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武術大会編
第76話 ドーマ対エデン その1
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「始め!」
決勝戦の舞台の中央で、大きな掛け声と共に剣聖レイラはその手を大きく振り下ろす。
開始の合図と同時に、エデンとドーマが地面を蹴り一斉に飛び出した。
その瞬間。
観客の誰もが合図に合わせて同時に飛び出した両者が、舞台中央で激しくぶつかる様に見えた。
だが――実際には、先に仕掛けたのはドーマのほうである。
試合開始の掛け声がかかる以前から、その身体に身体強化魔法を付与し、そのスピードを出来うる限り高めていたドーマは、開始一瞬の一撃に全力を注ぎ込んだ。
レイラの手が振り降ろされたと同時に、極端に低い体制から正面に立つエデンへと飛びかかるその様は、まさに獲物へと飛びかかる獣のようである。
師であるエイドリアンから課せられた圧倒的な勝利。
その意味をドーマは瞬殺と理解して、彼女はこの決勝戦で対戦相手のエデンをその得意のスピードでねじ伏せるつもりなのだ。
だがその一瞬、エデンもまた手にした木の棒の先端を正面に向けて真っ直ぐ前へと踏み出した。
身体強化こそ使えずとも、彼にはカイルとともに学んだ《気》の技がある。
その“気”を足元から放出することで、初速だけならドーマを上回ることも可能なのだ。
結果――
開始直後、中央で交差するかに見えた二人の武器。
観客は、激突の音を待ったが、響いたのは――沈黙だった。
舞台中央に立っていたのは、棒をまっすぐ突き出したエデンただ一人。
一方のドーマは、攻撃の寸前、肌を撫でるような“得体の知れない何か”を感じ取り、咄嗟に後方へ跳んでいた。
刀を振るうことすらできなかった――。
「貴様……なんだ、その技は……!」
今もピリピリと肌に残る違和感。それはもしかしたら恐怖だったのでは無いか。そんな思考をドーマは無理やりに抑え込む。なぜならその時のエデンは殺気を全く放っていなかったからだ。
ならば、それは何なのだろうか?
だが、今のドーマにまだそれを知ることは出来ない。
一方で飄々とした表情のエデンは、突き出した棒に牽制の余韻を残しながらドーマの問いに答える。
「さてね。技の名前は師匠から止められてるから言えないな。でもさ――見る人が見れば、分かるんじゃねぇの?」
エデンはそう言って笑った。そして視線の端でチラリと剣聖の姿を確認する。当然目は合わないが。それでも、剣聖の彼女ならば気がついているはずなのだ。
――今、エデンが使ったのは、“あの剣法”を。
千年の時をかけ、ただひたすらに敗北を求め続けた異端の剣聖“千年救敗”。
彼が生涯をかけて編み出した、決して負けるはずのない究極の剣法――《千年九剣》。
身体強化の魔法によって突然のスピードアップはドーマにとっては逆効果と言えた。それはまさに愚策中の愚策である。自らのスピードに感覚が追いつかずドーマの攻撃リズムが完全に乱れてしまったのだ。
それをエデンは第三層の『絶対分析』を使用することによって一手も打ち合うこと無く見抜いたのは見事と言うしかない。
そして、エデンはあえてその乱れたリズムに自分の攻撃を合わせることによって、ドーマに得体のしれない違和感を感じさせたのである。
――相手の乱れに、剣を合わせる。
もしエデンがドーマに対して教科書通りの攻撃しかけていらなら――ドーマは自らリズムのズレを感じ取り、すぐさまその違和感を修正していただろう。だが、エデンがあえて狂ったリズムに合わせたことにより、ドーマはその事に気づけなかったのだ。
そして――エデンは逆に相手にリズムを合わせることで、完全にドーマの攻撃リズムを潰してしまおうと考えているのだ。
さすがにこの作戦の真意を知ってしまえば、エデンの悪童っぷりが鼻につくかもしれない。しかし、これぞまさに千年救敗の剣法の真骨頂なのである
戦いそのものを制し、操作する。
知らぬ間に相手を死地へと誘う、悪辣にして精緻な剣法。
あまりに強すぎるがゆえに、世に出ることを許されなかった――禁忌の剣法。
……とはいえ。
