13 / 15
トラウマ
しおりを挟む
◇
あの殺人鬼だ。ルーカスの両脚の腱を千切り、身体中の関節を砕いた。泣き叫ぶ子供を笑いながら切り刻んだ男だ。ここはあの拷問部屋だった。
「大人になってしまったけど相変わらず綺麗だね…」
舐めるような視線に肌が粟立つ。押し殺した声でルカは訊いた。
「なぜ生きている。捕えられたはずだ」
侍従長からそう聞いた。死刑になったと思っていた。
「すぐ釈放されたんだよ。知らなかった?」
奴は動揺するルカを楽しんでいる。ミランダがルカの手を握った。彼女を忘れていた。
「王妃様の兄上では?侯爵家に心を病んだ令息がいるって聞いたわ」
だから揉み消せたのか。王は知っていたのか。
「詳しいね。お会いできて光栄です。”お飾り”妃殿下」
ミランダの顔が強張った。
「ルーカス君と良い仲なんだって?じゃあ知ってるよね?8年前にさ…」
殺人鬼は語り出した。
♡
王妃様の兄は異常者だ。恍惚の表情で子供を壊した方法を吐いている。ルカがミランダの手をきつく握った。酷い。可哀想に。こんな傷を抱えて北の修道院に送られたのか。涙が出てきた。
「聞きたくなかったかな?恋人がこんなふうに…」
「お黙り!この変態っ!」
ミランダは大声で遮った。怒りで顔が熱い。
「そんなに解体したいなら肉屋にでもなれっ!令嬢に相手にされないから子供に走って!気持ち悪い!」
「な…」
変態に反論する間を与えない。
「欲望垂れ流しのド変態中年!王妃の威を借る腐れ外道!」
「小娘が!」
手にした杖を振りかざし、変態がミランダを打とうとした。彼女は身をすくめた。
「!」
ルカが杖を掴んだ。がっちりと握った手に血管が浮き出ている。彼は片手でへし折った。
「なんだ。こんなに弱かったのか」
◇
ルカは折れた杖を投げ捨てた。ミランダのお陰で落ち着けた。目の前にいるのは過去の恐怖だ。僕はもう7歳の子供じゃない。奴より大きく、強い。
「ひっ…」
今度は奴が後退る。ルカは作業台にあった拷問具の中のからペンチを取った。これで爪を剥がされたっけ。
「やめ…」
「僕も懇願したよ。止めて。許してって」
「!!」
奴が叫ぶ前にルカは顔に拳を叩き込んだ。倒れる前に胸ぐらを掴み両肩を外す。それから少年を縛りつけていたベッドに引き摺っていった。猿轡も縄もある。準備万端だ。
身体の痛みは消えても悪夢は続いた。目の前の殺人鬼に復讐したい。だが迷う自分もいる。ルカはペンチを見つめた。
「私がやるわ」
ミランダが包丁のような拷問具を取った。
「ルカは王太子になる人よ。汚れちゃだめ」
「ミランダ」
「大丈夫よ。こんな変態、殺しても。せいぜい修道院に行かされるくらいよ」
彼女は本気だ。ベッドに縛り付けられた奴は身を捩って足掻いた。
「さようなら。変態。あなたが地獄に落ちること祈るわ」
公爵令嬢はその細い両腕を振り上げた。
♡
アンは赤子を盗んだ罰で物置に閉じ込められていた。赤子の居場所をきつく問われたが、絶対に言わなかった。母は食事を与える事も禁じた。1週間以上、水と少しのパンしか食べていない。
さすがに空腹に耐えかね、侍女の目を盗んで脱出した。客間を覗くと母の食べ残しの菓子があった。それをカーテンの蔭で食べていると母が入ってきた。若い騎士もいる。
「それで?王妃の手下に王子を奪われたって?」
怒りを滲ませた声で母が問う。
「仕方なかったんです。王妃様の兄君の屋敷に向かいましたから。死んではいます」
「あの殺人鬼の。ミランダも処分できたのね。ベリー公爵に一泡吹かせられたわ」
母は騎士と別室に消えた。アンはびっくりした。兄様とミランダ様が。すぐに王太子宮に向かう。茂みから宮を覗くと、沢山の護衛風の人たちがいた。
「鍵が壊されている!」
「お2人はどこだ!?」
ダメだ。この人たちに言っても間に合わない。アンは白雪ならと馬屋に走った。
◆
ベリー公爵は久しぶり宮廷に顔を出した。知り合いと話し込んで帰りが遅くなった。車寄せに向かう途中、廊下で子供とぶつかった。もう9時過ぎだ。こんな時間に誰だと思ったら、第7王女殿下だ。王女は尻餅をついている。
「大丈夫ですかな?アン王女様」
「ええ。ごめんなさい。えーっと」
