【大師匠は大嘘つき】〜俺はデタラメの剣術を教えたはずなのに、今や妹は剣聖と呼ばれています〜

鳥羽フシミ

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修行編

第30話 敗北を知りたい妹 〜破門〜 その2

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この国にとっては勝利と言う喜びを。そして英雄と呼ばれる少女にとっては絶望をもたらした終戦。もしこの戦さえなければ彼女と兄は、あの懐かしい思い出の詰まった故郷の村から出ていく事は無かったのだ……。


三年前のあの日。村を訪れた王宮からの使者に半ば無理矢理に王城に迎えられたレイラ。

そこには国王の、ある一つの思惑があった。

先の戦で王国が勝利を勝ち取ってから数ヶ月。勝利の立役者であるレイラがいつまでも自分のもとを訪れない事に国王は不安と焦りを感じていた。

それはたかが一人の少女ではあったが、先の大戦において国を導く求心力を完全に失ってしまった国王は、どうしても英雄レイラを自らの配下としてこの王都に迎え入れたかったのである。

あれ程の戦功を立てながら、いくら待てども王都に現れない英雄に業を煮やした国王は、王国中に触れ書きを出す。そして、とうとう山岳地帯の辺境の村オルマルにて英雄と呼ばれる少女の姿を発見するのである。


だが、事件は起きた。

謁見の間に通された英雄レイラは、あろう事か国王に対面するやいなや、突然その腰にぶら下げていた剣を抜き放ったのである。そして瞬時に王の座る玉座への階段を駈け上がると、瞬く間にその切っ先を国王の喉元に突きつけた。

「お前のせいで、兄は私の前から去っていった……」

感情を押し殺す様な冷たい声が、国王の耳元で囁かれた。

あまりにも突然の出来事に、身動き一つ取る間も無くレイラの蛮行を許してしまった護衛達。慌てて玉座へと駆け寄るが、既に年端も行かぬ少女に胸ぐらを掴まれた国王が玉座の上で剣を突きつけられていたのである。

玉座へと登る階段の下から、護衛達はただその様子をうかがうしかなかった。レイラは国王に剣を突きつけたまま、近付こうとする男達ををその鋭い眼光で押さえつけているからである。

「答えろ。カイル=バレンティンは何処へ行った?」

再び、レイラが王の耳元で囁いた。

他を射すくめるほどの少女の眼光と、迷う事無き剣先は、噂通りこの少女があの救国の英雄であることを意味していた。この場に集う護衛達はいずれも、この国の頂点を争う程の手練れ達。それがこの状況で一つも手を出せないとなれば、いくら国王とてこの無礼な少女に何も答えない訳にはいかなかった。

だが、王はそのカイル=バレンティンと言う男の名前に心当たりがない。

もちろんこの場を乗り切るだけなら、策を弄する事も出来た。しかし、帝国軍数千人の中に単身飛び込んで傷一つ負わなかったと噂の少女である。万が一。逆に恨みを買って他国に走られては、今度こそこの国が終わってしまうのだ。

――彼女は、なんとかしてこの国に留めておかなければならない。

だからこそ国王は、国中を探し周りレイラ=バレンティンと言う得体の知れない少女をこの場へと連れ出したのだ。

剣を突きつけられながらも、国王は今この場で少女を失う危険性を咄嗟に感じ取った。そこで懐柔の一手に出たのである。たかだか十五、六の小娘《こむすめ》である。一国を統べる自分の手にかかれば懐柔など容易い。国王はそう考えたのである。

しかし、国王にとって予想外だったのは。

「すまぬ。余《よ》はそのカイル=バレンティンと言う人物を知らないのだ――」

国王が最初に返したたったそれだけの言葉が、レイラの全ての力を一瞬にして奪ってしまった事であった。

胸ぐらを掴まれていた腕の力は抜け、国王の身体は再び玉座へと戻る。突きつけられていた剣は力なく少女の手から零《こぼれ》れ落ち、カランカランと音を立てて階段の下へと落ちて行った。

その瞬間、玉座の下で機会を伺っていた護衛達が再び武器を構えて王の目の前に立つレイラのもとへと詰め寄った。

彼女が剣を手放した今ならば――


それを好機と考えて、レイラの抵抗を警戒しながらもゆっくりと階段を登り始める護衛達。

しかし、護衛達が少女まであと数歩という所まで近づいた所で、国王がその右手にて護衛の動きを制したかと思うと、その場所に集う一同が思いもしなかった言葉を告げた。

「この少女は、紛いなりにも救国の英雄である。捕らえる事はまかりならん。これから余はこの英雄レイラ=バレンティンと二人だけで話がある。まずは奥の間に我々が語らうにふさわしい席を用意せよ!」
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