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武術大会編
第89話 共闘 その4
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邪神が再び吠えた。
その叫びと同時に、巨躯が地を蹴る。信じがたい速度だった。さっきまでのゆったりとした動きからは想像もできない――まるで瞬間移動でもしたかのような一撃が、カイルの視界を瞬時に横切った。
「エイドリアン、危ない!」
咄嗟に叫ぶが、カイルの身体は間に合わない。
巨獣の爪が振り下ろされた、その瞬間――
バシッ、と空気が裂けたような音がしたかと思うと、エイドリアンの目前に突如現れた魔法陣が邪神の攻撃を打ち消し粉々に砕け散った。
そして青白く光るその魔法陣は砕け散ると同時に、邪神の巨大な身体を後方へと弾き返す。
「くっ……っ!」
エイドリアンは一瞬だけ苦悶の表情をのぞかせる。攻撃は当たらなくとも魔法陣が砕け散る衝撃をまともに食らったのだ。
だがそれでも彼女自身に傷はない。
「全く……あの魔法は、そうそう連発できるものではないのです。再び陣を構築するまで、私を守ってくれなければ連携の意味がないでしょう?」
エイドリアンは怒りというよりは、呆れたように言った。
自らの失敗を悔いるが如く、カイルは苦虫を噛み潰したような表情で言葉を返す。
「すまない……だが、今のは……」
「防御障壁です。一度に張れるのは三枚まで。今ので一枚が消費されましたが……残りは二枚。あなが失敗出来る回数も、そう多くはありませんよ」
「悪かった……もうこれ以上、お前には一撃も当てさせない」
そんなカイルの言葉に――エイドリアンはその覚悟のほどを悟り、ほんのわずかにの口元が和らぐ。
しかしそれも一瞬の事。すぐにエイドリアンはいつもの調子を取り戻す。
「まったく……あなた、どうせ今まで魔物と戦った経験なんて無かったのでしょう?」
「……まあ、否定はできないな。俺の相手はだいたい人間だったから――」
「忘れないで。相手が何であろうと今のあなたと私は一蓮托生なのです。あなたが一人無駄に斬りかかったとしても、私の魔法は邪神には届かない事を憶えておいてください――」
「わかってる……もう、ぐだぐだ考えてる場合じゃない。今は、俺にできることをやるだけだ」
エイドリアンが黙ってうなずく。
そこからだった。
二人の動きに、変化が現れたのは。
カイルは攻撃の要ではなく、守りと囮に徹した。無理に斬りかかるのではなく、邪神の意識を自分に向け、動きを封じることに集中する。
その合間を縫って、エイドリアンが魔法陣を展開し、的確に魔力の一撃を放つ。
「左!」
「わかってる!」
「次、準備が出来たら直ぐに撃つわよ――」
「了解。タイミングはお前に任せる!」
すれ違ってきた呼吸がいつしか重なり合う。そして互いの言葉を命綱にしながら、一つ一つの動きが自然に噛み合っていく。
だがそれでも――
「……クソッ、決定打がねえ」
カイルが息を切らしながら呟く。
「こうも同じことの繰り返しばかりでは、まず我々のほうが先に消耗してしまいますね」
エイドリアンもまた、額に汗を滲ませながら低く呟いた。
このままでは――ジリ貧である。
何か、もう一手が必要なのだ。何か決定的な、突破口となる一撃が――そうでなければ、この戦いに勝機はない。
二人はギリギリの中で戦いながらも、必死にそれを探っていた。
(だが、それが何かわかない――)
カイルが無言で邪神の足元へと踏み込む。その視線は、鋭く前を見据えたまま――しかし、その頭では自らが出来る全の可能性を考慮に入れながら――カイルはまた囮の一撃を放つ。
これで何度目だろうか。
カイルが再び邪神の前へと飛び込むと、それに合わせるようにして、エイドリアンの魔法が炸裂する。
まるで稲妻でも落ちたかのような閃光が辺りを包み、邪神は黒い身体を一瞬、大きくのけぞらせた。
しかし――
二人の表情は次第に疲労の色を滲ませ始めていた。
そしてその様子を、背後に控えただじっと見つめていた者がいる。
それは、もはやこの戦いに自分の出る幕など無いことを悟っていたエデンであった。
しかし――
彼もただ手をこまねいて、呆然と二人の戦いを見ていたわけでは無い。彼もまた『千年九剣』を学ぶ者の一人。その目で、耳で、肌で、全感覚を総動員して必死に邪神の弱点を突き止めようとしていた。
それは、何度目かの魔法が邪神の身体を貫いた時だった。
(この光……この軌跡……どこかで……)
エデンの記憶が確かに反応する。それは何処かで見覚えのある光景であった。
やがて――エデンの記憶の中でも鮮烈な印象を残した一つのシーンが彼の脳裏に浮かんだ。
(――あの時の……ドーマの剣に向かって放たれた、一撃……!)