公爵の従者が王女を助け起こしながら教えた。
「ベリー公爵でございますよ」
「!」
王女はガシッと公爵の袖を掴んだ。驚く公爵に子供は助けを求めてきた。
「兄様とミランダ様が攫われたの!助けてください!」
♡
ベリー公爵はアンの話を真剣に聞いてくれた。白雪なら兄様をきっと見つけられる。今すぐ出発しないと間に合わない。だから馬屋に向かっていたと説明した。
「王女様は馬に乗れるのですか?」
足の遅いアンを従者に抱っこさせ、公爵は早足で馬屋に向かう。脚が悪そうなのに杖を使ってない。変なの。
「ポニーなら乗れるわ」
「…私が乗ります」
「ダメよ。白雪は兄様しか乗せないの。後を追いかけましょう」
馬屋に着いた。公爵が命じると、馬屋番はすぐに白雪とロシナンテに鞍をつけた。アンは白雪を見上げた。
「お願い。兄様を探して」
彼女は賢そうな瞳で見つめ返した。公爵はロシナンテに跨り前にアンを乗せる。そして従者に命じた。
「お前はミカエルに追いかけてこいと伝えろ!」
かっこいい。アンはときめいた。初恋かも。
月明かりの中、白雪と2人を乗せた雄馬は走り出した。
◆
ミカエルは焦った。計画が漏れていたのだ。このままでは確実に殿下と妹は殺される。駆けつけた王太子宮に手掛かりは無かった。今動かせる私兵で探すしかない。そこで指示を出していると、父の従者が飛び込んできた。
「父上がアン王女と?白雪で殿下を救出に向かった?」
何がなんだかさっぱり分からない。とにかく2頭の向かった方角に捜索隊を行かせた。
あの殺人鬼だ。ルーカスの両脚の腱を千切り、身体中の関節を砕いた。泣き叫ぶ子供を笑いながら切り刻んだ男だ。ここはあの拷問部屋だった。
「大人になってしまったけど相変わらず綺麗だね…」
舐めるような視線に肌が粟立つ。押し殺した声でルカは訊いた。
「なぜ生きている。捕えられたはずだ」
侍従長からそう聞いた。死刑になったと思っていた。
「すぐ釈放されたんだよ。知らなかった?」
奴は動揺するルカを楽しんでいる。ミランダがルカの手を握った。彼女を忘れていた。
「王妃様の兄上では?侯爵家に心を病んだ令息がいるって聞いたわ」
だから揉み消せたのか。王は知っていたのか。
「詳しいね。お会いできて光栄です。”お飾り”妃殿下」
ミランダの顔が強張った。
「ルーカス君と良い仲なんだって?じゃあ知ってるよね?8年前にさ…」
殺人鬼は語り出した。
♡
王妃様の兄は異常者だ。恍惚の表情で子供を壊した方法を吐いている。ルカがミランダの手をきつく握った。酷い。可哀想に。こんな傷を抱えて北の修道院に送られたのか。涙が出てきた。
「聞きたくなかったかな?恋人がこんなふうに…」
「お黙り!この変態っ!」
ミランダは大声で遮った。怒りで顔が熱い。
「そんなに解体したいなら肉屋にでもなれっ!令嬢に相手にされないから子供に走って!気持ち悪い!」
「な…」
変態に反論する間を与えない。
「欲望垂れ流しのド変態中年!王妃の威を借る腐れ外道!」
「小娘が!」
手にした杖を振りかざし、変態がミランダを打とうとした。彼女は身をすくめた。
「!」
ルカが杖を掴んだ。がっちりと握った手に血管が浮き出ている。彼は片手でへし折った。
「なんだ。こんなに弱かったのか」
◇
ルカは折れた杖を投げ捨てた。ミランダのお陰で落ち着けた。目の前にいるのは過去の恐怖だ。僕はもう7歳の子供じゃない。奴より大きく、強い。
「ひっ…」
今度は奴が後退る。ルカは作業台にあった拷問具の中のからペンチを取った。これで爪を剥がされたっけ。
「やめ…」
「僕も懇願したよ。止めて。許してって」
「!!」
奴が叫ぶ前にルカは顔に拳を叩き込んだ。倒れる前に胸ぐらを掴み両肩を外す。それから少年を縛りつけていたベッドに引き摺っていった。猿轡も縄もある。準備万端だ。
身体の痛みは消えても悪夢は続いた。目の前の殺人鬼に復讐したい。だが迷う自分もいる。ルカはペンチを見つめた。
「私がやるわ」
ミランダが包丁のような拷問具を取った。
「ルカは王太子になる人よ。汚れちゃだめ」
「ミランダ」
「大丈夫よ。こんな変態、殺しても。せいぜい修道院に行かされるくらいよ」
