深淵のエレナ

水澄りりか

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第三章

第四話 これが最悪のシナリオのはじまり

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全員が大浴場を堪能し、食堂にてつつましやかな食事をすました。
やはりスラム化が原因で食糧難が続いているそうだ、この宿はつてがあるからまだ食料を調達できるが、こう町がスラム街になってしまうとお客も減り、この宿自体が襲われかねないのだという。


「今から怖い話をしまーす!!」

その会話が始まるのはもう少し後の話。
あの時本当になにもできなかったのだろうか。

宿を出て馬を走らせ目的地であるトワイス国へ向かう。
場所によっては街自体が盗賊の巣窟になっているところもあり、何度か戦闘をすることもあった。
この国は疲れ切っている、それでも負けを認めると各国から食い尽くされるのが目に見えている。
だから敗北宣言が出来ない。
国民がそれを願っても。

エスナルド国はもう、だめかもしれない・・・。

全ては戦争のせい、そしてそれを引き起こしたセーデルの責任だ。
これほど人を憎んだことは無い、これほどこの刃の錆にしたいと思った者はいない。
彼が例えどんな思いをかかえていても、例えどんな事情を抱えていても、もう引き返すことなどできはしないのだ。


―――――――セーデルは殺し過ぎた。


世界大戦を勃発させ、この世の破滅を願っている、最後に彼の言葉が聞けるだろうか、最後に彼に言ってやれるだろうか、この戦争で死んでいく者たちの断末魔を、聞かせることが出来るのだろうか。

エレナは光のマナのせいか、日々死んでいく者たちの魂が自分をすりぬけていくのがわかる、彼らの声にならない叫びを昼となく夜となく聞き続けている。
そしてそれは自分を通して昇華されていく、安らぎを得て天へ帰っていく。

最後の戦い、セーデルを必ず引きずり出さなければいけない、そうでないとこの者たちがそれを許さないだろう。

エスナルド国でも黒い炎はあちこちに見られた。

国境沿いの最後の宿に泊まる時、エレナはひとりそこから見える黒い炎の中を進んで行った。
誰も止める者はいない。
彼女は地面にその手を着くと、そこから光が満ち溢れ、地面を覆っていた黒い炎は彼女を中心に消えてゆき、浄化された清らかな地面が現れてゆく。

「エレナ、さぁ、宿にはいろう」

アシュベルの優しい声に我に返り、一時戦乱の狂気を忘れていたことに気付く。

「はい、今行きます」

7人が宿泊を申し出ると空き部屋が一つしかないという。
そこの店主は客を逃がしたくないという勢いで部屋の説明をし始める。

「あ、でも、そのお部屋が広くてですね、7名様ならなんとか布団を敷いて寝ていただくことも可能ですが、その分お安くしておきますので」


「――――ないな」


きっぱりとアシュベルが言い放った。

店主が申し出る7名とはすなわち、エレナ、カリーナという美少女二人、そして男どもが含まれる、それが一つの部屋で、しかも一緒に寝る――――だと!?

そんなことは『だ・ん・じ・て・』許されるわけがない。
男など廊下に転がっておけばいいのだ。
まぁその中にはアシュベル本人も含まれているのだが。

「廊下??ですか・・・それは他のお客様に迷惑になるのでご遠慮いただきたい・・・のですが」

アシュベルの提案はすぐさま打ち砕かれてしまった。

「困りましたね、確かに一部屋に男女が泊まる事は避け体自体ですが・・・」

アロが眉根をひそめて考えを巡らせている。

「はぁ・・・・」

「――――ですが、こうも日が落ちてから行動するのは危険ですし、国境沿いだけあって、下手に動けば弓矢でやられるかもしれない、一度見つかれば弓矢の嵐を受けるでしょう、そうなれば攻撃をさけるのも厳しいと思います」

リュカが冷静に話すが、その声にも少々の戸惑いがある。

まぁ、ここまで旅をしてきてお互いの事も理解しあっている、仲間だという固い絆もある。
では、だれがエレナやカリーナの隣に寝るのが正解なのか、いやそもそも正解等あるのだろうか。




「あたし、シャルルの隣なら一緒に寝てもいいけど?」




まさかの女性であるカリーナからの提案。

カリーナは大胆不敵で大らかな性質をもつ器の大きい女性、エレナから見れば枠にはまらない自由奔放な印象が強くなににも捕らわれない信念ををもつ女性だと思っていた。だが彼女はそれを良しとしている、

