復讐のエリスルージュ~イスワルド冒険記~

八雲 全一

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「敵襲!敵襲だ。起きてくれ。神託の巫女達よ!」
真夜中に誰かに叩き起こされる。この声はミーシャだった。
「敵襲?他の部族の連中かしら。ほら、エリカも起きるのよ。」
「分かったよ。エリス。…あーあ寝足りないなあ…。」
「敵を倒せばすぐに寝られるわ。さっさと片付けましょう。」
「神託の巫女達…夜中に済まないな。近隣の集落から送り込まれた敵兵と闘ってもらおう。勿論サイガ村の戦士と巫女たる私も戦いに加わる。敵の数は二十人程の大部隊だ…クソ、まるでこちらが援軍を手に入れたのを知ったかのように大部隊で攻めてきたんだ。」
「二十人…その位なら余裕で倒せるわ。精々あさるとらいふる?で武装している位の敵なんでしょう。すぐに蹴散らして見せましょう。」
「…油断はならないぞ。神託の巫女よ。対物ライフルやロケットランチャーで武装しているものもいる。そいつらと闘えばまた死人が出るだろう。それにサイガ村の戦士は私達を入れても八名しかいない。この闘い…死戦になるやもしれない。」
エリカが口を挟む。
「落ち着いて落ち着いてミーシャ。弾避けの加護っていう便利な魔法があってね。その魔法を使えば一切こちらには被害が出ないで敵を撃つ事が出来るんだ。単純だけど素晴らしいだろう。これで敵の兵士もいちころさ。さあ闘うとするか。」
「随分な自信だな。神託の巫女達。貴女達の実力を見せてもらうとするか。簡単に死ぬんじゃないぞ。敵はサイガ村の入り口に固まっている。この住居からの距離は五百メートル程だ。」
私達は目線を交わす。エリカは了解と頭を振った。私はタケミカヅチに手を掛けた。エリカは弾避けの加護を私達に掛ける。
私は敵が視認できる位置まで駆けていった。あさるとらいふる?に加えてろけっとらんちゃー?やたいぶつらいふる?の弾も雨嵐のように飛んでくる。全部の弾が私を避けていった。弾避けの加護は万全に機能を発揮している。敵はここから…五名…十名ほど見える。
タケミカヅチを構える。そして一人ずつに死を与えていった。敵は明らかに動揺していたが逃げ出さずにその場で銃を連射していた。
まったく無駄な事をするわね。効くわけないでしょ。そんなヘボい銃撃なんて…タケミカヅチでも持ってくる事ね。まあ持ってきても弾避けの加護の前には無意味なんでしょうけど。
十名しっかり殺し終えた。残りの十名の姿が見えない。残りはエリカの方という事だ。
ボクは戦場を傍観していた。エリスが駆けていった所に十名の敵兵がいる。ボクの視線の先にはもう十名がいるのだろう。ボクは村の戦士達とミーシャに弾避けの加護を与えた。
視線の奥の戦場に向かった彼らは銃撃を繰り返していた。
「敵兵を一人やったぞ!」
「こちらも一人撃破だ。やったぜ!」
「私は三人撃破したわ!」
戦士達各々が撃破した人数を報告している。弾避けの加護で優位に立てるのだ。久々に経験する圧倒的な有利な状況だろう。精々楽しんでくれ。ボクは傍観者に徹するのみだ。だってあんまりにも簡単に片づけたらつまらないだろう?
