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あれから更に三週間経った。俺の訓練は過酷極まっていた。
まず大木に袈裟斬りを打ち込む訓練は朝の三千回から朝、夕の三千回に増量されていた。勿論技を繰り出す訓練も平行して行われている。その中でも縮地と夢幻泡影それにアルティメットスパークの練習は群を抜いて厳しかった。
縮地ではワープを強制的に可能にするためにエクスカリバーの権能を使用するのだが、格に合っていない技なので全身を絞られるような痛みが走る。
それを何度も何度も繰り返した。痛みはマシになっていたがそれでも縮地を思い浮かべるだけで全身が震えだす。実践では戦端を切り開く為に必須の技能とはいえ、痛みの恐怖を乗り越えなければ使い物にはならないだろう。
次に夢幻泡影。無限に近い斬撃を相手に浴びせる技だが一度繰り出す度に極度の疲労と全身の痛みに襲われる。
それを日に何度もエクスカリバーの鞘を使いながら繰り出すのだ。こちらも実戦で使えるかと言うと難しいだろう。実際アンジェリカとの決闘では使った事がない。
訓練も今日で最終日だ。何とか実戦で使用してみたい。
最後にアルティメットスパークだ。極大の霊的閃光を発射する対軍の必殺技だが、こちらも負担が大きい。
まず自分の中で気を練り始める…そして極限の境地に至った時に初めて撃てる技だ。
とにかく予備動作が大きく使い物にならない。相手も大きな動作を必要とする技を使っているときなら使用しても大丈夫だろう。
この技も全身への負担が大きく撃つと確実に両腕が上がらなくなる。アンジェリカと初めて闘った時はそんな事は無かったんだけどな。
縮地、夢幻泡影、アルティメットスパーク…そんな技達を一日に何十何百と放ち続けるのだ。痛みでショック死するんじゃないかと思うが人間は存外頑丈に出来ているらしく未だ俺が痛みに屈して発狂したり死んだりする事はない。
しかし発狂しかねない訓練も遂に終わりを迎える。
そう今日で山籠りは終わる。長いようであっという間の一ヶ月だった。
最初は袈裟斬りの鍛錬で根を上げていたが、それが当たり前になっていた。そして様々な技の鍛錬を積み、エクスカリバーを己の手足の様に操れるようになった。まあ未だ夢幻泡影とアルティメットスパークは完全にモノに出来た訳ではないのだが。
今夕刻の最後の袈裟斬りを大木に叩き込んだ。木刀は摩擦熱で発火し、大木からも煙が上がっていた。
隣で見ていたエクスが口を開く。
「そこまでよ。紫音。良い仕上がりじゃないの。心のそこからニヤニヤする笑いが込み上げてくるわ。」
そういうエクスはグニャアと擬音が聞こえてきそうな恐ろしい笑みを浮かべていた。世界の片隅で核兵器を作り上げたマッドサイエンティストなら同じような笑みを浮かべるだろう。
「あのー?エクスさん?大丈夫かな。どこかに羽ばたいて行っているみたいだけど。俺の大木撃ちにそんなに心惹かれたのか?確かに木刀が燃えて大木から煙が出るなんて珍しい事だろうけども。」
「フフフ…たった一ヶ月でそこまで肉体と技が身に付くなんて珍しいのよ。…まあ惜しむべきなのは今までの鍛錬で縮地と夢幻泡影とアルティメットスパークがまだ極まって無い位ね。実戦の中で貴方の格を上げて身に付けていくしかないでしょう。」
「そうだな。残りは実戦あるのみだ。さてそして立ち合いの時間だな。今までは半々位の勝率だけど最後だから今日は勝ちに行きたい。」
アンジェリカを見てみる。朧村正を眺めているようだ。彼女もこの一ヶ月間遊んでいる訳ではなく技に磨きを掛けるべく鍛錬を積み重ねてきた。
ボクは一ヶ月前と三週間前に真の敗北を経験した。ボクは今の強さがボクの限界だと言う事を良く理解している。旅に出る前に出身地である最強の戦士を産むと言われるゲーニアの国で女だてら男の戦士に混じって生死を掛けた闘いを何度もこなし、誰よりも長い時間剣の鍛錬を積んだんだ。何年間もだ。
