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異世界、始めてみました。
出てくるの遅くない?
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目を開けると、そこは不思議な空間だった。
壁はなく、ひたすら青い空間に、薄っすらと真珠色の雲がフワフワと浮いていてる。
一瞬、空の上にいるのかと思ったけれど、自分が浮いてる感じも、足元に地面も広がっていない。
とにかく不思議な空間は、何処となくトムに案内された作業小屋の地下室の雰囲気に似ていた。
「気づいた?」
突然、後ろからゆるりと抱き着かれて、私は飛び上がりそうになった。
「忘れてて、ゴメンね。本当はこっちに来る前に挨拶しとくべきだったんだけど、ついね」
私の背中に頭を押し付けてるのか、声が少しくぐもっていて、モゴモゴと動く感触が伝わってくる。
「誰?」
後ろから私を羽交い締めにしてる相手は、どうやら私より背が低いらしい。
声からして女の子のようだけど、この世界での知り合いはトムしかいないから、全く誰だか検討がつかない。
「私は、グリンダ。この世界の神の一人で、全ての植物を支配する木の神」
そう言われて、私は思わず振り向こうとすると、カサカサとした何かで両目を覆われてしまった。
「申し訳ないけど、私の姿を見るのはやめて頂戴。いつだったか、唯一神信仰の移住者に刺されたことがあってね。
それ以来、ファーストコンタクトは移住者たちを拘束させて貰ってるの」
別に刺されても死なないんだけどね、と、クスクス笑う神さまの声は、その辺にいる女の子の何も変わらないように思える。
「神さま、私の世界の私の国は多神教ですよ」
呆れ気味に言うと、そんなこと知ってると、すぐ返された。
それでもルールはルールらしい。
まぁ、拘束されてるからといって危害を加えられる訳ではないので、私は大人しく肩の力を抜いた。
「グリンダって呼んで頂戴、セラサクヤ。貴女は私の弟子が選んだ移住者だから、特別にそう呼んでも構わないわ」
「・・・・・・弟子?もしかして、コノハさんのこと?」
コノハさん、神さまの弟子だったんだ。
実は結構、偉い人なのかもしれない。いや、そりゃ異世界にわざわざ移住者を探しに行くような人が実力がないとは思わなかったけど、まさか神さまの弟子とは驚きだ。
「あの子が選んだ移住者さん。
もっと早く会う予定だったんだけど、挨拶が遅れてごめんなさい」
「さっきも仰ってましたけど、何で遅れたんです?」
「・・・・・・最近、移住者が全然来なかったから、挨拶するの忘れてたの」
おーい、神様。それで大丈夫なのか?
思わず脱力しかけた足を叱咤し、何とか立ったままの姿勢を保つ。
「貴女もまさか、一日目で魔力使い果して倒れると思ってなかったし」
「え、私、倒れたの?」
「そうよ、魔法の使い過ぎでね。
あんなに気持ちよく魔法を使う子は、初めて見たわ。
魔法の絨毯の発想も素敵ね、あれは流行るんじゃない?」
ケタケタ笑われながら、グリンダ様が言う。その振動で、目の前のカサカサが揺れて少しむず痒い。
「魔力を使い果たすと、極度に眠くなるからね。死にはしないけど、気をつけなさい。まだちゃんと、コントロール出来ないウチは歌も歌わない方がいいでしょう」
「歌?」
「絨毯に乗ってる時に、歌ってたでしょう?あれ、無意識に魔力を使っていたのよ」
なるほど、気持ち良く歌ってたのが原因なのね。
確かに、歌いながら空を飛ぶイメージしまくってた。だから、あれだけアクロバットな動きをしたのか。
「まぁ、貴女はあの子から魔法の才能を貰ってるから、これからも頻繁に倒れることはないと思うけど・・・・・・魔法の本が心配で倒れちゃいそうだからね」
「トムのこと?」
「そうよ。あの無機質な魔法の塊に、よく感情なんて芽生えさせたわね。しかも一日もかけずに」
「えぇ、だって、トムってそういう成長する系の魔法なんじゃないの?」
「まさか。あの子が何て言ったか知らないけれど、魔法が意思を持つなんて本来ありえないわ。
