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12-③
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12-③
「え!? ちょっと……、大丈夫……?」
インターホンを押してからすぐにドアを開けた花音は、そこにいた僕の姿を見て、言葉を失いかけた。
「ああ。それより遅れてごめん」
「う、うん、それは全然いいんだけど……」
時刻はとっくに十八時を回り、目安で決めていた約束の時間は大幅に過ぎていた。しかし道中にスマートフォンを見ても花音からの連絡はなく、おおよその原因と考えられる空模様も相まって、その点は問題にはならなかった。
「お風呂準備してあるから、そのまま入る?」
「ああ、そうする」
なんとも味気ない流れから、最初のステップが動き出す。できるだけ家の中を濡らさないようにしながら、かつて何度か使ったことのある脱衣所に直行した。
「着替えはお兄ちゃんのでいい?」
「うん、ありがとう。下着も借りていいか?」
「わかった。一緒に置いておくね」
花音が脱衣所から去ったのを見計らって、シャワーを浴びた。軽く頭や身体を流し、湯船に浸かる。夏なので設定温度が低いというのもあるが、全く温かみを感じなかった。ぬるま湯とすら言い難い液体の方舟は、雨水の手触りを思い出させる。激しい音と共に強く打ちつけながら、芯に染み渡ってくる直線的な流動体。景色を消し、音響を遮り、あらゆる事理を無に帰する雑多な透明帯。
それは、人間の本能そのものだった。
「花音、俺の服ってどうした?」
脱衣所に置かれていた修一の服を着てリビングに戻り、無機質な口調で質問を飛ばす。
「洗濯機入れといたよ。なぜか下着だけなかったけど……」
テレビもつけずにただソファに座っていた花音は、僕のことをずっと待っているようだった。
「いいよ、自分で持って帰るから。修一の服だけ次の日曜に返す」
「え、でも……」
僕が身体を拭いたものとは別のバスタオルに包まれていたバッグを見つけ、中が開けられていないことを確認する。
「……わかった。じゃあ、何か温かい飲み物でも……」
「いや、いい。それより花音も入ってこいよ」
「え、……もう?」
「ああ。入るなら早い方がいいだろ?」
「あ、ああ、そういうことか。ごめん。じゃあ入ってくる」
そう言って立ち上がり、脱衣所へ歩き出した。僕の前を通った後に何度か視線を飛ばしてきたが、僕が動き出さないことを悟ると、諦めて一人で脱衣所に入った。
花音がシャワーを浴び始めたことを確認すると、できるだけ音をたてないように脱衣所に入った。洗濯機の中から僕の服を掴み出し、リビングに戻ろうとした。
「湯加減、どうだった……?」
シャワーの音が止み、中から声が聞こえてくる。余計に物音に対して神経を尖らせた僕は、自分でも実感がないほど慎重にドアを開け、脱衣所を抜け出した。
リビングに戻り、包んであったバスタオルで軽く全体を拭いてから、バッグを開けた。中にあった所持品の安否を確認しつつ、花音がまだもう少しかかりそうなことを吟味した上で、彼女の下穿きを手に取った。
目の前に広げ、濡れた感触を指先で嗜む。裏返したりして、隅々まで耳目を絶やさない。布の質感は、彼女の肌を思い起こさせるには充分だった。いくら花音を目の前にしても、これさえあれば、彼女が僕のものを穿いていることを思い返せば、ここをやり過ごすには充分だった。
下穿きを修一の服の右ポケットに入れ、花音が入浴を済ますのを待った。テレビもつけず、窓の外を見るわけでもなく、ただひたすら、脱衣所の方に目を向けていた。
「ごめん、お待たせ」
僕の使ったバスタオルで髪の毛を拭きながら、部屋着姿の花音がそこから出てくる。僕の向けている視線に多少驚いていたが、まだ高鳴りの方が勝っているようだった。
「先、部屋行ってるから」
「え……?」
この家の間取りはだいたい把握しているので、早速花音の部屋に行こうとした。しかし花音の前を通ると手を掴まれ、行く手を阻まれる。