戦士達が声を上げる。
「残り一人だ。…こいつおかしいぞ。俺達の銃撃を幾ら喰らっても笑って立っていやがる。悪魔だ!悪魔が現れたぞ!」
ミーシャが叫ぶ。
「全員で集中射撃よ。生きているなら必ず死ぬわ!発射開始!」
中々手こずっているようだ。大丈夫だろうか?少し気になる。
「こいつ口から何か吐きやがる…酸だ。肉体を溶かす酸を吐いて来るぞ。」
「皆、撤退なさい。このままじゃ死ぬわよ。クソ!駄目よ。動かないと全滅するわ。」
ミーシャが真っ青な顔をして戻ってきた。事情を聴いてみる。
「結構不味い状態みたいだったけど、何があったんだい。もっと早く戻って状況を教えてくれたら駆け付けたのに…君達は意地を張りすぎだ。」
「敵兵の中に銃撃が効かない酸を吐く化物が混じっていたの…マリク達は…村の戦士達は全員殺されたわ。私だけ息も絶え絶えに逃げ出してきたの。」
「ミーシャ…もっと早く言ってくれ。そうすればボクも傍観せずに動いたよ。今からじゃ遅いかもしれないけれど…ギフテッドの力を発揮する時だね。その化物の場所まで連れて行ってくれ。」
「ここの通りを真っすぐ行って村を出た林の中にあの化け物はいるわ。気を付けて…酸性の液体を吐いて簡単に人間を殺すわ。恐らく付近の集落の現人神よ。あいつを倒せばしばらく他の集落からの襲撃は収まるはず。」
「了解。すぐに退治して見せよう。神の力を使った化物を退治するのは得意なんだ。さあ行ってくるよ。」
ボクはそう言うと村の通りを真っすぐ行って入り口を出た林に向かった。周囲からは濃厚な神気があふれ出ている。居るね。神の化物が。
そう思った矢先、何者かに問いかけられる。
「お前も村の戦士か。こんな若い娘っ子一人で俺様を殺せると思ったか…神の戦士セリオン様が貴様の様な雑魚に倒せると思うか…シャア…」
こいつが神の化物か…声だけが聞こえる。卑怯にも周辺に隠れ潜んでいるのだろう。奇襲を受けて体を焼かれるのも嫌だし、おびき出すか。
「いかにも神の戦士セリオンよ。お前を討つ為にやってきたギフテッドとはボクの事だ。エリカ・フェニックスという。ボクは逃げも隠れもしない。正面から掛かってくるんだな。」
「名乗るとは良い心掛けだな。御嬢さん。それでは俺も正面から行かせてもらおうか…シャア…」
眼の前の闇がより深くなり人の形を成した。真っ黒な人型の闇…それがセリオンの正体だった。神気を放っているが禍々しさを覚える神の化物だ。ボクは全力で打倒す準備を始めた。こんな奴にはもったいないかもしれないけど…やる事をやるだけさ。ブラッドヒート…拳足を限界まで強化する。セリオンとの距離は五メートル程だ。ボクは地面を踏みしめると跳躍した。セリオンの眼前に飛びかかる。セリオンは酸を吐いてきた。ボクは拳で左右に振り払うと無効化した。
「何だと…貴様。何故俺の酸が効かないんだ。そんな奴この世にいる筈がないんだ。何故だ。答えろ。こんな娘に無効化されるなんて信じられない。」
「セリオン君…世の中にはどうしても一人や二人勝てない相手がいるもんだよ。君の場合はボクがその相手だ。華と散るが良い。全力で行くぞ!」
ボクは拳で連撃を叩き込んだ。マナが迸る拳がセリオンを穿つ。
正拳正中線三段突!手刀!足刀!延髄斬!両手突!貫手!上段回し蹴!中段回し蹴!下段回し蹴!八連正拳突!億劫蓬莱神獄掌!
限界を超えた連撃にセリオンの肉体は爆散した。そして蘇生の可能性のある魂までもが億劫蓬莱神獄掌によって叩き砕かれる。
「これで終いだ!残心…」
ボクは拳舞を舞い終えた。セリオンは死体すら残さずにこの新大陸から消え去った。村の戦士達の遺骸を探す。まだ死んでから時間が経っていない。蘇生可能だろう。
死体を見つけると一体ずつコードフェニックスを発動させていった。十分程かけて五人を蘇生しておいた。
五人とも感謝の言葉をそれぞれに述べていた。
「死んだところを助けて頂くなんてありがとうございます。神託の巫女様。貴女が居なければ俺達は全員死んで村を護れないところでした。しかし一体どんな魔法で蘇生したのですか?俺には皆目見当が付きません。」
「知らなくていい事もあるんだ。戦士君。体をお大事にね。」
「助けて頂いてありがとうございます。一時はどうなる事かと思いましたよ。巫女様のおかげです。」
「いやいやそれほどでも…っていうか君達見た目の割にフランクな喋り方なんだね。そこに驚くよ。」