人工知能だっけ?それだって、貴女の世界でもあんな風に怒ったりしないでしょ?」
確かにスマホの人工知能は、あんな風に怯えたり怒ったりしないけど、魔法だしそんなもんだと思っていた。
「全部、貴女のイマジネーションからそうなったのよ。
正直、貴女の世界の移住者は食文化の貢献とか本当に助かってるんだけど、魔法を進化させるなんて聞いたことないわ」
楽しそうに笑う声は、コノハさんの笑い声と似ている。いや、コノハさんがグリンダ様に似たのかもしれない。
「これからも、好きな事をしなさい。
セラサクヤ、貴女の趣味のガーデニングでもいいし、トムが言っていたように魔法薬作りに精を出してもいいわ」
何でもいいのよ。
この世界にいるだけで、世界は影響を受けるのだから。
グリンダ様は静かに言って、私の身体から離れていった。
それでも目だけは覆われたままで、思わず手を伸ばすと、そこには艶やかな葉の感触。カサカサとした音は、葉のずれる音だったらしい。
「さて、そろそろ目覚める時間ね。
私を笑わせてくれたお礼に、少し魔力を解放してあげるわ」
目の当たりが、ほのかに暖かくなっていく。カサカサと音がなくなり、急に明るくなった目の前にクラクラした。
「トムくんにもよろしね」
能天気な声に、振り向きそうになるのを堪えつつ私は背後に手を振った。
神様相手に後ろ向きで手を振るなんて失礼かもしれないけど、グリンダ様はきっと気にしないだろう。
明るくなる景色と、クリアになる意識に私は一度目を閉じた。
そして、
「マスター!!!!」
目を覚ましたら、何故か美少年から美青年に成長していたトムに、抱き抱えられながら顔を覗き込まれてた。
・・・・・・思わず殴ってしまった私は、悪くないと思う。多分。
壁はなく、ひたすら青い空間に、薄っすらと真珠色の雲がフワフワと浮いていてる。
一瞬、空の上にいるのかと思ったけれど、自分が浮いてる感じも、足元に地面も広がっていない。
とにかく不思議な空間は、何処となくトムに案内された作業小屋の地下室の雰囲気に似ていた。
「気づいた?」
突然、後ろからゆるりと抱き着かれて、私は飛び上がりそうになった。
「忘れてて、ゴメンね。本当はこっちに来る前に挨拶しとくべきだったんだけど、ついね」
私の背中に頭を押し付けてるのか、声が少しくぐもっていて、モゴモゴと動く感触が伝わってくる。
「誰?」
後ろから私を羽交い締めにしてる相手は、どうやら私より背が低いらしい。
声からして女の子のようだけど、この世界での知り合いはトムしかいないから、全く誰だか検討がつかない。
「私は、グリンダ。この世界の神の一人で、全ての植物を支配する木の神」
そう言われて、私は思わず振り向こうとすると、カサカサとした何かで両目を覆われてしまった。
「申し訳ないけど、私の姿を見るのはやめて頂戴。いつだったか、唯一神信仰の移住者に刺されたことがあってね。
それ以来、ファーストコンタクトは移住者たちを拘束させて貰ってるの」
別に刺されても死なないんだけどね、と、クスクス笑う神さまの声は、その辺にいる女の子の何も変わらないように思える。
「神さま、私の世界の私の国は多神教ですよ」
呆れ気味に言うと、そんなこと知ってると、すぐ返された。
それでもルールはルールらしい。
まぁ、拘束されてるからといって危害を加えられる訳ではないので、私は大人しく肩の力を抜いた。
「グリンダって呼んで頂戴、セラサクヤ。貴女は私の弟子が選んだ移住者だから、特別にそう呼んでも構わないわ」
「・・・・・・弟子?もしかして、コノハさんのこと?」
コノハさん、神さまの弟子だったんだ。
実は結構、偉い人なのかもしれない。いや、そりゃ異世界にわざわざ移住者を探しに行くような人が実力がないとは思わなかったけど、まさか神さまの弟子とは驚きだ。
「あの子が選んだ移住者さん。
もっと早く会う予定だったんだけど、挨拶が遅れてごめんなさい」
「さっきも仰ってましたけど、何で遅れたんです?」
「・・・・・・最近、移住者が全然来なかったから、挨拶するの忘れてたの」
おーい、神様。それで大丈夫なのか?