「ね、ねえ……、もう、始めるの……?」
今まで何度も繋いできた右手と左手が、微かな力で持ち堪えている。その力を引き剥がすのは、息をするよりも簡単だった。
「何か他にしたいことあるのか?」
「え、えっと……、そういうわけじゃ……」
落とした花音の視線に合わせ、僕も床のフローリングを見てみる。前に来たときよりも、若干色が滲んでいる気がした。
「……わかった。じゃあ、私もすぐに行く」
踵を返して、脱衣所に入っていく。おそらくバスタオルを置いてドライヤーで髪を乾かしたりするのだろう。
宣言通り先に花音の部屋に入ると、想像通りと言っていいのかはわからないが、女子高生の女の子の部屋という雰囲気は感じ取れた。修一と上下だった二段ベッドはなくなり、その片割れと思われる花音のベッドだけが中心に据えられていた。同じように全体がなんとなく桃色を纏った部屋は、修一の存在を完全に忘れていた。壁紙や家具類がその色を持っているのではない。むしろこの部屋は、本当にこの年頃の人間が住処としているのかと信じ難いほど、簡素で物が少なかった。それは家全体でもそうだったが、スクールバッグや制服、その他花音の数少ないあらゆる持ち物が、僕の飾り気のない持ち物類とどこか対を成しており、やはりここは女の子の部屋であり家なのだと実感した。
ただ、腰を下ろした花音のベッドの肌触りは、自分の部屋のものと大差はなかった。
「待たせてごめんね」
花音が部屋に入ってくる。自分の家なのに音を立てないようにゆっくりドアを開け、ベッドに座っている僕を見て、学習机に備え付けられた椅子に座った。
「こっち来なよ」
「う、うん」
少し間を空けて椅子から立ち上がり、僕の隣に座った。僕が花音を見続けているのに対し、花音は俯いて、敷布団の純朴な模様に視線を泳がせている。
「……先週の土曜日は、こうなれるなんて思いもしなかったな」
「先週の土曜日?」
花音は右手の人差し指を、模様に沿うように左右に動かしている。ちょうど僕の左足の小指から十センチくらいのところで折り返し、自分の右足の小指で跳ね返らせてから、また僕の小指に近づいてくる。
「ああ、水族館行った日か」
折り返す境界線で指を止め、花音は視線を僕に向けた。身体全体を二十センチほど、僕の方に寄せる。
「実はその日の夜、お母さんに頼んでみたんだ。隆也くんと二人になれる時間が欲しいって」
指が再び花音の右足に戻り、それからはこちらに近付いてくることはなかった。なので今、僕たちの境界線がどこにあるかはわからない。
「そしたら今日、都合つけてくれたんだ。本当は出勤時間ももっと遅いはずなのに、お母さん、何もかも察してくれたみたいで」
身体ごと、花音は僕の方に傾けてきた。段々と息遣いが乱れ始め、一本の髪の毛が僕の腿に落ちる。
「昼にもね、文子さんから連絡来たんだ」
その言葉を聞いたとき、初めて下半身に反応を覚えた。
「隆也くん、今日のこと話したでしょ? 突然『緊張するだろうけど頑張って! 絶対、忘れられない日になるから』なんてメッセージ来たから、最初は混乱しちゃったよ」
チャンスだった。向こうがその気で居てくれるうちに、残り物を処理しなければならない。
「あの人はやっぱり、俺たちの味方だったんだな」
右手をポケットに突っ込み、左手を傾いてくる花音の身体に移らせた。
「隆也くん……」
左手に感じる靭やかな骨格ではなく、右手に感じる質素な布地が、沈黙していた局部を屹立へと導く。
「準備いいか?」
「え? ちょ、ちょっとまだ……」
「どうした?」
思わぬ邪魔が入ったため、右手を強く握り締めて高揚を維持した。
「もっとなんていうか、それまでにやるべきことが……」
「……必要か?」
花音は押し黙った。そうしている間にも、右手の拳からは力が抜け落ちていく。
「……でも、隆也くんがそうしたいなら……」
「よし。じゃあ下を脱いでくれ」
花音はゆっくりと上半身の服に手をかける。
「いや、上はいい。下だけでいいから」
