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16、ツマラナクテモ勝ちは勝ち!

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 合戦大会一回戦。
 昨日下見した森の戦場。
 
「やっぱ俺、大将やだわー」

「ラール、早く赤いお皿付けてね」

 中央の草原で向かい合う、ムキムキマッチョで構成された3年生の通常クラスと、俺たち1年生の事務クラス。

「俺は皿を割られるだけで済むのだろうか? これ、死ぬんじゃない?」

 大将マークの赤い皿を持つラールを、ニヤニヤと見る3年のイカツイ先輩方。
 やはり大将が、いの一番に狙われる。
 
「‥‥‥ラールが言い出した事だろ? 大将がいきなりやられちゃったら、作戦も何もあったもんじゃなくなるから、一番強い俺がやるって。本当に嫌なら今からでも代わるぞ?」

「うるせえ、男は度胸!」

 覚悟を決めたようで、皿の付いた鉢巻を頭に巻くラール。
 正直うちのクラスで大将をやりたがる人間なんて1人もいない。
 自分より身体の大きな人間に、よってたかって狙われるのだ、そりゃ嫌だろう。
 ブツブツ言ってはいたが、ラールの根性は素晴らしいと思う。




「集合!」

 教師の掛け声で、中央に1列に並ぶ。
 騎士道精神がどうとかと、うたってる大会なので、戦闘前に相手チームと挨拶をするのが、この大会のしきたり。

「おいおい、事務クラスの馬鹿ども、いっちょ前にやる気になってるんじゃねぇだろうな?!」

「テメェら、勝てるとでも思ってんのか! 舐めてっと皿と一緒に頭かち割ってやるからな!」

 威勢のいい先輩方。
 ‥‥‥騎士道精神は何処いずこへ?
 しかし、その効果は絶大だ。
 ウチのクラスは皆青い顔になっております‥‥‥。

「うるせぇ。そっちこそ負けて吠え面かくんじゃねぇぞ」

 1人だけ元気なラール君。
 流石大将!

「テメェ誰に向かって口聞いてやがんだ!」

「敵のアホ大将様」

「決めたぜ、全員でお前をボコボコにしてやらあ! 皿を簡単に割って貰えると思うなよ!」

「どうぞご自由に」

 大将同士の言い争いが始まった。

 ───ラールうまい!

 お前はやっぱり根性あるわ。



「静かにせんか!」

 教師の声で渋々と引き下がる両者。

「事務クラス、調子に乗るなよ! お前らは何故だかわからんが上からの指示で、今回だけ特別に参加出来てることを忘れるな!」

 審判の言葉とは思えない、えこ贔屓ぶりです。
 ‥‥‥これ、ちゃんと審査してくれるかな?

「では、10分後に開始する! お互いに礼!」

 一通りのルール説明と挨拶を交わして下がる両軍。
 後は審判が10分後に叩く鐘の音で、戦闘開始だ。
 それまでにやれる事をやる。


「大将、挑発凄く良かった」

「あの方が効果あるんだろ?」

「完璧すぎてびっくりした」

「まだ死にたくから、本当に後は頼む!」

「大丈夫。きっと上手く行く」

「おう、期待してる」

「あとラール、さっきの先輩方の話ぶりだと、皿を割らずに永遠にボコボコにされるみたいだから、やばいと思ったら自分で皿割っちゃいなよ」

「‥‥‥いいのか?」

「怪我してまで頑張る戦いじゃないだろ?」

「‥‥‥まあ、やれるとこまで頑張るわ。しかし本当に上手くいくかね?」

「先輩方、まだ始まってもないのに全員ラールの事熱い眼差しで見てるから、大丈夫」

 いつでも始めれますと言わんばかりに、武器を片手にラールを威嚇している先輩方。

「‥‥‥怖っ!」
 




「さて、作戦は皆理解してるかな?」

「任せろ!」

 気合いの入ったラールの声に賛同して頷くクラスメイト達。
 事務クラスの面々は皆頭が良いので理解力が高く、作戦をすぐ覚えてくれるので凄く楽だった。
 
「じゃあ大将、なんか景気付けに号令とかやらない?」

「カイトがやれよ‥‥‥」

「俺は基本的に何もしない‥‥‥と言うか、出来ない訳だし、これは大将の仕事。ほら時間がない!」

「‥‥‥よし、皆頑張ろう! 事務クラスの力見せてやろうぜ!」

『おお!』

「よし、皆散れ!」

 士気を上げるのも大将の仕事。
 ラールの合図でクラスメイト全員が皆バラバラになって森の中に消える。
 作戦開始だ!

