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第5章 祝福されるふたり
5-14 大波乱の舞踏会⑩
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会場中の至るところでヒソヒソ話が始まり、その声は一層大きくなった。
王宮の大広間中に広がるざわめきに落ち着かないルイーズは、しきりに周囲の様子を窺っている。
(このままだとみんなに、エドワードが回復魔法師様だってバレてしまう。
どうやってごまかすのよ。って、もう遅すぎるわ。
姉といい、継母といい、どうして、わたしの家族はいらないことばかりするのよ……。
どうしよう、わたしエドワードに嫌われたかもしれない)
ルイーズが困惑気味に視線を向けた継母は、ガクガクと膝を震わせているのか、体が大きく揺れ始めている。
まさか、グラス1杯のリンゴの酒で、こんな騒ぎになるとは思っていなかったのだ。
「おい、宰相。フォスター伯爵夫人は俺のことに気付いておきながら、仕事中の俺を害そうとした。救護室の規則に従い処罰しておけ。帰りの馬車でルイーズとの時間を心待ちにしていた俺にとっては、死活問題だ」
ルイーズは首を横に振って、精いっぱい彼を止めようとした。けれど既に全てが遅かった。
そして何より、死活問題なのは、それではないと訴えたかったが、気迫に押されたルイーズは、口をパクパクさせるだけで、言葉にならない。
貴族籍であれば出席義務のある王家主催の舞踏会。こんな所でバラしてしまえば、一瞬で貴族全員に伝わった。
そして「救護室」と言う単語を出した時点で、彼が回復魔法師で間違いないと理解されたのだ。
会場中から、「エドワード様が回復魔法師様!」と言う、驚きの声がルイーズの耳に届くとともに、熱い視線が2人に向けられた。
「違うの、ルイーズ。そんなつもりはなくて……」
宰相の指示で衛兵に連れていかれそうになっている継母は、ルイーズへすがるように必死に訴えている。
このまま連れていかれては、継母は打ち首になる。激しくおびえる姿は、それが分かっているとルイーズは察している。
ルイーズは、今まで見たことのない、継母の姿に困惑を隠せない。
自分はエドワードに何か言うべきなのか、と頭の中で必死に言葉を探す。
「お願いルイーズ、エドワード様を説得して頂戴。いつも娘思いの良い母でしょう。あなたがエドワード様に免じて欲しいと伝えてくれたら、考え直してくれるわ」
それを聞いて、あー駄目だと思ったルイーズは、悲しそうな表情で首を横に振る。
少しでも、継母に謝罪の言葉があれば違ったのかもしれない。
けれど、エドワードがウソだと分かることを、継母は平然と言ってしまった。
入れ替わり中、エドワードは継母の態度を、目の当たりにしている。
彼にウソだとバレることに、ルイーズは、うなずくわけにはいかなかった。
「出来ない。わたし、外で家の中のことは話してはいけないと言われ続けて、これまでずっと守ってきたもの、……何も言えないわ」
継母は、一瞬目を大きく見開いて、にらみつけるような目つきに変わりかけた。
けれど、それ以上何もできず、項垂れながら衛兵に連行された。
ルイーズは、自分の家族の失態ですっかり気落ちし、暗い表情をしている。
その様子にお構いなしのモーガンは、今がチャンスとばかりに駆け寄り、ルイーズの腕にまとわりつく。
「ルイーズ、君だけヒールで治してもらって狡いじゃないか。僕も、君の姉に声を掛けたら左頬を傷付けられた。エドワード様に僕のことを治療するように頼んでよ」
怒り心頭のエドワードは、モーガンの後頚部の襟をつかんで、ルイーズから引き離そうとする。
「おい、ルイーズから離れろ。ルイーズは特別だからだ」
「いいえ、エドワード様はおっしゃったではありませんか。ヒールを使うのに、一切の例外はないと。それなのに、何故ルイーズだけは特別なのでしょうか?」
「はぁぁーっ、当たり前だろう、大事な婚約者は特別に決まっているだろう。お前がルイーズを呼び捨てにするな、不愉快だ」
「も、申し訳ありません。ですが以前、決まりは曲げることは一切ないと言っていたのに、おかしいです」
「しつこいな。今は王宮の仕事中だった。その最中で起きた問題を治療しただけだ。お前にとやかく言われる筋合いはない」
「でしたら、この左頬の傷もミラベルに声を掛けたらたたかれて出来たものです。治してください。ルイーズ様は良くて、僕が駄目な訳はない。そうですよねルイーズ様」
ルイーズは、「エドワードに迷惑ばかりを掛けている自分は治してもらったくせに」、とモーガンから言われているようで、ひどい罪悪感を抱いている。
困り果て、ルイーズは涙目でエドワードを見つめる。
「エドワード……、わたしだけ治してもらったなんて、狡いわよね。こんなにあなたに迷惑をかけたのに、わたし、わたし……」
「狡い訳がないだろう。よっぽどこの男の方が狡いだろう。やつの左頬を治療すれば、その周囲の関係ないところも一緒に治っちまうからな。もう、無視して帰るぞ」
「だって、モーガンがいなかったら騎士の訓練に参加することもなかったの。あれがなければ、エドワードに出会うことも、エドワードを好きになることも、なかったのよ……。自分以上に大切な人に会えたのは、騎士を目指すようにモーガンに勧められたから、それなのに……。わたしだけ狡いって……どうしよう」
自分のせいで、エドワードの秘密が露呈した。
処理しきれない感情で、思わず涙があふれる。
「分かったから、あいつのことでルイーズが泣くなよ」
(あー、なんだってこんなときに、ルイーズを抱きしめられないんだよ。ったく、駄目だ、さっさと帰ろう)
「――おい、手を出せ。俺はお前を治す気は一切ないが、このまま放っておくと、ルイーズがいつまでも気にするから、仕方ないから治してやる。お前のようなやつにも優しいルイーズに感謝するんだな」
「エドワード様っ! ルイーズ様っ! ありがとうございます」
「うるさいなっ。――……終わりだ。結果がどうであれ、左頬の傷は治ったから、これ以上は知らん。……ルイーズ、もうこの会場から立ち去るぞ」
――ぞくりと肌が粟立つエドワード。
彼は、ここ最近追い返した貴族たちの視線が、ビシビシと、痛いくらいに刺さるのを感じていた。
王宮の大広間中に広がるざわめきに落ち着かないルイーズは、しきりに周囲の様子を窺っている。
(このままだとみんなに、エドワードが回復魔法師様だってバレてしまう。
どうやってごまかすのよ。って、もう遅すぎるわ。
姉といい、継母といい、どうして、わたしの家族はいらないことばかりするのよ……。
どうしよう、わたしエドワードに嫌われたかもしれない)
ルイーズが困惑気味に視線を向けた継母は、ガクガクと膝を震わせているのか、体が大きく揺れ始めている。
まさか、グラス1杯のリンゴの酒で、こんな騒ぎになるとは思っていなかったのだ。
「おい、宰相。フォスター伯爵夫人は俺のことに気付いておきながら、仕事中の俺を害そうとした。救護室の規則に従い処罰しておけ。帰りの馬車でルイーズとの時間を心待ちにしていた俺にとっては、死活問題だ」
ルイーズは首を横に振って、精いっぱい彼を止めようとした。けれど既に全てが遅かった。
そして何より、死活問題なのは、それではないと訴えたかったが、気迫に押されたルイーズは、口をパクパクさせるだけで、言葉にならない。
貴族籍であれば出席義務のある王家主催の舞踏会。こんな所でバラしてしまえば、一瞬で貴族全員に伝わった。
そして「救護室」と言う単語を出した時点で、彼が回復魔法師で間違いないと理解されたのだ。
会場中から、「エドワード様が回復魔法師様!」と言う、驚きの声がルイーズの耳に届くとともに、熱い視線が2人に向けられた。
「違うの、ルイーズ。そんなつもりはなくて……」
宰相の指示で衛兵に連れていかれそうになっている継母は、ルイーズへすがるように必死に訴えている。
このまま連れていかれては、継母は打ち首になる。激しくおびえる姿は、それが分かっているとルイーズは察している。
ルイーズは、今まで見たことのない、継母の姿に困惑を隠せない。