思わず脱力しかけた足を叱咤し、何とか立ったままの姿勢を保つ。
「貴女もまさか、一日目で魔力使い果して倒れると思ってなかったし」
「え、私、倒れたの?」
「そうよ、魔法の使い過ぎでね。
あんなに気持ちよく魔法を使う子は、初めて見たわ。
魔法の絨毯の発想も素敵ね、あれは流行るんじゃない?」
ケタケタ笑われながら、グリンダ様が言う。その振動で、目の前のカサカサが揺れて少しむず痒い。
「魔力を使い果たすと、極度に眠くなるからね。死にはしないけど、気をつけなさい。まだちゃんと、コントロール出来ないウチは歌も歌わない方がいいでしょう」
「歌?」
「絨毯に乗ってる時に、歌ってたでしょう?あれ、無意識に魔力を使っていたのよ」
なるほど、気持ち良く歌ってたのが原因なのね。
確かに、歌いながら空を飛ぶイメージしまくってた。だから、あれだけアクロバットな動きをしたのか。
「まぁ、貴女はあの子から魔法の才能を貰ってるから、これからも頻繁に倒れることはないと思うけど・・・・・・魔法の本が心配で倒れちゃいそうだからね」
「トムのこと?」
「そうよ。あの無機質な魔法の塊に、よく感情なんて芽生えさせたわね。しかも一日もかけずに」
「えぇ、だって、トムってそういう成長する系の魔法なんじゃないの?」
「まさか。あの子が何て言ったか知らないけれど、魔法が意思を持つなんて本来ありえないわ。
人工知能だっけ?それだって、貴女の世界でもあんな風に怒ったりしないでしょ?」
確かにスマホの人工知能は、あんな風に怯えたり怒ったりしないけど、魔法だしそんなもんだと思っていた。
「全部、貴女のイマジネーションからそうなったのよ。
正直、貴女の世界の移住者は食文化の貢献とか本当に助かってるんだけど、魔法を進化させるなんて聞いたことないわ」
楽しそうに笑う声は、コノハさんの笑い声と似ている。いや、コノハさんがグリンダ様に似たのかもしれない。
「これからも、好きな事をしなさい。
セラサクヤ、貴女の趣味のガーデニングでもいいし、トムが言っていたように魔法薬作りに精を出してもいいわ」
何でもいいのよ。
この世界にいるだけで、世界は影響を受けるのだから。
グリンダ様は静かに言って、私の身体から離れていった。
それでも目だけは覆われたままで、思わず手を伸ばすと、そこには艶やかな葉の感触。カサカサとした音は、葉のずれる音だったらしい。
「さて、そろそろ目覚める時間ね。
私を笑わせてくれたお礼に、少し魔力を解放してあげるわ」
目の当たりが、ほのかに暖かくなっていく。カサカサと音がなくなり、急に明るくなった目の前にクラクラした。
「トムくんにもよろしね」
能天気な声に、振り向きそうになるのを堪えつつ私は背後に手を振った。
神様相手に後ろ向きで手を振るなんて失礼かもしれないけど、グリンダ様はきっと気にしないだろう。
明るくなる景色と、クリアになる意識に私は一度目を閉じた。
そして、
「マスター!!!!」
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