だからボクに勝てるやつなんか居ないと思っていた。
でも今は違う。紫音…ボクを完膚無きまでに打ちのめした男。三週間前にボクに勝利してからは木刀の立ち合いとはいえボクを追い詰める回数も増えてきた。
彼にはエクスというパートナーが居るとは言っても言い訳にはならない。最強の戦士を産むゲーニア出身のボクがただの素人に毛が生えた様な奴に負けるわけにはいかないんだ。
ボクはそう胸に刻んで彼らから隠れて秘密の鍛錬を行った。ボクの剣は技に拘らない。その時その時の最善手を打つのだ。それを元から心掛けていた。
しかし更により強くボク自身が身に付ける為に大木に敵を見てひたすら流れるような無双の技を叩き込んだ。
彼と同じ一ヶ月でボクはどれだけ強くなれたのだろうか?それが試される闘いがこれから始まる。
俺はアンジェリカに声を掛けた。心ここに有らずと言った感じだ。
「アンジェリカ…この鍛錬最後になる立ち合いを始めよう。ほら木刀だ。」
俺は今朝エクスから貰った二本の木刀の内一本を手渡そうとした。
「紫音…いやそれには及ばないよ。今日は真剣で立ち合う事にしよう。もしかしたら人生最後の立ち合いになるかもしれないしね。」
俺は驚いてエクスに目配せをした。
「どうしたの?紫音。アンジェリカと真剣で立ち合うのは嫌なの?前はずっと真剣だったでしょ。もしかしたら死ぬかもしれないとか考えているの?そんなのはお互いに死んだ後後悔すれば良いのよ。その時はアンジェリカとの縁はこれまでだったと言うことね。」
「エクス…お前って奴は…トコトン戦闘狂いだな。仕方ない。エクスカリバーで行かせて貰うぜ。エクス…サポート頼んだ。」
「そうこなくっちゃね。始めるわよ!二人とも何時もの広場に移って頂戴。」
「了解。エクス。ボクも準備オーケー。広場で立ち合うとしようか。…誓おう。我が剣の勝利を!我が故国ゲーニアに捧げむ。」
俺達は毎日立ち合ってきた広場に移った。これがアンジェリカとは恐らく最後の闘いになる。そして今日のアンジェリカは本気中の本気だろう。気迫が伝わってくる。
俺は広場に立った。アンジェリカと相対する。距離は三メートル。死合開始。
俺は脳内で「縮地」を命じた。エクスカリバーが実行し一瞬で間合いを詰める。アンジェリカは居合いで反撃してきた。下段からの斬撃!俺はエクスカリバーを下に構えて受け流す。そして直突!相手の腹部を貫通。
アンジェリカは悶えて一瞬怯んだ。今が好機!
己に命ずる!夢幻泡影を使う!夢幻泡影の技の展開が始まった。
百手以上ある無限のごとき斬撃がアンジェリカを襲う。
数分に渡る斬撃の末、その場にはズタボロになったアンジェリカの姿があった。全身血塗れで朧村正を杖にヨロヨロと立っている。
良く息があるなと感じた。俺も限界だ。全身の疲労感と痛みに襲われた。
しかしこの勝負は俺の勝ちだ。俺は剣を納めた。
アンジェリカがブツブツと呟いている。
「…朧村…完全神話…展開…抑止力モード…極光魔神閃…」
アンジェリカの手が朧村正に引きずられる様にしてあがり光の奔流が朧村正を持つアンジェリカを包んだ。
そして光の柱が立つ。その中でアンジェリカは朧村正を向けるとこちらに振り下ろした。
アルティメットスパークは…?間に合わないかもしれないがやるしかない!
「エクスカリバー!究極霊閃モード突入!オーバーロード!エクスカリバー!アルティメットスパーク!」
無理矢理上段に構えが代わり虹色の閃光を迸らせるエクスカリバー。目の前にアンジェリカが放った極光の攻撃が迫る。そして着弾する瞬間…アルティメットスパークが放たれた。光と光の押し合いとなった。御互いの光線が真ん中までもつれ込むとアンジェリカが口を開いた。
「極光魔神閃…二段撃ち。」
アンジェリカは右手に朧村正もう片手には霊刃を展開した。
霊刃から光が迸り朧村正の閃光と合わせて此方に放たれた。
…駄目だ。全部持っていかれる!
大木の合間にある広場に大きな爆裂音が鳴り響いた。
俺のアルティメットスパークは打ち破られ、アンジェリカの極光魔神閃が命中し、爆発したのだ。
焼かれて焦げた体に力は入らなかった。もう後一回の袈裟斬りも撃てない。立ち上がる意志が折れそうになった。この闘いで決着がつくまでは鞘を使うつもりはない。
アンジェリカは俺の目の前で呆然と立っていた。あちらも全てを出しきって脱力しているのだろう。
いや…止めを刺しにきたんだ。朧村正を胸の高さで構えると俺の胸に向かって突きを放ってきた。
俺は避ける余裕も無くその一撃を受け止めた。胸に穴が開き鮮血が飛び散った。
ああ…そうだ。まだ俺には出来る事がある。エクスカリバーを握る力が戻ってくる。固く握りしめて最後の一閃を放つ。
雷閃!霊気の雷を帯びた一閃がアンジェリカの胴体を穿った。腹には大きな穴が開き、彼女は崩れ去った。
俺もその場にへたれこむと意識が遠のいていった。血の池の中で座禅を組むまるで僧侶のようだった。
私はエクスカリバーの中から事の次第を一部始終見守っていた。アンジェリカと紫音は本当にお互いに良くやった。限界を二人とも越えたところで剣を振るっていたのだろう。私の技の展開等のアシストが無くても今の紫音なら良い闘いになったに違いない。
…今二人は死の縁に居る。勇者を死なせてはならないだろう。
私はエクスカリバーの中から出た。アンジェリカは突っ伏し、紫音は自分の血の池の中で座ったまま事切れている。紫音が手放していたエクスカリバーの鞘をテントから持ってくると二人の体を運んで、鞘を真ん中に挟むように並ばせた。
これなら二人とも回復するだろう。
本当に強い子達に会えて良かった。今はただ眠ると良い。誇り高き勇者の子達よ。
まず大木に袈裟斬りを打ち込む訓練は朝の三千回から朝、夕の三千回に増量されていた。勿論技を繰り出す訓練も平行して行われている。その中でも縮地と夢幻泡影それにアルティメットスパークの練習は群を抜いて厳しかった。
縮地ではワープを強制的に可能にするためにエクスカリバーの権能を使用するのだが、格に合っていない技なので全身を絞られるような痛みが走る。
それを何度も何度も繰り返した。痛みはマシになっていたがそれでも縮地を思い浮かべるだけで全身が震えだす。実践では戦端を切り開く為に必須の技能とはいえ、痛みの恐怖を乗り越えなければ使い物にはならないだろう。
次に夢幻泡影。無限に近い斬撃を相手に浴びせる技だが一度繰り出す度に極度の疲労と全身の痛みに襲われる。
それを日に何度もエクスカリバーの鞘を使いながら繰り出すのだ。こちらも実戦で使えるかと言うと難しいだろう。実際アンジェリカとの決闘では使った事がない。
訓練も今日で最終日だ。何とか実戦で使用してみたい。
最後にアルティメットスパークだ。極大の霊的閃光を発射する対軍の必殺技だが、こちらも負担が大きい。
まず自分の中で気を練り始める…そして極限の境地に至った時に初めて撃てる技だ。
とにかく予備動作が大きく使い物にならない。相手も大きな動作を必要とする技を使っているときなら使用しても大丈夫だろう。
この技も全身への負担が大きく撃つと確実に両腕が上がらなくなる。アンジェリカと初めて闘った時はそんな事は無かったんだけどな。
縮地、夢幻泡影、アルティメットスパーク…そんな技達を一日に何十何百と放ち続けるのだ。痛みでショック死するんじゃないかと思うが人間は存外頑丈に出来ているらしく未だ俺が痛みに屈して発狂したり死んだりする事はない。
しかし発狂しかねない訓練も遂に終わりを迎える。
そう今日で山籠りは終わる。長いようであっという間の一ヶ月だった。
最初は袈裟斬りの鍛錬で根を上げていたが、それが当たり前になっていた。そして様々な技の鍛錬を積み、エクスカリバーを己の手足の様に操れるようになった。まあ未だ夢幻泡影とアルティメットスパークは完全にモノに出来た訳ではないのだが。
