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魔法騎士
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今日、皇子とミナミとリコリスの3人は、ユリア姫にお呼ばれで王宮に来ていた。途中まで老師も一緒だったが、王との会議に行ってしまった。
先日の襲撃から2週間が経っている。王宮の修繕はほとんど終わり、以前と変わらぬ姿を取り戻していた。
「モーリー様がたいそうご活躍だったと聞いて。お怪我などはありませんでしたの?」
姫が顔を曇らせて訊く。怪我どころか敵を皆殺しにして、“黒い悪魔”の二つ名で呼ばれている。
「もちろんだ。姫もご無事で何よりだった」
「私は後宮の一番奥に避難しておりましたから。でも少し、モーリー様の雄姿を見てみたかったです」
子供は見ない方が良いとミナミは思った。相変わらず上品に茶を飲んでいるが、この男の正体は悪鬼羅刹なのだ。
瞳を潤ませて彼を見つめる姫の視界に、お供の女たちは入っていない。黙々と茶を飲み、菓子を食べていると、侍女が王からの伝言を伝えにきた。
「お父様がモーリー様をお呼びに?」
姫の機嫌が急降下する。だが父王の命に逆らえるわけもなく、近々また茶を飲むことを約束して3人は姫の部屋を辞した。
「何でしょうね?」
小姓に案内されながら、リコリスが訊く。
「あ、あれじゃない?褒美だよ。王様、そういうのきちんとしてるじゃん」
ミナミはうきうきと推測を述べた。金はいくらあっても困らないのだ。
「だと良いですね~!頑張った甲斐があります」
「…」
リコリスも笑顔だが、皇子は一人で難しい顔をしていた。
♡
「魔法士を育成したい?」
「そうだ。先日の襲撃で国の根幹が揺らいだ。 魔法には魔法で対抗する」
不機嫌そうな皇子の問いに、王は重々しく答えた。褒美の話ではなくて、ミナミはがっかりした。
「俺にどうしろと言うのだ」
「魔法士育成計画に協力してほしい。具体的には魔法士の才能のある者の発掘と、教育だ」
王太子が真剣に答える。いつものチャラ男の雰囲気は封印している。
「我々が今考えているのは、平民から魔法の才能がある者を集め、魔法士として鍛える案だ。あるいは王立魔法学園で才ある貴族子弟を、宮廷魔法士団に取り立てる…どう思う?」
皇子は暫し考え、両方却下した。
「平民に忠君愛国を求めるのは難しい。と言って貴族の子弟も戦闘は無理だろう…一番、簡単なのは騎士だ」
「どういうことだ?」
騎士団長が訊いてくる。ミナミには何となく分かる。要はそこそこの魔力と腕っぷしがあればいいのだ。皇子はそれを説明する。
「王太子の護衛騎士を鍛えて分かった。騎士は身体強化しか使えないのではない。同時に魔法は使えないと思い込んでいるのだ。実際は両方使えるはずだ。…リコリス」
「はっはい!?」
急に話を振られて女騎士の声が裏返る。
「お前は身体強化しか使えなかったな。そして今は属性魔法も同時に操れている」
「はいっ!宮様とミーナ様の特訓のお陰ですっ!」
「おい、基礎は儂が教えたろうが」
老師がひがんで口を挟んだ。リコリスはぺろっと舌を出して可愛くごまかす。
先日の彼女の戦闘を直に見た騎士団長は納得した。
「つまり、騎士たちに魔法を会得させることは可能だと?」
「そうだ。おそらくあの魔法士たちより強くなる。“魔法騎士”と呼んでも良いだろう」
魔法騎士という今までにない階級。この男が、それを確実に作り出すだろう。新しい歴史が始まる予感に皆は押し黙った。
「…500人の魔法騎士を育て上げるのに何年かかる?」
重い空気の中、王が口を開いた。
「3カ月。長くて半年だな。但し、決死の覚悟で臨んでもらう」
「じゃあ、引き受けてくれるんだね?」
王太子が嬉しそうに確認する。皇子も微苦笑を浮かべて頷き、差し出された手を握った。
「ちょっと待ったー!!」
ミナミが御前だというのも忘れて叫ぶ。彼女の無礼に慣れた王は許した。
「何だ?」
「報酬の話を忘れてますよ!」
真面目な雰囲気が一瞬で壊れる。皇子は深いため息をついた。3カ月も稼ぎ頭を拘束するのだ。それなりに払ってもらわないと。金庫番は頭の中でそろばんを弾いた。
♡
皇子は“魔法騎士育成計画”の総合指南役となった。計画のトップは老師と騎士団長だ。ミナミとリコリスは助手的な立場なので、勝手に“副長”と名乗ることにした。
全ての騎士団員に再度検査を義務付け、正確な魔力量と属性を調べる。適正と本人の資質、希望等を考慮して魔法騎士団の1期生を編成した。
「1000人を超えた?」
騎士団長との打ち合わせで、入団希望者が思ったより多いことを告げられた。
「襲撃事件の噂が広まった。お前たちが戦うのを録画した者がいたらしい。水晶球は押収したが遅かった」
「多すぎるな…。魔法の教師役が足りん」
皇子も希望者のリストを見ながら考え込んだ。老師と宮廷魔法士団の生き残り30人で魔法の基礎を教える予定だったのだ。500人でも多いくらいだ。
「いっそ、魔法学園の教師にも協力を頼むかの?学園長は知り合いじゃから話はできるぞ」
老師が提案する。王太子が通っているという学校だ。ミナミの興味津々レーダーが動く。
「学園に行くの?私も付いてって良い?」
