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魔女の仕事、挑戦してみました。
元気ハツラツ・・・・・・とはいかない
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ぬくぬくと、柔らかなベッドの中は心地良い。
シーツはツルツルしていて、夏の夜だというのにクーラーがなくても汗ばむこともなく、私は気持ちよく寝ていた。
夜遅くまで外を出歩き、しかも服を泥だらけにしながら花を籠一杯に摘んで、疲労の限界を感じながら何とか風呂に入り、髪も乾かさずにベッドに入った昨晩。
あっという間に寝入った私は、少なくとも昼までは寝るつもりでいた。
それなのに、スヤスヤと寝ていた私を突然殴りつけるような衝撃が襲った。
「うぅっ!!」
なんの前置きもなく襲ってきたのは、布団が吹っ飛ぶという駄洒落を地でいくような強風だった。
悲鳴とか、文句とか、何か色々言いたいことがあったけど、あまりの出来事に一瞬、頭がついていかない。
強風が治ったころ、飛ばされていた布団が、私の上にポスンと落ちる。
そして、その隙間からトムの姿が見えた。
あぁ、お前かトム。
「眠い」
「朝です。まずは朝食を」
本の姿のトムが、爽やかな声で言った。
紳士な彼はよっぽどのことがない限り、私の寝室に入ってこないのだけど、そんなトムがわざわざ私を叩き起こすということは、きっとよっぽどのことなんだろう。
まぁ、よっぽどのことだろうと何だろうと、朝食を勧める余裕があるなら、まだ寝かせて欲しい。
「まだ、太陽も登ってないわよ」
「だからこそ、ですよ」
相変わらず、トムは本の姿で器用に笑う。
何でもいいけど、もうちょっと優しく起こしてくれてもいいんじゃない?
溜息と共に、身体にムチを打ちながら、ズルズルと足を床に降ろす。
髪はボサボサだし、布団は吹っ飛ぶし、少なくとも幸先の良い一日ではなさそうだ。
いつもより簡単な朝食をすませ、トムに促されて進んだ先は、やっぱり作業小屋の地下だった。
私の魔法でピカピカに磨き上げた地下室には、昨日摘んだ月光袋の花がバケツに無造作に放り込まれている。
ちゃんとした花瓶に入れれば可愛いのだろうけど、昨日はそんな余裕はなかった。
それに、トムからはこの花を使って魔法薬を作ると聞いていたので、必要最低限にしか処置はしていない。
昨晩の月の名残か、明るい地下室の中でもはっきり分かるくらい、月光袋が光っている。
「ここに来たってことは、魔法薬作り?」
「勿論です。月光袋の光がなくなる前に作らなくては!」
トムの張り切った声に、私はまた溜息をついてしまった。
分かりきっていたけど、聞かずにはいられない。
朝早く起こされて、疲労も取れてないし、更に言えば睡眠不足。
少しくらい、いじけたって良いと思う。
けれど、いじけるより先に魔法薬をチョチョイと作って、また寝たい。
それくらい眠い。
月光袋の効能は、昨日の晩に花を摘みながら聞いていた。
曰く、この世界の月は魔力の塊である魔石で出来ているらしく、その光にも強力な力を秘めていてるので、月光袋のように月の光を蓄積する植物は貴重なんだそうだ。
因みに、月の花に至っては、もはや幻レベルらしいので、本当に家の外には持ち出さないでくれとトムに必死にお願いされている。
閑話休題。
とりあえず、その月の光がまだ灯ってる間に調合するのが、月光袋の基本的な取り扱いだそうだ。
この薬草には、細胞を活性化させる効果があるらしく、飲むと一日くらい寝なくても元気百倍になるそうだ。
何だか自分で言ってて、今一番私に必要な物な気がする。
そんなエナジードリンクもどきの魔法薬の作り方は、今までで一番簡単な、砂糖と水で煮るだけと、子供でも出来そうな作業だった。
けれど、これが何故か一番難しかった。
「熱しすぎです」
「えぇ?じゃあ・・・・・・」
「あぁ、今度は冷やしすぎ」
「うーん」
「十字に三回、次は六角形に回して」
「・・・・・・」
「ほら、マスター。もっと優しく。猫を撫でるように!」
「・・・・・・いま、私、初めて心が折れそうだわ」
猫を撫でるってどんな例えだ。
魔法薬作りは楽しい。その意見が覆りそうなくらい、今回は繊細で難しい!
結局、何回か失敗を繰り返して、それでも満足する出来になった魔法薬は、小瓶にして十本。
籠に入れて、更に両手で抱えて持ってきた花の数に対して、小瓶十本というのは多いのか、少ないのか。
外に出れば、お日様はとっくに真上まで登っていて、何とも言えない切なさが込み上げてくる。
さて、これが幾らで売れるのかしら。
「ねぇ、トム。ついでだから、庭に生えてるハーブも売れないかしら?」
悪魔のように伸びるハーブを、私は毎日摘んでは干し、あるいは料理に使っているんだけど、さすがに一人暮らしで使う量は限られているので、干した大量のハーブがキッチンに納められている。
「良いのでは?
この世界にはない、異世界の植物ですが、どうやら魔力を微量に含んでいるみたいですし、流行れば良い香辛料になる物や嗜好品になるかと思いますので」
「え、魔力、含んでるの?」
「えぇ、特に最近飲んでるハーブティー・・・・・・ミントでしたっけ?あれは、身体の中の悪いモノを払う効果があるようなので、魔除けの飲み物としても良いかと」
「マジかよミント」
どうやら、界渡りをしたせいで、私の故郷の植物は進化したらしい。
ちゃんと調べたら、もしかしたら庭の向日葵達も、何かしら効果を持っているのかもしれない。
ちょっとした小遣い稼ぎくらいの気持ちで提案したんだけど、これはなかなか良いんじゃない?
シーツはツルツルしていて、夏の夜だというのにクーラーがなくても汗ばむこともなく、私は気持ちよく寝ていた。
夜遅くまで外を出歩き、しかも服を泥だらけにしながら花を籠一杯に摘んで、疲労の限界を感じながら何とか風呂に入り、髪も乾かさずにベッドに入った昨晩。
あっという間に寝入った私は、少なくとも昼までは寝るつもりでいた。
それなのに、スヤスヤと寝ていた私を突然殴りつけるような衝撃が襲った。
「うぅっ!!」
なんの前置きもなく襲ってきたのは、布団が吹っ飛ぶという駄洒落を地でいくような強風だった。
悲鳴とか、文句とか、何か色々言いたいことがあったけど、あまりの出来事に一瞬、頭がついていかない。
強風が治ったころ、飛ばされていた布団が、私の上にポスンと落ちる。
そして、その隙間からトムの姿が見えた。
あぁ、お前かトム。
「眠い」
「朝です。まずは朝食を」
本の姿のトムが、爽やかな声で言った。
紳士な彼はよっぽどのことがない限り、私の寝室に入ってこないのだけど、そんなトムがわざわざ私を叩き起こすということは、きっとよっぽどのことなんだろう。
まぁ、よっぽどのことだろうと何だろうと、朝食を勧める余裕があるなら、まだ寝かせて欲しい。
「まだ、太陽も登ってないわよ」
「だからこそ、ですよ」
相変わらず、トムは本の姿で器用に笑う。
何でもいいけど、もうちょっと優しく起こしてくれてもいいんじゃない?
溜息と共に、身体にムチを打ちながら、ズルズルと足を床に降ろす。
髪はボサボサだし、布団は吹っ飛ぶし、少なくとも幸先の良い一日ではなさそうだ。
いつもより簡単な朝食をすませ、トムに促されて進んだ先は、やっぱり作業小屋の地下だった。
私の魔法でピカピカに磨き上げた地下室には、昨日摘んだ月光袋の花がバケツに無造作に放り込まれている。
ちゃんとした花瓶に入れれば可愛いのだろうけど、昨日はそんな余裕はなかった。
それに、トムからはこの花を使って魔法薬を作ると聞いていたので、必要最低限にしか処置はしていない。
昨晩の月の名残か、明るい地下室の中でもはっきり分かるくらい、月光袋が光っている。
「ここに来たってことは、魔法薬作り?」
「勿論です。月光袋の光がなくなる前に作らなくては!」
トムの張り切った声に、私はまた溜息をついてしまった。
分かりきっていたけど、聞かずにはいられない。
朝早く起こされて、疲労も取れてないし、更に言えば睡眠不足。
少しくらい、いじけたって良いと思う。
けれど、いじけるより先に魔法薬をチョチョイと作って、また寝たい。
それくらい眠い。
月光袋の効能は、昨日の晩に花を摘みながら聞いていた。
曰く、この世界の月は魔力の塊である魔石で出来ているらしく、その光にも強力な力を秘めていてるので、月光袋のように月の光を蓄積する植物は貴重なんだそうだ。
因みに、月の花に至っては、もはや幻レベルらしいので、本当に家の外には持ち出さないでくれとトムに必死にお願いされている。
閑話休題。
とりあえず、その月の光がまだ灯ってる間に調合するのが、月光袋の基本的な取り扱いだそうだ。
この薬草には、細胞を活性化させる効果があるらしく、飲むと一日くらい寝なくても元気百倍になるそうだ。
何だか自分で言ってて、今一番私に必要な物な気がする。
そんなエナジードリンクもどきの魔法薬の作り方は、今までで一番簡単な、砂糖と水で煮るだけと、子供でも出来そうな作業だった。
けれど、これが何故か一番難しかった。
「熱しすぎです」
「えぇ?じゃあ・・・・・・」
「あぁ、今度は冷やしすぎ」
「うーん」
「十字に三回、次は六角形に回して」
「・・・・・・」
「ほら、マスター。もっと優しく。猫を撫でるように!」
「・・・・・・いま、私、初めて心が折れそうだわ」
猫を撫でるってどんな例えだ。
魔法薬作りは楽しい。その意見が覆りそうなくらい、今回は繊細で難しい!
結局、何回か失敗を繰り返して、それでも満足する出来になった魔法薬は、小瓶にして十本。
籠に入れて、更に両手で抱えて持ってきた花の数に対して、小瓶十本というのは多いのか、少ないのか。
外に出れば、お日様はとっくに真上まで登っていて、何とも言えない切なさが込み上げてくる。
さて、これが幾らで売れるのかしら。
「ねぇ、トム。ついでだから、庭に生えてるハーブも売れないかしら?」
悪魔のように伸びるハーブを、私は毎日摘んでは干し、あるいは料理に使っているんだけど、さすがに一人暮らしで使う量は限られているので、干した大量のハーブがキッチンに納められている。
「良いのでは?
この世界にはない、異世界の植物ですが、どうやら魔力を微量に含んでいるみたいですし、流行れば良い香辛料になる物や嗜好品になるかと思いますので」
「え、魔力、含んでるの?」
「えぇ、特に最近飲んでるハーブティー・・・・・・ミントでしたっけ?あれは、身体の中の悪いモノを払う効果があるようなので、魔除けの飲み物としても良いかと」
「マジかよミント」
どうやら、界渡りをしたせいで、私の故郷の植物は進化したらしい。
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