【大師匠は大嘘つき】〜俺はデタラメの剣術を教えたはずなのに、今や妹は剣聖と呼ばれています〜

鳥羽フシミ

文字の大きさ
61 / 96
武術大会編

第61話 帰ってきた兄 その6

しおりを挟む
「俺、あいつのこと知ってるぜ――」

テーブルの下を覗き込んだ俺に、エデンは珍しく真剣な面持ちで呟く様に言った。

「知ってるって……さっきの残念な女のことか?」

「うん、あいつが俺の兄貴をそそのかしたんだ。そして多分あいつが帝国の奴らも。おっさんも聞いたことぐらいあるだろ?傾国の魔女って名前ぐらいはさ――」

「まさか――あの短気な女が傾国の魔女なんて器かよ。」

俺はそう言い切ると、いつまでも床に座り込んでいるエデンに手を差し出すと、勢い良く椅子へと引っ張り上げた。

「チェッ、信じられないって言うんなら、それでもいいけどよ」

椅子についたエデンが舌打ちと共に不貞腐れた視線を俺に向けた。

エデンの言葉通り、俺だってもちろん噂ぐらいは聞いたことがある。今回の帝国の侵攻は裏で一人の女が糸を引いていたんじゃないかって言う、嘘のような本当のような出どころのはっきりしない噂だ。

しかし、噂はあくまで噂。

ましてや『傾国の魔女』と言えば、この異世界の歴史の中で度々登場する伝説の魔女。古代中国の殷王朝を滅亡へと導いた妲己《だっき》や日本における玉藻前《たまものまえ》の如き大悪女なのである。

「信じるも信じ無いも――ありゃそんな大層な女かい?人の話を盗み聞きした挙句に、コップの水を引っ掛けるんだぜ――」

俺は鼻で笑いながら言った。だって、そんな残念な女が『傾国の魔女』な理由がない。

「だから人違いだって。いくら小国だと言ってもさ、さすがにお前の親父や兄貴があんな女にそそのかされるはずが無いだろ?」

俺は、少しうなだれた様子のエデンに対して半ば説得でもするようにそう言い聞かせた。

後で思い起こせば、多分この時の俺は色々と頭に血が上っていたのだと思う。

「果たして本当に勘違いなのだろうか――」

結局そう思えたのは、散々な目にあった店を後にして濡れてしまった上着を夜風がかすめた時だった。

自分から父と母親を奪ったエデンにとってはまさに敵《かたき》とも言える女の顔を、果たして見間違えることがあるのだろうか。

俺は、思い出したくもない先ほどの出来事をもう一度頭の中で再生する。

だが、あまりにも突然の出来事だったので事細かな詳細は俺もほとんど覚えていない。気がつけば頭に水をかけられ罵声を浴びせられていたのだ。それも仕方のない事だろう。

ただ――それでも忘れられない言葉が一つ。確かあの少年は彼女のことを「エイドリアン」と、そう呼んでいた――

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...