「え……? う、うん、わかった」
少し恥ずかしそうに手を下半身に移らせ、ゆっくりと滑らせて、下穿きを露わにする。
「これも脱ぐ……?」
「ああ、頼む」
下穿きに手をかけ、またゆっくりと滑らせる。その速度が織り成される間、僕の身体は終始揺すりを抑えられなかった。
「じゃあ、開いて待っててくれ」
「う、うん……」
僕も自分の下半身に手をかけ、ポケットを手に届く範囲に留めた状態で、なんとか見られるほどに勃ち上がった肉棒を花音の前に現す。
「じゃあいくぞ」
「え……!? ま、まださすがに……」
「は?」
その瞬間、肉棒から硬さが落ちた。
「いくらなんでもいきなりは……」
花音は躊躇しながら、ゆっくりと股を閉じる。
「なら、ちょっと見せてくれないか?」
「う、うん」
股の前に顔を近付ける。
「恥ずかしい……」
花音の膣は渇いていた。真っ直ぐ生える毛の下の宮中は、貞操帯さながらの堅さを誇っている。
「痛いか?」
「うん……」
指で触れてみても、中に挿れるまでに様々な箇所で引っかかる。これでは仮に勃起状態に戻したとしても、僕たちの目的が果たされることはない。
「ならこれで……」
「あっ……」
二、三度舌で大きく舐めずり、さらに執拗に唾を付着させて強引に湿らせた。
「よし、これでやってみよう」
「ね、ねえ隆也くん」
右手をもう一度ポケットに入れて下半身を刺激していると、花音は神妙な表情を浮かべた。
「たぶん私、血、出ないと思うんだけど……、それはその、別のときに間違えて違うもの挿れて、それで破れちゃっただけだから……」
肉棒が使える状態まで回復したことを確認して、花音の股を大きく開いた。
「わかった。じゃあ、挿れるぞ。外に出すからゴムはなくていいだろ?」
「う、うん」
先端が自分の唾の湿り気に触れてから、一気に中に押し込んだ。
だが花音は、苦しそうな唸りを漏らした。
「痛いのか?」
「……うん」
腰の動きを止めると共に、肉棒も萎んでいった。右手の質感も、既に機能を失っている。
「……もう無理だな」
肉棒を膣から抜き、ティッシュで軽く拭いてから身支度を整えていると、その下半身に花音が抱きついてきた。
「隆也くん、本当にごめん……。全部私が悪いの……」
股に顔を押し付けて、花音は言葉を並べる。その一つ一つが、今までにないほど花音の口から零れ落ちていた。
「服、日曜のシフトのときに返すから」
そう言って、花音をできるだけ優しく横たえさせて、ベッドから立ち上がった。花音が瞼を押し当てた部分が、失禁したような染みになっている。
「……ねえ、何か落ちたよ」
花音の声を聞いて振り返ると、いつの間にかポケットから落ちたかの下穿きが、花音の右手に添えられていた。
「……ああ、それ、風呂場に落ちてたんだ。……花音のだろ?」
矢のように、その言葉が口から飛んでいった。
「……」
花音は何も答えない。当然である。何しろそれは、花音のものではないのだから。
「……うん、そうだった。ごめんね。気持ち悪かったでしょ?」
しかし、花音は僕の裏切りを受け入れた。
「それ、渡してくれないか?」
「え……?」
花音の意向に乗じて、追い打ちをかける。
「洗って修一のと一緒に日曜に返す。ダメか?」
ダメなはずがない。花音はもう、その決断をとっくに下している。
「……わかった」
顔を俯かせたまま、右手を差し出す。それを受け取って無造作にバッグの中に入れると、花音は再び鼻をすする音を発し始めた。
「……鍵、開けたままでいいよ」
潰れた声で、そう呟いた。これ以上ここにいることで余計に花音を苦しめることになるのは、今の僕でも解った。
「ああ、ありがとう。……悪かったな、花音」
体育座りで脚に顔を埋める花音を背に、帰宅の途に就く。部屋を出た瞬間、花音は声を上げて泣き叫んだ。十秒間それを聞いていたが、お腹の音が鳴ったためその場を後にした。
帰る道中、バッグの中に入れたあの下穿きを手に取った。質感は降りつける雨の情景を甦らせ、再び下半身へと蒸発する。今でも四、五回の反復運動で、四度目の絶頂へ容易に辿り着ける。