「俺一生巫女様について行きますよ。巫女様万歳!巫女様万歳!」
「勘弁してくれ。君みたいな半裸のお面の男に付き纏われる趣味は無いんだ。」
「九死に一生って奴ですね。巫女様。俺は酸性の液体を浴びて体がドロドロになる所までしか記憶が無いんですけど…そっからどうやって復活したんですか?」
「気合だよ。気合。君の生きたいという意思が強いから蘇生できたのさ。難しく考えることは無いよ。お大事にね。」
「巫女様。惚れました。俺と結婚してもらえませんか?絶対に幸せにしますから!」
「御断り!君達本当に見た目の割にはっちゃけてるね。この間までロケットランチャー向ける様な間柄だったんだよ…順応能力高すぎでしょ。」
何か戦闘よりこいつらの世話でどっと疲れた気がするね。ミーシャに引き渡そう。
ボク達は村の集会所まで戻っていった。途中までの道にミーシャは見当たらなかった。
目標の人物がいた。ミーシャだ。すごく驚いている。涙目になるミーシャ。
「そんな…マリク達は死んだんじゃなかったの。嘘…嬉しい。信じられないわ…。」
「良かったね。ミーシャ。皆ボクの魔法で蘇生しておいたよ。ただしボクが居るからって死ねるとは思わない事!時間が経った死体はどうしようもないからね。」
マリクが口を開く。多分彼らの中ではリーダー格なんだろうと思った。
「ミーシャ。俺達は巫女様のおかげで大丈夫だから。心配するな。これからも村のために頑張っていくから…もう泣くなミーシャ。笑ってくれ。美人が台無しだぞ。」
「馬鹿…皆あの神の化物相手に意地張って死んじゃって…私がどんな気分になったか分かる?もう絶対に死ぬような無茶をしないで…約束よ。」
ボクは泣きながら話し合っているミーシャ達から離れてエリスを探した。
村の入り口まで来た。ここまでの間にどこかで会うかと思ったけれど出会えなかった。
居た…恐らくまだ敵を索敵しているのだろう。エリスに声を掛ける。
「お疲れ様。エリス。もう敵は片付いたよ。しばらくこの村を襲ってくる近隣の集落は無い筈だってさ。」
張り詰めていた気を解くエリス。
「そう…わざわざ伝えに来てくれたのね。ご苦労様。エリカ。」
「いやいや当たり前の事だよ。パートナーだからね。君の方では化物みたいなやつはいなかったのかい。」
「?…ええ。全員普通の兵士だったわ。タケミカヅチで始末をつけたの。その言いぶりだとそっちは大物が引っかかったみたいね。」
「ああ…神の加護を受けた化物が一匹いたよ。勿論ボクが処理しておいたけど…村の戦士が全員殺されたんだ。危ない所だった。ボク達が居なければこの村は本当に今晩消滅していたかもしれなかったね。」
「私達が居たのも巡り合わせかしらね…滅び去る筈だった村と私達…ニブルヘルムを思い出すわ。今度は護れて良かった。」
エリスは泣き出しそうな顔になっていた。やっぱり引きずるよね過去の事は…
「これからはこの両手が届く範囲の物を護っていけばいいさ。気負うことは無いよ。エリス。戦場の真ん中で言う事じゃないかもしれないけれどのんびりやっていこう。もうボク達は自由なんだから。」
「フフ…今はこの新大陸でサイガ村を護るとしましょう。新大陸が何処まで続いているのかは分からないけれど…身近で護れる場所だもの。それに一宿一飯の恩義もあるしね。」
私達は村の入り口から集会所まで戻った。そこには村の戦士達と泣きながら話していたミーシャの姿があった。
「ミーシャ。全ての敵を片付け終えたわ。これでこの村を襲う者はいない。それにしても隣の村は何故サイガ村を襲うのかしら。何らかの理由で戦争をする事態に陥っているの?」
「スンスン…ごめんなさい。見苦しい所を見せたわ。きっと大した理由なんて無いのよ。隣の村を滅ぼして自分たちの領地を拡張したいとかそんな所じゃないかしら。私にも詳しく分からないの。いつも話し合う前に殺し合いになってしまうから。でももう大丈夫。二十人もいる戦士を全て失ったんですもの。当分は攻めてこられないはずよ。」
ボクが口を開く。
「なら村の厄介ごとは一つ片付いたね。残る一つは危険な生物の討伐か…。また後日取り組むべき案件かな。今日は皆体を休める事にしよう。新たなる敵に備えるんだ。」
エリカの一声で私達はそれぞれの住処に帰っていった。時刻は明け方に近かったが私達はぐっすりと睡眠を取った。

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