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武術大会編
第79話 ドーマ対エデン その4
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得体の知れない痛みと衝撃に見舞われ、ドーマは一瞬、攻撃のバランスを崩したはずだった――
だが、結果は意外にも、彼女の予想とはまったく違っていた。
気がつけば、振り下ろした刀をエデンが辛うじて木製の棒で受け止め、慌てて後方へと飛び退いていた。理由はわからない。だが、それが事実だった。
0
そしてあ――
その刹那、ドーマの尖った耳に、どこか馴染みのない男の声が響いた。他の誰にも聞こえていないその声は、カイルが放ったものだった。気の力を声に乗せ、まるで骨を振動させるように、ドーマにだけ届く男の声。
「とにかく全力で前へ出ろ」
唐突な命令。意味も意図もわからない。だが、ドーマの体は迷わず反応していた。目の前の敵を押し切る好機。迷っている暇はない。
すぐさまエデンに追い縋るドーマ。速度勝負になれば、身体強化の魔法を用いる彼女に分がある。その距離は一気に縮まった。
そのとき、再び耳に響く声。
「今からお前の剣法を修正する。流れに逆らうな。体で覚えろ」
ドーマの視線が無意識に泳ぐ。
――まさか、師匠が私を導いてくれている?
その思いが、自然とエイドリアンの姿を探らせた。
「よそ見をするな。お前はこの小僧に勝ちたいんだろう? なら、黙って俺の言う通りにしろ」
再び聞こえた男の声は、やはりエイドリアンのものではない。その口調もまるで違っていた。
けれど、ドーマの中にあったのは、ただひとつの思い――勝ちたい。いや、勝たねばならないという決意。
その執念が、正体不明の声を拒まず受け入れていた。そして、立て続けに放たれる氷弾がドーマの体を打ち、彼女の剣技を知らぬうちに新たな型とリズムへと導いていく。
「踏み込みが早すぎる。お前の速さなら、相手が動いた後でも十分に間に合う。なら、一拍遅らせろ」
そのたびに響く的確な指示が、ぎこちなかったドーマの動きに流れを与えていく。無駄のない、滑らかな刀の一閃。エデンに体勢を立て直す隙すら与えない。
「今度は遅い。思考が追いつかないなら、速度で補え」
命令と共に放たれる氷弾が、まるでドーマの動きを直接操っているかのように剣技を矯正していく。
「くそっ……急にどうなってやがる……!」
鋭さを増したドーマの動きに、エデンの口から思わず弱音が漏れる。舞台の端は目前。これ以上退けば、もう逃げ場はない。
一方で、ドーマを操るかのように放たれる氷弾が次々と彼女を貫いていく。舞台端まで追いつめられたエデンに斬り込もうとすれば、背中を撃つ氷弾に体が前のめりになり、振り上げた右手が勢いそのままに突き出された。
「バカ師匠……まさかこのまま俺を倒すつもりじゃないだろうな!」
突然、動きに鋭さをましたドーマの刀。その対処に追われてエデンの口からは泣き言が漏れる。舞台の端まではもう少し。これ以上後ろに下がっていては、エデンにもう後はない。
一方で、たたみ掛ける様にドーマの身体をカイルが放った氷弾が幾度となく貫いて行く。
エデンを舞台端へ追い詰めて斬り込もうとすれば、今度は氷弾が背中へと当たり、ドーマの意図とは関係なくその姿勢は前かがみになる。そして次の氷弾によって振り上げ損なった右手は、そのまま前方へと突き出す形となった。
「バカ師匠め。このままの勢いで俺を負かそうって腹じゃねえだろうな!」
セオリーを無視したトリッキーな動き。そして狙いを自在に変えるドーマの刀はそ、の瞬間瞬間にエデンのウィークポイントを的確に突いて、エデンに反撃のチャンスを一切与えなかった。
今、まさにドーマの刀はエデンの鼻先をかすめるように突き出された。そしてその距離が僅かに足りないと見るや、今度はその標的を一転してエデンの武器へと変化させた。
いや、おそらく狙いは初めからエデンの武器のほうだったのかも知れない……。
その流れる様な動きに、エデンの対処は後手へとまわる。もちろん咄嗟に刃を受け止める羽目になった自慢の木製の棒に気の力を込める余裕などあろうはずがないのだ。
エデンにはもう分かっていた。何故自分がこんなにも無様に追い詰められているのかを……。
さすがに彼も、まさか自分が使った技で自らがここまで追い詰められるとは思ってもみなかっただろう。今ドーマが使っている剣法はどう見ても『千年九剣』なのである。
見事に構築された連携技。それはエデンがドーマの刀を受け止めた時から始まっていた。彼女………いや、この場合、ドーマの動きをコントロールしていたカイルは、最初からエデンの武器を真っ二つにぶった斬る事だけを狙っていたのである。
だが、結果は意外にも、彼女の予想とはまったく違っていた。
気がつけば、振り下ろした刀をエデンが辛うじて木製の棒で受け止め、慌てて後方へと飛び退いていた。理由はわからない。だが、それが事実だった。
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そしてあ――
その刹那、ドーマの尖った耳に、どこか馴染みのない男の声が響いた。他の誰にも聞こえていないその声は、カイルが放ったものだった。気の力を声に乗せ、まるで骨を振動させるように、ドーマにだけ届く男の声。
「とにかく全力で前へ出ろ」
唐突な命令。意味も意図もわからない。だが、ドーマの体は迷わず反応していた。目の前の敵を押し切る好機。迷っている暇はない。
すぐさまエデンに追い縋るドーマ。速度勝負になれば、身体強化の魔法を用いる彼女に分がある。その距離は一気に縮まった。
そのとき、再び耳に響く声。
「今からお前の剣法を修正する。流れに逆らうな。体で覚えろ」
ドーマの視線が無意識に泳ぐ。
――まさか、師匠が私を導いてくれている?
