【大師匠は大嘘つき】〜俺はデタラメの剣術を教えたはずなのに、今や妹は剣聖と呼ばれています〜

鳥羽フシミ

文字の大きさ
76 / 96
武術大会編

第76話 ドーマ対エデン その1

しおりを挟む
「始め!」

決勝戦の舞台の中央で、大きな掛け声と共に剣聖レイラはその手を大きく振り下ろす。

開始の合図と同時に、エデンとドーマが地面を蹴り一斉に飛び出した。

その瞬間。

観客の誰もが合図に合わせて同時に飛び出した両者が、舞台中央で激しくぶつかる様に見えた。

だが――実際には、先に仕掛けたのはドーマのほうである。

試合開始の掛け声がかかる以前から、その身体に身体強化魔法を付与し、そのスピードを出来うる限り高めていたドーマは、開始一瞬の一撃に全力を注ぎ込んだ。

レイラの手が振り降ろされたと同時に、極端に低い体制から正面に立つエデンへと飛びかかるその様は、まさに獲物へと飛びかかる獣のようである。

師であるエイドリアンから課せられた圧倒的な勝利。

その意味をドーマは瞬殺と理解して、彼女はこの決勝戦で対戦相手のエデンをその得意のスピードでねじ伏せるつもりなのだ。

だがその一瞬、エデンもまた手にした木の棒の先端を正面に向けて真っ直ぐ前へと踏み出した。
身体強化こそ使えずとも、彼にはカイルとともに学んだ《気》の技がある。
その“気”を足元から放出することで、初速だけならドーマを上回ることも可能なのだ。

結果――
開始直後、中央で交差するかに見えた二人の武器。

観客は、激突の音を待ったが、響いたのは――沈黙だった。

舞台中央に立っていたのは、棒をまっすぐ突き出したエデンただ一人。
一方のドーマは、攻撃の寸前、肌を撫でるような“得体の知れない何か”を感じ取り、咄嗟に後方へ跳んでいた。

刀を振るうことすらできなかった――。

「貴様……なんだ、その技は……!」

今もピリピリと肌に残る違和感。それはもしかしたら恐怖だったのでは無いか。そんな思考をドーマは無理やりに抑え込む。なぜならその時のエデンは殺気を全く放っていなかったからだ。

ならば、それは何なのだろうか? 

だが、今のドーマにまだそれを知ることは出来ない。

一方で飄々とした表情のエデンは、突き出した棒に牽制の余韻を残しながらドーマの問いに答える。

「さてね。技の名前は師匠から止められてるから言えないな。でもさ――見る人が見れば、分かるんじゃねぇの?」

エデンはそう言って笑った。そして視線の端でチラリと剣聖の姿を確認する。当然目は合わないが。それでも、剣聖の彼女ならば気がついているはずなのだ。

――今、エデンが使ったのは、“あの剣法”を。

千年の時をかけ、ただひたすらに敗北を求め続けた異端の剣聖“千年救敗”。

彼が生涯をかけて編み出した、決して負けるはずのない究極の剣法――《千年九剣》。

身体強化の魔法によって突然のスピードアップはドーマにとっては逆効果と言えた。それはまさに愚策中の愚策である。自らのスピードに感覚が追いつかずドーマの攻撃リズムが完全に乱れてしまったのだ。

それをエデンは第三層の『絶対分析』を使用することによって一手も打ち合うこと無く見抜いたのは見事と言うしかない。

そして、エデンはあえてその乱れたリズムに自分の攻撃を合わせることによって、ドーマに得体のしれない違和感を感じさせたのである。

――相手の乱れに、剣を合わせる。

もしエデンがドーマに対して教科書通りの攻撃しかけていらなら――ドーマは自らリズムのズレを感じ取り、すぐさまその違和感を修正していただろう。だが、エデンがあえて狂ったリズムに合わせたことにより、ドーマはその事に気づけなかったのだ。

そして――エデンは逆に相手にリズムを合わせることで、完全にドーマの攻撃リズムを潰してしまおうと考えているのだ。

さすがにこの作戦の真意を知ってしまえば、エデンの悪童っぷりが鼻につくかもしれない。しかし、これぞまさに千年救敗の剣法の真骨頂なのである

戦いそのものを制し、操作する。
知らぬ間に相手を死地へと誘う、悪辣にして精緻な剣法。

あまりに強すぎるがゆえに、世に出ることを許されなかった――禁忌の剣法。

……とはいえ。

(そんな裏設定、知る人ぞ知るって話だけどな)

エデンは肩をすくめ、小さく笑った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...