16 / 36

別人に変貌した幼馴染④

 謎な反応を見せるレオナールの目を見て尋ねた。


「ですが私がこうして眠っていて、その横にいたということは、私に何かあったんでしょう」

「まあ……」

「ねぇ、何があったか教えて!」

「忘れてしまいたい記憶だろうから、無理に知る必要はないよ」

「いいえ。それを聞けば、何か思い出せるかもしれないもの。ねぇ、お願い」
 レオナールをじっと見つめていると、ようやく観念した様子で打ち明けた。

 だがしかし彼の報告は、百パーセント私の記憶にない、でたらめ話だ。

「──俺たちの婚約発表をしたその帰りに、エメリーの乗っていた馬車が事故に遭って」

「──事故?」

「馬車の車輪が外れてしまって……」

「記憶にないわ……(リアルに)」
 一体全体、何がどうなっているのだ⁉
 彼は、てんで想定外のことを言い出した。

「忘れ去りたいほど怖かっただろう。あの日のことは思い出さなくていから。あのとき、エメリーの傍にいなくて申し訳なかった」

 目を瞬かせる私に、彼がかすれる声でひたすら謝り続ける。

「本当にごめん……ごめん、ごめん──……」
 強盗に襲われた件について、彼は……彼なりに責任を感じているのかもしれない。
 
 あの日、馬車の御者台と後方に、計四人も従僕が乗っていたのだ。

 正直いって、四人は過剰な配置だ。

 その光景を見れば、重要人物が馬車に乗っていると思われてもおかしくない。
 実際は偽装婚約者だけど。

 私の乗る馬車が盗賊に目を付けられた原因。それはおそらく過剰な警護が元凶だろう。
 金品を求める悪党から見れば、厳戒警護を要する重要人物が乗っていると思ったに違いない。

 偽装婚約を疑われないために、レオナールがわざわざ大袈裟に護衛を増やしたのが裏目に出たのかもしれない。

「エメリーが記憶を失ったのも、あの日のことも、全部俺が悪かったんだ。謝っても許してもらえないだろうが、本当にすまない」
 レオナールが意気消沈する。

 彼って……普通にしていると本当に真面目なのね、と初めて知った。

「よく覚えていませんが、事故なんですからあなたが責任を感じる必要はございませんわ」

「いいや、あの馬車はラングラン公爵家の馬車だったから、全部俺が悪いんだ」

「仕方のないことですわ」

「事故の記憶はないだろうが、あのときエメリーを一人にしてごめんな。怖かっただろう。俺が一緒にいたかった」

 なんて返答していいか困惑してしまい、しばらくの間、沈黙すると、彼が口を開く。

「でも今は凄く幸せに感じているんだ。記憶喪失で不安になっているエメリーに、俺は不謹慎だな」

「……まあ、そうですね」

「でもごめん。俺の愛しい天使の目が覚めたんだから、喜びを我慢できない」
 にっこりと彼が笑う。

 こらっ! レオナールも嘘をぶっ込みすぎだ。
 出会いは八年前で合っているけど、私たちの関係は、互いにいがみ合う犬猿の仲が正しい。

 はッ! そうだ! 彼の魂胆が見えてきたわ。
 私を騙して、このまま「婚約者のふり」を続けさせる気なのだろう。

 記憶を失った私は、彼の思う壺に懐柔できるのだから、なかなかの好都合だ。

 そして彼にとって、「偽婚約者がいらなくなったタイミング」で、婚約破棄する気と見破った!