そう、あれは武術大会本戦の第一試合。ドーマがアイシアと言う若い女騎士と戦った最後の場面。
お互いが命懸けの死闘を繰り広げる中、ドーマの最後の一撃がアイシアの命を奪いかけたその瞬間。
カイルの指先から放たれた光の矢が、ドーマの曲刀を粉々に砕き、アイシアはかろうじてその命を救われたのである。
(エイドリアンの使う魔法は、あの時の光とよく似ている――)
「やっぱり……あの時、あいつの武器を砕く為に師匠が放った指弾の光にそっくりだ――」
エデンはぽつりと、カイルに向かって呟いた。
「……何の話だ?」
突然口を開いたエデンの言葉に、カイルはきょとんとしながらも、邪神の攻撃の隙をついて、その視線をエデンに向ける。
そしてその時。
さらにもう一人の――思わぬ人物がその言葉に反応した。
「私も思い出しました……あの時の、あの光――なるほど――あれは、あなたの仕業だったのですね……」
エイドリアンが、妙に納得したような視線をカイルに向けた。しかしその言葉は呆れたようにも聞こえる。
「だったらなぜ………」
その言葉は今も盛大に暴れている邪神の咆哮にかき消されてしまったが――
その時エイドリアンはこいう言いたかっのだ。「だったらなぜ……その技を使わなかったのか?」と――
その叫びと同時に、巨躯が地を蹴る。信じがたい速度だった。さっきまでのゆったりとした動きからは想像もできない――まるで瞬間移動でもしたかのような一撃が、カイルの視界を瞬時に横切った。
「エイドリアン、危ない!」
咄嗟に叫ぶが、カイルの身体は間に合わない。
巨獣の爪が振り下ろされた、その瞬間――
バシッ、と空気が裂けたような音がしたかと思うと、エイドリアンの目前に突如現れた魔法陣が邪神の攻撃を打ち消し粉々に砕け散った。
そして青白く光るその魔法陣は砕け散ると同時に、邪神の巨大な身体を後方へと弾き返す。
「くっ……っ!」
エイドリアンは一瞬だけ苦悶の表情をのぞかせる。攻撃は当たらなくとも魔法陣が砕け散る衝撃をまともに食らったのだ。
だがそれでも彼女自身に傷はない。
「全く……あの魔法は、そうそう連発できるものではないのです。再び陣を構築するまで、私を守ってくれなければ連携の意味がないでしょう?」
エイドリアンは怒りというよりは、呆れたように言った。
自らの失敗を悔いるが如く、カイルは苦虫を噛み潰したような表情で言葉を返す。
「すまない……だが、今のは……」
「防御障壁です。一度に張れるのは三枚まで。今ので一枚が消費されましたが……残りは二枚。あなが失敗出来る回数も、そう多くはありませんよ」
「悪かった……もうこれ以上、お前には一撃も当てさせない」
そんなカイルの言葉に――エイドリアンはその覚悟のほどを悟り、ほんのわずかにの口元が和らぐ。
しかしそれも一瞬の事。すぐにエイドリアンはいつもの調子を取り戻す。
「まったく……あなた、どうせ今まで魔物と戦った経験なんて無かったのでしょう?」
「……まあ、否定はできないな。俺の相手はだいたい人間だったから――」
「忘れないで。相手が何であろうと今のあなたと私は一蓮托生なのです。あなたが一人無駄に斬りかかったとしても、私の魔法は邪神には届かない事を憶えておいてください――」
「わかってる……もう、ぐだぐだ考えてる場合じゃない。今は、俺にできることをやるだけだ」
エイドリアンが黙ってうなずく。
そこからだった。
二人の動きに、変化が現れたのは。
カイルは攻撃の要ではなく、守りと囮に徹した。無理に斬りかかるのではなく、邪神の意識を自分に向け、動きを封じることに集中する。