その思いが、自然とエイドリアンの姿を探らせた。
「よそ見をするな。お前はこの小僧に勝ちたいんだろう? なら、黙って俺の言う通りにしろ」
再び聞こえた男の声は、やはりエイドリアンのものではない。その口調もまるで違っていた。
けれど、ドーマの中にあったのは、ただひとつの思い――勝ちたい。いや、勝たねばならないという決意。
その執念が、正体不明の声を拒まず受け入れていた。そして、立て続けに放たれる氷弾がドーマの体を打ち、彼女の剣技を知らぬうちに新たな型とリズムへと導いていく。
「踏み込みが早すぎる。お前の速さなら、相手が動いた後でも十分に間に合う。なら、一拍遅らせろ」
そのたびに響く的確な指示が、ぎこちなかったドーマの動きに流れを与えていく。無駄のない、滑らかな刀の一閃。エデンに体勢を立て直す隙すら与えない。
「今度は遅い。思考が追いつかないなら、速度で補え」
命令と共に放たれる氷弾が、まるでドーマの動きを直接操っているかのように剣技を矯正していく。
「くそっ……急にどうなってやがる……!」
鋭さを増したドーマの動きに、エデンの口から思わず弱音が漏れる。舞台の端は目前。これ以上退けば、もう逃げ場はない。
一方で、ドーマを操るかのように放たれる氷弾が次々と彼女を貫いていく。舞台端まで追いつめられたエデンに斬り込もうとすれば、背中を撃つ氷弾に体が前のめりになり、振り上げた右手が勢いそのままに突き出された。
「バカ師匠……まさかこのまま俺を倒すつもりじゃないだろうな!」
突然、動きに鋭さをましたドーマの刀。その対処に追われてエデンの口からは泣き言が漏れる。舞台の端まではもう少し。これ以上後ろに下がっていては、エデンにもう後はない。
一方で、たたみ掛ける様にドーマの身体をカイルが放った氷弾が幾度となく貫いて行く。
エデンを舞台端へ追い詰めて斬り込もうとすれば、今度は氷弾が背中へと当たり、ドーマの意図とは関係なくその姿勢は前かがみになる。そして次の氷弾によって振り上げ損なった右手は、そのまま前方へと突き出す形となった。
「バカ師匠め。このままの勢いで俺を負かそうって腹じゃねえだろうな!」
セオリーを無視したトリッキーな動き。そして狙いを自在に変えるドーマの刀はそ、の瞬間瞬間にエデンのウィークポイントを的確に突いて、エデンに反撃のチャンスを一切与えなかった。
今、まさにドーマの刀はエデンの鼻先をかすめるように突き出された。そしてその距離が僅かに足りないと見るや、今度はその標的を一転してエデンの武器へと変化させた。
いや、おそらく狙いは初めからエデンの武器のほうだったのかも知れない……。
その流れる様な動きに、エデンの対処は後手へとまわる。もちろん咄嗟に刃を受け止める羽目になった自慢の木製の棒に気の力を込める余裕などあろうはずがないのだ。
エデンにはもう分かっていた。何故自分がこんなにも無様に追い詰められているのかを……。
さすがに彼も、まさか自分が使った技で自らがここまで追い詰められるとは思ってもみなかっただろう。今ドーマが使っている剣法はどう見ても『千年九剣』なのである。
見事に構築された連携技。それはエデンがドーマの刀を受け止めた時から始まっていた。彼女………いや、この場合、ドーマの動きをコントロールしていたカイルは、最初からエデンの武器を真っ二つにぶった斬る事だけを狙っていたのである。
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