうして一緒に暮らしているんですけど」
「そのときと事情が違うわ。ルームシェアの件は忘れてください。あとは自分でなんとかしますから」
「ずっとあなたを愛していたんです。この気持ちを伝えても許される日が来るとは思っていなかったのに、王太子殿下との婚約が白紙になって、目の前に現れたんですから。縛り付けてでも僕のものにして逃がしませんよ」
真剣な眼差しで告げられた言葉に、何て返していいのか分からず黙りこくってしまった。
フィリベールに続き、またしても、聖女だと分かった途端、ありもしない恋心を持ち出し利用する気か……。
まあ、アンドレの場合は確かにわたしが我が儘を押し付けようとした。
そう……、アンドレとの最後の約束は、カステン軍を出て一緒に暮らそうという話だった。
父が迎えに来た時。アンドレとずっと一緒にいようと、最後までごねたのは自分だ。
まさかそれが王宮での生活になるとは、思ってもいなかったが。
わたしたちの関係。それをこれまでと変わらない、ジュディのままでいようとアンドレは言うが、そうもいかない。
偽装を解いたアンドレは、れっきとした王族だ。一方のわたしはというと……何者だろう。
父がカステン辺境伯領へわたしを迎えに来たところをみると、フィリベールと結託してわたしを森へ捨てたのは父だと思う。
実の父親に捨てられたとなれば……もう、公爵令嬢ですらない。
リナが結界を張っている今。王妃様からクラウンを引き継ぎ筆頭聖女になるのはリナだし……。
なんて名乗ればいいかも分からないし、自分の立ち位置は、どうなっているのだろうか――……。
自分の正体が分かったところで、帰る家はなかったのか……。
寂しい気持ちを誤魔化そうと、笑い飛ばそうとしたが、うまくできず、じんわりと涙が浮かぶ。
「申し訳ありません。怖がらせる気はなかったのについ――」
「そうじゃないの、ごめんなさい」
「気にしないでください。ジュディの気持ちは分かっていますので。僕と一緒にいたかったのは、記憶を取り戻せる気がしたからですよね」
「あ……気づいていたの」
「無意識に、僕の魔力に何かを感じていたんでしょう。今なら分かりますから」
「きっとそうね。だからわたし、アンドレのことは別に……」
「いいんですよ。ジュディのことになると独占欲にかられていましたが、いくら僕でも都合の良い勘違いはしませんので安心してください」
「色々とごめんなさい」
「まあ、これからどんなに時間をかけても、僕のことを好きになってもらいますよ。どうせ一緒に暮らすなら、好感を抱く相手の方がいいでしょう」
そう言った彼は嬉しそうに、にこっと笑う。
そんな彼を見て、何を言っているんだろうかと、ため息をこぼす。
「アンドレの立場もあるのよ。無理に決まってるでしょう。王城でルームシェアなんて馬鹿げた話を、陛下に説明できないわよ。あの話は白紙に戻したでしょう」
王位継承権がないとはいえ、彼は王族に違いない。
分かってしまった以上、簡単に「ルームシェアをします」と、言える相手ではないのだから。
「陛下は……」
アンドレが言いにくそうに口を噤む。
「ちょっと陛下がどうかしたの?」
「すでに勘違いをしているパスカル殿下から報告を受けていたので、僕とジュディが恋人同士だと思っています。なので、勝手に僕とジュディの結婚の話を進めていますよ」
「ま、待ってよ結婚って。それは王命って事なのかしら⁉」
「まあ、僕も陛下へ、ジュディから一緒に暮らしたいと頼まれていたことは、伝えていますし」
「そんな……。それは王宮だと思ってもいなかったからよ。すぐに決められないから、一度家に帰るわ」
「ですから、僕から逃げて、どちらに帰るつもりですか?」
「あ、え、うーん」
目を泳がせ考えていると、真剣な口調が返ってくる。
「夫になる僕のことを好きになれば、問題はありませんよね。そもそも一緒に暮らすつもりだったし、カステン辺境伯領では一つ屋根の下で過ごしていたのですから、何か困ることでもありますか?」
「ちょっと困るでしょう! アンドレは一体どうしちゃったのよ? そんな期待をされても、好きになれるか分からないわ。形だけの結婚と言っても、今は考えられないから」
アンドレと同じ顔の人物に、一度こっぴどく騙されたのだ。もう懲り懲りしているし、簡単に好きになるとか、あり得ない。
「焦ることはありません。これまで長い間待っていたので好きになってもらうのは、何年でも待てます。ですがこれまでと違って、指を咥えて待っているとは限りませんので」
「な、何をする気よ!」
「ふふっ、今はまだ何もしません。ジュディは三日間眠り続けていたんですから、無理をさせる気はありませんので」
「三日もッ! そんなに眠っていたの……。っていうか、まだって何が、まだなのよ?」
「周囲の勘違いを事実に変えないと、パスカル殿下が虚偽の報告をしたことになりますから。それは申し訳ないので、なるべく早くそうしないとね」
「だから何を!」
「追い出そうとしても、ジュディが僕に甘えてくるって話ですよ。妄想の激しいナグワ隊長が言いふらしているので、もっと酷い話で伝わっていますが……。否定もできないので、苦笑いをしておきました」
「それは……、お金もなくて、行く当てがなかったから、強引に転がり込むしかなかったのよ。ん? それが何と関係あるのかしら」
「ふふっ、それよりお腹は空いていませんか?」
「寝起きだし、まだ何も食べたくないわ」
「それでも喉は乾いているでしょう。これまでの話を、お茶を飲みながら大まかにお伝えしますね」
◇◇◇
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