異世界転生録~アヴェンジャー~

八雲 全一

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セイレン山に着いて二日目…俺は朝早くにエクスにテントの中で叩き起こされた。同じテントに眠っていたアンジェリカはまだぐっすり眠っている。
「お早う。紫音。今日から地獄の特訓を始めるわよ。」
「お早う。エクス。こんな時間に叩き起こす事は無いんじゃないかな?まずは朝食を食べさせてくれ。」
「貴方はサバァ缶詰を食べる前にやることがあるわ。我流…エクスカリバー流剣術の基本…袈裟斬りの特訓よ。ほらこれを使いなさい。」
そう言うとエクスは木刀を手渡してきた。この木刀を素振りすれば良いのだろうか?
「確かに受け取った。エクス。これで何をすれば良いんだ?」
「テントの回りには大木が沢山あるでしょう?どれでも良いから三千回打ち込みなさい。それを朝の鍛練とするわ。」
俺はゾッとした…三千回?腕がもげてしまうんじゃ無いだろうか?恐らく一回打ち込んだだけで筋肉痛は免れないだろう。
勘弁してほしい。キツい特訓だとは聞いていたがこれが朝飯前とは異様だ。
しかし俺は黒仮面の男を殺すまでは立ち止まれない。そのために繋がる事ならばやるしかないんだ。
「分かった。木に打ち込むよ。体が限界を迎えたらどうすればいい?」
「簡単な事よ。エクスカリバーの鞘の治癒能力を使えば筋肉の断裂から骨折まで幅広い怪我を直す事が出来るわ。さあ打ち込みなさい。」
…南無三。俺はテントを出ると目の前に生えている大木に狙いを定めた。打ち込む。骨が軋む。打ち込む。手に熱い痛みが迸る。打ち込む。皮が捲れそうになる。…

紫音はあまり文句を言わずにエクスカリバー流剣術の修行を始めた。まあ元々は私が全ての剣技を媒介してしまえば特訓の必要等ないのではあるが…あまり甘やかすのも趣味ではないし…紫音には一人前の剣士としての格を身に付けてほしいのだ。
…彼は必死の形相で大木に打ち込んでいる。まるで親の仇を討っているようだ。いや親ではないか…彼の場合は妹の仇と言うのが正しいだろう。
いくら大木に撃ち込んでも妹は帰ってこないが少しでも彼の気持ちが軽くなれば良いと思う。
旅の仲間に加わったアンジェリカは未だに爆睡している。彼女が起きたら彼女の腕を確認する意味でも紫音と立ち合わせたいと思う。
紫音はそんなことも露知らずに一心不乱に大木を撃ち続けていた。

それから三時間後…俺は大木に撃ち込む訓練を終えた。両腕が熱い…痛みを越えて熱さと違和感だけが残っている。
エクスは俺の事を目をそらさずにずっと観察していた。暖かい眼差しという訳では無さそうだ。
「エクス。三千回終わった。もう色々と限界だ。」
「紫音。ここから本格的な鍛練になるわよ。取り敢えず食事を取りましょう。」
そうエクスに促されて俺は食事を取った。アンジェリカから貰った大量のサバァ缶詰だ。手が痛むので食べるのも一苦労だ。
…フゥ。満腹だ。一缶で大人が腹一杯食べれる量だとは思わなかった。
サバァ缶詰の匂いに釣られてアンジェリカが起きて来たようだ。
「グッモーニン!紫音!エクス!ボクを置いて食事とは酷いじゃないか!ボクもサバァ缶詰頂きます。」
「お早う。アンジェリカ。俺は朝から鍛練でくたくただよ。のんびりしているお前が羨ましいぜ。さぁサバァ缶詰を食べるんだ。」
「お早う。後で少し紫音の鍛練に付き合って貰っても良いかしら?」
「エクス。勿論だよ。ボクだけ暇をもて余しているって言うのもなんだしね。ドーンと任せなさい!引き受けたよ。」
「ありがとう。アンジェリカ。詳細は後で伝えるわ。…紫音!食事が終わったら木刀を置いてエクスカリバーを握りなさい。技の使い方を教えてあげるわ。」
「分かったよ。エクス。木刀は君に返そう。って言っても三千回も打ち込んだからボロボロになっているんだけどね。」