(そんな裏設定、知る人ぞ知るって話だけどな)
エデンは肩をすくめ、小さく笑った。
決勝戦の舞台の中央で、大きな掛け声と共に剣聖レイラはその手を大きく振り下ろす。
開始の合図と同時に、エデンとドーマが地面を蹴り一斉に飛び出した。
その瞬間。
観客の誰もが合図に合わせて同時に飛び出した両者が、舞台中央で激しくぶつかる様に見えた。
だが――実際には、先に仕掛けたのはドーマのほうである。
試合開始の掛け声がかかる以前から、その身体に身体強化魔法を付与し、そのスピードを出来うる限り高めていたドーマは、開始一瞬の一撃に全力を注ぎ込んだ。
レイラの手が振り降ろされたと同時に、極端に低い体制から正面に立つエデンへと飛びかかるその様は、まさに獲物へと飛びかかる獣のようである。
師であるエイドリアンから課せられた圧倒的な勝利。
その意味をドーマは瞬殺と理解して、彼女はこの決勝戦で対戦相手のエデンをその得意のスピードでねじ伏せるつもりなのだ。
だがその一瞬、エデンもまた手にした木の棒の先端を正面に向けて真っ直ぐ前へと踏み出した。
身体強化こそ使えずとも、彼にはカイルとともに学んだ《気》の技がある。
その“気”を足元から放出することで、初速だけならドーマを上回ることも可能なのだ。
結果――
開始直後、中央で交差するかに見えた二人の武器。
観客は、激突の音を待ったが、響いたのは――沈黙だった。
舞台中央に立っていたのは、棒をまっすぐ突き出したエデンただ一人。
一方のドーマは、攻撃の寸前、肌を撫でるような“得体の知れない何か”を感じ取り、咄嗟に後方へ跳んでいた。
刀を振るうことすらできなかった――。
「貴様……なんだ、その技は……!」
今もピリピリと肌に残る違和感。それはもしかしたら恐怖だったのでは無いか。そんな思考をドーマは無理やりに抑え込む。なぜならその時のエデンは殺気を全く放っていなかったからだ。
ならば、それは何なのだろうか?
だが、今のドーマにまだそれを知ることは出来ない。
一方で飄々とした表情のエデンは、突き出した棒に牽制の余韻を残しながらドーマの問いに答える。
「さてね。技の名前は師匠から止められてるから言えないな。でもさ――見る人が見れば、分かるんじゃねぇの?」
エデンはそう言って笑った。そして視線の端でチラリと剣聖の姿を確認する。当然目は合わないが。それでも、剣聖の彼女ならば気がついているはずなのだ。
――今、エデンが使ったのは、“あの剣法”を。
千年の時をかけ、ただひたすらに敗北を求め続けた異端の剣聖“千年救敗”。
彼が生涯をかけて編み出した、決して負けるはずのない究極の剣法――《千年九剣》。
身体強化の魔法によって突然のスピードアップはドーマにとっては逆効果と言えた。それはまさに愚策中の愚策である。自らのスピードに感覚が追いつかずドーマの攻撃リズムが完全に乱れてしまったのだ。
それをエデンは第三層の『絶対分析』を使用することによって一手も打ち合うこと無く見抜いたのは見事と言うしかない。
そして、エデンはあえてその乱れたリズムに自分の攻撃を合わせることによって、ドーマに得体のしれない違和感を感じさせたのである。
――相手の乱れに、剣を合わせる。
もしエデンがドーマに対して教科書通りの攻撃しかけていらなら――ドーマは自らリズムのズレを感じ取り、すぐさまその違和感を修正していただろう。だが、エデンがあえて狂ったリズムに合わせたことにより、ドーマはその事に気づけなかったのだ。
そして――エデンは逆に相手にリズムを合わせることで、完全にドーマの攻撃リズムを潰してしまおうと考えているのだ。
さすがにこの作戦の真意を知ってしまえば、エデンの悪童っぷりが鼻につくかもしれない。しかし、これぞまさに千年救敗の剣法の真骨頂なのである
戦いそのものを制し、操作する。
知らぬ間に相手を死地へと誘う、悪辣にして精緻な剣法。
あまりに強すぎるがゆえに、世に出ることを許されなかった――禁忌の剣法。
……とはいえ。
(そんな裏設定、知る人ぞ知るって話だけどな)
エデンは肩をすくめ、小さく笑った。
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