21 / 21
終章
「月が、綺麗ですね。」
しおりを挟む
「あれ? 朱美、起きてたのか」
「はい。奏さん、起きちゃったんですね」
秋の深夜3時頃の夜空に、満月が浮かぶ。
満開という言葉を添えたくなるほど、綺麗な満月が、夜空で輝いている。
「もしかして、執筆していたのか?」
「はい。もうちょっとで完成だったので、思い切って仕上げちゃおうと思って」
「ったく、君には別の仕事もあるんだから、あまり無理するなよ?」
「とか言って、奏さんだって昨日、遅くまで起きてたじゃないですか」
漸く月日は矢のように過ぎていき、二人の人生も、それなりに変わった。
「体壊されて困るのはこっちなんですから」
「編集者みたいなことを言うんだな」
「何かおかしいですか?」
「……そうだった。君が相手だと、つい忘れてしまうよ」
奏はあれから小説家として、何作か新作を発表している。デビュー作ほどの話題を世間で独占するまでには至らなかったが、それでも一定の人気を保ち、現在も新作に取り掛かっている。
一方朱美は、小説家としてデビューする道ではなく、一旦は奏をサポートすることを選んだ。そのため、とある出版社に就職し、現在では奏の担当に就き、奏の側にいながら、数々の新しい作品を世に送り出している。その瞳の奥に、自らの夢を宿しながら。
「そういえば、帰ってからずっと読んでいたあの原稿は何だったんだ?」
「ああ、あれですか? あれ、今度の新人賞の候補作品なんですけど、その中でも私の一押しなんですよ。この永野華奈って人の作品」
「永野華奈? なんだろう、どこかで聞いたことある名だな。思い出せないけど」
「そのうちわかりますよ。だって、今回はきっと、本人が書いたんですから」
二人が所属していたあのサークルも、今では完全にかつての盛況を取り戻し、いつの間にか大学内でも有名なサークルへと発展した。部室も新しくなり、飛鳥渉や奏風朱悟に続けと、日々意欲的な創作活動が行なわれている。今度の朱美の出版社の新人賞の候補にも、一人の在校生の作品が名を連ねている。もちろん、朱美が名を挙げた作者とは別人だが。
「そういえば今度の新作って、どんなお話なんでしたっけ?」
「……君は一応、俺の担当だろう?」
「自分のやつに熱中しすぎて忘れちゃったんですよ」
「仕方ない、教えてやろう。今度の物語は、愛に飢える若者と、愛を乞う人妻の話だ」
「……よくわからないけどなんだか気味の悪い話だなあ。ってことは、一緒に書いてた群像劇の方はもう完成したんですね」
そう言うと朱美は、パソコンの前からベランダへ移動した。奏もそれに続く。
「ちなみに君のその小説は、いつから書き始めたんだ?」
「大学一年生のときの十一月からです。色々あったのはそうですけど、完成まで随分時間かかっちゃいましたね」
「人生なんてそんなものさ。それにしても、よくそんなにはっきりと覚えてるな」
「ええ。だって、そのときにどっちの題名も思い付いたんですから」
「題名? 何の話だ?」
「それはこれからのお楽しみにしてください」
その光景は、いつかの日のように、
「わかった。楽しみにしている」
「そうしてください」
綺麗、だった。
「あともう少ししたら、現れるんでしょうね」
「何がだ?」
「朝焼けですよ。きっと、とっても綺麗な」
奏が夜空を見上げる。
「でも今は、それに匹敵するものがあそこにあるだろう?」
朱美が夜空を見上げる。
「ふふっ。相変わらず、お好きなんですね」
二人の手が、自然と、一つになる。
夜空に浮かぶ、満開の月の光を浴びながら。
「月が、綺麗ですね。」
そう呟いた男の傍らには、先ほど、女の手によって完成した一つの紙の束が、そっと置かれている。表紙に印刷された題名が、二人と同じように、月の光を浴びている。
まるで、応えるように。
『死んでもいいわ。』
「はい。奏さん、起きちゃったんですね」
秋の深夜3時頃の夜空に、満月が浮かぶ。