自分はエドワードに何か言うべきなのか、と頭の中で必死に言葉を探す。
「お願いルイーズ、エドワード様を説得して頂戴。いつも娘思いの良い母でしょう。あなたがエドワード様に免じて欲しいと伝えてくれたら、考え直してくれるわ」
それを聞いて、あー駄目だと思ったルイーズは、悲しそうな表情で首を横に振る。
少しでも、継母に謝罪の言葉があれば違ったのかもしれない。
けれど、エドワードがウソだと分かることを、継母は平然と言ってしまった。
入れ替わり中、エドワードは継母の態度を、目の当たりにしている。
彼にウソだとバレることに、ルイーズは、うなずくわけにはいかなかった。
「出来ない。わたし、外で家の中のことは話してはいけないと言われ続けて、これまでずっと守ってきたもの、……何も言えないわ」
継母は、一瞬目を大きく見開いて、にらみつけるような目つきに変わりかけた。
けれど、それ以上何もできず、項垂れながら衛兵に連行された。
ルイーズは、自分の家族の失態ですっかり気落ちし、暗い表情をしている。
その様子にお構いなしのモーガンは、今がチャンスとばかりに駆け寄り、ルイーズの腕にまとわりつく。
「ルイーズ、君だけヒールで治してもらって狡いじゃないか。僕も、君の姉に声を掛けたら左頬を傷付けられた。エドワード様に僕のことを治療するように頼んでよ」
怒り心頭のエドワードは、モーガンの後頚部の襟をつかんで、ルイーズから引き離そうとする。
「おい、ルイーズから離れろ。ルイーズは特別だからだ」
「いいえ、エドワード様はおっしゃったではありませんか。ヒールを使うのに、一切の例外はないと。それなのに、何故ルイーズだけは特別なのでしょうか?」
「はぁぁーっ、当たり前だろう、大事な婚約者は特別に決まっているだろう。お前がルイーズを呼び捨てにするな、不愉快だ」
「も、申し訳ありません。ですが以前、決まりは曲げることは一切ないと言っていたのに、おかしいです」
「しつこいな。今は王宮の仕事中だった。その最中で起きた問題を治療しただけだ。お前にとやかく言われる筋合いはない」
「でしたら、この左頬の傷もミラベルに声を掛けたらたたかれて出来たものです。治してください。ルイーズ様は良くて、僕が駄目な訳はない。そうですよねルイーズ様」
ルイーズは、「エドワードに迷惑ばかりを掛けている自分は治してもらったくせに」、とモーガンから言われているようで、ひどい罪悪感を抱いている。
困り果て、ルイーズは涙目でエドワードを見つめる。
「エドワード……、わたしだけ治してもらったなんて、狡いわよね。こんなにあなたに迷惑をかけたのに、わたし、わたし……」
「狡い訳がないだろう。よっぽどこの男の方が狡いだろう。やつの左頬を治療すれば、その周囲の関係ないところも一緒に治っちまうからな。もう、無視して帰るぞ」
「だって、モーガンがいなかったら騎士の訓練に参加することもなかったの。あれがなければ、エドワードに出会うことも、エドワードを好きになることも、なかったのよ……。自分以上に大切な人に会えたのは、騎士を目指すようにモーガンに勧められたから、それなのに……。わたしだけ狡いって……どうしよう」
自分のせいで、エドワードの秘密が露呈した。
処理しきれない感情で、思わず涙があふれる。
「分かったから、あいつのことでルイーズが泣くなよ」
(あー、なんだってこんなときに、ルイーズを抱きしめられないんだよ。ったく、駄目だ、さっさと帰ろう)
「――おい、手を出せ。俺はお前を治す気は一切ないが、このまま放っておくと、ルイーズがいつまでも気にするから、仕方ないから治してやる。お前のようなやつにも優しいルイーズに感謝するんだな」
「エドワード様っ! ルイーズ様っ! ありがとうございます」
「うるさいなっ。――……終わりだ。結果がどうであれ、左頬の傷は治ったから、これ以上は知らん。……ルイーズ、もうこの会場から立ち去るぞ」
――ぞくりと肌が粟立つエドワード。
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