「何じゃ。急にやる気になったのか」
ミナミは老師と皇子のお供で、憧れの王立魔法学園に行くことになった。こちらの世界の学校。否が応でも期待が膨らんだ。
今日、皇子とミナミとリコリスの3人は、ユリア姫にお呼ばれで王宮に来ていた。途中まで老師も一緒だったが、王との会議に行ってしまった。
先日の襲撃から2週間が経っている。王宮の修繕はほとんど終わり、以前と変わらぬ姿を取り戻していた。
「モーリー様がたいそうご活躍だったと聞いて。お怪我などはありませんでしたの?」
姫が顔を曇らせて訊く。怪我どころか敵を皆殺しにして、“黒い悪魔”の二つ名で呼ばれている。
「もちろんだ。姫もご無事で何よりだった」
「私は後宮の一番奥に避難しておりましたから。でも少し、モーリー様の雄姿を見てみたかったです」
子供は見ない方が良いとミナミは思った。相変わらず上品に茶を飲んでいるが、この男の正体は悪鬼羅刹なのだ。
瞳を潤ませて彼を見つめる姫の視界に、お供の女たちは入っていない。黙々と茶を飲み、菓子を食べていると、侍女が王からの伝言を伝えにきた。
「お父様がモーリー様をお呼びに?」
姫の機嫌が急降下する。だが父王の命に逆らえるわけもなく、近々また茶を飲むことを約束して3人は姫の部屋を辞した。
「何でしょうね?」
小姓に案内されながら、リコリスが訊く。
「あ、あれじゃない?褒美だよ。王様、そういうのきちんとしてるじゃん」
ミナミはうきうきと推測を述べた。金はいくらあっても困らないのだ。
「だと良いですね~!頑張った甲斐があります」
「…」
リコリスも笑顔だが、皇子は一人で難しい顔をしていた。
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「魔法士を育成したい?」
「そうだ。先日の襲撃で国の根幹が揺らいだ。 魔法には魔法で対抗する」
不機嫌そうな皇子の問いに、王は重々しく答えた。褒美の話ではなくて、ミナミはがっかりした。
「俺にどうしろと言うのだ」
「魔法士育成計画に協力してほしい。具体的には魔法士の才能のある者の発掘と、教育だ」
王太子が真剣に答える。いつものチャラ男の雰囲気は封印している。
「我々が今考えているのは、平民から魔法の才能がある者を集め、魔法士として鍛える案だ。あるいは王立魔法学園で才ある貴族子弟を、宮廷魔法士団に取り立てる…どう思う?」
皇子は暫し考え、両方却下した。
「平民に忠君愛国を求めるのは難しい。と言って貴族の子弟も戦闘は無理だろう…一番、簡単なのは騎士だ」
「どういうことだ?」
騎士団長が訊いてくる。ミナミには何となく分かる。要はそこそこの魔力と腕っぷしがあればいいのだ。皇子はそれを説明する。
「王太子の護衛騎士を鍛えて分かった。騎士は身体強化しか使えないのではない。同時に魔法は使えないと思い込んでいるのだ。実際は両方使えるはずだ。…リコリス」
「はっはい!?」
急に話を振られて女騎士の声が裏返る。
「お前は身体強化しか使えなかったな。そして今は属性魔法も同時に操れている」
「はいっ!宮様とミーナ様の特訓のお陰ですっ!」
「おい、基礎は儂が教えたろうが」
老師がひがんで口を挟んだ。リコリスはぺろっと舌を出して可愛くごまかす。
先日の彼女の戦闘を直に見た騎士団長は納得した。
「つまり、騎士たちに魔法を会得させることは可能だと?」
「そうだ。おそらくあの魔法士たちより強くなる。“魔法騎士”と呼んでも良いだろう」
魔法騎士という今までにない階級。この男が、それを確実に作り出すだろう。新しい歴史が始まる予感に皆は押し黙った。
「…500人の魔法騎士を育て上げるのに何年かかる?」
重い空気の中、王が口を開いた。
「3カ月。長くて半年だな。但し、決死の覚悟で臨んでもらう」
「じゃあ、引き受けてくれるんだね?」
王太子が嬉しそうに確認する。皇子も微苦笑を浮かべて頷き、差し出された手を握った。
「ちょっと待ったー!!」
ミナミが御前だというのも忘れて叫ぶ。彼女の無礼に慣れた王は許した。
「何だ?」
「報酬の話を忘れてますよ!」
真面目な雰囲気が一瞬で壊れる。皇子は深いため息をついた。3カ月も稼ぎ頭を拘束するのだ。それなりに払ってもらわないと。金庫番は頭の中でそろばんを弾いた。
♡
皇子は“魔法騎士育成計画”の総合指南役となった。計画のトップは老師と騎士団長だ。ミナミとリコリスは助手的な立場なので、勝手に“副長”と名乗ることにした。
全ての騎士団員に再度検査を義務付け、正確な魔力量と属性を調べる。適正と本人の資質、希望等を考慮して魔法騎士団の1期生を編成した。
「1000人を超えた?」
騎士団長との打ち合わせで、入団希望者が思ったより多いことを告げられた。
「襲撃事件の噂が広まった。お前たちが戦うのを録画した者がいたらしい。水晶球は押収したが遅かった」
「多すぎるな…。魔法の教師役が足りん」
皇子も希望者のリストを見ながら考え込んだ。老師と宮廷魔法士団の生き残り30人で魔法の基礎を教える予定だったのだ。500人でも多いくらいだ。
「いっそ、魔法学園の教師にも協力を頼むかの?学園長は知り合いじゃから話はできるぞ」
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