 独身貴族を謳歌したい彼にとって、記憶がない私は、むしろ好条件のままなのか……。

「レオナール様」

「違うよ。いつもはレオナールって、呼んでくれていたんだ。俺のことは呼び捨てでいいから」

「はあ……そうですか」

「やはりエメリーは、まだどこか痛いのだろうか? 顔色がすぐれないけど」

「体調は問題ないですが……」

「じゃぁ、寝起きのせいか」

「いいえ。頭の中が混乱しているせいですわ」

「だったら俺が、二人の出会いから今日までのことを説明してあげる」
 そんなのいるかぁぁーー! 余計に混乱するだろう!
 そう思った私は、彼を丁重に追い返す。

「ごめんなさい、じっくりと頭を整理したいから、今は一人きりになりたいわ」

「それならエメリーが気にならないように、俺は部屋の隅にいるから」
 彼がにこりと笑う。

 何を笑っているんだ!
 頼むから帰ってくれと、もう一押しする。

「急に現れたカッコイイ婚約者が近くにいると、恥ずかしくて……。落ち着かなくて困ります。着替えもできないし」

「うぅーーん、今更恥ずかしがる関係でもないんだけどね。エメリーのことならなんでも知っているし」

 これまで私の裸を見てきた口ぶりで言った。
 嘘をつけ! 見せていないだろうと、枕で叩きそうになる。

「レオナールはよくても、私にとっては初対面なんです。近くにいられると凄く気になるから」

「ああーそっか。それは配慮が足りなくて申し訳ない。エメリーにとっては、僕は初対面だよね。ごめん、ごめん」

「こちらこそ、レオナールを覚えていなくてごめんなさい」

「俺のことは気にしなくていいんだ。本当は帰りたくないけど、今日のところは大人しく帰るしかないか」

「ええ、そうしてください。お願いします」

「分かったよ。じゃぁ、また明日も来るから」
 
 私を見つめる彼が、小さく手を振りながら部屋から出ていった。


 よかったと安堵する一方、独りきりになった私は絶賛混迷の渦へと迷い込む。

 ちょと、ちょっと、ちょと!
 一体、彼は何者に変わったのだろう? 別人が出てきたわ!
 何がどうなって、こんな状況になっているのか、さっぱり理解ができない。

 どっどどどうしよう! 変な嘘をついたせいで、めちゃくちゃ窮地に陥っている気がする。

 かつての「婚約者のふり」だって、彼のご都合主義のとんでもない約束だった。

 だけど、それでも、ちゃんと「ふり」の終わりが存在した。
 まあ、契約期間五年という許しがたいほど長い拘束ではあったけれど、それでも期限はきちんと設定されていたのだ。

 それなのに、「兄の教えに従い」すっとぼけた私が、「記憶のないふり」をしたばかりに、リアルな婚約者に置き換えられた。

 リアルな婚約者に期限なんぞ、ないに決まっている。
 婚約者の行末が、自ずと夫婦に繋がるのは常識だ。

 そんなわけで、婚約期間は彼の気持ち次第だろう。必然的に……。



♡o。+..:*♡o。+..:*♡o。+..:*♡o。+..:*♡o。+..:*♡o。+..:*
■作者からのお知らせ■

本作をお読みいただきありがとうございます!!
たくさんの読者様が、本作を読んでくださり、心から喜んでおります! また、感想もありがとうございます!!

本作に用意していた元々のタイトルでは、アルファポリス様だけ文字数の制限で使用できず、急遽タイトルを変更することになったことで、作品自体も短編アレンジにて投稿しておりました。

原作は【溺愛】という言葉を含めているのですが、短編に変更したこちらの作品は、【逃がしてくれません】に変えております。
短編と言う表現では、現在の約2万5千文字くらいで終えるつもりでおりました。

ですが、この作品の【溺愛】と【騙し合い】の部分も是非お届けしたいと思い、このまま続けます。

原作を短編に修正している兼ね合いで、今のところアルファポリス様オンリーのオリジナルの結末です。

タイトルでは◆短編となっておりますが、実際は、◆中編ということで投稿いたします。
中編版って、なんだか変な響きですね……(´-﹏-;)

様子をみて、タイトルの記載を変更するかもしれません(_ _;)。。

すでに原稿の修正を終えたため、確認しながら順次投稿して参りますので、最後までお付き合いいただけると大変嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします m(_ _)mペコリ

 瑞貴



感想 8

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。 そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定