それ故に、朝の陽ざしに満たされた楽園は、今や足枷以外の何物でもない。
「え!? ちょっと……、大丈夫……?」
インターホンを押してからすぐにドアを開けた花音は、そこにいた僕の姿を見て、言葉を失いかけた。
「ああ。それより遅れてごめん」
「う、うん、それは全然いいんだけど……」
時刻はとっくに十八時を回り、目安で決めていた約束の時間は大幅に過ぎていた。しかし道中にスマートフォンを見ても花音からの連絡はなく、おおよその原因と考えられる空模様も相まって、その点は問題にはならなかった。
「お風呂準備してあるから、そのまま入る?」
「ああ、そうする」
なんとも味気ない流れから、最初のステップが動き出す。できるだけ家の中を濡らさないようにしながら、かつて何度か使ったことのある脱衣所に直行した。
「着替えはお兄ちゃんのでいい?」
「うん、ありがとう。下着も借りていいか?」
「わかった。一緒に置いておくね」
花音が脱衣所から去ったのを見計らって、シャワーを浴びた。軽く頭や身体を流し、湯船に浸かる。夏なので設定温度が低いというのもあるが、全く温かみを感じなかった。ぬるま湯とすら言い難い液体の方舟は、雨水の手触りを思い出させる。激しい音と共に強く打ちつけながら、芯に染み渡ってくる直線的な流動体。景色を消し、音響を遮り、あらゆる事理を無に帰する雑多な透明帯。
それは、人間の本能そのものだった。
「花音、俺の服ってどうした?」
脱衣所に置かれていた修一の服を着てリビングに戻り、無機質な口調で質問を飛ばす。
「洗濯機入れといたよ。なぜか下着だけなかったけど……」
テレビもつけずにただソファに座っていた花音は、僕のことをずっと待っているようだった。
「いいよ、自分で持って帰るから。修一の服だけ次の日曜に返す」
「え、でも……」
僕が身体を拭いたものとは別のバスタオルに包まれていたバッグを見つけ、中が開けられていないことを確認する。
「……わかった。じゃあ、何か温かい飲み物でも……」
「いや、いい。それより花音も入ってこいよ」
「え、……もう?」
「ああ。入るなら早い方がいいだろ?」
「あ、ああ、そういうことか。ごめん。じゃあ入ってくる」
そう言って立ち上がり、脱衣所へ歩き出した。僕の前を通った後に何度か視線を飛ばしてきたが、僕が動き出さないことを悟ると、諦めて一人で脱衣所に入った。
花音がシャワーを浴び始めたことを確認すると、できるだけ音をたてないように脱衣所に入った。洗濯機の中から僕の服を掴み出し、リビングに戻ろうとした。
「湯加減、どうだった……?」
シャワーの音が止み、中から声が聞こえてくる。余計に物音に対して神経を尖らせた僕は、自分でも実感がないほど慎重にドアを開け、脱衣所を抜け出した。
リビングに戻り、包んであったバスタオルで軽く全体を拭いてから、バッグを開けた。中にあった所持品の安否を確認しつつ、花音がまだもう少しかかりそうなことを吟味した上で、彼女の下穿きを手に取った。
目の前に広げ、濡れた感触を指先で嗜む。裏返したりして、隅々まで耳目を絶やさない。布の質感は、彼女の肌を思い起こさせるには充分だった。いくら花音を目の前にしても、これさえあれば、彼女が僕のものを穿いていることを思い返せば、ここをやり過ごすには充分だった。
下穿きを修一の服の右ポケットに入れ、花音が入浴を済ますのを待った。テレビもつけず、窓の外を見るわけでもなく、ただひたすら、脱衣所の方に目を向けていた。
「ごめん、お待たせ」
僕の使ったバスタオルで髪の毛を拭きながら、部屋着姿の花音がそこから出てくる。僕の向けている視線に多少驚いていたが、まだ高鳴りの方が勝っているようだった。
「先、部屋行ってるから」
「え……?」
この家の間取りはだいたい把握しているので、早速花音の部屋に行こうとした。しかし花音の前を通ると手を掴まれ、行く手を阻まれる。
「ね、ねえ……、もう、始めるの……?」