彼女は本気だ。ベッドに縛り付けられた奴は身を捩って足掻いた。
「さようなら。変態。あなたが地獄に落ちること祈るわ」
公爵令嬢はその細い両腕を振り上げた。
♡
アンは赤子を盗んだ罰で物置に閉じ込められていた。赤子の居場所をきつく問われたが、絶対に言わなかった。母は食事を与える事も禁じた。1週間以上、水と少しのパンしか食べていない。
さすがに空腹に耐えかね、侍女の目を盗んで脱出した。客間を覗くと母の食べ残しの菓子があった。それをカーテンの蔭で食べていると母が入ってきた。若い騎士もいる。
「それで?王妃の手下に王子を奪われたって?」
怒りを滲ませた声で母が問う。
「仕方なかったんです。王妃様の兄君の屋敷に向かいましたから。死んではいます」
「あの殺人鬼の。ミランダも処分できたのね。ベリー公爵に一泡吹かせられたわ」
母は騎士と別室に消えた。アンはびっくりした。兄様とミランダ様が。すぐに王太子宮に向かう。茂みから宮を覗くと、沢山の護衛風の人たちがいた。
「鍵が壊されている!」
「お2人はどこだ!?」
ダメだ。この人たちに言っても間に合わない。アンは白雪ならと馬屋に走った。
◆
ベリー公爵は久しぶり宮廷に顔を出した。知り合いと話し込んで帰りが遅くなった。車寄せに向かう途中、廊下で子供とぶつかった。もう9時過ぎだ。こんな時間に誰だと思ったら、第7王女殿下だ。王女は尻餅をついている。
「大丈夫ですかな?アン王女様」
「ええ。ごめんなさい。えーっと」
公爵の従者が王女を助け起こしながら教えた。
「ベリー公爵でございますよ」
「!」
王女はガシッと公爵の袖を掴んだ。驚く公爵に子供は助けを求めてきた。
「兄様とミランダ様が攫われたの!助けてください!」
♡
ベリー公爵はアンの話を真剣に聞いてくれた。白雪なら兄様をきっと見つけられる。今すぐ出発しないと間に合わない。だから馬屋に向かっていたと説明した。
「王女様は馬に乗れるのですか?」
足の遅いアンを従者に抱っこさせ、公爵は早足で馬屋に向かう。脚が悪そうなのに杖を使ってない。変なの。
「ポニーなら乗れるわ」
「…私が乗ります」
「ダメよ。白雪は兄様しか乗せないの。後を追いかけましょう」
馬屋に着いた。公爵が命じると、馬屋番はすぐに白雪とロシナンテに鞍をつけた。アンは白雪を見上げた。
「お願い。兄様を探して」
彼女は賢そうな瞳で見つめ返した。公爵はロシナンテに跨り前にアンを乗せる。そして従者に命じた。
「お前はミカエルに追いかけてこいと伝えろ!」
かっこいい。アンはときめいた。初恋かも。
月明かりの中、白雪と2人を乗せた雄馬は走り出した。
◆
ミカエルは焦った。計画が漏れていたのだ。このままでは確実に殿下と妹は殺される。駆けつけた王太子宮に手掛かりは無かった。今動かせる私兵で探すしかない。そこで指示を出していると、父の従者が飛び込んできた。
「父上がアン王女と?白雪で殿下を救出に向かった?」
何がなんだかさっぱり分からない。とにかく2頭の向かった方角に捜索隊を行かせた。
30
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
「地味で役立たず」と言われたので村を出たら、隣国で神扱いされました ──ヒトとして愛を掴みます──
タマ マコト
ファンタジー
辺境の村ロウエンで「地味で役立たず」と嘲られ、癒しの術師見習いを追放された少女リセル=フィーネ。
けれど彼女の力は、傷を治すのではなく——心の痛みをやわらげるという、誰にも理解されなかった奇跡だった。
雪の夜、孤独の中で小さな光を見つけたリセルは、信念だけを胸に隣国セレノアへ旅立つ。
そこで出会った青年騎士レオンと共に、彼女は“眠り続ける王子”の元へ導かれる。
誰にも届かなかった声が、初めて心を照らしたとき——
失われていた十年の眠りが覚め、静かな奇跡が始まる。
> 「癒すとは、誰かの痛みを“消す”ことじゃない。
その痛みに、ちゃんと触れること。」
リセルの小さな光が、やがて世界を変えていく──。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる