どんかん恋模様

大郷夢望

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決意

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私は、勇気を出すことに決めた。偽善と言われようとも、偽善の先にある私の気持ちを伝えよう。
「ねえ!」
一斉に全員が私の方を見る。ダメだ、怖い。でも、つたえなきゃ。今、先生を守れるのは私しかいない。その結果、私に悪口の矛先が移るなら、それだけでも先生を守ることになるから。
「先生、多分泣くつもりじゃなかったと思う。そういうタイプじゃないじゃん。あの先生は。それだけクラスのことを思ってくれてるんだよ。私たちをほんとに心配してくれてるんだと思う。だから…」
「だから、なに?」
割り込んできたのは女子グループのリーダー格。冷めきった目でこっちを見る。
「だから、謝りに行こうとでも言うわけ?まるで小学校だね。」 
「そ、れは。」
「図星でしょ、私は嫌なんだけど。」
だめだ、言葉がでない。違うって、謝りに行くのはそういうプライドみたいなの捨てなきゃいけないって。そう言わなきゃ、伝わらないのに。時間が止まってしまったように、声が出ない。ギュッと目をつぶる。何とか言葉をだそうと、目を開けた時
「行けばいーんじゃねーの?謝りに」
あまりに自然に、その声は後ろから聞こえてきた。聞き慣れたその声。振り返ると、そこに立っていたのは
みなっちだった。
「え…?」
なんで今、みなっちの声がしたんだろう。きっと気のせいだ。だって、みなっちはそういう人じゃなかったと思う。いつも、ニヤニヤしてて、周りのことなんてそんなに興味なくてどちらかというと傍観者。真ん中にたって何かを話すんじゃなくて、そういう人達を遠巻きに、眺める。きみは、そういう人じゃなかった?
「え…じゃなくて、そう言ってたのはお前じゃないの?」
不意のみなっちの問いに慌てて答える。
「そうだけど…」
わからない。なんできみは今、当たり前のように話していられるの?
「だからさぁ…あー、ちょっとこい!」
「は!?」
呆れたような顔をしたみなっちは、みんなが集まってるところから私を引き離していく。なんなんだろう。
「なんなの?みなっちはそういうことするキャラじゃないでしょ。」
「ああ、そうだ。」
「じゃあ、なんでいきなりあんなこと言い出したの。」
私は本当に理解出来なくて、思わず聞いた。
「こっちのセリフだ。逆になんでお前は声掛けたの。」
「なんでって…」
言えるわけない。あんなこと、人に知られたくはない。言い淀んでいると
「わかった、質問を変えよう。なんでお前はあそこまで震えながら、1人でこえをかけにいったの。」
冷静な、怖いほどに冷静なその言葉。反比例するように私の気持ちは高ぶっていった。
「そんなの、巻き込みたくないから!私の仲いい子たちが私の偽善の犠牲になるのなんか、見たくない!」
吐き出した自分の言葉に、自分で驚くけど止まらなかった。
「私が言えばそれで済む。誰かが犠牲にならないですむ。だから、周りに助けを求めちゃいけないの。」
「じゃあ、俺の一言は余計だったか?」
再び、不意をついてくるその言葉に、私は冷静になる。
「余計だったとかそういうのじゃなくて、巻き込まれて迷惑じゃないの?」
慎重に、言葉を選んで聞く。
「そう思ったら、そもそも関わったりしない。お前も言っただろ。そういうキャラじゃないって。」
冷静になった頭はまた混乱した。
「じゃあ、なんで…」
「別に、気まぐれだ。」
「絶対違うよね!?」
「それより、この状況をどうするかの方が大事じゃないか?」
言われて思い出した。今、絶賛私たちは注目の的。
先生のところにみんなを連れてかないといけなかったんだ。でも、私の言葉はみんなには届かなかった。いや、違う。届かなくても私が犠牲になる。そう決めたはず。だから、笑うんだ。無理にでも。
「そうだね。」
にっこり笑って、気持ちを殺して。そう、私が笑ってみんなに話せば誰も巻き込まれない。後ろを向いてみんなの方に向かって歩いていこうとした。
「だから、なんで自分が犠牲になろうとするの。」
足を止めて振り返るとみなっちは、人を小馬鹿にしたような目をして、言葉を続けた。
「俺に任せとけ。」
「何言って…」
「物わかりの悪いやつだな。俺がなんとかするって言ってんの。」
そのまま、私を追いやり、すたすたとみんなの方へ歩いていく。そして
「ちょっと聞いて欲しいんだけど、いい?」
みなっちは、自然体で言葉を紡いでいく。 
「先生も、多分ストレス溜まってんだよ。だから、それをちょっと大目に見てあげよう。俺らが大人になってさ。形だけでも謝ろう。そしたら丸く収まるんだから、な?」
みなっちの言葉は嘘だらけだ。思ってもないことをさも当たり前のように伝えてる。だからみんなが丸め込まれる。
「まあ、南野がそういうなら…」
「仕方ないな」
「先生に、借り作っとくか!」
「学級委員、あとは適当に謝るセリフ考えて。」 
「はいはい、じゃあいくよ。」
「「「「はーい」」」」
なんか、上手くまとまってしまった。私が思ってたのと違うけど、みなっちなりのやり方で。ああ、そうかこの人は
「助けてくれたんだ…」
きっと今、さっき私が話したことなんて誰も覚えていない。つまり、私が煙たがられて外されることもない。あいつは見抜いてたんだ。最初から、私が自分を犠牲にするつもりだったのを。
「ありがとう。」
そう、小さく声をかけると、
「別に、気まぐれって言ったろ。」
目をそらして、軽く赤くなった顔はすごくかわいかった。



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