今まで何度も繋いできた右手と左手が、微かな力で持ち堪えている。その力を引き剥がすのは、息をするよりも簡単だった。
「何か他にしたいことあるのか?」
「え、えっと……、そういうわけじゃ……」
落とした花音の視線に合わせ、僕も床のフローリングを見てみる。前に来たときよりも、若干色が滲んでいる気がした。
「……わかった。じゃあ、私もすぐに行く」
踵を返して、脱衣所に入っていく。おそらくバスタオルを置いてドライヤーで髪を乾かしたりするのだろう。
宣言通り先に花音の部屋に入ると、想像通りと言っていいのかはわからないが、女子高生の女の子の部屋という雰囲気は感じ取れた。修一と上下だった二段ベッドはなくなり、その片割れと思われる花音のベッドだけが中心に据えられていた。同じように全体がなんとなく桃色を纏った部屋は、修一の存在を完全に忘れていた。壁紙や家具類がその色を持っているのではない。むしろこの部屋は、本当にこの年頃の人間が住処としているのかと信じ難いほど、簡素で物が少なかった。それは家全体でもそうだったが、スクールバッグや制服、その他花音の数少ないあらゆる持ち物が、僕の飾り気のない持ち物類とどこか対を成しており、やはりここは女の子の部屋であり家なのだと実感した。
ただ、腰を下ろした花音のベッドの肌触りは、自分の部屋のものと大差はなかった。
「待たせてごめんね」
花音が部屋に入ってくる。自分の家なのに音を立てないようにゆっくりドアを開け、ベッドに座っている僕を見て、学習机に備え付けられた椅子に座った。
「こっち来なよ」
「う、うん」
少し間を空けて椅子から立ち上がり、僕の隣に座った。僕が花音を見続けているのに対し、花音は俯いて、敷布団の純朴な模様に視線を泳がせている。
「……先週の土曜日は、こうなれるなんて思いもしなかったな」
「先週の土曜日?」
花音は右手の人差し指を、模様に沿うように左右に動かしている。ちょうど僕の左足の小指から十センチくらいのところで折り返し、自分の右足の小指で跳ね返らせてから、また僕の小指に近づいてくる。
「ああ、水族館行った日か」
折り返す境界線で指を止め、花音は視線を僕に向けた。身体全体を二十センチほど、僕の方に寄せる。
「実はその日の夜、お母さんに頼んでみたんだ。隆也くんと二人になれる時間が欲しいって」
指が再び花音の右足に戻り、それからはこちらに近付いてくることはなかった。なので今、僕たちの境界線がどこにあるかはわからない。
「そしたら今日、都合つけてくれたんだ。本当は出勤時間ももっと遅いはずなのに、お母さん、何もかも察してくれたみたいで」
身体ごと、花音は僕の方に傾けてきた。段々と息遣いが乱れ始め、一本の髪の毛が僕の腿に落ちる。
「昼にもね、文子さんから連絡来たんだ」
その言葉を聞いたとき、初めて下半身に反応を覚えた。
「隆也くん、今日のこと話したでしょ? 突然『緊張するだろうけど頑張って! 絶対、忘れられない日になるから』なんてメッセージ来たから、最初は混乱しちゃったよ」
チャンスだった。向こうがその気で居てくれるうちに、残り物を処理しなければならない。
「あの人はやっぱり、俺たちの味方だったんだな」
右手をポケットに突っ込み、左手を傾いてくる花音の身体に移らせた。
「隆也くん……」
左手に感じる靭やかな骨格ではなく、右手に感じる質素な布地が、沈黙していた局部を屹立へと導く。
「準備いいか?」
「え? ちょ、ちょっとまだ……」
「どうした?」
思わぬ邪魔が入ったため、右手を強く握り締めて高揚を維持した。
「もっとなんていうか、それまでにやるべきことが……」
「……必要か?」
花音は押し黙った。そうしている間にも、右手の拳からは力が抜け落ちていく。
「……でも、隆也くんがそうしたいなら……」
「よし。じゃあ下を脱いでくれ」
花音はゆっくりと上半身の服に手をかける。
「いや、上はいい。下だけでいいから」
「え……? う、うん、わかった」
少し恥ずかしそうに手を下半身に移らせ、ゆっくりと滑らせて、下穿きを露わにする。
「これも脱ぐ……?」