その合間を縫って、エイドリアンが魔法陣を展開し、的確に魔力の一撃を放つ。
「左!」
「わかってる!」
「次、準備が出来たら直ぐに撃つわよ――」
「了解。タイミングはお前に任せる!」
すれ違ってきた呼吸がいつしか重なり合う。そして互いの言葉を命綱にしながら、一つ一つの動きが自然に噛み合っていく。
だがそれでも――
「……クソッ、決定打がねえ」
カイルが息を切らしながら呟く。
「こうも同じことの繰り返しばかりでは、まず我々のほうが先に消耗してしまいますね」
エイドリアンもまた、額に汗を滲ませながら低く呟いた。
このままでは――ジリ貧である。
何か、もう一手が必要なのだ。何か決定的な、突破口となる一撃が――そうでなければ、この戦いに勝機はない。
二人はギリギリの中で戦いながらも、必死にそれを探っていた。
(だが、それが何かわかない――)
カイルが無言で邪神の足元へと踏み込む。その視線は、鋭く前を見据えたまま――しかし、その頭では自らが出来る全の可能性を考慮に入れながら――カイルはまた囮の一撃を放つ。
これで何度目だろうか。
カイルが再び邪神の前へと飛び込むと、それに合わせるようにして、エイドリアンの魔法が炸裂する。
まるで稲妻でも落ちたかのような閃光が辺りを包み、邪神は黒い身体を一瞬、大きくのけぞらせた。
しかし――
二人の表情は次第に疲労の色を滲ませ始めていた。
そしてその様子を、背後に控えただじっと見つめていた者がいる。
それは、もはやこの戦いに自分の出る幕など無いことを悟っていたエデンであった。
しかし――
彼もただ手をこまねいて、呆然と二人の戦いを見ていたわけでは無い。彼もまた『千年九剣』を学ぶ者の一人。その目で、耳で、肌で、全感覚を総動員して必死に邪神の弱点を突き止めようとしていた。
それは、何度目かの魔法が邪神の身体を貫いた時だった。
(この光……この軌跡……どこかで……)
エデンの記憶が確かに反応する。それは何処かで見覚えのある光景であった。
やがて――エデンの記憶の中でも鮮烈な印象を残した一つのシーンが彼の脳裏に浮かんだ。
(――あの時の……ドーマの剣に向かって放たれた、一撃……!)
そう、あれは武術大会本戦の第一試合。ドーマがアイシアと言う若い女騎士と戦った最後の場面。
お互いが命懸けの死闘を繰り広げる中、ドーマの最後の一撃がアイシアの命を奪いかけたその瞬間。
カイルの指先から放たれた光の矢が、ドーマの曲刀を粉々に砕き、アイシアはかろうじてその命を救われたのである。
(エイドリアンの使う魔法は、あの時の光とよく似ている――)
「やっぱり……あの時、あいつの武器を砕く為に師匠が放った指弾の光にそっくりだ――」
エデンはぽつりと、カイルに向かって呟いた。
「……何の話だ?」
突然口を開いたエデンの言葉に、カイルはきょとんとしながらも、邪神の攻撃の隙をついて、その視線をエデンに向ける。
そしてその時。
さらにもう一人の――思わぬ人物がその言葉に反応した。
「私も思い出しました……あの時の、あの光――なるほど――あれは、あなたの仕業だったのですね……」
エイドリアンが、妙に納得したような視線をカイルに向けた。しかしその言葉は呆れたようにも聞こえる。
「だったらなぜ………」
その言葉は今も盛大に暴れている邪神の咆哮にかき消されてしまったが――
その時エイドリアンはこいう言いたかっのだ。「だったらなぜ……その技を使わなかったのか?」と――
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