しかもなぜシャルル押しなのか。
シャルル。
疑問が残る「

「」


おそらくお互い親友の様に思っているのだろう。

「あー、僕もそれでいいですよ」

「いや、お前たちは年頃の男女だ、わかるか、その、だな」
アシュベルが言いよどむ、二人がいいと言っていてもそこは年上の自分たちが諫めるものだというように言いたいのだが、うまく言葉が浮かんでこない。

「いいんじゃありませんか、そのシャルルの横にわたくしが寝ます、わたくしは眠りが浅いのでなにかあればすぐに反応する自信がありますし、他の方々はこの旅でわかったことですが一旦眠るとがんとして起きない、まったく、朝は苦労しますよ」

アロがその立ち位置にいるなら大丈夫なのではないだろうか、彼は以前エレナに気があるそぶりを見せたが本来は自制心の塊のような男だ、カリーナの横にアロでも文句はない。

当然エレナは何をそんなに話し合っているのか、理解していないのだが。

「よし、じゃあ、今日はここに泊まろう」
アシュベルが決意し皆に向かって言う。

「わー、みんなで雑魚寝かぁ、楽しみだね」

ここにいる男性の殆どは心の中でこう思った、君が一番危機意識をもったほうがいいよ、と。

ここにも大浴場があり、かなり旅人が泊まっていることが分かった。
食事も満足な量を出してくれたし、さ、あとは寝るだけだ。

部屋に敷かれた布団七つを、それぞれが思い思いの考えで見ている。
こう眼の前に用意されると、想像よりもインパクトが大きい、やはりこの選択は過ちだったのではないか・・・。

「じゃーん、こんな夜もあろうかと、とっておきの怪談話を用意しておきましたー!」
え、このタイミングで?そう思った皆はそう言った本人であるシャルルの顔を見る、彼の顔は本気であり、とても楽しそうににキラキラした瞳を輝かせている。

「今から怖い話をしまーす!!」

「あ、どうぞ、わたしはそういうの平気な方なので」
カミュが余裕のある顔でシャルルを促す。

それに煽られたのかいい年をした男たちはその場に座り、さらに煽る。
「怪談?幽霊とかいる訳ないだろ、まぁいいだろう、話してみろ」
「結局、怪談話するんだね、エレナ、こっち座って」

7人が輪になって座り、シャルルが話し出すのを静かに待っている。

「では、とっておきの階段を、実はこれ僕の体験談なんですけどね・・・・」

ふっとシャルルの顔が真剣になり、机にあった蝋燭を持ち、雰囲気を作り出す。
死者・・・はエレナにとってそれほど遠い存在ではない、常日頃から戦死した者たちの無念の気持ちを受け取っているから。怖い、という感情はない、ただ悲しみが静かにたまってゆくのを感じる。

「僕が小さい頃、家にはじいやと母上がいらしたんです、父上はほとんどお仕事の関係で家を空ける事が多く、寂しくなるとじいやが父上の代わりに遊んでくれたんです。じいやはお話がとても上手で僕が寝付けない夜には本を読んでくれて、その声に安心して僕は眠ることが出来たんです。じいやからは兎に角沢山の事を教えてもらいました、蝶をとってくると、その蝶の名前を、チェスのやり方もじいやから教えてもらいました、母上は病気がちだったので、僕は一日の殆どをじいやと過ごしていました。で、ある日父上が久しぶりに家に帰って来たんです、なんだか久しぶりで恥ずかしくて・・・。」

意味ありげにシャルルはそこで話を区切る。

「でも父上に思い切って話しかけ、じいやから教えてもらった蝶の名前やチェスの仕方をお話ししたんです、そしたら父上の表情が・・・」

誰かがごくりと唾をのむ音がした、来るか、そろそろくるんだな!

「父上がじいやって誰だって言うんですよ。」

シャルルがニタリと笑って続ける。

「そんな者を雇った覚えはないし、母上に聞いても知らないというし、でも考えてみたら、じいやが僕以外の人と話したのを見たことがないんです、そして時がたち、写真を整理している時に父上の幼い頃のものがでてきて、僕はそこに写っていた人に釘付けになったんです、だって、父上を抱っこしているのがじいやだったから・・・」

ふっ、とシャルルが蝋燭を消す。
「きゃ―――――!!やめて蝋燭消さないで!!!!」
カリーナの悲鳴が聞こえたが流石に男性陣からの悲鳴は上がらなかった。
内心危うく声が出そうになったものもいる。

シャルルが再び蝋燭に火をつけると、なんとなくそこに居る全員に疲れが見られた。

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