俺は木に立て掛けていたエクスカリバーを握った。するとエクスがエクスカリバーの中に入ってきた。
「紫音…技の使い方だけれども…頭の中で使いたい技を念じればその技を繰り出す事が出来るわ。といっても戦場では一秒のロスが致命的な敗因になりかねない。だから素早く念じて…そしてどう体が動くかを覚えるの。その内無意識に技を繰り出す事が出来るようになるわ。また大木に撃ち込むわよ。さあ向かって。」
「分かったよ。エクス。技は何を繰り出せばいい?」
俺は再び別の大木の前に立った。手にはエクスカリバー…大木でも斬り倒せるかもしれない。
「袈裟斬り、直突、回転閃刃、雷閃の技をループで繰り出しなさい。」
「夢幻泡影とアルティメットスパークは?」
「まだ訓練で使うには早すぎるわ。先に述べた技を中心に鍛えなさい。」
「分かった。それじゃあ始めるぞ…」
俺は目を閉じて心の中で念じてみた…袈裟斬り!
すると構えていなかったエクスカリバーが急に上段の構えになり縦一直線に一閃を放った。
なるほど念じると体に動作が起こると言うわけだ。慣れればロスタイム無しで技を振るえるだろう。
その後の技も続けて撃っていく。
直突…直線の突きを素早く大木に放った。大木の幹を貫通し反対側が見えてしまっている。これがエクスカリバーの威力か…。
回転閃刃…回転斬りだ。一息の間に一回転を終えた。慣れれば集団の敵を一掃出来るだろう。
雷閃…雷の霊力を浴びた霊気の刃を大木に横一閃に叩き込む。大木には焼け焦げたような後がついてしまった。
これで一通りの技を念じ終わった。体の疲労感は強いが鞘の能力で連続した訓練が可能だろう。
俺はその後もエクスからの合図があるまでひたすら技を繰り出し続けた。
…もう何時間経ったのだろうか…辺りはすっかり日が落ちてしまった。ようやくエクスから止めるよう指示が出た。
「紫音…良いでしょう。大分ましな技の出し方になってきたわ。このまま毎日続ければ夢幻泡影やアルティメットスパークも使いこなせるようになるわ。お疲れ様…これで終わりと言いたい所だけどまだ終わりじゃないわ。アンジェリカ!」
「アイアイサー!ようやくボクの出番だね。覚悟は良いかな?紫音。ボクの朧村正の切れ味を味わうと良い!行くぞ!ボクの宿敵よ!エクスカリバーの勇者よ!」
何だって…最後はアンジェリカと戦うのか!ええいままよ!俺はエクスカリバーを構えると技を念じ始めた。
上段に無意識に構える。アンジェリカとの距離は三メートル。一気に踏み込む。此方からお見舞いしてやる!袈裟斬り!
エクスカリバーの刃がアンジェリカの目前に迫ったがアンジェリカはふらりと横に逸れ技を放ってきた。直突の三連段!
エクスカリバーを盾にして構えたものの二発を防いたが三発目が心臓に直撃した。血反吐を吐いて倒れる俺。
アンジェリカは心配そうに覗いてきた。
「ゴメンゴメーン!素人相手に本気になりすぎちゃった。いくらエクスカリバーを使いこなす勇者と言っても切り合いには慣れてないよね。まあ明日以降もチャンスは有るわけだしね…心してボクに挑むといい。剣とは何かを教えてあげよう。」
俺は鞘の効能で急速に傷が癒えるのを実感しながらアンジェリカの言葉を聞いていた。そうかこれから毎日殺し合うのか…果たして俺に勝利できる日は来るのだろうか?
明らかに剣士の格が違う。前回勝てたのはエクスカリバーの性能に頼り切っていたからだ。自分の腕前となるとアンジェリカには未だ遠く及ばないようだ。
エクスがエクスカリバーから出てきた。
「紫音…うちひしがれているのね。こんな事じゃ黒仮面の男には勝てないわよ。妹さんの仇を討ちたければ、それでも前を向いて前進し続けなさい。アンジェリカの腕に敵わなくとも下を向いている時間なんて貴方には無いわ。さあ今日はこのまま眠りなさい。明日からはまた過酷な訓練が続くわよ。お休みなさい。紫音。」
俺はフラフラとテントの中まで歩いていくとドサリと倒れ、夢を見る間もなく俺は眠りの世界へと落ちていった。
まだ特訓初日である…これからはこの地獄が一ヶ月続くのだ。
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