【完結】突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~脱走令嬢は、素性を隠した俺様令息に捕獲される~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

文字の大きさ
73 / 88
第5章 祝福されるふたり

5-14 大波乱の舞踏会⑩

しおりを挟む
 会場中の至るところでヒソヒソ話が始まり、その声は一層大きくなった。
 王宮の大広間中に広がるざわめきに落ち着かないルイーズは、しきりに周囲の様子をうかがっている。

(このままだとみんなに、エドワードが回復魔法師ヒーラー様だってバレてしまう。
 どうやってごまかすのよ。って、もう遅すぎるわ。
 姉といい、継母といい、どうして、わたしの家族はいらないことばかりするのよ……。
 どうしよう、わたしエドワードに嫌われたかもしれない)

 ルイーズが困惑気味に視線を向けた継母は、ガクガクと膝を震わせているのか、体が大きく揺れ始めている。
 まさか、グラス1杯のリンゴの酒で、こんな騒ぎになるとは思っていなかったのだ。

「おい、宰相。フォスター伯爵夫人は俺のことに気付いておきながら、仕事中の俺を害そうとした。救護室の規則に従い処罰しておけ。帰りの馬車でルイーズとの時間を心待ちにしていた俺にとっては、死活問題だ」

 ルイーズは首を横に振って、精いっぱい彼を止めようとした。けれど既に全てが遅かった。
 そして何より、死活問題なのは、それではないと訴えたかったが、気迫に押されたルイーズは、口をパクパクさせるだけで、言葉にならない。

 貴族籍であれば出席義務のある王家主催の舞踏会。こんな所でバラしてしまえば、一瞬で貴族全員に伝わった。
 そして「救護室」と言う単語を出した時点で、彼が回復魔法師ヒーラーで間違いないと理解されたのだ。

 会場中から、「エドワード様が回復魔法師ヒーラー様!」と言う、驚きの声がルイーズの耳に届くとともに、熱い視線が2人に向けられた。

「違うの、ルイーズ。そんなつもりはなくて……」
 宰相の指示で衛兵に連れていかれそうになっている継母は、ルイーズへすがるように必死に訴えている。


 このまま連れていかれては、継母は打ち首になる。激しくおびえる姿は、それが分かっているとルイーズは察している。

 ルイーズは、今まで見たことのない、継母の姿に困惑を隠せない。
 自分はエドワードに何か言うべきなのか、と頭の中で必死に言葉を探す。

「お願いルイーズ、エドワード様を説得して頂戴。いつも娘思いの良い母でしょう。あなたがエドワード様に免じて欲しいと伝えてくれたら、考え直してくれるわ」
 それを聞いて、あー駄目だと思ったルイーズは、悲しそうな表情で首を横に振る。

 少しでも、継母に謝罪の言葉があれば違ったのかもしれない。
 けれど、エドワードがウソだと分かることを、継母は平然と言ってしまった。
 入れ替わり中、エドワードは継母の態度を、目の当たりにしている。
 彼にウソだとバレることに、ルイーズは、うなずくわけにはいかなかった。

「出来ない。わたし、外で家の中のことは話してはいけないと言われ続けて、これまでずっと守ってきたもの、……何も言えないわ」
 
 継母は、一瞬目を大きく見開いて、にらみつけるような目つきに変わりかけた。
 けれど、それ以上何もできず、項垂うなだれながら衛兵に連行された。

 ルイーズは、自分の家族の失態ですっかり気落ちし、暗い表情をしている。
 その様子にお構いなしのモーガンは、今がチャンスとばかりに駆け寄り、ルイーズの腕にまとわりつく。

「ルイーズ、君だけヒールで治してもらってずるいじゃないか。僕も、君の姉に声を掛けたら左頬を傷付けられた。エドワード様に僕のことを治療するように頼んでよ」

 怒り心頭のエドワードは、モーガンの後頚部こうけいぶの襟をつかんで、ルイーズから引き離そうとする。

「おい、ルイーズから離れろ。ルイーズは特別だからだ」
「いいえ、エドワード様はおっしゃったではありませんか。ヒールを使うのに、一切の例外はないと。それなのに、何故ルイーズだけは特別なのでしょうか?」

「はぁぁーっ、当たり前だろう、大事な婚約者は特別に決まっているだろう。お前がルイーズを呼び捨てにするな、不愉快だ」

「も、申し訳ありません。ですが以前、決まりは曲げることは一切ないと言っていたのに、おかしいです」
「しつこいな。今は王宮の仕事中だった。その最中で起きた問題を治療しただけだ。お前にとやかく言われる筋合いはない」

「でしたら、この左頬の傷もミラベルに声を掛けたらたたかれて出来たものです。治してください。ルイーズ様は良くて、僕が駄目な訳はない。そうですよねルイーズ様」

 ルイーズは、「エドワードに迷惑ばかりを掛けている自分は治してもらったくせに」、とモーガンから言われているようで、ひどい罪悪感を抱いている。

 困り果て、ルイーズは涙目でエドワードを見つめる。

「エドワード……、わたしだけ治してもらったなんて、狡いわよね。こんなにあなたに迷惑をかけたのに、わたし、わたし……」
「狡い訳がないだろう。よっぽどこの男の方が狡いだろう。やつの左頬を治療すれば、その周囲の関係ないところも一緒に治っちまうからな。もう、無視して帰るぞ」

「だって、モーガンがいなかったら騎士の訓練に参加することもなかったの。あれがなければ、エドワードに出会うことも、エドワードを好きになることも、なかったのよ……。自分以上に大切な人に会えたのは、騎士を目指すようにモーガンに勧められたから、それなのに……。わたしだけ狡いって……どうしよう」

 自分のせいで、エドワードの秘密が露呈した。
 処理しきれない感情で、思わず涙があふれる。


「分かったから、あいつのことでルイーズが泣くなよ」
(あー、なんだってこんなときに、ルイーズを抱きしめられないんだよ。ったく、駄目だ、さっさと帰ろう)

「――おい、手を出せ。俺はお前を治す気は一切ないが、このまま放っておくと、ルイーズがいつまでも気にするから、仕方ないから治してやる。お前のようなやつにも優しいルイーズに感謝するんだな」

「エドワード様っ! ルイーズ様っ! ありがとうございます」

「うるさいなっ。――……終わりだ。結果がどうであれ、左頬の傷は治ったから、これ以上は知らん。……ルイーズ、もうこの会場から立ち去るぞ」

 ――ぞくりと肌があわ立つエドワード。
 彼は、ここ最近追い返した貴族たちの視線が、ビシビシと、痛いくらいに刺さるのを感じていた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

継母や義妹に家事を押し付けられていた灰被り令嬢は、嫁ぎ先では感謝されました

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ローウェル男爵家の娘キャロルは父親の継母エイダと、彼女が連れてきた連れ子のジェーン、使用人のハンナに嫌がらせされ、仕事を押し付けられる日々を送っていた。 そんなある日、キャロルはローウェル家よりもさらに貧乏と噂のアーノルド家に嫁に出されてしまう。 しかし婚約相手のブラッドは家は貧しいものの、優しい性格で才気に溢れていた。 また、アーノルド家の人々は家事万能で文句ひとつ言わずに家事を手伝うキャロルに感謝するのだった。 一方、キャロルがいなくなった後のローウェル家は家事が終わらずに滅茶苦茶になっていくのであった。 ※4/20 完結していたのに完結をつけ忘れてましたので完結にしました。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...