今夕刻の最後の袈裟斬りを大木に叩き込んだ。木刀は摩擦熱で発火し、大木からも煙が上がっていた。
隣で見ていたエクスが口を開く。
「そこまでよ。紫音。良い仕上がりじゃないの。心のそこからニヤニヤする笑いが込み上げてくるわ。」
そういうエクスはグニャアと擬音が聞こえてきそうな恐ろしい笑みを浮かべていた。世界の片隅で核兵器を作り上げたマッドサイエンティストなら同じような笑みを浮かべるだろう。
「あのー?エクスさん?大丈夫かな。どこかに羽ばたいて行っているみたいだけど。俺の大木撃ちにそんなに心惹かれたのか?確かに木刀が燃えて大木から煙が出るなんて珍しい事だろうけども。」
「フフフ…たった一ヶ月でそこまで肉体と技が身に付くなんて珍しいのよ。…まあ惜しむべきなのは今までの鍛錬で縮地と夢幻泡影とアルティメットスパークがまだ極まって無い位ね。実戦の中で貴方の格を上げて身に付けていくしかないでしょう。」
「そうだな。残りは実戦あるのみだ。さてそして立ち合いの時間だな。今までは半々位の勝率だけど最後だから今日は勝ちに行きたい。」
アンジェリカを見てみる。朧村正を眺めているようだ。彼女もこの一ヶ月間遊んでいる訳ではなく技に磨きを掛けるべく鍛錬を積み重ねてきた。
ボクは一ヶ月前と三週間前に真の敗北を経験した。ボクは今の強さがボクの限界だと言う事を良く理解している。旅に出る前に出身地である最強の戦士を産むと言われるゲーニアの国で女だてら男の戦士に混じって生死を掛けた闘いを何度もこなし、誰よりも長い時間剣の鍛錬を積んだんだ。何年間もだ。
だからボクに勝てるやつなんか居ないと思っていた。
でも今は違う。紫音…ボクを完膚無きまでに打ちのめした男。三週間前にボクに勝利してからは木刀の立ち合いとはいえボクを追い詰める回数も増えてきた。
彼にはエクスというパートナーが居るとは言っても言い訳にはならない。最強の戦士を産むゲーニア出身のボクがただの素人に毛が生えた様な奴に負けるわけにはいかないんだ。
ボクはそう胸に刻んで彼らから隠れて秘密の鍛錬を行った。ボクの剣は技に拘らない。その時その時の最善手を打つのだ。それを元から心掛けていた。
しかし更により強くボク自身が身に付ける為に大木に敵を見てひたすら流れるような無双の技を叩き込んだ。
彼と同じ一ヶ月でボクはどれだけ強くなれたのだろうか?それが試される闘いがこれから始まる。
俺はアンジェリカに声を掛けた。心ここに有らずと言った感じだ。
「アンジェリカ…この鍛錬最後になる立ち合いを始めよう。ほら木刀だ。」
俺は今朝エクスから貰った二本の木刀の内一本を手渡そうとした。
「紫音…いやそれには及ばないよ。今日は真剣で立ち合う事にしよう。もしかしたら人生最後の立ち合いになるかもしれないしね。」
俺は驚いてエクスに目配せをした。
「どうしたの?紫音。アンジェリカと真剣で立ち合うのは嫌なの?前はずっと真剣だったでしょ。もしかしたら死ぬかもしれないとか考えているの?そんなのはお互いに死んだ後後悔すれば良いのよ。その時はアンジェリカとの縁はこれまでだったと言うことね。」
「エクス…お前って奴は…トコトン戦闘狂いだな。仕方ない。エクスカリバーで行かせて貰うぜ。エクス…サポート頼んだ。」
「そうこなくっちゃね。始めるわよ!二人とも何時もの広場に移って頂戴。」
「了解。エクス。ボクも準備オーケー。広場で立ち合うとしようか。…誓おう。我が剣の勝利を!我が故国ゲーニアに捧げむ。」
俺達は毎日立ち合ってきた広場に移った。これがアンジェリカとは恐らく最後の闘いになる。そして今日のアンジェリカは本気中の本気だろう。気迫が伝わってくる。
俺は広場に立った。アンジェリカと相対する。距離は三メートル。死合開始。
俺は脳内で「縮地」を命じた。エクスカリバーが実行し一瞬で間合いを詰める。アンジェリカは居合いで反撃してきた。下段からの斬撃!俺はエクスカリバーを下に構えて受け流す。そして直突!相手の腹部を貫通。
アンジェリカは悶えて一瞬怯んだ。今が好機!
己に命ずる!夢幻泡影を使う!夢幻泡影の技の展開が始まった。
百手以上ある無限のごとき斬撃がアンジェリカを襲う。
数分に渡る斬撃の末、その場にはズタボロになったアンジェリカの姿があった。全身血塗れで朧村正を杖にヨロヨロと立っている。
良く息があるなと感じた。俺も限界だ。全身の疲労感と痛みに襲われた。
しかしこの勝負は俺の勝ちだ。俺は剣を納めた。
アンジェリカがブツブツと呟いている。
「…朧村…完全神話…展開…抑止力モード…極光魔神閃…」
アンジェリカの手が朧村正に引きずられる様にしてあがり光の奔流が朧村正を持つアンジェリカを包んだ。
そして光の柱が立つ。その中でアンジェリカは朧村正を向けるとこちらに振り下ろした。
アルティメットスパークは…?間に合わないかもしれないがやるしかない!
「エクスカリバー!究極霊閃モード突入!オーバーロード!エクスカリバー!アルティメットスパーク!」
無理矢理上段に構えが代わり虹色の閃光を迸らせるエクスカリバー。目の前にアンジェリカが放った極光の攻撃が迫る。そして着弾する瞬間…アルティメットスパークが放たれた。光と光の押し合いとなった。御互いの光線が真ん中までもつれ込むとアンジェリカが口を開いた。
「極光魔神閃…二段撃ち。」
アンジェリカは右手に朧村正もう片手には霊刃を展開した。
霊刃から光が迸り朧村正の閃光と合わせて此方に放たれた。
…駄目だ。全部持っていかれる!
大木の合間にある広場に大きな爆裂音が鳴り響いた。
俺のアルティメットスパークは打ち破られ、アンジェリカの極光魔神閃が命中し、爆発したのだ。
焼かれて焦げた体に力は入らなかった。もう後一回の袈裟斬りも撃てない。立ち上がる意志が折れそうになった。この闘いで決着がつくまでは鞘を使うつもりはない。
アンジェリカは俺の目の前で呆然と立っていた。あちらも全てを出しきって脱力しているのだろう。
いや…止めを刺しにきたんだ。朧村正を胸の高さで構えると俺の胸に向かって突きを放ってきた。
俺は避ける余裕も無くその一撃を受け止めた。胸に穴が開き鮮血が飛び散った。
ああ…そうだ。まだ俺には出来る事がある。エクスカリバーを握る力が戻ってくる。固く握りしめて最後の一閃を放つ。
雷閃!霊気の雷を帯びた一閃がアンジェリカの胴体を穿った。腹には大きな穴が開き、彼女は崩れ去った。
俺もその場にへたれこむと意識が遠のいていった。血の池の中で座禅を組むまるで僧侶のようだった。
私はエクスカリバーの中から事の次第を一部始終見守っていた。アンジェリカと紫音は本当にお互いに良くやった。限界を二人とも越えたところで剣を振るっていたのだろう。私の技の展開等のアシストが無くても今の紫音なら良い闘いになったに違いない。
…今二人は死の縁に居る。勇者を死なせてはならないだろう。
私はエクスカリバーの中から出た。アンジェリカは突っ伏し、紫音は自分の血の池の中で座ったまま事切れている。紫音が手放していたエクスカリバーの鞘をテントから持ってくると二人の体を運んで、鞘を真ん中に挟むように並ばせた。
これなら二人とも回復するだろう。
本当に強い子達に会えて良かった。今はただ眠ると良い。誇り高き勇者の子達よ。
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