「コラッ! テメェらどこ行きやがる! 逃げんじゃねえ!」

 森を走る俺の耳に遠くから敵の大将の声が聞こえた。
 戦わずに隠れる相手なんて前代未聞だろ?

 ───さあ、行くぞ!





 ジャーンッ! ジャーンッ!ジャーンッ!

 鐘の音。
 戦闘開始の合図だ!
 俺は高い木の上。
 木登りは出来ないので梯子を使った。
 梯子に殺傷能力はないので有りでしょう。
 これで全体とまではいかないが、ある程度戦場は見渡せる。

「うわ、何あの人達‥‥‥隊列も組んでない‥‥‥」

 鐘の音と共に我先にと森へ駆け出す先輩方。
 これは予想より酷い‥‥‥。
 
「‥‥‥いや待て、これは作戦か?!」

 ゲリラ戦に対してゲリラ戦を仕掛けて来たのなら、固まらずにある程度バラけて隠密行動を取るのはいい手だ。
 なるほど、これは此方も作戦を切り替える必要があるな‥‥‥。

 ───面白くなってきた!

「コラーッ! 出てこい事務クラスのアホ共!」

 戦場に響き渡る敵大将の大声。

「‥‥‥違う‥‥‥これは、ただの馬鹿だ」

 自分から居場所をバラしてどうすんだ‥‥‥。
 一瞬とはいえ、先輩方やるじゃないかと思った自分が恥ずかしい。
  
「‥‥‥どうしよう、色々作戦を用意してたのに‥‥‥」

 陽動で敵を分断させたりとか、ラールを囮に使ったりとか‥‥‥。

「‥‥‥まあ、いいか」

 大声を張り上げながら歩き回る敵大将の位置は丸わかりだ。
 俺は敵大将の側で身を潜め待機してる、クラスメイト数人に旗を振って合図を出す。
 
 ───赤い旗を一回真下に振るのは、討ち取れの合図。

 ‥‥‥さあ、上手く行くか?!

 隠れていたクラスメイト達はそつなく動き出すと、複数の投げ網で大将を拘束し、あっさりと赤い皿を叩き割った。

 ───いやいやいや、待て待て‥‥‥あっけなさすぎ! 君たち作戦遂行能力高すぎないか? いや相手が無能すぎ?!

 大将を討ち取ったクラスメイトから、白い旗を大きく振り回す合図。
 
 ───あ、俺も仕事しなきゃ。

「敵大将、討ち取ったぞーーー!!」

 こうやって大声で勝ちを宣言するのは、勝敗が決しても、腹いせに俺たちに対する攻撃をやめない人間がいるかもしれないので、それを防ぐための配慮。


 ジャーンッ! ジャーンッ! ジャーンッ!


 おそらく俺たちの大将が討たれたと思っているであろう教師が鳴らす鐘の音が、戦場に響いた。


 終わった。
 そして勝った。
 ‥‥‥なんだこれ?




「カイト君、やった!」

 嬉しそうなサラ。

「‥‥‥うん、皆凄かったよ」

 戦場中央の草原。
 はじめは反則だ卑怯だなどと叫んでいた先輩方。
 最後の挨拶をした後は悔しそうに、それはもう悔しそうに去っていった。
 俺たちへの勝利宣言をした後、腑に落ちない顔で戦場を去った審判教師。
 ここにいるのは俺たち事務クラスだけだ。

「カイト、これは歴史的快挙だ!」

 満面の笑みで拳を振り上げるラール。

「そうかもな」

 周りを見るとクラスメイトは皆、ぴょんぴょんと跳ねたり泣いたりと、喜びを爆発させていた。
 これが虐げられていた事務クラスの気持ちだろう。

「どうした? お前‥‥‥嬉しくないのか?」

「嬉しいよ」

「嘘吐け。酷い顔だぞ? なんかあったのか?!」

 ラールに心配させてしまったようだ。

「勝てて物凄く嬉しい!」

 満面の笑みで応えた。

「で‥‥‥本音は?」

「‥‥‥ツマラナカッタデス」

「カイト、怖っ!」


 俺達の初戦は開始1分で勝利という、長い『合戦大会』の歴史を塗り替えるとんでもない記録だったらしい‥‥‥。
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