満開という言葉を添えたくなるほど、綺麗な満月が、夜空で輝いている。
「もしかして、執筆していたのか?」
「はい。もうちょっとで完成だったので、思い切って仕上げちゃおうと思って」
「ったく、君には別の仕事もあるんだから、あまり無理するなよ?」
「とか言って、奏さんだって昨日、遅くまで起きてたじゃないですか」
漸く月日は矢のように過ぎていき、二人の人生も、それなりに変わった。
「体壊されて困るのはこっちなんですから」
「編集者みたいなことを言うんだな」
「何かおかしいですか?」
「……そうだった。君が相手だと、つい忘れてしまうよ」
奏はあれから小説家として、何作か新作を発表している。デビュー作ほどの話題を世間で独占するまでには至らなかったが、それでも一定の人気を保ち、現在も新作に取り掛かっている。
一方朱美は、小説家としてデビューする道ではなく、一旦は奏をサポートすることを選んだ。そのため、とある出版社に就職し、現在では奏の担当に就き、奏の側にいながら、数々の新しい作品を世に送り出している。その瞳の奥に、自らの夢を宿しながら。
「そういえば、帰ってからずっと読んでいたあの原稿は何だったんだ?」
「ああ、あれですか? あれ、今度の新人賞の候補作品なんですけど、その中でも私の一押しなんですよ。この永野華奈って人の作品」
「永野華奈? なんだろう、どこかで聞いたことある名だな。思い出せないけど」
「そのうちわかりますよ。だって、今回はきっと、本人が書いたんですから」
二人が所属していたあのサークルも、今では完全にかつての盛況を取り戻し、いつの間にか大学内でも有名なサークルへと発展した。部室も新しくなり、飛鳥渉や奏風朱悟に続けと、日々意欲的な創作活動が行なわれている。今度の朱美の出版社の新人賞の候補にも、一人の在校生の作品が名を連ねている。もちろん、朱美が名を挙げた作者とは別人だが。
「そういえば今度の新作って、どんなお話なんでしたっけ?」
「……君は一応、俺の担当だろう?」
「自分のやつに熱中しすぎて忘れちゃったんですよ」
「仕方ない、教えてやろう。今度の物語は、愛に飢える若者と、愛を乞う人妻の話だ」
「……よくわからないけどなんだか気味の悪い話だなあ。ってことは、一緒に書いてた群像劇の方はもう完成したんですね」
そう言うと朱美は、パソコンの前からベランダへ移動した。奏もそれに続く。
「ちなみに君のその小説は、いつから書き始めたんだ?」
「大学一年生のときの十一月からです。色々あったのはそうですけど、完成まで随分時間かかっちゃいましたね」
「人生なんてそんなものさ。それにしても、よくそんなにはっきりと覚えてるな」
「ええ。だって、そのときにどっちの題名も思い付いたんですから」
「題名? 何の話だ?」
「それはこれからのお楽しみにしてください」
その光景は、いつかの日のように、
「わかった。楽しみにしている」
「そうしてください」
綺麗、だった。
「あともう少ししたら、現れるんでしょうね」
「何がだ?」
「朝焼けですよ。きっと、とっても綺麗な」
奏が夜空を見上げる。
「でも今は、それに匹敵するものがあそこにあるだろう?」
朱美が夜空を見上げる。
「ふふっ。相変わらず、お好きなんですね」
二人の手が、自然と、一つになる。
夜空に浮かぶ、満開の月の光を浴びながら。
「月が、綺麗ですね。」
そう呟いた男の傍らには、先ほど、女の手によって完成した一つの紙の束が、そっと置かれている。表紙に印刷された題名が、二人と同じように、月の光を浴びている。
まるで、応えるように。
『死んでもいいわ。』
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編7が完結しました!(2026.1.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる