異世界転生録~アヴェンジャー~

八雲 全一

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影の島…シャドウアイランド。ここイスワルドにある異界にして隔絶された閉鎖空間だ。悪霊の魂が封じ込められ、地獄の様相を呈していると言う。
…書物で得られる情報を纏めるとこんなものだった。何故俺がこんなものを調べているかと言うと話は昨日にさかのぼる。

…昨日 交易都市マムルーク 宿屋…
俺達は依頼もないので宿屋で休憩をしていた。アンジェリカが口を開く。
「ねぇねぇ。エクス、紫音。暇でしょうがなくないかい?へへへ…この町で賭場を見つけたんだ。今日はそこで一稼ぎって言うのは如何かな。」
下卑た笑いを浮かべながらアンジェリカは意見をしてくる。
金は確かにたんまりと有るのだが賭け事で散財したら大事に至る。のんびりとした旅ではなく日銭を稼ぐ息苦しい旅になってしまうだろう。エクスの顔を見る。
うーん。露骨に不快そうな顔をしているな。アンジェリカ…地雷踏んでいるぞ。何せエクスは真面目な委員長気質だ。何年も旅をしてきてそんなことも理解出来ていないのだろうか?
エクスが眉をヒクヒクさせながら口を開いた。
「アンジェリカ…楽をして稼ぐどころか散財の事を相談するなんてどういう了見かしら?絶対に許さないわよ。そうね。暫くは貴女の行動は私が監視します。大事なお金を持ち出して勝手に使われては困るもの。」
「ひええ…そんな事って酷すぎるよ。ボクのお小遣いの範囲でやってくるだけだからさ?なぁ…良いでしょ?エクス?」
「駄目です。家は共有財産なのよ。確かに必要に応じて支出は認めているけれど、賭博の為の出費なんか認めませんからね!諦めてお縄に着きなさいアンジェリカ。」
「えええ…紫音!黙ってないでさ…エクスに何か言ってあげてよ!こんなの不公平だよ!紫音だって正宗を大枚はたいて買ったりしていたじゃないか!」
「アンジェリカ…正宗は必要な出費だよ。お陰で戦力も増したしな。でも賭博はオススメ出来ないな。エクスが怒るのももっともだ。潔く諦めてくれ。」
「ちぇー。何だよ。暇潰しに丁度良いと思ったていうのにさ。分からず屋め…あれ紫音。こんな手紙あったっけ?」
そう言うアンジェリカは宿屋の部屋にある机の上の手紙を指差した。
真っ黒な封筒に入っている手紙だ。こんな目立つ物を見過ごす訳が無いのだが…?
「いや…初めて見るな。封を開けるとするか。どれどれ。」
エクスが不快そうな顔をする。
「何か嫌なオーラを放っている封筒ね。開けずに始末する方が良いかもしれないわ。」
「そうは言っても中身を確認しないとな。まあ俺達のような根無し草に封筒って言うのもおかしな話だけど…罠と言うことは無いだろう。」
意を決して封筒を開ける…すると中には真っ赤な手紙が入っていた。内容を読んでみる。
「明後日丑の刻にマムルークの目抜通りを抜けた酒場付近の路地裏にて転位陣を用意する。そこは影の島…シャドウアイランドへの入口である。お前達がこの誘いを断れば災厄がマムルークだけではなくノースメリカン大陸全土に及ぶ。シャドウアイランドにて報復の時を待つ。名も無き狂信者より。」
これは…脅迫状だ。猶予は余り無い。腹を決めなくてはならない。
「俺達を狙った脅迫だな。エクス、アンジェリカ…シャドウアイランドについて何か知っていることはないか?町なのかダンジョンなのか?俺には皆目検討もつかない。一応ノースメリカン大陸は歩き尽くした筈なんだけどな。」
「私にも分からないわね。この町に図書館があるでしょう。そこで調べてみましょう。災厄が世界を襲うと言うのは誇張しているのかもしれないわね。そんな力を持っているのは神霊クラスの敵だもの。この手紙の差出人は神霊だとは思えないわ。」
「ボクも分からない。それにしても暇だとは思っていたけど…ボク達は本当に争いが絶えないねえ。暗黒教団を叩き潰したからそれの恨みを買ったのかな?のこのこシャドウアイランドに行く必要も無いとは思うけどね。まあ体も鈍ってしまうし、ボクとしては行っても行かなくてもどちらでも良いよ。」
「そうか。二人ともありがとう。エクスの言う通り町の図書館に向かって情報を集めるとするか。期限は後一日半と言った所だな。行こう。」
俺達は出かける支度をするとマムルークの町の図書館に向かった。
そして様々な書物の中からシャドウアイランドについて書かれた物を見つけた。そして詳しい内容を知ることが出来た。
印象としては隔絶された地獄だ。そこに俺達を待っている奴がいる。準備も無しにホイホイ行って良い場所ではない。長丁場になるかもしれない。
情報を手にいれたので図書館を後にする。そのまま目抜通りの屋台で携行食糧を売っている店に寄り、干し肉やサヴァ缶詰を大量に買い込んだ。
「えへへ。やっぱり闘いはサヴァ缶詰が命だね。」
「そればっかりを食べると言うのは避けたいものだけれど。アンジェリカはむしろサヴァ缶詰だけの方が良いのね。」
「まあね。美味しくて栄養価も高い。旧世界の文明から伝わる最高の保存食…それこそサヴァ缶詰さ。ビバ黒歴史!」
「製造は最近の工場みたいだし、安全ね。」
「エクス、アンジェリカ。宿屋に戻って体を休めよう。明後日の丑の刻まで宿屋で待機だ。」
「了解したわ。行きましょう。紫音。」
「退屈だけどしょうがないね。シャドウアイランドに着いたら暇はしなそうだしいいか。分かったよ。紫音。」
俺達は宿屋に戻り、ひたすら時を待った。
そして指定当日の丑の刻…俺達は酒場の近くの路地裏に来ていた。そこには赤黒い空間の裂け目とも言うべき物が開いていた。
この先がシャドウアイランドに繋がっているのだろう。俺達は意を決して飛び込んだ。
裂け目の中は時空間の断裂と言っても良かった。様々な現世の景色が浮かんでは消えていく。
「何だ。この場所は…次元の狭間なのか?本当にシャドウアイランドに辿り着くのか?」
「紫音…落ち着いて。どす黒い光が空間の先から延びてる。これがシャドウアイランドに導く物に違いない。」
「そうね。私もそう思うわ。アンジェリカの言う通り。あの黒い線を辿って行けばシャドウアイランドに辿り着くでしょう。」
二人がそう言う物を俺も確認できた。どす黒い光が俺達の体にいつの間にか巻き付くように絡みついている。
その先には真っ黒な空間が広がっていた。恐らくあれがこの世界のあの世の一つ…シャドウアイランドなのだろう。初めてエクスと出会った時…アイリス様との邂逅とは比べ物にならない。恐るべき怖気がはしる光景だ。
それでも進まなくてはならないだろう。どうやら進もうと思うとこの時空間の狭間でも体は動くようだ。
ゆっくりとシャドウアイランドの時空に近づいていく。エクスとアンジェリカも後に続いた。
だんだん目の前が開けてきた。
そこは真っ黒な大地だった。炎で燃やしつくしたのだろうか?草一つ生えていない。
俺達は黒土の大地に降り立った。
「ここがシャドウアイランド…何にも無い島なんだね。さっきから嫌な予感が止まらない。ゾクゾクして堪らないよ。」
「アンジェリカ…落ち着きなさい。まだなにもされていないわ。でも敵が出てくるでしょうね。わざわざ私達を呼んだんですもの。私達を殺しきれる敵が…」
「俺も得たいの知れない恐怖を感じるがまずは周りを散策しよう。何か人工物があるかもしれない。このままどこまでも黒い大地が続いているとは思えないんだ。」
「それもそうね。ここに留まっていても事態は好転しないでしょうしね。紫音…エクスカリバーに憑依しておくわ。何時でも闘えるわよ。」
「ボクも戦闘態勢オッケー。地獄巡りと行こうか!」
そうだな…ここはイスワルドに置ける地獄なのだ。まともな空間では無いだろう。
俺達は宛も無く歩き続けた。
………………………………………………………………………………
暫くすると銀色の光が目に入って来た。そのまま進んでいく。そこは針山地獄の様だった。フワフワと漂う亡者の魂が獄卒によって針山に突き刺されている。初めて会った生命体がよりによって地獄の獄卒とは…
向こうから声を掛けてくる。
「おい!貴様ら…何故生きた人間がシャドウアイランドに居るのだ。ここは死者の島。生きた人間の居て良い場所ではない。シャドウアイランドの大神に代わり俺が裁いてくれるわ!」
「へぇ!話が通じる雰囲気じゃないみたいだね!紫音!エクスカリバーを抜いて!」
「仕方がないな。やるか。」
獄卒は鬼なんだろうか?詳しい事は分からないが油断できる相手ではない。身の丈程の金棒を持っている。全身の筋肉は盛り上がっていた。あの一撃を食らえばこちらが砕けるだろう。
距離は二十メートル程。アンジェリカが速攻を掛ける。
「行くよ!一撃で仕留めて魅せる!」
縮地!そして獄卒の目の前に転移した。そのまま居合抜き!半月斬!切り返しの早い半月状の斬撃が獄卒の首を刈り取った。
吹き出る血潮。獄卒は首を失い卒倒した。これで終ったかに思えたが…
「フフン!ボクの一撃で勝利だ。どんなもんだい!先に進もう。紫音!」
「ッッ!油断しないで!まだ死んでいないわ!」
エクスが憑依状態で吼えた。
獄卒はゆらりと立ち上がった。そして首を拾い上げて接着する…そこには何事も無かったように金棒を構える獄卒の姿があった。
「くそっ!奴は不死身なのか。」
「神の領域に達していると思われるわ。シャドウアイランドの大地が彼に力を与えているのでしょう。コアを撃ち抜くか…存在ごと消滅させるしかないわね。」
「アンジェリカ!そのまま獄卒を縫い止めておいてくれ!」
「了解!後は任せたよ。紫音!」
アンジェリカは獄卒と至近距離から打ち合っている。金棒の重い一撃一撃に押され気味の様だ。
彼女が時間を稼いでいる内に…対軍奥義の準備をする。集中し心を一つにして台詞を唱える。
「エクスカリバー!究極霊閃モード突入!オーバーロード!…アルティメットスパーク!」
エクスカリバーから虹色の閃光が迸った。アンジェリカごと獄卒の体を貫く。着弾点からは光の柱が登っていた。
「ハァハァ…ボクごと貫くなんてね。ビックリしたけど無傷みたいだ。獄卒は死んだね。まあ魂はこのシャドウアイランドをさ迷って蘇生するんだろうけど…」
アンジェリカが歩いて戻ってきた。
「驚かせて悪かったな。大丈夫だったか?アンジェリカ?」
「まあ何とか大丈夫だったよ。獄卒はあれで最後って事は無いだろうね。シャドウアイランドの地獄?は始まったばかりだ。うんざりするよ。斬っても死なない敵なんてさ。」
「引き続き探索を続けるとしましょう。私達を呼び込んだ。悪霊かしらね?…の所在を確かめましょう。まだまだシャドウアイランドの大地は広がっているわよ。」
俺達は覚悟を決めてシャドウアイランドの探索を続ける事にした。
続く………
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