深淵のエレナ

水澄りりか

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第一章

第三十一話 覚悟の証

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アロとシャルルによると、アシュベルは訓練場の一角にいるらしいとのこと、それを聞くとエレナは足早にそこへ向かった。

そこでは第一近衛隊長としての、笑みを浮かべながらも峻厳な顔をしたアシュベルが、複数の部下の前で指揮をとっている姿があった。その姿はエレナの前で見せるそれとは違い少々戸惑いを感じる。
アシュベルがエレナの姿に気付き、手を少し掲げると、部下たちと手短に打ち合わせを終えエレナに走り寄る。
「ヒメちゃん、体調ははどう?」
「ええ、いいわ、ただ、だいぶ寝過ごしてしまったけど。アシュはどう?昨日ずぶ濡れだったから」
「俺はこの通り、それより何か用があったんじゃない?」
やはりアシュベルは勘がいい、エレナが真っすぐに彼を見据えその旨を伝える。
「一緒に部屋に来て欲しいの、皆も呼んである」
アシュベルが、一瞬間を置き彼女の瞳を見る。
「・・・わかった、待たせたら悪いな、急ごう」

道中、アシュベルは考える。
彼女の黒い瞳の奥には並々ならぬ覚悟を感じるモノがあった、それがどういうものかは計り知れないが。
昨晩の事が頭をよぎる、周りに被害を出さないよう単身訓練場を抜け出していくエレナ、彼女はどちらかを
選んだのだろうか、話というのはそれなのか。

一陣の冷たく強い風が二人の傍を駆け抜けてゆく。
エレナの白銀色の長い髪が舞い上がるようになびく。

季節が移ろってゆくのを風の音と共に感じながら、二人はエレナの部屋にある棟へと向かう。


彼女がどういう選択をするにせよ、今度こそ俺はそれを尊重する。
アシュベルも密かに覚悟を決める。



  ※※※※※※※  ※※※※※※※※  ※※※※※※  ※※※※※※ 


エレナが扉を開けると既に呼びかけた全員が集まっていた。
彼女に続いて部屋に入ったアシュベルはそこに居るはずのない人物を見て唖然とする。
リュカとカリーナは想定済みだったが、まさかアロとシャルルまでここに呼ばれているとは思っても見なかった。昨晩もこの二人とは言葉を交わしていなかったはず、虚を突かれアシュベルが目を見開き二人を凝視する。
「あ、シャルルさんとアロさんはちょうど食堂で会ったからお呼びしたの」
リュカとカリーナも困惑している、彼らはこの事態の部外者だ、それなのに何故ここに居るのだろうと。
それぞれの思惑が交錯し、部屋に微妙に噛み合わない空気が流れている。
そしてこの人数を入れ込むと部屋はかなりぎゅうぎゅう詰めな感じになってしまっていた。
今更ながらに他の部屋をあたった方が良かったかもしれないと、エレナが反省をする。

「皆集まってくれてありがとう、今日集まってもらったのは、わたしが光のマナを覚醒した際に思い出したこと、それからこれまで起きた事を一度整理しておきたくて、お呼びしました」
リュカとカリーナが同時に「えっ!!」と声を上げる。
「アロさんとシャルルさんは、ちょっと成り行きで光のマナの事を知られてしまったので・・・」
慌てる様にエレナが説明するが、勿論リュカとカリーナが納得するわけもなく。
「俺がそいつらの前で不用意に口にしたんだ、すまん」
「えー、なんですかそれ、駄目じゃないですかアシュベル様っ!」
エレナが言いにくそうにしているのを見てアシュベルが庇う様に口を挟む、が、性格が真っすぐなカリーナはそれに対して怒りを彼にぶつける。

「ごめん ―――――」
それぞれが自分の為を思い言い合ってるのを見て、エレナの小さな唇が動く。
「昨日わたし、ここを逃げ出したの ―――― 」
そして昨晩起こった出来事を一通り説明する。
カリーナは涙目になっており、リュカは眼鏡越しで分かりづらいが視線を落とし拳を握りしめている。

部屋が静かになったをの見計らったように、アロが発言する。
「しかし、光のマナを覚醒したとおっしゃってましたが、あれは伝説上の人物ですよ、申し訳ないがちょっと理解に苦しみますね、欺瞞に満ちた言動のように受け止められます」
まるで三文芝居を見せられてるようだ、とアロはエレナを白眼視する。
その発言にシャルルが追随する。
「ですね、僕もピンとこなくて、いないらしいですよ実際は。お伽噺にでてくるくらいですよね」
二人の発言にアシュベルが問いただす。
「じゃあ、お前たちは信じてないんだな、」
アロとシャルルはそれぞれに返事をする「まぁ、そうですね」「え、いないって知らないんですかっ!」と。
アシュベルの赤い瞳が一際ギラリと光り、二人の首根っこを持ち上げ扉を開き放り出そうとする。
「では、貴君らはこれまで。あとは近衛隊の任務に戻ってくれ、ご苦労だったな」
「・・・!?」
当然二人の青年はその行為に度肝を抜けれ、言葉を失う。
ヒメが決意をもって話そうとしているというのに、とすっかり従者の心得を会得したアシュベルは不愉快そうに、彼らを容赦なく扉から追い出そうとする。
「アシュ、その人たちは口が堅いと思う?」
エレナが唐突にアシュベルに問う。彼は二人の首根っこを持ったままをそれぞれ見て答えた。
「他言するな、と言えばこいつらは絶対に他に漏らさない」
「そう、じゃあ、扉を閉めて」
エレナの意図が掴めないままアシュベルは二人を離し扉を閉める。
「・・・まだ完全にコントロールできないけど、」
そう言いつつエレナが皆の前に、ついっと腕を伸ばし、小さな掌を上に向けると瞼を閉じ言葉を紡ぐ。
詩うように奏でるように紡ぐその言葉は優しくその場を支配していく。

「古より授かりし輝くそれは、幾星霜みなを照らさんと、この身に宿せし光今現れん」

エレナが言い終わらないうちに、微細な光の粒が降り注ぎそれはゆっくりと羅円を描きながら彼女の掌に集まっていく。眩しい程の輝きを呈したそれは、彼女の部屋を光で満たした。


「これがわたしの持つ光のマナ、わたしの能力です」


それを見て只々アロとシャルルは呆然としている。
光の魔法士が目の前にいる、その事実。それを受け止めるのにしばらくかかったのは言うまでもない。


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