「ああ、頼む」
下穿きに手をかけ、またゆっくりと滑らせる。その速度が織り成される間、僕の身体は終始揺すりを抑えられなかった。
「じゃあ、開いて待っててくれ」
「う、うん……」
僕も自分の下半身に手をかけ、ポケットを手に届く範囲に留めた状態で、なんとか見られるほどに勃ち上がった肉棒を花音の前に現す。
「じゃあいくぞ」
「え……!? ま、まださすがに……」
「は?」
その瞬間、肉棒から硬さが落ちた。
「いくらなんでもいきなりは……」
花音は躊躇しながら、ゆっくりと股を閉じる。
「なら、ちょっと見せてくれないか?」
「う、うん」
股の前に顔を近付ける。
「恥ずかしい……」
花音の膣は渇いていた。真っ直ぐ生える毛の下の宮中は、貞操帯さながらの堅さを誇っている。
「痛いか?」
「うん……」
指で触れてみても、中に挿れるまでに様々な箇所で引っかかる。これでは仮に勃起状態に戻したとしても、僕たちの目的が果たされることはない。
「ならこれで……」
「あっ……」
二、三度舌で大きく舐めずり、さらに執拗に唾を付着させて強引に湿らせた。
「よし、これでやってみよう」
「ね、ねえ隆也くん」
右手をもう一度ポケットに入れて下半身を刺激していると、花音は神妙な表情を浮かべた。
「たぶん私、血、出ないと思うんだけど……、それはその、別のときに間違えて違うもの挿れて、それで破れちゃっただけだから……」
肉棒が使える状態まで回復したことを確認して、花音の股を大きく開いた。
「わかった。じゃあ、挿れるぞ。外に出すからゴムはなくていいだろ?」
「う、うん」
先端が自分の唾の湿り気に触れてから、一気に中に押し込んだ。
だが花音は、苦しそうな唸りを漏らした。
「痛いのか?」
「……うん」
腰の動きを止めると共に、肉棒も萎んでいった。右手の質感も、既に機能を失っている。
「……もう無理だな」
肉棒を膣から抜き、ティッシュで軽く拭いてから身支度を整えていると、その下半身に花音が抱きついてきた。
「隆也くん、本当にごめん……。全部私が悪いの……」
股に顔を押し付けて、花音は言葉を並べる。その一つ一つが、今までにないほど花音の口から零れ落ちていた。
「服、日曜のシフトのときに返すから」
そう言って、花音をできるだけ優しく横たえさせて、ベッドから立ち上がった。花音が瞼を押し当てた部分が、失禁したような染みになっている。
「……ねえ、何か落ちたよ」
花音の声を聞いて振り返ると、いつの間にかポケットから落ちたかの下穿きが、花音の右手に添えられていた。
「……ああ、それ、風呂場に落ちてたんだ。……花音のだろ?」
矢のように、その言葉が口から飛んでいった。
「……」
花音は何も答えない。当然である。何しろそれは、花音のものではないのだから。
「……うん、そうだった。ごめんね。気持ち悪かったでしょ?」
しかし、花音は僕の裏切りを受け入れた。
「それ、渡してくれないか?」
「え……?」
花音の意向に乗じて、追い打ちをかける。
「洗って修一のと一緒に日曜に返す。ダメか?」
ダメなはずがない。花音はもう、その決断をとっくに下している。
「……わかった」
顔を俯かせたまま、右手を差し出す。それを受け取って無造作にバッグの中に入れると、花音は再び鼻をすする音を発し始めた。
「……鍵、開けたままでいいよ」
潰れた声で、そう呟いた。これ以上ここにいることで余計に花音を苦しめることになるのは、今の僕でも解った。
「ああ、ありがとう。……悪かったな、花音」
体育座りで脚に顔を埋める花音を背に、帰宅の途に就く。部屋を出た瞬間、花音は声を上げて泣き叫んだ。十秒間それを聞いていたが、お腹の音が鳴ったためその場を後にした。
帰る道中、バッグの中に入れたあの下穿きを手に取った。質感は降りつける雨の情景を甦らせ、再び下半身へと蒸発する。今でも四、五回の反復運動で、四度目の絶頂へ容易に辿り着ける。
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